312 名前:
『君の名を呼べば』 ◆uC4PiS7dQ6 [sage] 投稿日:2012/09/09(日) 17:47:56.23 ID:m2UwS8FP
「ねぇ、どうして来るの?」
小雨が降る気だるい日曜日の夜、リビングでソファーに座りバラエティー番組を見る。
正確には、見たい。好きな芸人が出てるし面白いから、集中して見たい……のだが。
隣に座ってる人物は俺を凝視して睨み付け、なんで? どうして? と質問攻めにして集中する事を許さない。
「はぁぁっ……」
自然、溜め息だって漏れる。俺だって無視してる訳じゃないんだ。
何回も質問を聞いて、何回も答えて、何回も問答して、それでもコイツが、妹が、硝子(がらす)が、納得せずに繰り返してるだけ。
「ねぇ、どうして来るの? お腹パンパンになるまで出されたのに、どうして生理が来るの?」
つまり、この間のプールでの行為でガラスは妊娠せず、どうやらそれが信じられないらしいのだ。
俺の袖を掴んで小さくゆさゆさと揺すり、赤い瞳を潤ませる。
「これが最後だから良く聞けよ? 確かにお前としたし、中に出しちゃったけど、着床……だっけ? それをしなかったからガラスは妊娠してないの」
だから何度でも。テレビから自然を外して妹の肩に手を乗せ、目を見つめて何度でも同じ答えを繰り返す。
携帯で調べた一文を、ガラスが「わかった」と言うまで何度でも。
「そっ……もう良いわ」
すると次はガラスが視線を外し、俺の手を払ってバラエティー番組を眺める。
ソファーに背を預け、静かに、つまらなそうに、不機嫌そうに。
「その言葉、何回も聞いたぞ? ったく」
俺も再び視線をテレビへ。
でもまぁ、ガラスは不機嫌だが、俺はどこかホッとしてる。
やっぱり早いと思うんだよ。この歳で父親と母親になるのは。
最低でも高校は卒業して、それから大学に行くのか、専門学校に行くのか、それとも就職するのか。
どれにしても、子供は俺が仕事に着いてからでも良いと思うんだ。
313 名前:『君の名を呼べば』[sage] 投稿日:2012/09/09(日) 17:49:02.62 ID:tKshMov3
だいたい、それより先に悩まなきゃイケない事はたくさん有る。
まずは来週の修学旅行。何とかその時に加藤とのわだかまりを解きたい。
アイツは良い奴なんだ……
俺を許すと言ってくれた。もう気にしてないと言ってくれた。
修学旅行の班決めの時も、加藤から俺を誘ってくれた。
だけど、当事者だからわかる加藤との隔たり。俺は以前通りとは行かなくても、それに近い所まで関係を修復したい。
「ねぇ、頼光? 前に言わなかったっけ……私は加藤君に嫉妬してるって」
ボーっとテレビを見ながら考え事をする俺に、ボーっとテレビを見ながら妹が話し掛ける。
隣から視線を感じないし、俺の視線はテレビに向けたまま動かない。
視線は互いに交差せず、互いにテレビを眺めたまま。
「ああ、聞いた」
だからそのまま。隣を見ないまま。淡々と一言吐き出して答えた。
「もう少し、もう少しだけさ……私との時間を作ってよ」
そして重なる。視線じゃなくて、右手の上にガラスの手が置かれ、二人の手が、体温が、重なる。
ゆっくり指を絡める相手は、途切れ途切れの泣き出しそうな声で呟きなから、この部屋の空気を甘ったるくピンク色にデコレートして行く。
314 名前:『君の名を呼べば』 ◆uC4PiS7dQ6 [sage] 投稿日:2012/09/09(日) 17:50:46.22 ID:A4FT3qqA
それは糸。蜂蜜より甘ったるい雰囲気は、天然のピンク色フェロモンは、獲物をぐるぐる巻きにして離さない蜘蛛の糸。
「んっ、なんだよお前……実の兄貴と遊びたいのか?」
カラカラ、カラカラ、喉が渇く。唾を飲み込み、冗談めかして答えるのが精一杯。
どうせ無駄だってわかってるのに、何とか話しをすり替えようとしてる。バカなオレ。
「ちがうわ……遊びたいんじゃない、デートしたいのよ。実の兄と、妹で、恋愛映画が見たいな? ねぇ、良いでしょ頼光?」
無駄なんだ。ガラスのワガママを、俺は断れない。
ピトリと寄り添い、体温が近づき、呼吸が近づき、身体に僅かな重さが掛かる。
肩に頭を乗せられ、腕には柔らかい感触が伝わり、熱っぽい吐息は俺の理性を蝕み出す。
「ああ、映画ぐらいならな……明日で良いか? んじゃ、風呂に入って来っから」
諦めてガラスの方を向き、提案を受け入れ、然り気無く腕を振りほどこうとして、ここから逃げ出そうとして、
「気にしないで頼光」
繋がらない言葉で繋がれる。
腕を強く掴まれ、抱き着かれ、上目遣いで見つめられ。
「何を……だよ?」
もう視線は逸らせない。赤い瞳を細めて微笑む妹の顔に、まばたきだってさせて貰えない。
胸はドクンと高鳴って、同じ音がドクンと届く。
「私は、性欲の捌け口(はけぐち)にされても気にしないから。我慢できないんでしょ、おにいちゃん?」
315 名前:『君の名を呼べば』 ◆uC4PiS7dQ6 [sage] 投稿日:2012/09/09(日) 17:52:55.54 ID:CyY8N8J2
それとも……とガラスはセリフを区切って腕を放し、ソファーから立ち上がり、俺の足の間に腰を降ろした。
この前と同じ格好で、この前と同じに見上げ、膝立ちになって背中に手を回して来る。
「頼光は私と一緒に居るのに、私が隣に居るのに、何日も我慢できちゃうの? 襲う気にもならないぐらい魅力を感じないの?」
二人の位置はこの前と同じだけど、しようとしてる事は、されようとしてる事は全く違う。
けど、答えに悩むボンクラな兄の返事なんていつも待っちゃくれない。
「頼光……ふっ、んっ……」
ガラスは頬を耳まで赤く染めてズボンのジッパーを唇で挟むと、何の躊躇も無く、
ヂッ、ジジィィィィッ……
鈍い金属音を鳴らし、全開までそれを下げ降ろした。
そのまま股ぐらに顔をうずめ、空いた隙間の中に舌を差し込み、ペニスを外へと取り出そうとする。
このまま、妹に、良いのか?
「しなくていいからっ!! てか、こんな事させたくねぇよ!!」
なわけねぇだろ!!
考えはまとまらなくても、ろくな言葉は浮かばなくても、一度壊れた三流品の理性に従う。
ゆっくりとガラスの肩を押して、ゆっくりと顔をそこから離させた。
316 名前:『君の名を呼べば』 ◆uC4PiS7dQ6 [sage] 投稿日:2012/09/09(日) 17:54:56.69 ID:7WYD/mm3
「しなくてって……じゃあ、自分で処理するの? 私にもそうさせるの? すぐ近くに好きな人が居るのに、気持ちの通じた人が居るのに、最後まで済ませた人が居るのに……くっ、もう良いわっ!!」
ガラスは頬を赤く染めたまま見上げて睨み、俺の手を払って不満を吐き出す。
口元を拭って腰を上げ、クルリと背中を向けて長い黒髪をはためかせる。
「お風呂……私が先に入るから。それと明日のデート、忘れないでね頼光?」
その言葉が最後。その言葉を残して妹はスタスタと浴室の方へ消えて行った。
反論する暇も無かったが、気分をそこまで悪くさせたって訳でも無さそうだな。
「はぁぁっ……デート、か」
深く溜め息を浮かべ、ポケットから携帯を取り出し、映画情報を調べる。
この時期やってる恋愛映画と言ったら、今を輝く人気アイドルがラブシーンに挑戦した事で有名な映画、『月明かりの雨に濡れて』しか無い。
これで喜んでくれるなら良いんだが、頼むぞ本当に。
「はぁぁっ……」
深い溜め息をもう一度。後は映画の出来に賭けるのみ。
にしても、何で断ったんだ俺? 別にあの行為で子供が産まれる心配はないのに……とか、悩んだフリをするなんて、俺も意外とお茶目さんだな。
んなの決まってる。またガラスにされたら、歯止めが効かなくなるってわかってるから。わかってるから、怖いんだ。
子供は高校を卒業した後……そんな決意もアッサリ捨ててしまいそうで
最終更新:2012年09月10日 11:16