114 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/18(月) 00:57:06 ID:RW8VOO31
第一話
「能ある姉は本意を隠す?」
灯火 芥
心地よい香りがした。
懐かしいような香り。
ああ、これは昔よく嗅いでいた匂いだ。
ある日突然無くなった匂い。
そうだ、これはお姉ちゃんの匂いだ。
気が付いたらバイクに乗っていた。前に見えるのはお姉ちゃんの背中だ。
荷物はサイドカーらしきものに乗せられていた。(微妙な大きさで人は乗れなそうだ。)
「おはよー。どう?風の中での目覚めは。」
ちょっと待って、俺どうしたの?
「あの後倒れちゃったから、私のマンションに運んでる途中。」
倒れるほどのショックだったのか。
「ん?でも意識がないのにバイクの後ろに乗れる?」
「そういうときのために、しばるベルトとかあるからね。」用意周到。おみごと。
でもまだ何か違和感。
…待てよ、腕が上に来すぎていないか
「どうよ、グリップ効いてるでしょ。
お姉ちゃんの胸。」
「ああ、道理でぷにぷにしてると思ったら。」
「もっと飛ばすよ。もっとぎゅってしがみつかなきゃ危ないよ。」
正直バイクはなれない。思わず力を強くする。ぎゅー。
「あふぅ。そうそう。」
……え?
うわあああああああああっ!しまった!もっと早く気づけ俺!
「おねえちゃん!外して!」
「大丈夫、強く握ったりしてもきょぬーのままだよ。しぼむどころか大きくなるかも。」
「そこじゃない!こんな街中でこんなことさせんな!」
「こんなまちなかで…。ふあっ、ああっ。」やばいあせて手が動くと逆効果。だめだ、勝ち目がない。
「なんでもするから外してくれ。」事実上の敗北宣言。
「じゃあ、跪いて足をお舐め。」
「女王様!?」
「違う、そこは可愛い声で姉様とお鳴きなさい!」なんのことだ。
115 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/18(月) 01:00:48 ID:RW8VOO31
灯火 光
なんだ、もっともんでいいのに。
まあこんなスキンシップをしているうちに私のマンションについた。
大家は別に雇っているが、オーナーは私。でも内緒。
そんなこと言ったら別の空き部屋を貸してくれと言いだす。
あっ、それはそれで有りかな。
そしたらいろいろなところにカメラを設置して…。
「何にやにやしてるんだよ、キモイよ。」
「これから始まる生活のことを考えるとね。ついね。」
あっくーは溜息を吐きだす。私はすかさず深呼吸。
吐息こい!あっくーの吐息こい!
なにがしたいと冷静な突っ込みがくる。ぐう。
そんな会話をしながら2階・0231号室の前に来る。
「はい合鍵、何だか恋人みたい。」
あっくーはそっけない相槌を打つのみ。冷たい。
いけずー。
しかしくじけない。素直になるまで何度でも。
「さてここが二人の部屋だよー。」
そう、いろんな意味で二人が過ごすのに最適な。
そのための準備や策略は一つたりとも欠かしていない。
これでいろんなことが正当化される。
ふふふふふふふ…。
116 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/18(月) 01:02:01 ID:RW8VOO31
灯火 芥
どうやらこのマンションの広さは初めから二人暮しを想定したものらしい。
「家具はお姉ちゃんの趣味でそろえたからちょっと気になるかな。」
光ねえのインテリアの趣味はシンプルを好む。
だから何ら問題はない。
いや、隣で怪しげな笑いをしている本人が問題なのだが。
しかし無印のシリーズが多い。
デスク・椅子・ダブルベット。結構値は張りそうだ。
教授とはそんなに儲けられるのか?
本棚としていくつかカラーボックスがある。まあ、本が多いのは当然か。
しかしその倍ぐらい漫画が多いのはいかがなものか。
昔から頭がいいのに、マンガばっか読んでたからな、光ねえは。
しかしそんなのはブラコンの前では些細なこと。
オタクでも何でもいいからブラコンだけは直してほしい。
だが何か物足りない。何だろうか。
「そうそう、ソファーは今ないの。ちょっと壊れちゃってね。」
「ああ、それか。」まあ、別に不可欠ではない。
「あとお風呂なんだけど、ちゃんと二人で入ろうね。」
「却下。」
「でも光熱費浮かせるにはこれがいいの。」なぜそんなところはけちる。
まあこれは毎回理由をつけて時間をずらせるかな。
「あとそこの本棚、大事に扱うなら読んでもいいよ。今では手に入らないものもあるから。」
そんなに古い学術書まで読んでるのか。
感心。
「これ、限定版のカバーだから。このカードが付いててね。」
マンガかい。
118 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/18(月) 01:03:50 ID:RW8VOO31
灯火 光
こういったのだ、もう固定観念を抱いただろう。
あの日からマンガ好きを演じ続けた。
正しくはサブカルチャー好き。
ぶっちゃけオタク。
要はバカになりたかった。
いや、バカとして見てほしかった。
(漫画好き=バカというのもどうかと思うが。まあ、判断者が馬鹿だし。)
その要因は馬鹿どもにあるというのは一つの皮肉か。
馬鹿どもは店に並ぶ宝石の美しさは知れど、己が炭鉱からとれた金剛石の輝きに気付かない。
磨けばより輝くのに、ただ燃やしてしまう。
まさに蠅。目は多くあれど、意味を持たない。
もしこれからも馬鹿な真似をするのであったら…。
いよいよ不要となったのだ。
駆除の時間か。
しかし、その金剛石は自力でここまで輝きを取り戻した。
そう、この大学に一般合格。
親からも、先生からも、クラスの人からも四面楚歌を受けながら。
そのうえでこの結果。
お姉ちゃんね、今回はなーんにもしてないよ。
信じてたから。
二年前に手紙が来てから。
一文字一文字全部覚えてるよ。
「二本松大学は馬鹿な僕にはレベルが高すぎるので、今からでないと追いつきません。」
高二の初めから進路を考える人はそうそう馬鹿とはいえない。
「でも僕はどうしても二本松でないとかなえられない夢があります。
ある教授のもとで勉強したいのです。まあ、よく笑われるけど。」
目標を明確に持つ人を笑える人はいない。
だから、願掛けを込めて。
一緒に頑張ろうと思って。
お姉ちゃんもさらなる挑戦をして完璧になった。
そしたら社会は私をほめたたえる。
ちょっとうっとうしい。
この力を社会に役立ててくれと人々は願う。
いいよ。ただついでだけど。
その前に、
「生きてますかー、おーい。」
うわあぁぁっ!近くにあっくーの顔が!
119 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/18(月) 01:04:51 ID:RW8VOO31
灯火 芥
これも昔からの癖でなんも前触れもなく考え込んで、そのまま何があっても動かない。
けど今までこんな険しい顔をしていたことがあろうか。(そのあとなぜかやさしい顔になったが。)
もしかしてこの六年のうちに色々あったのだろうか。
「あっ、ごめんねごめんね。」
「お姉ちゃん、よく一人暮らしできたね。」
まあ、いろいろあったかなーとごまかしている。
前言撤回。
変わらないな。
いろいろ策略を練ったりするのが得意なのにどこか抜けている。
それが灯火 光。
ん、策略…。
ちょっとまてよ、ソファーがないってことは…。。
「あの、お姉ちゃん、布団とか予備のベットとかない?」だめだ、声がひきつっている。
「何言ってるの、そのためのダブルベットだよ。」
や、やられた。
120 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/18(月) 01:05:54 ID:RW8VOO31
灯火 光
そのあと私の作ったご飯を食べつつ色々な話をした。
いままでのこと、これからのこと。
一緒にお風呂は無理だった。まだまだこれから。
でも文句をこぼしてたけど、結局一緒に寝てくれた。
「変な事するなよ。」
「お姉ちゃんはされてもいいけど。」
「はいはい。」
「弟に一蹴されたー。うわーん。」
結局壁の方を向いたままだけど、一緒に寝てくれた。
まあ、なんだかんだ言いつついうことを聞いてくれる弟。
それが灯火 芥。
変わってないね。
そういうところは。
そして変ったところもあった。
これからはずっと一緒だよ。
まだある春休みも、学校生活も。
そんなことを考えている間にあっくーは気持ちよさそうに眠っていた。寝返りを打ってこっちを向いていた。
そんな彼を抱きしめて私も眠りに落ちた。
「あっくー…。」
「光ねえ…。」
そのあとの目覚めは携帯の着信音だった。
あっくーの携帯のディスプレイは忌むべき単語が並べられていた。
from 母
sub 寮の件
寮に連絡をしました。
話はすべて聞いています。
再び光に迷惑をかけていると自覚しなさい。
とにかく今日光と一緒に家に戻りなさい。
二人に話があります。
早急に来なさい。
幸せをいろいろな意味で破壊したメール。
この時点で何かの感情がこみあげてきた。
始まった。色々と。
いよいよ熟慮断行といったところか。
最終更新:2007年11月05日 01:38