虎とあきちゃん 第1話

521 名前:虎とあきちゃん ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/06(水) 13:55:46 ID:98nwJ4zS


「虎ちゃん…どうしても分かり合えないんだね。私たちは姉弟なのに…。」
「ああ…。こればっかりは仕方がないんだ。」
 俺は静かに俯いた。亜紀姉の顔はゆっくりと悲しみの色に染まっていく。そんな彼女を
俺は熱い目でただ、見つめていた…。

「お願い。虎ちゃん…許して…。」
「亜紀姉…」
「悪気はなかったの…だから…」
 静かな沈黙だけの世界が部屋に広がる。そして…

「許せるかぁぁぁ!!!!この駄目姉がああああ!!!」
「きゃあああ、暴力反対!暴力反対よ、虎ちゃん!!!」
 姉が購入したわけのわからない物体を指差して俺は魂から声を絞り出して叫ぶ。

「大体なんだ…この全自動箸割り機とかいう意味のない物体はっ!」
「すごいでしょ。割り箸を入れると綺麗に割ってくれるのよ。」
 亜紀姉はやたら嬉しそうな顔で説明している。俺はそんな駄目姉にチョップを食らわして、

「普通に割ったほうが早いだろうが!」
「………おお!虎ちゃん天才?」
「おお!じゃねえええええええ!!!」


522 名前:虎とあきちゃん ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/06(水) 13:57:21 ID:98nwJ4zS
 これは日常の一ページであって特殊な一日ではない。姉、青野亜紀(あおのあき)は
正真正銘俺の一つ上の姉であり、尋常ではない駄目姉である。三歩歩けばナンパされ、
十歩歩けばヤクザにぶつかってAVに売られそうになり、三十歩歩けば変なものを
売りつけられる。駄目オーラが漂ってるとしか思えない。
 たった一つの長所は女性にしては高い俺と同じ168cmという身長と、モデルも
びっくりな完璧なスタイル、おっとり系の超美人ってところだけであるが、前述の駄目さの
せいでトラブルの元にしかならない。

 弟である俺、虎之助(とらのすけ)はこの一つ上の姉の尻拭…いや、フォローすることだけの人生を
歩んできた。姉を襲う犬を退治し、誘拐犯には体当たりを食らわし、いじめっこには
殴りかかり、勉強は勿論できないので一つ上の学年の勉強をして姉に教え、勿論運動も
できないので、少しでもましになるように教えた。
 家事も壊滅的で、料理を作ると何故か人を殺せる殺人料理になるため、共働きの
両親に代わって俺が料理を作り、掃除をすると余計に汚れるので代わりに掃除し、
洗濯をすると泡に呑み込まれるので俺が洗濯をする。
なかなか家にいない両親といえば、

「亜紀のことをよろしく頼む。お前しかあいつを守ることのできる男はいないんだ。」
と、俺に丸投げである。

 そんな姉だが、極まれに奇跡を起こす。進学先がそれだ。勿論勉強もできない亜紀姉だが、
受験のときはサヴァン症候群にでもなったかと思わんばかりの集中力で、近所にある進学校
に入学してしまった。勿論入ったら駄目の極地に戻っているのだが。
 この近い進学先のせいでようやく姉から解放されると考えていた俺は、毎日送り迎えを
させられる羽目になってしまった。
 俺の進学といえば、遠くの全寮制のところを受験するはずだったにもかかわらず、
いつのまにか両親に姉と同じ場所の受験を受けることにさせられてしまい、滑り止めが
落ちてしまったために、結局姉と同じ場所に通うことになった。


523 名前:虎とあきちゃん ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/06(水) 13:58:23 ID:98nwJ4zS


「ひどいにゃー。将軍様―。虎ちゃんひどいにゃー。」
 亜紀姉はうちの飼い猫の将軍様…北の人ではなく正式名称は征夷大将軍…
にむかってぶつくさ呟いている。暗い…。

「にゃーじゃねえ!年考えろよ!!」
「ええっ。親友のみやちゃんが男の子はこれでいちころって言ってたのに!」
「そんなわけないだろ!」
「ええー。道端でダンボールに入ってにゃーっていったら、みやちゃんが助けてくれなかったら
 そのまま拾われちゃいそうなくらい効果があったんだよ。」
 姉は誇らしげにえっへんと胸をそらしている。俺は心の底から姉の親友とやらに
感謝した。俺の苦労をわざわざしょってくれるお人よしがいるなんて…。

「亜紀姉もいい加減彼氏でも作って俺に迷惑かけんなよな。見た目はいいんだから
 いくらでもいいやつ捕まるだろ。」
「えぐっ…虎ちゃん…お姉ちゃん嫌いなのね…。」
 俺がこの類のことを提案すると姉は泣く…普通なら泣きまねっていうところだが、
この駄目姉は本気で泣くからたちが悪い。

「それにね…虎ちゃん。恋って大変なんだよ?」
「どういうこった?」
「親友のみやちゃんがいうにはね…恋って戦いなんだって。刺された腕と折れた腕を掲げて
 いってたの…。美人で天才のみやちゃんでもそうなんだから、お姉ちゃんにはそんなの無理だようぅ。」
 俺はその姉の親友とか言う人物の評価を黙って下方修正した。

「それは特殊な事例だ。」
「いいのーいいのー。お姉ちゃんには虎ちゃんがいるんだからいいのー。」
「このままこの先も一生亜紀姉の世話をしないといけないなんて俺はいやだ。」
「うう…昔はあー姉あー姉ってお嫁さんに貰ってくれるって言ったのに…うう…」
 まるで子供のように泣く駄目姉。なまじ美人なだけにやけに魅力的でいじめたく…
いや、庇護心を誘うのがやりにくい。

「あーはいはい。俺がちゃんといい奴かどうか見てやるから亜紀姉もがんばれ。
 俺も亜紀姉が落ち着かないとろくに彼女も出来ないんだ。」
「じゃあ…お姉ちゃん全力でがんばらないね!」
 俺は姉の頭が少しでも良くなるように拳骨を落として、明日の授業に備えて
予習と復習をすることにした。

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最終更新:2007年11月03日 04:31
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