理緒の檻(その9)

762 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/10/31(水) 00:41:19 ID:Y+rVCzl4
その日俺は朝早く、理緒姉を起こさない様に家を出た。
いつ寝たのかは全く記憶に無いが、その前にした事ははっきりと覚えてしまっている。
もちろん言われた言葉も。
俺と、理緒姉は姉弟ではなかった…
正直、立ち直れない位のショックをうけた。
なぜ、今まで話してくれなかったのか。
なぜ、あのタイミングで話されたのか。
頭の中が混乱して、何も考えられないうちに、理緒姉の中に入れてしまった。
しかも、そのまま中で…
あんな事をしてしまった以上もう家には居られないと思った。
たとえ行く場所が無くても、俺は出て行かなければならない。
今俺は公園のベンチに座っている。
学校に行く気にはなれないし、かと言って行く場所のあてもない。
だから、こうしてとりとめも無い事を考えながらただ座って居る。
携帯電話の電源は入れる気にならなかった。
おそらく理緒姉から電話が来るだろうし、話してしまったら理緒姉に言いくるめられてしまうだろう。
昨日の話について聞きたい気持ちも有った。
だが、今聞いても無駄だろうと思う。
思考回路は回っているようで、回っていない。
とりあえず、制服では無いから補導される事は無いだろう。


763 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/10/31(水) 00:44:34 ID:Y+rVCzl4
そう考えて、俺は公園を後にし、町の中をふらふらと歩いた。
理緒姉は…もう起きたかな…
俺の事探してたりするのかな…
でも…
気付けば俺はまた公園に戻って来ていた。
もう夕方だ。
そこで、少女が泣いていた。
膝を抑えてる所を見ると転んだのだろう。
「君…大丈夫?」
「ぐすっ…痛いよぅ…ふぇぇん…」
なんとはなしにポケットを探る。
絆創膏が入っていた。
なんでこんなの持ってるんだ…?
まぁ、ちょうど良い。
「君、ちょっと痛いけど我慢してね」
「お兄ちゃん、なにするの…?」
近くの水道まで連れて行き、軽く傷口を洗う。
「うぅ…痛いよぅ…」
「もうちょっと我慢してくれ」
洗い終わり、水気を取った傷口に絆創膏をはりつける。
「ぐすっ…お兄ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
「お兄ちゃん、お名前はなんて言うの?」
「織部修だよ」
「修お兄ちゃん、ありがとう!」
「そんなに何回も礼を言われる事じゃないよ」
「でも、お母さんもお姉ちゃんもお礼はちゃんと言いなさいって言うもん」
「お姉ちゃんが居るんだ…」
「うん!とっても優しいんだよ?」
心にズキリとした痛みを感じた気がした。


764 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/10/31(水) 00:45:19 ID:Y+rVCzl4
お姉ちゃん…か。
「そういえば君の名前を聞いてなかったね。君の名前はなんて言うの?」
「私?私の名前は冬華っていうの」
「冬華ちゃんか。良い名前だね」
「えへへ…ありがとう。春華お姉ちゃんと同じ華が入ってるの!」
「え…?春華って…もしかして君の名字は羽居なのか?」
「そうだけど…修お兄ちゃんどうして分かったの?」
「あ、いや、なんとなくそんな気がしただけだよ」
「修お兄ちゃんすごいね!良く分かったね~」
まさか羽居に妹が居るとは…しかも小学生?
知らなかった…
「ねぇ、修お兄ちゃん暇なの?」
「ん?暇と言えば暇だけど…」
「修お兄ちゃん、私と遊ぼうよ!」
「え…う~ん…」
「お願い!私、お姉ちゃんが帰ってくるまでお家に誰も居なくて一人ぼっちで…寂しいの」
「もうお姉ちゃんも帰ってくる時間じゃないか?」
「ううん。お姉ちゃん、いつも帰ってくるの遅いよ。だから修お兄ちゃん、遊んで?」
う~ん…まぁやることも無いし、良いか。
冬華ちゃんを一人にするのも気が引けるし…俺はロリコンではないが冬華ちゃんは可愛いと思う。
なんというか、無垢で、純真な感じと言えば良いのだろうか。



765 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/10/31(水) 00:45:59 ID:Y+rVCzl4
「分かった。お姉ちゃんが帰ってくるまでは遊んであげる」
「やたー!修お兄ちゃん、優しいね!」
俺は…優しくなんかない。今だって理緒姉に心配をかけているのだろうと分かっててこうしているのだから。
「冬華ちゃん、何して遊ぶの?」
「う~んとね…修お兄ちゃん、ブランコ押して!」
「了解。じゃあ冬華ちゃん、乗って?」
「うん!」
冬華ちゃんが乗ったブランコをゆっくりと揺らし始める。
「冬華ちゃん、しっかり掴まっててね。少しスピードを上げるよ」
自分が座って漕いだらこの位だろうか。
そういえば昔からブランコにはあまり乗った覚えがない。
あの子が良く乗っていたからだろうか?
自分でも気付かないうちにトラウマになっていたのかもしれなかった。
「すご~い。修お兄ちゃん、力持ちだね!」
「これ位普通だと思うけど…それに冬華ちゃん軽いし」
そんな会話をしていた時だった。
「…見つけた」
後ろからゾクリとする様な声が聞こえた。
ブランコを止めて後ろを振り向く。
そこには、寝巻のままの理緒姉が立っていた。
「理緒…姉…」
「一緒に、帰りましょう?」
「もし、嫌だと言ったら?」
「引きずってでも連れていくわ」


766 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/10/31(水) 00:46:41 ID:Y+rVCzl4
「俺と理緒姉は…家族じゃないんだろ?」
「だから?」
「だったら、一緒になんて暮らせない」
「どうして?」
「…」
「答えられないなら一緒に来なさい」
理緒姉の方に近付こうとした時、足を止められた。
「修お兄ちゃん、行っちゃやだ…」
「その子は誰?」
「羽居冬華ちゃん」
「羽居…?まさかあの女の妹なの?」
「どうもそうらしい」
「ごめんね、修くんは私と帰るの。また今度ね?」
「やだ!修お兄ちゃん、この人と一緒に行っちゃだめ!」
「ごめん冬華ちゃん。俺…帰らなきゃならないんだ」
「だめだよぅ!その人…すごく怖い…」
「怖いのは俺のせいなんだ。普段は優しいんだよ」
「でも…!」
「ごめんね。また今度遊んであげるから」
「…絶対だよ?約束破ったら、すっごく怒るからね?」
「約束する。じゃ、気をつけて帰るんだよ」
ばいばいと手を振って冬華ちゃんに背を向ける。
スタスタと歩き始める理緒姉。
家に帰ったら何を言われるんだろうか…?
家族でもない俺に一体何を?
それにどうしてこんなに必死に俺を探していたんだ?
本当の弟でもなんでもない、この俺を。
俺には理緒姉の考えがさっぱり分からなかった。


767 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/10/31(水) 00:47:26 ID:Y+rVCzl4
家に着いた。もう外は真っ暗だ。
「さて、修くん。話してちょうだい?」
「…何を?」
「なんでお姉ちゃんに黙って出て行ったの?」
「俺と理緒姉は家族じゃない。だったら俺はこれ以上理緒姉に迷惑をかけられない」
「出て行ってどうするつもりだったの?お金も住む所も無いのに」
「それは…その…」
「それに!なんで勝手に迷惑と決め付けてるの!?」
「だって…俺なんか居ても…」
パンッ!
「えっ…?」
気付いたら叩かれていた。
「何す…」
文句を言おうとして、理緒姉が泣いているのを見た。
「理緒…姉?」
「うっ…うっ…お姉ちゃんがっ…どれだけ心配したと…思ってるのよ?ぐすっ…朝起こしてもらえなくて…えぐっ…うっ…どれだけ寂しかったか修くんには分からないの?」
「理緒姉…ごめん…」
「それに…血は繋がってなくても…お姉ちゃんと修くんは家族なんだからっ…」
「ごめん…」
謝った時理緒姉にぐっと抱き締められた。
「罰として…しばらくこうさせなさい…」
頭を胸に埋められる。
「ふぇぇん…寂しかったよぉ…」
「うん…ごめん…」
「修くん…頭、なでなでして?」
ふわりとした理緒姉の髪を撫でる。
柔らかい…


768 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/10/31(水) 00:50:16 ID:Y+rVCzl4
「理緒姉…落ち着いた?」
「まだ…こうしてたい…」
「夕飯作らないと」
「うん…」
しぶしぶ離れる理緒姉。
今日の夕飯は何にしよう…?
そういえば何も考えてなかった。
とりあえずある物ですまそう。


「ごちそうさまでした」
なんとか夕飯を終わらせた。
「修くん」
「何?」
「お姉ちゃんと一緒に寝なさい」
「…拒否しても勝手に入るだろ?」
「でもその時には修くん寝てるでしょ?」
「当たり前だね」
「そうじゃなくて寝る前から一緒に居たいの!」
「分かったよ」
「じゃ、早く寝よ?」
「明日の準備だけするから先に行ってて」
「お姉ちゃん寝ちゃうよ…」
「じゃあちょっと飲み物でも飲んで待っててよ」
「うん…」
準備しないと明日の昼飯が無い。

まぁ、こんなもんか。
「理緒姉、終わったよ」
「ふぁ…?」
「結局寝てたのかよ」
「だって…朝からずっと…修くんを探してたし…」
「ごめんなさい」
「まぁ…今は良いから…寝よ?」
「うん」
俺の部屋のベッドに入る。
「修くん…くっついてて…良い?」
「…まぁ、良いよ」
「修くん…あったかい…くぅ…くぅ…」
「早っ…相当疲れてたんだな…」
申し訳無い。


769 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/10/31(水) 00:51:28 ID:Y+rVCzl4
そういえば理緒姉…お風呂入ってないよな?
軽く鼻を近付ける。
うん、汗の匂いがする…でも、この匂いも嫌じゃないのが不思議だ。
なんとなく汗ばんで、服がはだけかけている姿はとても色っぽい。
っていかんいかん!
これじゃあの時と同じ行為をしかねない。
さすがに明日は学校に行かないとまずいし、俺も早めに寝よう。
…髪もだけど…理緒姉って柔らかいなぁ…
そんな考えの中、俺は意識を手放した。

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最終更新:2007年11月02日 12:19
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