虎とあきちゃん 第5話

399 名前:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/29(金) 17:07:36 ID:Vh8bDrn+


 朝、俺を風紀の乱れと大騒ぎする風子を華麗にスルーしつつ、朝の心の傷を忘れること
で癒していた俺だったが、昼休み急遽生活指導質に呼び出された。

「で、何で呼ばれたか判ってるな?」
 目の前にいる生活指導のハゲデブは名前すら勿体無いので俺はハゲデブと命名して
やった。名は体を現す。
 脂ぎったその身体が俺の不快指数を上げまくっていたが、模範的な生徒である俺は
一応頭を下げ、その後で胸を張って大声で言ってやった。

「全く心当たりがありませんっ!!」
 ハゲデブはパワーアップしてハゲデブベスに……言いにくいから蛸でいいや。蛸になりつつ
俺を怒鳴りつけた。

「朝してたことだっ!!」
「何のことだかさっぱりわかりません。」
「貴様っ!馬鹿にするのかっ!」
「いえ、僕は先生を超・尊・敬っしておりますっ!」
 やべ、楽しくなってきた。

「朝お前とお前の姉である青野亜紀が正門でキスしていたと報告を受けた。事実か?」
「心当たりがありませんっ!」
 蛸は八本中右と左の二本の足でどん!と机を叩いたが、俺は無視する。

「何人もの生徒が見ておる。言い逃れをするなっ!!」
「ほほー。僕の尊敬する大先生は自分の見ていない風聞を信じて、罰するのですか。尊敬
 すべき先生がすることとはとても思えません。僕は無実なのに残念ですっ。」
 蛸はいよいよ顔を真っ赤にし…高血圧だな。血管を切れそうにしながら怒っていた。

「いい加減にしろっ!!」
「わかりました。では僕もあの風聞を先生の奥様に伝えることにします。」
「な、なんだそれはっ」
「先生は自分でご存知でしょう。あのことですよ。」
 あのことってなんだ?ふははっ俺も知らん。

「お互い風聞で余計な波風を立てるのはよくないと思いませんか?」
「そ、そうだな。今回は不問としておこうっ。以後気をつけるように!」
 俺はハゲデブが一番生活指導する必要があるんじゃないかと正直思った。ああ、勿論
姉を個人的に呼び出しても通報するということを伝えることは忘れなかった。あんなやつと
二人きりにさせてたまるもんか。



400 名前:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/29(金) 17:08:57 ID:Vh8bDrn+


 ハゲデブをからかって教室に戻るとなんだか教室に人だかりが出来ていた。そんな中
風子は一人風紀がどうとか喚いていたが誰も聴いちゃいないようだ。何があるんだろう…
と俺が近づくと急に道が開いた。

「虎ちゃん~~心配したよ~。」
 ぶほっ!!!なんで馬鹿姉がっ!!!

「青野~俺はっ俺は悲しいっ。何でこんな美人で優しそうなねーちゃんがいるんだ!!!」
 そういったのはクラスメイトの馬鹿筆頭、明伊だ。周りの男どもも亜紀姉のフェロモンに
あてられてそーだそーだと文句を言っている。女子ですらうっとりと亜紀姉を遠巻きに眺め
俺と見比べてため息をついていた。友情ってなんだろう…。しょっぱい汗が流れてるよ。

「虎ちゃん…生活指導にお世話になるようなことしちゃだめでしょう。めっ!」
 かわいらしくぽかっと軽く俺の頭を叩く亜紀姉。男の八割がその姿を見て撃沈される。
 そーだそーだとわめく男達。お前らは理由知ってるだろ。世の中はいつだって不条理だ。

「わかった、わかったから教室に帰れ。なっ?」
「折角だからお昼もって来たのよー。一緒に食べよ?」
 はい!はい!はい!と何故か敬礼する男たち。男って馬鹿だとつくづく痛感する。そんな
不思議空間を泳いでロリ風紀委員はやってきた。ポニーテールをはためかせ、短いコンパスを
必死に伸ばして歩き、亜紀姉に相対しびしっと指を突きつけた。

「亜紀先輩!貴女は我がクラスの風紀を著しく乱しています!即刻たちのいてくださいっ!」
 よくいったぁぁぁ。たまには良いこというな。風子。俺の中でお前の株価が暴騰中だっ!
 駄目姉は風子をぽかんと見ていたが…すくっと立ち上がると、

「やーんっ。必死になってびしって小さくて可愛いぃぃぃぃっ!!!!」
 わけわからんこといいながらその暴力的に大きい胸で風子を力強く抱きしめた。

「むががががふがふがむががあああっ!!」
「あ、亜紀姉やめろっ!風子が窒息する。」
 男なら本望かもしれんが。生憎風子は女であって苦しいだけだろう。名残惜しそうに
風子を離した亜紀姉はううーと半泣きで身構える風子をほんわかと見つめている。

「ふーふー。きしゃー!!」
「じゃあね。この可愛い風子ちゃんと虎ちゃんと三人じゃ駄目かな~?」
 俺の天敵は警戒しつつ暫く悩んだようだが、頷いた。三人での食事は、何故か風子がやけに
ご機嫌だったせいで珍しく平穏に終わることが出来た。



401 名前:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/29(金) 17:10:37 ID:Vh8bDrn+


 放課後、振られたことを痛感しつつしょんぼり姉と帰宅していると正門に見知った二つの人影が
見えた。薫と………笑顔の可愛い俺の天使、榛原さんっ!!

「やあ、虎之助君、亜紀先輩。元気かい?」
「あら、榛原さんに薫ちゃん。こんにちは。」
「あまり元気じゃなかったがたった今元気になったぜ。」
「ほう、嬉しいね。そこまで僕に会えて嬉しかったなんて。」
 俺は薫を無視し、あわせ辛そうに顔を横にしている榛原さんの方を見た。

「もう、会ってくれないかと思ってた。」
「ううん。私こそごめんね。剣君に相談したら虎之助君は普通の弟だって…。」
 全くもってそのとおりだ。よく言った薫。今度頭なでてやろう。

「でも、虎之助君は剣君と相思相愛だって…。そっちの人だなんて気づかなくて…」
 おいちょっと待てっ!

「愛に性別は関係ないよ。そこにあるのは愛だけだ…」
 こいつ本当に女か?大げさにくねくねするこいつを見てちょっと不審を抱いた。

「聞いてくれ榛原さん俺はノーマルで榛原さんのことが…君のことがす…「そうよ!
 虎ちゃんはノーマルで女の子が好きなのよ~。私と相思相愛なの。えへ。お姉ちゃん照れちゃう。」
「おいこら、俺にちゃんと会話させてくれっ!!」
 そんな俺たちのカオスな状況に、榛原さんはくすくすと笑っていた。

「本当に仲いいんだね。三人とも。」
 優しい口調だ。穏やかな…温かい感じの。だけど、何故寒気が止まらないのだろう。
 他の二人を見ると同じような渋い顔をしている。榛原さんはにこやかに微笑んでいるだけだ。

「だけどさ…。青野君…いえ、虎之助君は私のものなんだよ?…いい加減ふざけてんじゃねえよ。
 いてまうぞゴラァ!!」
 …
 えー?
 何か聞こえたような…。

「は、榛原さん?」
「え、どうかした?虎之助君♪」
「イエナニモ。」
 そういえば天使って、天罰とかでいっぱい人殺しているんだよね…。
 俺どこで人生間違えたんだろう。


402 名前:虎とあきちゃん  ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/06/29(金) 17:11:53 ID:Vh8bDrn+


 あの後、俺達はなんとか電話番号の交換だけして別れた。姉はトラウマになったのか
帰り道では怖いよー怖いよーとしかしゃべらなかった。静かで非常に良い。

 姉を適当に部屋に捨て、俺はいつも通り夕食を作る。今日は金曜日だからカレーだ。楽でいい。
 今日は久しぶりに母親が帰ってきていた。

「虎~。いつもすまないねえ、ごほっごほっ。」
「それは言わない約束だぜおかっちゃん。」
 馬鹿な会話をする俺たち。母親は姉をそのまま年をとったような雰囲気で、どっちかというと
美女だろう。姉と違って有能でもある…らしい。本人曰く。
 俺は親父似だ。困ったことに全く冴えない。

「で、学校はどうなんだい?」
「俺は問題ない。授業は余裕だし、友人関係も大丈夫だ。」
「ふむ…亜紀は?」
「相変わらず問題だらけだ。」
 母親はため息をついた。そりゃそうだろう。親もあの究極無能が心配でないはずがない。

「金持ちのぼんぼんとでも見合いさせたほうがいいのかしらねえ。」
「確実に返品されると思うぞ。」
「うーん、どうしたものかねえ。虎に永遠に面倒見てもらうわけにもいかないし…。」
「当たり前だ。」
 悩む俺たち。家庭とは悩むもの、大変なものなのだ。そんなとき、姉が立ち直ったのか
俺たちの会話に入ってきた。

「あ、お母さん久しぶりだね。元気~?」
「亜紀、学校はどう?」
 返事をする前に小走りで走って俺に抱きついて言った。相変わらず大きい反則的に
柔らかいその身体が俺に押し付けられる。

「ばっちり、完璧、全然問題なしだよっ。愛する虎ちゃんがいるからね!!」
 俺と母親は同時に溜息をついた。
 俺たちの家庭問題がいつ解決するのか…。それは神のみぞ知るところだ。

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最終更新:2007年11月03日 04:34
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