380 名前:虎とあきちゃん ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/27(水) 23:01:29 ID:f7L8N92T
翌朝、暑くて寝苦しく眼を覚ますと美人な姉の顔が目の前にあった。とりあえず、ベッドから
転がして床に落とす。美人は三日で飽きるというが全くそのとおりだと俺は思う。
カーテンと窓を開けると朝日と気持ちのいい風が部屋に入り込む。今日もいい天気だ。
「起きろ、亜紀姉。俺のベッドに潜り込むなっていってるだろ?」
「うぅ~ん、もう朝~だって、虎ちゃん…お姉ちゃん怖い夢みたんだもん。」
「ほら、朝飯用意してやるからさっさと起きろ。」
「はーい。」
俺は昨日の味噌汁を温め、魚を焼き弁当を作る準備をし、寝ぼけてる姉を洗面所まで
手を引いて連れて行って無理矢理顔を洗わせた。パジャマからちらちら見える谷間は
頑張ってみないようにする。
そんなこんなで学校に向かうと、正門の前で長い黒髪を無造作に後ろで縛った男…もとい
女らしい、剣薫が立っていた。
「おはよう、虎之助君、亜紀先輩。」
「おはよう。お前こんなとこで何してんだ?」
「決まってるじゃないか。君を待っていたんだ。」
彼女はばんばんと背中を叩きにこやかにそういった……何か周りの視線が痛い。
女子の視線が俺たちに集中しているような…。
「おはよう、薫ちゃん。虎ちゃんに1m以内に近づいちゃ駄目よ~。変な噂立っちゃうから。」
「僕はどう思われても構いませんよ。二人に愛があればいいんです。」
「俺はホモ扱いはちょっとやだな。」
ここは珍しく駄目姉と同意見だ。
「貴女も虎之助君に近づきすぎると彼にシスコンという在らぬ噂が立ってしまいます。」
「虎ちゃんと私は両思いだからいいのよ?」
「そんなわけあるかっ!」
姉の頭にチョップで突っ込みをいれる……なんだか今度は男からの羨む視線が痛い……。
「それでは、僕たちは教室に向かいますので…亜紀先輩。」
「あ、おい、剣さん、腕掴むな。」
「他人行儀な…薫と呼んでくれ。」
薫は俺の腕を掴むと、教室に歩き出そうとした。女子からひそひそ声が聞こえてくる…
俺もうだめかもしれん…
「じゃ、虎ちゃん。いってくるね。」
「ああ、気をつけてな。」
言った傍から躓いてこけている亜紀姉をみて、ため息をつきつつ自分も教室へと向かった。
381 名前:虎とあきちゃん ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/27(水) 23:02:21 ID:f7L8N92T
「虎之助…朝から目立っていたみたいね?」
教室に入るなり不機嫌な口調で俺に声をかけてきたのは風紀委員の塚本風子だ。この、
背の低いポニーテール女は何故か俺を敵視しており、何かにつけて難癖をつけてくる
俺にとって最大の天敵だった。
ちなみに二番目は馬鹿姉の外見に目がくらんだ全学年の名も知れぬ馬鹿どもだ。
彼氏と思われてるせいであいつらと何度俺が喧嘩をするはめになったことか。まあ、間接的に
姉のせいだが…これは流石に姉のせいにするのは可哀想だ。
「いつも通りの平穏な日常だよ。俺は風紀委員に目を付けられることはしてないぞ。」
「あれだけ騒ぎ起こせば十分でしょ!……まさか、虎之助がそっちの人だったなんて…。」
「俺はノーマルだ。」
どっちかというと女好きだ。ただし、駄目姉除く。
「行きも帰りも美人なお姉さんと一緒、時には手を繋ぎ、腕を組んで帰宅するシスコン。
加えてホモ……ああ、どうしょうもないわね……。」
なんか、派手に手振りをしてわけわからんことをいうちびっ子に、俺は疑問に思ったことを
問いかけることにした。
「なんで帰りのことを知ってるんだ。お前家逆だろ?」
「た、たまたまよ。さっさと席に座りなさい。ホームルーム始まるわよ。」
急に話を変える敵性生物にはいはいと頷いて俺は彼女の隣である自分の席に座った。
382 名前:虎とあきちゃん ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/27(水) 23:03:39 ID:f7L8N92T
昼、俺は弁当を持って隣のクラスにお邪魔していた。目ざとく俺を見つけ、手を振る
薫を見ない振りし、目当ての人を探す。おさげ髪の彼女は端のほうの席で一人、ゆっくりと
ご飯を食べていた。
俺は勇気を振り絞って声をかける。
「榛原さん……話があるんだ。屋上でご飯食べながら聞いてくれないか?」
「青野君…。うん…」
風を遮るもののない屋上には気持ちのいい風が吹いていた。そして、何故か
亜紀姉が一人で弁当を食べていた。
「あ、虎ちゃーん。偶然だね。どしたのーお食事?」
姉には超能力でもあるんだろうか。にこやかに魅力的な笑みを浮かべる姉が
ちょっと怖かった。
「榛原さん、場所を変えよう。」
「え、でもあの人一昨日の…」
「虎ちゃん一緒にご飯食べよ~?」
困惑する榛原さん、このままでは一昨日の二の舞に…。何度も邪魔されてたまるものかっ!!
「聞いてくれ榛原さん。」
「きゃっ」
俺は榛原さんの肩を強く掴んで彼女の眼を真剣に見つめた。眼鏡の奥にある綺麗な
瞳に不安の色が宿るのが判る。だが、やめられん。
「手紙は……読んでくれた?」
「何それ。」
薫…覚えてろ…今度殴ってやる。みんな男と思ってるから問題ないぜ。
「あそこにいるあの駄目女は………似てないが俺の実の姉なんだ。」
「え、えええっ…そうなんだ。」
彼女の優しそうなおっとりとした顔に理解の色が浮かぶ。よかった、信じてくれて。
「だから、誤解はしないで欲しい。あ、これクッキー…後で食べて。俺が昨日作ったんだ。」
「あ、ありがと…誤解?」
「だからその、俺が好きなのは…うわわわわっ!」
「虎ちゃん~ほら一緒に食べよ?」
邪気のない満面の笑みで物凄い力でひっぱっていく亜紀姉。運動音痴の癖に力だけは
強い。って…
「ああああああ、榛原さん~~~っ!!!!」
俺はなすすべもなく去っていくその背中を見つめるしかなかった。上機嫌な姉に
一発チョップを食らわせ、諦めて昼食にしたが姉の抗議の声を無視しながら食べた、
今日のおにぎりの味はかなりしょっぱかった。
383 名前:虎とあきちゃん ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/27(水) 23:05:11 ID:f7L8N92T
「は~気が重いなあ。」
「虎ちゃん大丈夫?お姉ちゃんが元気付けてあげようか?ほーら、重いの重いの飛んでいけ~♪」
「俺が気が重くなってるのは亜紀姉のせいだっ!…ったく。」
翌日、俺は相変わらず能天気な姉と一緒に学校へと登校していた。
「はー。俺の恋も二日の命だったか…」
「お姉ちゃんの恋は永遠だよー。虎ちゃんも一緒に永遠に。」
「絶対いや。」
「青野君っ!」
そんな馬鹿ないい合いをしていたときに聞こえてきたのは榛原さんの声だ。まさに天使の声…。
正門では榛原さんが俺を待っていた。
「クッキー有難う。美味しかった…。昨日はごめんね?」
「いいんだ、榛原さん。俺が誤解させるようなことしちゃったから…。」
重い気分は完全に吹っ飛んでいた。やったぜひゃっほっほー甘いもの作戦大成功っ!
「あらあら、榛原さんでしたっけ。弟がいつもお世話になってます。」
姉は外見だけは大人っぽい笑顔で軽く会釈した。
「いえ。お姉さんとは知らずに…いっぱいご迷惑を…。」
紅くなって下を向く榛原さん。まじ癒される~。
「それじゃ、私も教室いくね。またね~榛原さん、虎ちゃん。」
去っていこうとした姉は忘れ物をしたといった感じで俺に向かって振り向いた。
何も言わずに笑顔でつかつかと俺に向かって歩いてくる。
そして…
「あ、虎ちゃん~私寂しい~くなるから、一日頑張るために行って来ますのキスしてね。」
と、理解不能なことを目の前の馬鹿姉はほざき…俺の唇を自分の柔らかい唇で塞いだ。
両手は俺の首に回し、自分の身体に引き寄せ…口を開けて舌を入れてくる。たっぷり
十秒間唇をつけて離した。周りの男たちから強烈な殺意が集まり、ようやく何が起こったのか
俺は理解した。お、お、お俺のファーストキスがああああああああっ!!
「おいこら、馬鹿姉っ!何するんだ!?」
「虎ちゃんエキスをいっぱい貰ったわ~三日は戦えるわ。虎ちゃんったらもう積極的なんだから♪
ふふ、みやちゃんがこうしたら元気出るって教えてくれたの。じゃあ虎ちゃんまたねえ~。」
そして駄目姉は……スキップしながら上機嫌で去っていった。ギギギっと首を動かして
榛原さんの方を向くと、そこには笑顔の榛原さんが立っていた。
やばい、殺られるっ!!俺の全神経は告げていた。
「青野君の馬鹿ああああっ!!!!!!」
思いっきり頬を張って去っていく榛原さんを俺は見送ることしか出来なかった。
春は──────────遠い。
最終更新:2007年11月03日 04:33