人格転生 第15話

286 名前:人格転生77 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/05(水) 06:43:11.76 ID:LEEzoNqh [2/9]


 校舎裏。それにしても、今日の学校の雰囲気はおかしい。
 なんでこんなに私服姿の警備員みたいなのがいるんだ。
 ここに来るまでにも、俺達に何度かそいつらの目線が突き刺さった。
 感じ悪いな。

「由衣坊、アタシが言いたいんわかるやろ?」
「さあ?」
「本気で言ってるん?」
「あたし、なんかしたかな?」
「…ふぅん。やったら、ゆわなあかんな」

 俺もなんで神菜が本気で怒ってるのかわからない。
 瑠璃は瑠璃で由衣の方をチラチラ気にしている様子だ。
 この光景見ると神菜の方が瑠璃より先輩に見える。

「瑠璃、ほら、ちょっとこっちきいや」
「あ…神菜ちゃん、ちょっと…」

 瑠璃の小さい体を強引に由衣の前に持ってくる。
 え? それから瑠璃のセーラー服を脱がせる。

「おい、神菜、何してんだよ!」

 俺はそう言いながら思わず、周りを見渡す。これ誰かに見られてないだろうな。

「これ、由衣坊がやったんやろ?」

 !? 思わず声を失っていまう。ブラ姿になった瑠璃。でもその背中には…

「…」

 由衣は黙ったままうつむいている。
 瑠璃の背中にはミミズ腫れのような線ができていた。
 ゴクリと息を呑む。あんなの昨日の時はなかったはず。
 瑠璃を抱いた事を思い出してその体に見入ってしまう。

287 名前:人格転生78 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/05(水) 06:43:57.68 ID:LEEzoNqh [3/9]

「昨日本気で技かけたり小突いたりしてたやろ? 
 なんか表情もおかしかったし変やと思たらから、
 電話しろゆうたのに、してけえへんかったし…」
「か、神菜ちゃん…ふ服着ていい? あたしはいいよ。気にしてないから…」
「良うないわ!」
「で、でも服は…」
「それはええよ。ほら、はよ着い」

 瑠璃が服を着ながら俺の方を向いて顔を背ける。

「あたし、いいってば。気にしてないし…由衣ちゃんもふざけすぎただけだよ」
「あんなー、そいゆう態度がイジメに繋がんねんで? 他でもそんなことしてんちゃうやろな?」
「でも…」

 今度は神菜が俺の目を見る。

「ごめんな先輩。でも先輩呼んだんも、ちゃんと理由あんねん」
「なんだよ」
「昨日から由衣坊なんかおかしない?」
「…」

 確かにおかしい。正確には人格が統合した日曜日からだ。
 でもそんなこと人に話せない。由衣の親友のさつきちゃんにだって言ってない。
 昨日は由衣の違和感に気づいてないと思ったけど、とっくに気づいてたってわけか。
 それにしても瑠璃のあの傷…ホントに由衣が…?
 由衣はオロオロするかと思ったら、逆に落ち着いて話しだしていた。

「神菜ならわかると思うけど」
「わからんわ! 友達に傷付けるとか最悪やろ!」
「…そうかな?」
「なんで平然としてんねん! 瑠璃に謝りや!
 一生モンの傷やったらどうすんねん! 女の子やで!」

「…こっちも一生ものの傷が付いたら、神菜だってそんな事言わないと思う」

 その声は本当に由衣が出したものか、俺達は誰も理解できなかった。
 一生モノの傷? 由衣が? 誰に? もしかして瑠璃に?
 いや、そんなはずが…

288 名前:人格転生79 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/05(水) 06:44:32.60 ID:LEEzoNqh [4/9]

「なんなん? 瑠璃がなんかしたってゆうん?」
「…うん。した」

 そう言って由衣はどこか無表情な顔で、俺と瑠璃を交互に見つめた。

 寒気がした。昨日の瑠璃を抱いたことを思い出す。
 そして由衣が何を言おうとしてるかも。
 瑠璃も俺の顔を伺いながら真っ青になってる。

「神菜が好きな人がいるとするよね。例えば久しぶりに再開した人とか…」
「な…?」

 その一言で神菜の様子もおかしくなる。
 目が泳いでる。
 それでも由衣は淡々と続ける。

「それで、その人に親しい幼馴染がいたとしたする…」
「…っ!」
「そして、本当の初めては神菜じゃなくてその人だったら…」
「そ…そんなん…ありえへんっ!」
「ないって言い切れるかな? その人が本当に初めてだっていう証拠が…」
「ちがっ…!」
「だって女子は男子と違って証拠がないよ?」
「ちゃう! お兄はそんな…!」
「今のは冗談だけど…お兄って誰?」
「あっ…!」

 神菜が突然地面に膝を付く。
 荒い呼吸を繰り返しながら俺たちを怯えた表情で見回す。

 そして、その姿を見下ろす由衣。
 何が起きてるのか理解できない。
 なんで神菜はそんなにショックを受けてるんだ?

「これ以上は詳しく言わなくてもわかってると思うから言わないけど…」

 俺達は沈黙するしかなかった。
 突然、この空気を創りだした由衣に対して誰も言葉が出せなかったと言う方が正しい。
 今のやりとりだけで、言いたいことが全部わかったから。
 俺も瑠璃も神菜も…そして由衣も。

「瑠璃ちゃん…ごめんね…」

 由衣が瑠璃に頭を下げていた。呆気にとられるしかなかった。
 なんで…また?
 瑠璃も初め謝られたことに気づいてない感じだった。

289 名前:人格転生80 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/05(水) 06:45:16.65 ID:LEEzoNqh [5/9]

「い、いいよ…あの…あたしもごめん…その…良也クンのことも…ごめん」
「傷…痛む?」

 そう言って由衣が優しく瑠璃の背中を、セーラー服越しにさする。

「う…ん…大丈夫。痛みはないから…」
「ホントごめん。自分抑えられなかったの…ごめん…」

 由衣は瑠璃を軽く抱きしめて涙を浮かべていた。

「い、いいよ…由衣ちゃんの気持ちもわかるから…」
「保健室行こ。傷は残らないと思うけど…わかんないし…」
「だ…大丈夫だよ」
「念のために行こ。放課後も病院一緒に行こ」
「う、うん…」

 瑠璃の手を繋ぐ由衣。

「神菜とお兄ちゃんも…いいかな、これで?」
「お、俺はいいけど…」

 神菜を見ると膝を付いてゆっくり呼吸を整えている。

「神菜もごめんね。今の話もミミ先輩にちょっと訊いただけだから…」
「ちょ…由衣坊…なんで…?」
「お兄ちゃん、あたし達保健室行くから、神菜のことよろしくね」
「あ、ああ」

 そう言ってから二人とも保健室に向かって去っていく。
 しばらく呆然とするしかなく、神菜の息使いが戻るのを待つしかなかった。

290 名前:人格転生81 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/05(水) 06:46:00.61 ID:LEEzoNqh [6/9]

「大丈夫か?」

 俺は神菜に手を差し出した。

「あれ、ホンマに由衣坊なん? 同じやねんけど…でも…なんか…」
「…」

 俺の手を握りながら起き上がる神菜。
 言いたいことはわかる。今の由衣は由利が混ざってる状態だ。
 あの話し方も普段の会話すら怪しい由衣とは随分違った。

「…途中から?人としゃべってる感じやったから」

 そう、神菜は由利と話した感覚がしたんだと思う。
 俺には慣れたものだが、普通の人が由利と話したらかなり戸惑うと思うし。
 同世代に、あいつの話し相手になる奴なんかいるんだろうか?
 恐らく大人でも普通の人と話せば気味悪がられるだろう。
 思考や能力も空気も何かずれてるし。

「保健室行くか? 顔色悪いし」
「え、ええって。体調悪いんとちゃうから。このままクラス行くわ」
「そっか。じゃ、途中まで一緒に行こうぜ」
「え、ええよ。1人で大丈夫やから」

 明らかにショックを受けてる神菜に言われても説得力がない。
 ちょっと足元もおぼついてないし。こいつが心配だ。

「俺が神菜に用事あるから、いいだろ?」
「な、なんなん?」
「昨日の由衣の状態を教えて欲しい」
「…そんなんウチより先輩の方がわかってるんちゃうん?」
「いや、全く持ってわからない」
「ってゆっても…」
「昨日のクラスでの様子だけでいいよ。カラオケ行く前の」

 そういうと神菜は訝しげにこちらを見てきた。

「なんで知ってん?」
「あ、いや、あのさ…ゆ…由衣に訊いたんだよ。昨日カラオケ行ったってさ」

 やば…瑠璃と一緒にこいつらをストーキングしてたことがバレる…
 苦しい言い訳をするしかなかった。

「ふーん。そういえば昨日、なんで瑠璃と一緒におったん?」
「あ…えっと…その…」

 クソ。こうなったら変な言い訳も逆効果だ。
 昨日のことを一部始終、神菜に話すかないか。
 神菜にも由衣のことを教えて欲しいし。

「ちょっとクラス行くまで話そうぜ。ちゃんとそのことも話すから由衣のこと教えてくれ。頼む」
「ええけど…」

291 名前:人格転生82 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/05(水) 06:47:11.61 ID:LEEzoNqh [7/9]

 俺が神菜と話しているうちに、由衣と神菜のクラスまで来てしまった。
 必要以上の情報は漏らさずに、なるべく簡潔に伝えた。
 昨日は由衣が心配でカラオケについていったこと。
 人格のことには触れずに、最近様子が変だということ。
 当然、瑠璃と関係をもったことなんか絶対に話してない。
 一緒にデートもどきをしたということくらいには話したが。

 でもこっちの話す時間でいっぱいで、肝心の由衣の状況までは訊けなかった。

 それにしても後輩らの視線とヒソヒソ声が痛い。
 つーか聞こえてんだよ!

「…あれ、神菜って由衣のお兄さんと付き合ってるのかな?」
「…でしょ、話してる時の雰囲気は恋人そのものだったじゃん」
「…神菜ってああいうタイプ好きなの?」
「…転入してきたとき、大人しいタイプが好きって前に言ってたぜ。俺訊いたもん」
「…由衣のせいであたしらの成績落ちた時も助けてもらったよね。結構いい人だと思うよ」
「…神菜、可愛いしなぁ…うちの男子どもにも人気あるし…」
「…先輩に勉強教えてもらったことあるけど凄く良い人だったよ。神菜とは相性よさそうだよね」
「…はぁ…あたしもあんな、お兄さんゲットしたい…うちのアニキもあんなんだったら…」

 俺の評判ってこのクラスに限ってはいいんだよな。
 由衣の面倒見るために何度も関わってるし。
 このクラスの手伝いをしたことも何度もある。

「先輩…その…もうええかな? これ以上話されへんと思うし…」
「だな」
「…それに…」

 当然、ギャラリーの声が神菜にも聞こえてるわけで…
 頬を少し染めてるのは恥ずかしいからだろう。

「なあ神菜」
「え、え?」
「とにかく今日みたいなことがあったら俺に電話してくれ。すぐに助けに行くから」
「うん」
「さっきのアドレスなら、いつでもいいから」
「う…うん」
「必要だったら授業中でも構わないからな。なんかあったら俺んとこメールしてくれ」
「授業中?」
「ああ、ひょっとしたら…」

 由利の人格が出てきても授業を妨害したりはしないと思うが…

「いや…とにかくなんかあったら俺を頼れ。絶対一人でなんとかするんじゃないぞ」
「え、あ…うん」

 これは1人でなんとかなる問題じゃない。
 由衣の時も手を焼いたけど、もっと大変なことになるかもしれない。

292 名前:人格転生83 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/09/05(水) 06:49:13.90 ID:LEEzoNqh [8/9]

「じゃ、続きは放課後訊くから。また頼むな。それと由衣にはちゃんと注意しとくから」
「せ、先輩!」

 踵を返そうとした時、呼び止められる。

「ゆ…由衣には注意せんでもええから…」
「でもな…あいつ神菜にもなんか言っただろ? あれは…」
「やから! あれはええって! お願いやからゆわんといて!」
「…いいのか?」
「うん、あんことはゆわんといて…」
「わかったけど…」
「ありがとう。ほんなら続きは放課後ゆうから…」
「ああ、じゃあな。あと胸大丈夫か?」
「え? あ、うん。もういける」
「苦しそうだっただろ」
「だ、大丈夫やって! それより先輩もはよ行かんと遅れんで!」
「いた…って、わかったって…」

 神菜に後ろから背中を押し出される形で、クラスの前の廊下から追い出される。
 まあ俺も恥ずかしいし、神菜はそれ以上に恥ずかしいんだろう。

 それにしても外野の声のトーンが高い…

「…今の聴いた?」
「…くっそ、神菜、完璧リア充じゃん」
「…俺、泉のこと諦めるわ」
「…神菜と美里先輩ってしっかりしてるから上手く行きそうだよね」
「…あー早く地球滅亡しねーかなー」
「…だったらそこから飛び降りろよ。楽になるぜ」
「…あんた、神菜狙ってたの? 涙目じゃん」
「…うるせえ! もう校舎から飛び降りる!」
「…このクラス、一階だけどね」

 俺もクラスに戻らないと…

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最終更新:2012年09月05日 11:17
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