285 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/24(日) 22:32:06 ID:oXGA+JNp
第二話 「姉の炎」
灯火 芥
気分を紛らわすために本を読んで気分を害しては意味がない。
結構暗い本だ。
父親によって兄妹とその母親が困らされている四人家族。
主人公は家族を守るために父を高校生とは思えない巧みなトリックで殺してしまう。
しかし凶器を隠すところを人に見せられてしまい、そこからどんどん闇の中に落ちてしまう。
……ちょっと待て、ディスプレイの前の皆さん、なぜにやけてるのでしょうか。
言い忘れたが主人公は兄の方だ。妹じゃない。
まあ、そんな暗い本を読んでいたのだ。暗くなるも当然。
ただ単に車酔いかもしれない。
今は姉とともに実家に帰るところだった。
いきなりこんなメールだもんなとぼやいてみる。
「しかし姉貴、今まで二人に連絡入れなかったの?」
「いやあ、うっかり。」あんたほんとに教授か?
その割には俺には月に数回手紙を送っていたが。
でもそれはとても心の支えとなった。
あの中では。
286 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/24(日) 22:33:34 ID:oXGA+JNp
灯火 光
弟は表には出ていないが、怯えている。
馬鹿二人に植えつけられた恐怖。
母・灯火 舞(まい)と父・灯火 鴈(がん)。
大人ではない。ただ図体ばかり大きくなった餓鬼。
その餓鬼が性欲を貪る様に満たし、意図せぬものが出来てしまっただけで「親」と呼ばれる。
その子に満足できず他から子を拾う。
それが名前の理由。
ほかの人や役所には芥川龍之介からとったと言いふらす。
あっくー自身もそう言っている。
でも本人は気づいている。
そのままの意味だということに。
できることなら親権と権限と威厳と人権と人望と人格と人徳と人生を根こそぎ奪い取り、
あるべき名前に戻してあげたい。
あるべき道を歩ませてあげたい。
あるべき幸せを味あわせてあげたい。
幾度となく考えたこと。
裁判所も取り扱わないほど明瞭過ぎる事件に幕が下りる。
有罪か無罪かはすべてはもうすぐ決まる。
どちらかは言うまでもあるまい。
あっくーの車酔いに気付きトイレ休憩中、こんなことばかり考えていた。
あたりはすでに赤く染まっている。
「出てきたときはお昼前なのに、ついてないね。」
「考えることすべてが裏目に出で、渋滞に巻き込まれっぱなし。まあ、僕としてはうれしいけど。」
そのために渋滞情報と春休みのラッシュを逆に利用した。別に気付かなくてもいいけどね。
このPAを超えれても兵庫の家はまだ遠い。
しかし今日はつくつもりはない。
このまま遅れに遅れて京都あたりで一晩泊まり、翌日の午前中に私だけで事を済ます。
これであっくーを馬鹿どもに合わせなくて済む。
「このままじゃ今日中は無理かな?」あっくーから切り出した。
「じゃどこか途中でお姉ちゃんとベットインといこう。」
チェックインな、と突っ込む弟。
「まあ、お金ならいざといえばカードあるし。」
「ちょっと待て、黒くなかったかそのカード。」
あっくーのために手に入れたブラックカード。
名義はあっくーでゴールドがあるのはまだ秘密。
287 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/24(日) 22:34:46 ID:oXGA+JNp
灯火 芥
「重要なのは持っているものを有効に使えるかどうかだよ。」と姉談。
たしか株とかもやってるって話だよな。これはこれからへのヒントとして覚えておこう。
「いちおう現金で十万近く。数日なら大丈夫かな。」
「でも車はけちるのか。」
そう、姉は車を持っていなかった。
バイクならあるが、それでは長旅はきついからということでレンタカーを借りた。
借りたのはナビなしの車だった。
でも車種は最新のもの。浪費してるのか節約してるのかよく分からない。
そして今、PM10:20と車のデジタル時計にはある。
姉によると渋滞で京都に着くころには12時を超えようだ。やっぱし観光客が多い。
「もしもし、お義父様。光です。いま京都にいます。はい、ええ、だから今日はここで一泊して、明日に。」
報告をしていたが、いきなり携帯を渡された。
「あっくーにだって。」
とりあえず受話器を取る。
「何を考えている!屑!」
288 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/24(日) 22:35:58 ID:oXGA+JNp
灯火 光
私にも響く罵倒。
それに怯えるあっくー。
すぐさま携帯を奪った。
「いいか、何時になってもいいからとにかく早く来い。」
「わかりました、お義父様。」
「ひかり、なんでおまえが、」
有無をいわず切る。
「あっくー。」
大丈夫、というその眼はおびえていた。
このとき決めたのだ。
コンマ一秒でも早く終わらすと。
AM1:00
やっと家に着いた。
あっくーは寝たように見えたので私の背中におんぶしてあげた。(実はあっくーはとても小さいのだ。)
目には涙を浮かばせていた。
ごめんね、もうじきの辛抱だから。
「ただ今戻りました。」
「光、無理を言ってすまなかった。」
「その言葉はあっくーにかけてください。」
「いや、分かっている。元凶はそいつだからな。」
日本語で話せ。そう口に出そうになるが、ここは糖衣で包み込む。
「お義父様、お言葉ですがなんのことですか。」
「光、迷惑をかけたね。」
「お義母様まで、いったいなにがあったのですか。」
「そいつのことだ。」昔、人を指差すなと言いつつあっくーを指差すとは。さすが蠅。
289 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/24(日) 22:36:41 ID:oXGA+JNp
灯火 芥
正直ずるいことだとわかっている。
話したくないから寝たふりなんて。
光ねえは気づいているのだろう。
しかし見て見ぬふりをしてくれた。
「とりあえずそいつを起こせ。」低く響く父の声を
「別に話を明日にしてもかまわないのでは。」押しのけていく。
「そうじゃなくて態度の問題なのよ。」甲高い母の声を
「眠る子を無理やり起こすのは親の態度としていかがなものでしょう。」はね返す。
「お前は親に向かって口答えするのか!」
「親ならどんなに歪んだ理屈も通るのでしょうか?」
「ねえ、光。そろそろ弟離れしてみたら。」
「それこそ間違ったことじゃないのか、光。」
「姉が弟をかわいがるのは当然の理です。」
ここで口調が変わった。
「親が弟を虐待していてはなおさらです。」
冷たい口調だった。
絶対僕には出すことのないもの。
そんな声も出せるのかという印象。
「とりあえずもう夜も遅いですし、今日はこれにて。」
僕を優しく抱えたまま部屋を出ていく。
とても頼もしかった。
290 名前:毒にも薬にもなる姉 ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/06/24(日) 22:37:24 ID:oXGA+JNp
灯火 光
五感がすべてアラームを鳴らしていた。
(こいつらは芥をめちゃくちゃにする気だ)
(あっくーと会話をさせてはならない)
そして一つわかったことがある。
過度のストレスは人の成長を妨げる。
もしこいつらがいなければあっくーはもう少し背が大きかっただろうに。
いや背だけじゃない。
成長が妨げられたのは精神面でも。
何のために存在しているのやら。
とにかく玄関まで出てきたところで蠅は必死にたかる。
「じゃあ、起きたらそいつに言ってやれ。お前はもう退学済みだと。」
「お父様、何を寝ぼけたことを言っているのですか?」
「退学の手順はもう踏んである。」はいはいと受け流す。
もういろいろと面倒になったので消すことにする。
あっ、と上を向く。
蠅もつられて上を向く。
その時につい口が開く癖、直したほうがいいですよ。
まあ、たいていの人はそうなるけど。
同時に殺虫剤を噴射する。
蠅はむせる。
「申し訳ありません。蠅がいたもので。」
このすきに家を出る。
そのまま速攻で車に乗り逃げる。完璧な流れ。
車の近くまで近寄りとめようとするがアクセルをおもいっきし踏み振りきる。
そのままビジネスホテルに逃げ込んだ。
あっくーをベットの上に寝かす。
「もう、いいよ。」
「ごめんね、お姉ちゃん。」
その表情は今までの中で最も悲しげだ。
「どうしよう、大学に行けないや。」大量の涙とともに語る。
あんなにがんばったのに、と泣きじゃくる。
「はったりだよ。目の焦点ずれてたもん。」
実際はそうではない。
現に昼に事務員からそのことの連絡は受けていた。
もちろん蠅の妨害など、私の二つ返事で跳ねのけられる。
だが保留にしてもらった。
とりあえずシャワーを浴びてすぐベットに入る。
あっくーもいちおう浴びる。
ベットはダブルだったが、あっくーはまだ何も言わない。
眠れるかな、と不安げだったのであれをあげる。
「快眠薬。睡眠薬と違って危険じゃないよ。」
いい夢が見られるよ。
満たされる夢が。
あっくーは素直に私が手渡したコップの水で飲み、ベットの中に入った。
ベットの中で胸が顔に当たる様に抱きしめると向こうから抱きしめられた。
恥ずかしそうにあっくーは口を開いた。
「あの、光ねえ、僕のこと好き?」
大成功。
「うん、何されたって構わない。」
最終更新:2007年11月05日 01:39