毒にも薬にもなる姉 プロローグ

708 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [] 投稿日:2007/06/12(火) 03:33:14 ID:Y7iz0KVc
プロローグ 「姉は百まで弟忘れず。」

18歳、春。
今引越しの荷物を背負い筑波に向かっていた。
大学へ入学のための独り立ち。
レベルはなかなか高め、なんせ薬学部だからだ。
一般入試を受けたため大変だった。
親や先生からの忠告を何度も無視しがむしゃらに頑張った結果だ。
正直頭は良くないのでこれからも苦労し続ける。そんなの承知だ。
どんなに苦労してもかなえたい夢があるから。
そんなことを考えている間に電車は筑波へ着いた。

寮入り口近くの管理人室。
「え、あくた?」
「ええ、芥川龍之介のあくたです。」
何度も言わされた台詞をまた言っていた。
何年たっても自分の本名、灯火 芥(ともしびあくた)は人を驚かす。
現に寮の管理人も目を丸くしていた。
「で、何号室になりますか。」
「いや、実はないんだよ。」
「え、どうして?僕、寮に入れるっていう通知は来ましたよ。」
まあまあとなだめられつつ、メモをもらった。そこには携帯らしき電話番号と名前が書いてあった。
「お姉ちゃん…。」

709 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [] 投稿日:2007/06/12(火) 03:34:48 ID:Y7iz0KVc
灯火 光


六年。長いか、短いか。
それはどんな状況にあるかで変わるもの。
例えば大好きな人と共に過ごした六年。
例えば大好きな人と離れていた六年。
今日、1秒1秒の長さがまた入れ替わる。
あの馬鹿二人のこと、息子の引越しの手伝いなどしないでしょう。だから私が迎えに行かなくちゃ。
でもあの馬鹿にしては褒めるところもある。それは本人の進路志望をのんだこと。
まあ、弟の説得と日々の努力のたまもの。
そんな馬鹿のところに弟を六年も放置していた私を姉として失格なのかな。
実の息子を「芥」となずけるほどの馬鹿のもとに。
ごめんね、でも完璧になりたかったから。
それはさておき、寮に入れるとは言え荷物は多いとおもう。
やはり早く手伝わなくちゃ。
携帯が鳴った。
着メロ「KOTOKO・ねえ、…しようよ!」
時は来た!

710 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [] 投稿日:2007/06/12(火) 03:36:27 ID:Y7iz0KVc
灯火 芥


つながったら一言だけ言われて電話は切れた。
「駐車場で待ってて!」
初めはすべてを疑った。
でもこの名前はあいつしか考えられない。
再びメモを見つめる。

すぐに連絡せよ
灯火 光(ともしび ひかり)より
080-****-****

灯火光。この名前をここで見るとは。
実をいうと血はつながっていない。姉は十年前、孤児院から引き取られた。
前の家族にひどいことをされていたらしく、母親と父親に恐怖心を抱いていた光。
自分では覚えていないのだが、姉いわく僕はそんな状況から救ってあげれたらしい。
しだいに家族や周りの人に慣れていったが僕には懐きすぎた。
俗にいうあれ、ブラコンだ。
…ちょっと待て、今うらやましいと思ったやつ。挙手しろ。
うん、気持ちは分からなくもない。たしかに姉は美人の部類に入る。さらに背も高いほう。
おまけに頭脳明細で、三歳の年の差なのにおれが中学に入るころ、姉は大学に入学した。(何回飛び級したんだ?)
でもこんなことされるといっても?


711 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [] 投稿日:2007/06/12(火) 03:38:05 ID:Y7iz0KVc
例えば小学生最後の夏休み十五日目。
「今日はお姉ちゃんとプールへ行こう!今ならなんとお姉ちゃんがひもで泳ぐぞ!こぼれるぞ!」
言い忘れたが、昔から常時ハイテンション。これは忌々しい。
「今日はもう友達と宿題をするからダメ。」
「むだだよ。」と姉。今日こそ終わらすんだよという僕を見て微笑む。
「いやそうじゃなくてさ、宿題確認してみて。」
不思議に思いつつ素直に確認。すると宿題は終わっていた。
「お姉ちゃん…。」
「習字は机の上の青のクリアファイル。読書感想文は黄色。図工は絵の具が今日の午後には乾くかな。」
ちなみに上記の三つはコンクールなりに出されるので結局やり直したが、提出日にすり替えられてしまい、すべてで賞を取ってしまった。

僕がいじめにあっていた時助けてくれたのは、嬉しかった。
でも手段をもう少し選んでほしい。
お姉ちゃんにいじめのことを相談した後の月曜日。
校舎の屋上から僕をいじめていた人たちが干し柿のように一列につるされていた。
次の日そいつらから返り討ちにあうどころか地面をなめる勢いで土下座された。
「もうお前の言うことはなんだって聞く。だからあの人には仲直りしたって伝えてくれ!お願いだ!」
もうどっちがいじめてるのか分からなくなった。
ちなみに誰が犯人かは言うまでもない。
その犯人は「原材料は殺虫剤だよ。」と語り、謎のスプレーを僕にくれた。
少し嗅いだら半日気絶した。

家庭訪問がある日に限って、両親はどこかの骨を折る。(これはただの事故だ…と願いたい。証拠もないし。)
なので毎回姉が代理として受ける。
六年のころ少し成績が悪かったが、そこを指摘されると姉は怒涛の勢いで言いくるめた。
最終的に「先生の指導方法が悪い」ということになってしまった。

ほかにもいろいろある。(実はあのセリフはひもの水着着た状態で言っていた・お風呂でうっかり寝ると目が覚めたらお姉ちゃんが裸で抱きしめていた・僕が金欠になると決まって言うセリフが「何十万必要?」)
まとめると「弟のことになると見境をなくす」のだ。


712 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [] 投稿日:2007/06/12(火) 03:40:09 ID:Y7iz0KVc
まあ、何度もお世話になったことは確か。そこは感謝。
だが六年前、お姉ちゃんは僕から離れた。
遠くの大学に行って医学を学びたいという。
必要なことと思いつつ見送ったが、少しさびしかった。
「お姉ちゃんか…。」
「はあい!おねえちゃんだよぉぉぉぉぉぉ!」うん?
え、えええええっ!
大型のバイクが、ものすごい勢いで迫ってきてる!
ギャギャギャギャギャッ!
プロ顔負けのドリフトを華麗に決めギリギリで止まった。文字どうり目と鼻の先。無駄だ、才能の無駄使いだ。
ビビっている僕をお構いなしに運転者はヘルメットを外した。
腰までかかる長くて黒い髪。少し細めで眼が合えば思わず視線をそらしたくなるほどきれいで大きな瞳。やや丸みを帯びた顔立ち。
ああ、六年たってもわかる。
「あっくー!」
といきなりダイブ→抱き締め、その上でほほをすりすり。
「ごめんね、おバカなおねいちゃんで、六年間も遠くにいて。
 およそ時間にして、52560時間も会えなくて。
 ああ、弟だ、おとうとだー。」
はあ、変わってないな。芥って名前からとって「あっくー」って呼…いたいいたいいたいいいたいいいたい!
ちょっとこれ頬が痛いってか熱い!なんか煙出てる、摩擦熱で煙出てる!
「ちょっと、光ねえ、やめてよ。まったく、こういうところはバカなんだから。」
ふーんとあやしげな笑みをこぼすお姉ちゃん。
バカ呼ばわりするんだーと。な、なんなんですか。
「どうしてお姉ちゃんがここにいるのかなー。考えたほうがいいよー。」
「ごめん。さっぱりわからない。」
「ふふふ、答えはこういうことだっ!」
え、名刺?ご丁寧ですね…。

二本松大学 薬学部教授
同大学   医学部教授
     灯火 光

「日本で数人しかいないダブル教授、灯火光。それがここでの立場。つまりあっくーの先生なわけだ。
 うかつに馬鹿とか言わないほうがいいよー。」
教授?21歳で?しかもダブル?
「医学は四年で教授となり、薬学は二年でマスターしたよ。まあかぶってたからね、いろいろ。」
この時点でもうめまいがした。
始った、いろいろと。
前途多難だ。

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最終更新:2007年11月03日 04:44
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