毒にも薬にもなる姉 第三話

674 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/07/27(金) 15:27:31 ID:WQfMW10e
第三話 姉の意図


灯火 光

朝になったら目覚める。これは基本。
じゃあその基本ができない人ってどんな人?
ねぼすけとか夜型人間とかは除いて。
もうどうしても起きられない人。
「…何が言いたい。」
「これはあっくーの羞恥プレイ?」
「いや、結論を言え。」
おはようのちゅー
「んぐ、むごごががぁっ!」大喜びだ。
「ぷはっ、舌使いが激しい。」
「少し寝ぼけただけでこれはないだろ!はあ、いっそのこと窒息死させてくれ…。」
つまり王子様はお姫様にキスで目覚めるわけだね。
ふふふふふふ。

675 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/07/27(金) 15:28:38 ID:WQfMW10e
とりあえず朝ごはん。
あっくーは何だかしおしおしていた。
「ごめんね、お姉ちゃん。」
「うん、ホント激しかった。でも覚悟はもうできてる。でも式は6月にあげたいな~。」
「ほんと昔に戻っちゃった。我慢してたけど。」無視ですか。てかあっくーのチキン。もっと、乱れる喜びをー。
「一人で立派に生きていけるように努力してたけど。」

あれはあっくーが小三の時かな。
それまではあっくーは素直にお姉ちゃん子だった。
蠅がたかるのを除けば幸せだったあのころ。
だけどある日を境に独り立ちして…。
お風呂も一緒に入らなくなった
二人でよりも友達と遊ぶようになった
勉強のわかんないところをとことん自分で考えるようになった
一人で寝るようになった。などなど。
神様、なんで人は成長しちゃうのかな。

「お姉ちゃんだって、僕から離れるために独り立ちしたのに。僕がまた逆戻りしちゃった。」
もう涙目になってきたあっくーを抱きしめる。
あっくーはもう十分強いから大丈夫だよ。
「ううん、弱い。また自分の親から逃げてる。」
「弱いってことが分かっているだけで、自分から逃げていないから強いよ。…て感じのことがなんかの漫画にあったような。」

676 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/07/27(金) 15:29:51 ID:WQfMW10e
灯火 芥

とりあえずお姉ちゃんなりの元気ずけをされた。
…まあ、いいや。
そういえば言い方も変えようかな?
姉貴と「あっくー、無駄な事考えない。」ふわぁ!
「あっくーがお姉ちゃんを呼ぶ時はお姉ちゃん以外無いんだよ。ついでに一人称もボクだよ。」
これは従うしかない。
昔自分のことを俺と言い始めたころにはひどい目にあった…。
「そんなことよりどう説得するか考えようよ。」
そこは正論だった。
「いっそのこと無職でお姉ちゃんのヒモになる?」自分から勧める人がいるとは。

10時頃ホテルを出た。
再び家に向かった。
「とにかく、自分一人で頑張ってみるからね。」
「うんうん、強いぞ。」
とにかく話さなければ始まらない。単純な結論に至った。
とりあえず今から向かうことを父に電話で報告。
「おかけになった…」
なんだ、電池切れてるのかな?念のためお姉ちゃんのを借りているのに。
かれこれ五回。無返答。
「もうついちゃったよ。」
あっという間に家の前だった。
さてインターホンを鳴らす。
…無反応。
もしやと思い振り向く。
ポストをみると当然の如く新聞がまだある。
「はいはい、ちょっとどいてねー。」
とお姉ちゃんは二つの太めのクリップを変形させてカギ穴に差し込んだ。
はたから見れば犯罪者。でも仕方ないだろう。


677 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/07/27(金) 15:30:38 ID:WQfMW10e
灯火 光

ロックを解除と同時に中に駆け込む。土足のまま駆け込んだ。
薄暗い家の中で人影を探す。居間、客室、台所、お手洗い。
「一階にはいないね。」
「まだ、寝てるだけならいいけど。」
奥へと進む足は焦りを表している。
寝室のふすまを急いで開けた。
「きゃあああああ!」
「どうしたの!」
「あ、あ、あはは、あははは。」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは、
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。
もはや、笑うしかない、状況だった。
蠅はいなかった。
あるのは、亡骸が、二つ。
すでに二人とも倒れていた。
布団から出てはいたが、床に這いつくばっている。
今日家に着たばかりで、この状況。
今笑わずして、いつ笑おう。
「もしもし、もしもし!」
しかしあっくーは、
「救急車をお願いします。対象者は二名!」
助けを求めていた。
「呼吸はまだあります。あ、あと・・・」
あっくーはそれをもとめるんだね。
「ど、瞳孔は・・・」
じゃあ、そうしようか。
「まぶたが閉じてて・・・」
「患者は二名ともインシュリンの過剰摂取による低血糖と見られる。ブドウ糖とグルカゴンを用意。」
「お、おねえちゃん!」
電話を奪い取り即座に指示を出す。

678 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/07/27(金) 15:31:39 ID:WQfMW10e
灯火 芥

覚えていない。
救急車で一緒に運ばれて、まるでドラマのシーンのような治療室の前のソファーで横になっていた。
何があったのか理解できない。それ以外思うことがない。
頭も心もついていけない。涙が出てくる以前の問題。
あれから何時間がたったのかわからない。
30分?6時間?それとも半日?見当がつかない。
自分の中身が空っぽになったみたいだ。
……たすけて。
「んー、どうしたのかな?」
上から光ねえが顔を覗き込んだ。
「今何時?」
「もう2時だよ、おなか減ったでしょ。ほらほら。」
コンビニの袋からサンドウィッチやらおにぎりやらを取り出す。
「いらない。」正直吐き気がしていた。
「…口移し希望ね。ちょっと待ってて。」
「わかった、食べます。だからやめて。」
消化しやすそうなたまごサンドをもらう。
以外に食べれた。おにぎりを数個もらう。
「大丈夫。低血圧じゃ人はそんなに死なないよ。」
「そう。」そうか、だから光ねえは落ち着いてられるのか。
しかし疑問が残る。
「お父さんは高血圧だったけど、なんで二人は低血圧で倒れていたの?」
お姉ちゃんは少し視線をずらした。
「…ミュンヒハウゼン症候群。」

ミュンヒハウゼン症候群
受験勉強の中でちょっとだけ目にしたことがある。
大雑把に言えば仮病だ。
症状をでっち上げ、病気のふりをして周りの人の注意を引こうとする精神面の病気。(本人は自覚なし)
また、薬のあやまた利用で病気の症状を自ら引き起こす人もいる。
たとえば、インシュリン…。

「え、それじゃあ自分でああなったの?」
「二人とも注射のあとがあった。お父さんは当然だけど、お母さんは必要がないのに。」
「そんな…。」
「たぶん私があんなこと言ったから。」
弱弱しく光ねえは言った。
「『自慢の娘』に突き放されたから、注意をひきつけようとして
「だから全部私の責任。」
目は潤んでいた。それでも僕のことだけを考えていた。
見計らっていたかのように手術中のランプが消えた。

679 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/07/27(金) 15:32:17 ID:WQfMW10e
灯火 光

あっくーにも担当医師にもお願いして一人きりにさせてもらった。
「いや、まだ三人か。」
意識不明、それが今回の結果だ。
「あなたたちが忌む、あっくーのおかげでこうなったんですよ。」
あの時のあっくーは予想外だった。
まさか自分から救急車を呼ぶとは。
「六年間。その間に考えが変わると思ったら。変わっていなかった。」
まったく救いようがない。
救いようがないのは今も同じと『独り言』をつぶやいた。
ハエのような醜い生物にも長所はある。
生命力。
しぶとさ。
「まあ、不思議ではないですが。」
当然といったほうがいい。
「ところで私は今医者と薬剤師の両方の資格を持ってるんです。この前はお父様のために血圧降下剤を開発していました。
そう、注射では一回一回がわずらわしいですから。たとえば、吸引。粉末状でそれを吸うだけで済む薬。
結果は失敗でした。利きすぎるのです。最少量にしても高血圧が、低血圧になってしまうほど。」
でも最終的には二人のために利きましたね。
昏睡状態から、脳死状態へ。
「あっくーはがんばりました。」
そう、これは私が望んだ結果です。
「それだけはわかってあげてください。」


「それでは」
永久に
「さようなら。」
誰にも切り離せない絆で結ばれた
「私たち二人は」
愛を味わいながら
「支えあい」
この上ない笑顔で
「生きていきます。」
そしてチューブというチューブを切り離した。

680 名前:毒にも薬にもなる姉  ◆9BssOn5LsM [sage] 投稿日:2007/07/27(金) 15:33:10 ID:WQfMW10e
灯火 芥

春休み終了まであと一週といったところだ。
四十九日を終えたあと、筑波のマンションに戻ってきた。
時計によるともう五十日らしい。
「あっくー。」
「何、お姉ちゃん。」
「二人っきりになっちゃったね。」
「・・・うん。」
「やっぱしお姉ちゃん、間違ってたのかな。尊厳死なんて。」
「正解がないだけじゃないかな?どっちにしたって。それに・・・」
「先に言っておくよ。頼りたいときはお姉ちゃんを頼って。もうあんなこと…。」
そっか。だからべたつくのか。
一人が怖いから。
明確すぎる理由だ。
「わかった、ありがとう光ねえ。」
背中に寄りかかりながら、時々は甘えようと思った。
それが光ねえの強さになるのなら。

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最終更新:2007年11月05日 01:40
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