923 :河童の学校 ◆oCD/yCY95s [sage] :2012/05/17(木) 23:42:44.62 ID:wo3uuush (2/6)
暑い……暑い……なんでこんなに暑いんだ。
皮膚が熱を帯び、湯気が体中から出ているような気がする。
俺はいつの間にか火山の噴火口にでもきちまったのか……。
ハァッ……ハァッ……ヤバい、喉が渇いた……水が欲しい……。
……ピチャ……ピチャ……。
!!
僅かながら口の中に水が入ってきた。
うまい……喉がカラカラの時に飲む水は、なぜこんなにも美味しいのだろうか。
……ピチャ……ピチャ……。
うまい……が、なんかこの水、生温かい気がする。しかも口に違和感。
なんていうか、人の唇の感触。
いやおかしいな、オレはファーストキスもまだだし、こんなリアルな夢見られるわけがないのだが……。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ガバッ
目を開けて起き上がると、トンネルを抜けた後のように世界が眩しく輝いている。
そこは雪国ではなく、いつものオレの部屋だった。
時計を見ると、朝の6時半を指していた。
「きゃあ!! ……急に起き上がらないでよ~お兄ちゃん~」
そして、なぜか学校の制服を着ていて、寝ている俺の横で女の子座りをしているマイシスター木野子が、
ふくれっ面でこちらを睨んでいた。
……まさかな?……いや、さすがの木野子でもそこまではしないだろう。
念のために確認しておくか。
「木野子ちゃん」
「何?とりあえず、おはよう!かー君」
「……おはよう。ところで今、誰かにキスをされる夢をみたんだが」
「へ~良かったじゃない」
「……まさか君じゃないよね??お兄ちゃんにそんな事してないよね??」
「うん、してないよ!」
満面の笑みで答える木野子。
ホッ……よかった。どうやら、俺のファーストキスは死守できたようだ。
この唇の初めては、マイエンジェル珠美ちゃん(クラスメイト)と決めているからな!!
「そうか、ならいいんだ」
「うん!良かったね!お兄ちゃん!」
「……で?」
「ん??なぁに?」
「君はお兄ちゃんの部屋で、こんな朝っぱらから制服を着て何をしているの?」
「うん!聞いてお兄ちゃん!木野子、夜にいつも通りお兄ちゃんのベットに忍び込んだじゃない?それから……」
「ちょっと待て」
「??なぁに?」
「さぁて問題です。先ほどの木野子の発言にはおかしな所がありました。どこでしょう?」
「えっ?う~ん、あっわかった!」
「ほう」
「『もう高校生になったんだから、自分の事を下の名前で呼ぶのはやめなさい!』でしょ??」
「ちげーよ!!!!!!!!!!!!! 俺のベットに忍び込んだってところだよ!!」
「なんだ~いつもの事じゃん」
「そうだけど……そうだけど……まぁいい、話が進まないからな。続き行け、続き」
「うん、それからパジャマのまま絡み合っていたんだけど、なんか違うかなって、これじゃただの仲が良い兄妹かなって思ったの」
うわぁ!すごくツッコミたい。これパスなの!?コイツなりのボケなの!?
いや、待て冷静になれ。
ここでツッコんだら、負けな気がする。耐えろ……耐えるんだ河童……。
924 :河童の学校 ◆oCD/yCY95s [sage] :2012/05/17(木) 23:44:23.69 ID:wo3uuush (3/6)
「それでね!一度木野子の部屋に戻って、制服に着替えてからもう一度ベットインしたの!
ほら?お兄ちゃん前に『制服と浴衣は3割増』とか言ってたでしょ??」
確かに……言った記憶があるが……それは珠代ちゃんに対してのセリフだ……お前ではないぞ妹よ。
しかもベットインする意味がわからない。
着替えてくる意味も結局わからない。
「そしたら~お兄ちゃんが寝言で『水……水……』って言ってたからね、飲ませあげた」
「わぁ!ありがとう、優しいな木野子は」
「へへへ~でしょう? こんなに優しくて可愛くて巨乳な……」
「で??????????どうやって飲ませてくれたの?」
「口移しで」
うん、予想通り。どうやらこの木野子(アホ)は口移しとキスは違うと考えて、先ほどは申告しなかったようだ。
いや、正確には違うんだろうけど、この木野子(バカ)の場合、確信犯だよね? 悪意あるよね?
もういいや俺、二度寝するわ。
おやすみぃ。
「あぁ!寝ちゃだめだよ!お兄ちゃん! キスまでした妹を放っておくつもり!?」
「やっぱり、キスのつもりじゃねーか!!」
「へへへ~。いや~初めてはお兄ちゃんからってのが良くて、つい嘘付いちゃった」
最悪だよ。ファーストキスの相手が妹だよ……。
お前ら、うらやましいとか思ってんだろ? 実際に妹がいる奴よ……想像してみな?
最悪だろ!? 俺にとっては現実なんだぜ……これ……。
「元気出して?お兄ちゃん。そうだ! パフパフしてあげるから!」
「俺はドラゴンボール持ってない! もういい!! シャワー浴びてくる!」
「あぁ! お兄ちゃんのいけず……」
しがみ付こうとする木野子を振り切って、シャワーを浴びた俺は朝食を摂る為リビングへ向かった。
「おはよー河童」
「うい」
台所で家族全員の朝食を作っていた母親に朝の挨拶をすると、テーブルに座る。
明神家のルールとして、『朝食及び夕食は家族全員一緒にとるべし』と云ういうものがある。
どうやら、明神家に代々伝えられてきた家訓だそうだ。
特に困る事もないので、これまでの人生素直に従ってきた。
いつの間にか木野子も既に着席していて、家族の中では俺が最後だった。
「おはよう河童! 彼女できたか!?」
このいきなり失礼な質問をしてきた人物こそ、我が家のなんちゃって大黒柱である父親、明神狸(ミョウジンタヌキ)だ。
ちなみに母さんの名前は明神狐(ミョウジンキツネ)だ。
……何も言うなよ? 俺が一番ツッコミたいんだからな。
ちなみに、顔は皆さんが想像している通りです。
やだな~お父さん、木野子がお兄ちゃんの彼女だよ」
と、スクランブルエッグにケチャプをかけながら、木野子が答えた。
「なんだ!? 木野子と付き合ってんのか河童は! それ近親相姦じゃん! ていうか……近親相姦じゃん!」
「何で2回言うんだよ!! 付き合ってねーよ! この木野子(アホ)が勝手に言ってるだけだ!」
しかも、他に言う事あるだろ父よ……。
「ははは~お兄ちゃん照れちゃってる、でもね二人っきりの時はとっても優しいんだよ?」
「あら、河童は木野子と付き合ってるの? 良かったわねー木野子。でもまだ子供は作っちゃ駄目よ?」
「めでたいのう、河童よ後でワシのコレクションの中から1つ持っていってよいぞ?」
ご飯を作り終え、テーブルに戻ってきたマイマザー狐と、テレビの中の女子アナに夢中だったブル魔王(祖父)が話題に入ってきた。
てか、ブル魔王の事みんな覚えてる? うん、忘れててもいいや!
てかなんでこの家、みんなボケ担当なの?俺疲れちゃうんだが……。
925 :河童の学校 ◆oCD/yCY95s [sage] :2012/05/17(木) 23:46:00.42 ID:wo3uuush (4/6)
「ダーリン、早く食べないと学校遅刻するよ?」
「ダーリン言うな」
「お兄様……早く食べないと遅刻しますよ?」
「ほう……敬語妹か……けっこう萌えるじゃないか」
くだらない話をしていると、本当に時間ギリギリになってしまっているのに気付く。
「あっヤバい!おいっ!急ぐぞ木野子!」
「あっ、待ってよ~お兄ちゃん~」
木野子と共に通学路を歩く。
俺達の通う、妖怪大戦争学園は自宅から徒歩で15分程度の、高台にある敷地だけなら同地区で一番の学校だ。
しつこいようだが、学校名は(以下略)
偏差値も中の中程度、スポーツも特にこれといって強い部はない。
実は成績優秀である俺は、もっと上の高校も狙えたのだが、『家から近い』という最強のアドバンテージに魅かれ、ここに入学した。
木野子は毎朝、坂道が疲れるだのなんだの言っているが、俺はこの高台から見える街の景色がお気に入りだ。
朝には、1日の始まりを告げるように街を光で照らし、夕方は1日の終わりを告げるように街を夕日で照らしてくれる。
シンプルな風景だが、日々奇人変人と戦っている俺にとっては、癒し以外の何物でもない風景なんだ。
だからここに入学してよかったなぁと思う。……・それに珠代ちゃんに会えるし。
「ねー、かーく……じゃなかった、お兄ちゃん」
「んあ?」
「ちょっと、レディーに向かってそんな気の抜けた返事しないでよぉ」
「レディーは紳士のベットに潜り込んだりしない」
どうでもいいが、コイツは『淑女』と言えなかったりする、必ず噛むらしい。
「お兄ちゃんは紳士じゃなくて変態だからぁ……じゃあ大丈夫だよね!」
「そうだな。で、どうした?」
面倒なのでスルーします。
「うん、実はね……最近悩んでいる事があるの」
「どうせ、『背が伸びない』とかそんなんだろー?」
「それもある」
「違うのか」
「最近体調が悪くて、力が入らないの……。もしかして妊娠でもしたんじゃないかって……」
「ハイ、解散」
はははっ、ワロス。んなわけねーだろ、
毎晩『私処女だよ? キッツキツのギュッポギュッポだよ?』とか言いながら迫ってくるくせに。
「ちょっと~! 本当だって~!」
「ハイハイ。ちなみに父親は誰だ? 30代ミュージシャン志望とかはやめておけよ~」
「お兄ちゃんなの……」
「そうか、念願叶ったなぁ~良かったなぁ~ハハハッ」
「本当だってば~」
無視無視。相手にするとつけあがるので、ここは無視が最善の対処なのですよ。
俺らはその後、グダグダと学校までの道のりを歩いた。
そして学校……。
「おはよー河童」
「ういっす」
「おはよー河童君」
「おはよー」
「おはよー明神」
「おはようモブキャラ」
朝の爽やかな挨拶をクラスメイト達と交わすと、俺は自分の席へ着く。
俺の席は窓側の後ろから2番目、授業中退屈すると、空を眺めながら色々な妄想にふける事が出来るという素晴らしい位置だ。
しかも右隣は、マイエンジェル珠代ちゃん。
今日はまだ来ていないみたいだ。
オレのクラス、2年C組は校舎の3階に陣を取っている。
木野子のクラス、1年E組は2階だ。
なんで教室の位置を説明したのかというと……特に意味はない。
ほら……何もないのが一番幸せって言うだろ?
常識人に囲まれて過ごせる学校が一番落ち着くんだよ……ゆっくりさせてくれよ……。
926 :河童の学校 ◆oCD/yCY95s [sage] :2012/05/17(木) 23:47:35.57 ID:wo3uuush (5/6)
「おはよう、河童君」
!!!!!!!!!!!!
「おはよー!! 珠代ちゃん!!」
へへっ、やっとゆっくりできると思ったのに、この世で一番俺をドキドキさせる奴が登校してきやがったぜ。
そう、天使が降臨したのだ。
おいお前達、PC前であぐら書いてんじゃねーぞ、珠代様の降臨だよ?
あぁ……なんて美しいのだ、本当に羽が生えていてもおかしくないその美貌に、俺の心はドキドキしまくりスティーだ。
パッチリとした睫毛。
スプーンですくってペロペロしたいクリックリの目。
スッと芯が通った歪みねぇ鼻。
毎晩ヤスリでもかけているのではないかと俺は疑っているプリッとした唇。
そして胸部を制圧している、二つのダイナイトボールですよ。
なんだよあれ・・・。俺は元々貧乳派だが、珠代ちゃんの胸についたバレーボールはそんな思想すら、
いとも簡単に打ち砕く魔力を持っている。
くそう、魔法のバレーボールめ……。
「珠代ちゃんヴァリボー!!」
「きゃあ! 何? 河童君どうしたの?」
おっと。つい、心の声が外に出てしまい珠代ちゃんを怖がらせてしまった。ここはうまい事フォローしなければ。
「ぐふふふ、珠代ちゃん今日は何色のパンツ履いてるの!?」
バシーンという音が教室中に響き渡った。
うむ、今日のビンタも体重が乗っていて良いビンタだ。珠代ちゃんは今日も健康ですな。
勘違いしないでくれたまえ、俺は別に本気で珠代ちゃんのパンツの色が気になるのではなく、
こうビンタされる事によって珠代ちゃんの健康状態を云々。。
「お兄様、ちょっといい?」
ん? 俺の背後から声が掛かる。振り向くと木野子が立っていた。
な……んだと……(本日二回目)
既にダークサイトに堕ちてらっしゃる!
多分ほとんどの人が忘れているので、説明しよう!
木野子は定期的に暗黒面に堕ち、性格がものすごーく怖くなるんだ! ついでに形相もすごくなるんだ!
しかもその時の記憶は一切ないというオマケつきだぜ!
「木野……子さんじゃないですか、ハハハ」
「お前、さっき何て言った? あの女の下着の色がそんなに気になるのか? ああん!?」
「ヒィ! ちょ……! やめて、引っ張らないで! ほらもうすぐ朝会始まるし! お前ら! 見てないで助けてくれ!」
クラスメイトの連中に助けを求めるも、皆さんゲラゲラ笑っていらっしゃる。
なんだろう、俺は自分で思っているよりも人望がないようだ。
「オラ! さっさと屋上来いや!」
「いや~~!! やめて~! 今日一限目は俺の大好きな保健体育なのに~!!」
俺の必死な懇願むなしく、木野子はすごい力で俺を引っ張っていく。
てか、こいつ力有り余ってんじゃん。
そして……あぁ、珠代ちゃんが虫けらを見る目でこちらを見てる。
うふふふ、侮蔑している顔もカワユスなぁ。
というわけで、俺の学校での生活は毎日こんな感じだ。
中途半端だけど、この後2時間くらい屋上で正座させられて説教されるシーンしかないので、
今晩はここまで。皆、スウィート・ドリームス。
最終更新:2012年06月10日 12:20