356 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21:20:21.89 ID:KUVP2IAz
---連れて行かないで!
泣き叫ぶ女の子の声が聞こえる
---いやだよ!なんで一緒に行けないよ!おかしいよ!
女の子の声に応えようと手を伸ばそうとする男の子。
---ダメ
しかし、その手も大人によって阻まれる。その時まで最も信頼していた大人に…。
それでも男の子は手を伸ばす。離したくないから。
それでも女の子は叫び続ける。何よりも大切だから。
しかし、無力な子供たちは大切な人と離れ離れになった。
357 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21:20:57.16 ID:KUVP2IAz
6月。あまり好む人が少ないと言われている梅雨の時期だ。
俺、三神 和馬も梅雨を嫌う雨アンチの一人だ。雨の日となるとロクな事がない。
まず、濡れる、冷たい。続いて外に出られない、ダルい。極めつけはやる気が出ない、勉強なんざやってらんねー。
「そうして今日の俺は勉強をしないのだった・・・」
「お前が勉強しないのはいつもの事だろが!」
気持ちいいくらいパコンという音が頭上で響く。そんな俺の頭を丸めた教科書で叩くのは英語の教師、長島茂だ。
コイツの名前的には体育の教師が一番合ってるような気がするのだがよりにもよって一番やっちゃいけなさそうな英語の担当だ。
「晴れてる日にはまだ頑張ってるっつーの!」
「そういって昨日はカンカンに晴れてたけど"あじぃ~やるきしねぇ~"とか言ってたのはどこのどいつだ!」
「義雄だよ義雄!」
そういってクラスでも1番勉強が出来る田中義雄を指さす。どうも驚いたような感じなのだが牛乳瓶の底のように分厚いメガネを掛けられては真相が判りづらい。
「嘘つけ!一生懸命勉強している田中がそんな事言う訳無いだろ!」
「でもこないだテストの点数田中よりも良かったぜ」
「保健体育と音楽だけ学年トップだもんなお前」
「その言い方だとやたら性教育だけ頑張ってるみたいに聞こえるよな」
周りから冷やかしが入る。ちょっとは運動が出来るって所をアピールしろ!
「先生!三神くんは置いといて授業を続けてください!僕は○×大学に行くために少しでも多く勉強しなければいけないんです!」
勉強を頑張る義雄はピンッと手を挙げて長島を急かす。彼の手の挙げ方は美しいあれこそまさに真の挙手と言えるだろう。
後は体型と髪型と他人と接する態度とメガネと私服のセンスさえ頑張れば完璧だ。少なくとも俺はそう思う。
「ふむ、では授業を続けよう。では32ページの英文を三神、読んでくれ」
「I Like sex!Julian come on My Room!」
「三神!教科書にそんな卑猥な文章が出てくる訳ないだろうが!いい加減にしろ!」
「「どうもありがとうございましたー」」
---こうして馬鹿なりに楽しい時間が過ぎていく。
358 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21:21:36.35 ID:KUVP2IAz
放課後、俺は少し友達と話すと比較的早く帰宅した。ちなみに俺の所属している軽音部は雨のためお休みだ。
正直もうちょっと友達と話していたかったが、妹からのメールが50通、着信履歴が23件もあればとっとと帰らなくてはいけない。
足取りも重く、俺は玄関のドアを開けた。
「ただいm!?」
「兄さん!!」
帰宅の挨拶もロクに出来ないまま妹が俺の胸に飛び込んできた。
「どこに行ってたんですか!?心配したんですよ!メールしても電話しても出ないし…。今日は部活もなかったんでしょう!?だったらもっと早く帰ってこれるはずですよね!?それに…」
マシンガンのようにズババババッとなんか言ってるのは俺の妹の三神 渚。俺の一つ下の高校1年生。
容姿端麗であり、学校での口数があまり多くないことから日本では絶滅したはずの大和撫子が我が校いると男子から絶大な人気を誇っている。
そんな大和撫子さんの家での姿はかなりのお節介。口数は学校にいるときの10倍じゃ足りない量。常に俺にひっついて行動と渚を崇めている男どもが聞いたら卒倒するような言動の数々を当然のようにこなしている。
血の繋がりのない義妹だからこそこんなことができるのかねぇ。
「兄さんが訳のわからない女に誘惑されたらどうするんですか!今の時代女は肉食で…」
「解らんけど解ったから家に入れさせろ!後腹減ったから飯な!」
「ハイ!」
飯という言葉で中に入ることに成功する。魔法の言葉でおいしい食事がポポポポーン。
「でもご飯食べながらちゃんと説明してもらいますからね!」
とは簡単にはいかないようだ。
---ふふふ、もうすぐあの家に戻れる。
お母さんとお父さんにはホント苦労させられたなぁ。でももう大丈夫!待っててね…。
---お兄ちゃん!
359 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21:22:26.69 ID:KUVP2IAz
現在三神家はお食事中。俺の目の前には冷やしうどんと冷しゃぶ。それに味噌汁と夏っぽい食事が並んでいる。
我が家の食事は全て渚が担当しているのだが、渚は人気以上に料理の腕も相当なものでよく友人が家に遊びに来たがる。
しかし、渚は他人に料理を振る舞うのが嫌なのか料理を食べたいといってきた友人にいい顔しないし、基本断っている。そんな訳で俺はときおり学校中の男から殺意を向けられたりするのである。
とまぁ連中いわく"悪魔に魂を売ってでも食べたい"という程の料理を毎日食べられる俺はなかなかの幸せものなのかなーとか思っている。
…んだけど。
「兄さん!どうして遅くなったんですか!なぜ電話に出てくれないんですか!?まさか悪い魔女に捕まったんじゃ…」
とこんな感じに質問と言う名の尋問をくらっている。つかなんだよ悪い魔女って…。
「クラスの連中とダベってたんだよ。電話に出れなかったのはマナーにしたまま放っといたから気づかなかったんだよ」
「次からは授業が終わったらちゃんとマナー解除してくださいよ!兄さんの声を聞かないと私不安で不安で…」
「…お前病院行ってこいよ」
そんな事を言いつつ俺は目の前の豚肉を啄く。ごま油ベースの渚オリジナルの冷しゃぶのタレを豚肉とうどんに絡ませ一気に啜る。
知人から譲って貰った讃岐うどんでこれをやる贅沢。讃岐うどんの喉越しって奴は食の完全試合だと思う。
「兄さん!変なこと言って誤魔化さないでください!それより変な魔女に絡まれたりとかはしてないんですね?」
「…お前の知り合いには魔女がいるのかよ」
「いますよ!もうその辺に兄さんを貶めようとする悪い魔女が!兄さんももっと自覚を持ってくださいよ。私心配で心配で・・・」
どうやらコイツはなんかしらの幻想を見ているみたいだ。まずはその幻想をぶち殺すぞ。
「まぁ魔女がいるいないはともかく飯食おうぜ。せっかく可愛くて料理上手な最愛の妹の料理が冷めちまうだろ」
「可愛くて最愛って…ハイ♪お食事にしましょう!」
と収集がつかなくなった場合は渚を褒めまくればいいってのは長年の付き合いで解っている。
今日の飯は初めから冷めているものってのを忘れてくれるくらいに喜んでくれるのだ。
そんな時、三神家の電話が鳴る。
「あっ私取るますね」
普段使わない家電を取る渚。
特に興味なさそうに飯を食いながら呑気にテレビを見る俺。
最近の番組はやたら工場とかに取材に行って工程を紹介する企画が多いような気がする。
確かにあの番組はナレーションやビジネスライクネタ等で面白いが、別のテレビ局で同じような企画を通すのってどうよって思ってしまう。
不景気で番組作る予算が削減されてるのかねぇとこの間まで気にしてなかったような事を思いつつうどんに箸を伸ばす。
しかし、渚が帰ってくるのが遅い。普通5分もすれば帰ってくるだろ…。
そんな事を考えてると渚が帰ってきた。何故か今にも泣きそうな顔をしている。
360 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21:23:13.10 ID:KUVP2IAz
「何かあったのか?」
「明日、お父さん帰ってくるみたいです」
「親父が…?」
三神家は親父、俺、渚の3人の家族だ。俺の母親は俺が幼稚園の時に離婚し、その後の再婚した渚の母親は俺が中学に入る前に息を引き取っている為、母親は存在しない。
因みに親父は単身赴任していてめったにこっちに帰ってこない。その親父が帰ってくることは盆休みや正月休暇等の長期休み以外だと何かあるということだ。
「それで…それで…」
渚は涙をこらえながら必死に何かを伝えようとしている。
「…お父さん、さ、再婚するみたいです。」
「へぇ~。別に悲しむ必要なくないか?家族増えるだけじゃん」
「でも、家族が増えるってことは兄さんと一緒にいる時間が減ってしまうって事で…」
「別に減らねーだろ。確かに初めは俺も相手の人と仲良くするために出来るだけ積極的に話しかけていくと思うけど慣れれば一緒だ」
「…兄さん」
ようやく渚の顔に笑顔が戻るやっぱりコイツには笑顔が一番だ。
コイツと一緒に今日は工場の工程を見ながら飯を食おう。
---起きて、起きて
声が聴こえる。誰かが俺を起こそうとする声が…
---起きてよ。
今度は俺の体を揺すって起こそうとする。寝苦しさから俺はようやく重い瞼を開ける。
「ふぁあああ。おはよう渚」
「ん?私は渚じゃないよお兄ちゃん」
「…え?」
目の前には渚ではない謎の美少女が立っていた。
「…だれ…お前…?」
「もう!お兄ちゃんったら相変わらず朝に弱いんだから!千夏だよちーなーつー!お兄ちゃんの本当の妹だよ!」
「ちなつ…?千夏!?」
千夏…。彼女は俺が幼稚園の時に離婚した母親に引き取られた正真正銘俺と血の繋がった実の妹だった。
最終更新:2011年12月27日 22:53