257 名前:
人格転生71[sage] 投稿日:2012/09/03(月) 19:41:00.28 ID:QoRTrNXk [2/8]
…夢だ…夢を見てる。現実じゃない。それだけはわかる。
昔の夢。由利との勉強時間。
あいつはいつも俺の為に時間を取ってくれた。
リビングでのテーブルを囲んでの勉強。
テーブルの上には歴史の教科書とノート。
いつものように由利の教え方はわかりやすくて面白いものだった。
『兄さんはこの世界が好きですか?』
『なんだよ、いきなり』
『勉強の続きです。答えてください』
『まあ、好きかな』
『そうですか…』
なぜか寂しそうな表情で微かな笑みを浮かべる由利。
こいつはこういう学校のテスト範囲を超える質問をしてくる。
俺は学校の勉強よりこういう雑談の方が好きだったのでまんざらでもない。
『おまえは好きじゃないのか?』
『ええ…どちらかと言えば…』
『なんでだよ、なんか悩みがあるなら聞くぞ』
『えーと、例えばここの近代史の範囲ですが…』
『なんか関係あんのか?』
『ほら、このとき日本の本土で大きな震災が起こっていますよね』
『これで世界のエネルギー政策や色んな国の方針が変わったんだよな?』
『確かに大量消費生活の見直しが進みました。世界全体の民度も上がるきっかけになったと言えるでしょう。
無駄な生産が減り、これまでの貨幣経済の資本主義がより洗練され効率的になっていきました。
そして人の価値観が貨幣より幸福を選択するようになりました』
『それが、どうして世界が好きじゃないことに繋がるんだ?』
『皆が世界と言うものを平等に知ることができるようになったからです』
『いいことじゃないか』
『問題はこのあとのそれぞれの国と人々の対応です』
『何か問題あんのか?』
『それまでの世界はマクロ…広い意味でエネルギーを回して生活をしていました。
それが資源の問題も解決に向かいはじめ、科学技術も飛躍的に進み、半永久的なエネルギー抽出を生産できるようになりました。
世界中にエネルギーや食料も行き渡り良い世界になったと言えるでしょう』
『それが今だろ? 世界中の格差も減り、人類の将来は明るいものになって行ったって…この教科書にも書いてあるぞ。俺もそう思うし』
『だからです。文明は常に進化しますが、歴史的に永久な平和状態と言うものは存在しません。エネルギー問題が解決すれば、また新しい技術や価値観が生まれます』
『別に今、平和だからいいだろ? 新しい技術や価値観っていいものなんじゃないか?』
『兄さんにはそう見えるかも知れませんが…』
258 名前:人格転生72[sage] 投稿日:2012/09/03(月) 19:42:12.13 ID:QoRTrNXk [3/8]
時計を見てから由利は話すのをやめた。
そしてテーブルの上を片づけ始める。
『そろそろ時間です。私も自分の勉強をしますので、また明日にしましょう』
『あ、ああ…いつもありがとな』
『いいんですよ。兄さんもテスト頑張って下さいね。平均点さえ取っていれば問題無いんですから』
『ま、おまえのおかげで嫌でも上位に名前が来ちゃうけどな』
『私のおかげではなく、兄さんが柔軟で頭がいいんですよ』
『ん~俺はいいんだけど、由衣の方が心配だよ』
『あの子のことは兄さんに任せてますから』
『つーかおまえがテスト受けてやれよ。あいつに勉強教えるのって無茶苦茶きついんだぞ。周り全員巻き込むことになるし』
『ふふふ、そうですね。できればそうしたいんですが』
『ああ、わかってる。なんとかするよ』
『お願いします』
…
「ん…」
目覚めると朝だった。陽の光が眩しい。部屋を通り抜ける風も心地いい。
このまま眠り続けたいくらい気持ちいい。ああ、布団の中最高…
起きたくないけど由衣を起こしに行かないと…
あいつは夜まで平気で眠るやつだ。
「…!」
その時違和感に気づく。部屋が綺麗になってる。
学校のカバンもきちんと机の横に置かれてるし、机の上も床だって。
それに部屋のドアと窓を開けた覚えもない。
その時、廊下から足音がした。
「おはよ、お兄ちゃん」
259 名前:人格転生73[sage] 投稿日:2012/09/03(月) 19:42:48.23 ID:QoRTrNXk [4/8]
「ああ、おはよう…」
制服姿の由衣がにっこり微笑む。なんだか不思議な光景だ。
きちんと制服に着替えているし、髪もしっかりセットされている。
それに、いつものツインテールじゃなくて久しぶりのポニーテールだ。
ポニーテールは禿げるから、嫌だったんじゃなかったのか?
顔もちゃんと洗ってるみたいだし、制服が整っているだけじゃなくスカーフも綺麗に結んである。
あまりの出来事に頭がついていかない。
「はい、制服」
「ああ…」
「あと部屋の掃除と換気しといたよ」
「あ、ああサンキュ…」
呆然としながら由衣に渡された制服に着替え始める。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!」
「ん? 何?」
構わず着替えを続ける。由衣はなんだか、あたふたしている。
「い、いきなり…き、着替えるって…」
なんだこいつ。照れてんのか?
とりあえずさっさと着替えを済ます。
これでよし、と。
部屋の窓は開いてるけどこのまま換気してていいかな。
「じゃ、朝食食うか」
「うん」
「あと、掃除してくれて助かったよ」
「え、あ…うん、いつも起こしてくれてたお礼だから…」
こいつ、また頬を赤らめてやがる。調子狂うな…
いつものように脇腹をつついてやる。
「うぐっ…!」
「ほら行くぞ」
「あ、うぅ~待って~」
260 名前:人格転生74[sage] 投稿日:2012/09/03(月) 19:46:02.04 ID:QoRTrNXk [5/8]
いつもの登校中。俺と由衣が一緒に歩いているのはいつものことだけど…
「それで昨日ですが結局、由衣様のお友達には電話されたんですか? 確か神菜様でしたか」
「あ、忘れちゃった」
「駄目ですよ。お友達は大切にしないと」
「うーん、でも神菜はあんま気にしないと思うよ」
「しかし少し謝るくらいはした方がいいかも知れませんね」
「うん、わかった」
笑顔で話し合う二人。由衣と薫さん。
なんで薫さんまで学校に付いてきてるのかが謎なのだ。
外出用の一見メイドとはわからないシックな黒いメイド服に少し下ろしたポニーテール。
黒いカチューシャと前髪を垂らしてるのが特徴だ。
それにしてもこの二人、こう並んでみると親子みたいだな。
薫さんは由衣の話題を聞いて、由衣が楽しそうに答えてって。
こうやって前を歩いてる二人を後ろから見るとそう見えてしまう。
二人ともポニーテールだし。由衣は結ぶ位置を上げているが薫さんは下げている。
うーん、やっぱり改めて見ると美人だよな。親子は失礼か。
姉妹って感じかな。薫さんって何歳なんだろう。童顔だからそれも差し引かないと。
10代後半にも見えるけど落ち着きすぎている。
「あと、先ほどおっしゃられていたさつき様ですが」
「ん? さっちんがなに?」
「いえ…」
「?」
何か言いたそうな顔で少し考える仕草をする。
「これからも仲良くしてあげて下さいね」
「うん、いつも仲良しだよ」
その言葉に引っかかったので俺は思わず質問した。
「あの薫さん、さつきちゃん知ってるんですか?」
「はい、存じております」
「どんな関係なんですか?」
「秘密です」
「…また話してくれないんですね」
大袈裟にしょげてみた。知りたいことは山ほどある。
でも由利の巻き込みたくないという願いの為に聞けないだけに悲しいものがある。
「あ…良也様。いずれはちゃんと話しますからそんな顔をなさらないで下さい」
お、面白い反応。こんなあたふたする仕草は初めて見るな。ちょっと楽しいかも。
「いいんです。薫さんから見れば俺なんか由衣の付録ですもんね」
「ち、違いますっ!」
「付録は付録らしく大人しくしてますよ」
「そ…そんなことをおっしゃらないでください…」
ちょっと罪悪感がしてきた。
「私自身のことでしたら、なんでもお答えしますから」
「なんでも?」
じゃあとりあえず…
274 名前:人格転生75 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/03(月) 23:44:02.60 ID:QoRTrNXk [8/8]
「歳は…いくつなんですか?」
「…」
あ、凄いポカーンとした表情してる。確かに失礼な質問だ。
でも今までの出来事考えたら、このくらいなら…
「お兄ちゃん…酷い…」
呆れ顔になる由衣。つかお前だって聞きたいだろ。
純粋な由衣なら一緒になって訊く癖に。
「だって…なあ?」
「なあ…って、失礼だよ」
「お前だって訊きたいだろ?」
「別に…」
「23です」
「「え?」」
あまりにも予想外に答えが帰ってきたので、その薫さんの声に驚いてしまう。
「他には何かございますか?」
落ち着いた口調の薫さん。
「え? え? え?」
「…」
びっくりする俺をよそに由衣の顔つきが変わる。あれ? この表情は…
「どこの所属なの?」
「姫乃メイド協会です」
「本当の正体を訊いてるの」
「本当でございます。私は姫乃メイド協会から派遣されて来ました」
「お爺ちゃんに雇われたって訊いたけど…」
「それも事実です」
「なんで警察手帳を持ってるの?」
次から次へと質問してくれる由衣。いや…違うのか?
「おい、由衣…」
「兄さんは黙ってて下さい」
「…」
やっぱりこの口調に表情…これは由利…?
でも雰囲気が違うのはなんでなんだ?
空気は由衣そのままだし。
「続き、なんで警察手帳を持ってるの? 警視って名乗ってたけど?」
質問が2つに増えていることには突っ込まない。それより…
「職務上必要だったからです。今の私は警視扱いになっています。きちんと身分証明証もあります」
「姫乃メイド協会なんて、国のデータベースを検索しても、どこにも出て来なかったけど」
「それは一般でも法人でもありませんから」
「もう一度前に訊いたことを訊くわ。あなた何者?」
歩きながらゆっくり瞬きをする薫さん。銃をつきつけられた時のあの感じがした。
276 名前:人格転生76 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/04(火) 00:05:46.53 ID:V2Sd6BQr [1/3]
「由衣様にも同じ事を質問したいのですが…」
「あたしのことはどうでもいいの」
緊張感が解けたのは一瞬だった。薫さんは顔をほころばせる。
「由衣様、良也様がびっくりされていますが、答えてもよろしいでしょうか?」
「…っ!」
今度は由衣がびっくりした表情で俺の顔を見る。
「…お、お兄ちゃん…」
由衣に戻った? って、この表現が正しいのかはわからない。
でも雰囲気も由衣のそれになってる。
「これ以上は由衣様の意志に反するかもしれませんが、必要ならお答え致します」
「あ…あとで、き…訊くから…いいよ…」
慌ただしい表情になる由衣。そろそろ学校に着く。そこを曲がったらもう校門だ。
ちょうど最初に薫さんとぶつかった場所だった。
「良也様」
「な、なんですか?」
「色々訊きたいことはあると思いますが、良也様に知りたい気持ちがあればそのうちにお解りになられると思います」
「は、はい」
薫さんもおっとりした表情になってる。
そういや、そのうちわかるって由利も言ってたな…
由衣は俺の顔を心配そうに見ている。
俺を巻き込みたくないからか…
曲がり角の先には校門が見えてくる。
あれ? あそこにいるのは…
278 名前:人格転生76 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/04(火) 00:33:18.08 ID:V2Sd6BQr [2/3]
「あれ? 神菜、何してんだ、こんなとこで?」
由衣のクラスメートの神菜だった。それに横にちっちゃい幼女…じゃなかった、瑠璃もいる。
「あ、先輩もちょうどよかったわ。話あんねん。先輩、由衣坊の保護者やんな?」
「ま…まあな」
今は薫さんだけど…
ちらりとその薫さんを見る。席を外しましょうかとでも言いたげだ。
俺は頭を下げたそれをお願いする。
「それでは私はここで失礼致します」
そう言ってから校内に入っていく。
って、ええ?
「ちょ、ちょっと薫さん、家はそっちじゃないっすよ!」
きょとんとした表情をして振り向く薫さん。
「あ、申し上げてませんでした。今日はこの学校に用事があるんです。恐らくこれからはご一緒に登校することになると思います」
「へ?」
「では失礼致します」
そう言い残し校内に入っていく。それにしても今日はなんだか周りが騒がしい。
変な高級車が止まってるし、普段見ない人間もたくさん目にする。
あそこの、無線で連絡を取り合ってる人ら、あれ、明らかに一般人じゃないよな…
私服警官?
「先輩、由衣坊、ちょっとこっち来てくれへん?」
確かにここはいつも以上に目立つ。神菜の言うとおり俺たちは場所を移すことにした。
それにしても瑠璃の挙動がおかしい。なんで俺と由衣を交互に見つめてはコソコソ神菜のうしろに隠れてんだ?
俺、何もしてないよな…まあ、思いっきり心当たりはあるけど…
最終更新:2012年09月04日 10:17