あなたがいないなら何もいらない 第5話 飛翔する我欲

4 名前:あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY [sage] 投稿日:2013/03/11(月) 16:07:02.54 ID:VOayPAk0 [2/6]
 それからしばらくして、清次は件のクラークと一緒に汗を掻いていた。
 二人とも下着姿である。
 彼は首筋に口付ける。
「清次さん、キスマークが残ったら……」
 だが、発する最中から、抗う声に力がなくなっていった。
 後ろに回り、乳房を揉みつつ、右首筋へのキスを継続する。
 荒々しくはないが、大胆に、奔放に。
 女は、呆気なく快楽へと堕ちていった。
 やがて、彼女は上気した顔で自らの発情を伝える。
「でらええがや」
(ヤってる時は名古屋弁になるんだな)
「ここも濡れてるぞ」
 周りと違う色になったクロッチを指でなぞる。
「おべんちょもねぶりゃあ」
 そう言われ、彼はショーツの中に手を差し込み、クリトリスを弄りだした。
「ここはもう津波じゃないか」
「それをいうなら、津波じゃ、なくて、洪水、だがや…」
 弄るほどに愛液の量は増し、溢れんばかりになっている。
「1兆5000億の借財があるのに何が減税党だ、我欲を洗い流す必要があるな」
「みゃ、あっ…」
「どんどん演繹していくと、どうなる? 日本がEC入ってたらECから追い出されるよ、ユーロ使えないよ」
 某都知事が乗り移ったかのような言葉責めを交えつつ、その手の動きも早くなりつつある。
「受け止めろっ!」
 清次は一際激しく手を動かし、彼女は達した。



 彼女は四つん這いとなって男を受け入れている。
 対する清次は、当初は後背位で入れていた。
 やがて、挿入したまま、180度回転し、足が地から離れ、腕立て伏せをするようにして下腹を尻に叩き付け出した。
 ヘリコプターとも称されるスタイルだ。
「みゃ、みゃ、みゃあ、あっ!」
 清次は彼女の上で、ホバリングをする時のローターのように、腰を上下させていた。
「はっ、はっ、今度、本物のヘリにも、乗せてやろうか……!」
 その内、彼は逆立ちしたようになり、足は天に向かって真っ直ぐに伸びた状態で女に挿れ、海老反りながら腰を動かしている。
 金の鯱。
 特に難易度の高いとされる体位である。
「はあっはあっはぁっ……!」
 さしもの清次も体力をいささか消耗している。
 とはいえ、このようなアクロバティックな体勢を保っていられるのは、やはり百戦錬磨の彼であればこそである。
「みゃ、みゃ、みゃあ、みゃあ、みゃああっ!」
 結合部の水音が段々と大きくなりはじめてきた。
 ぐちゅっ、ぬぷっ、ぐちょっ……
「清次さん、うち、もう、イくがね!」
 快感を剥き出しにした叫び。
 それを聞いた彼は死力を振り絞って、今まで以上に腰の速度を速める。
「お、れ、もだ、……もう、イくぞっ!」
「みゃあああああああっっっっっ!」
 一際大きな声で女が叫んだのと同じ瞬間、彼の腰と陰茎は、盛大に爆ぜていた。

5 名前:あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY [sage] 投稿日:2013/03/11(月) 16:08:04.51 ID:VOayPAk0 [3/6]
「今日は本当に何から何までありがとうございます」
「ああ」
 一戦を終えた二人は、初めて本当に休憩していた。
 というか、体力がもたなかった。
「おいしい料理をご馳走になりまして、下の口でも……」
「俺の金玉袋は点心と同格扱いかよ」
「ネックレスも買っていただきまして」
「ああ、君にとっては、お安くはないんじゃないかな、君の勤め先のあの中華屋と一緒で」
「ええ、まあ」
「なら一宿一飯の恩義もあろうな」
 清次はそういって写真を渡す。
「あんたが昨日見たのはこの女か?」
「これ……」
「どうした?」
 彼女が息を呑むのが分かった清次は、その意味を訊いてきた。
「これ、山崎雅……」
 それは、この地、名古屋が生み出した、メスカープロダクションが誇るゴリ押……売り出し中のファッションモデルの写真であった。
「え、ええっ、ああ! 違う違う! 間違い間違い!」
「でも、これ、その……」
 そういって彼女が見せたものは、所謂ハメ撮りであった。
「あっ……、
 いや、アイコラアイコラ! 友達からアイコラ写真を押し付けられたんだって!」
 そのように取り繕い、慌ててその写真を回収し、亜由美の(もちろんまともな)写真を押しつけるように渡した。
「これだよ。
 この女。昨日来ていた女はこの女だったか?」
「いえ、違いますね」
 ある意味、予想通りだった。
 誰かが亜由美に成り済まし、本物を高層階から落とした犯人がいる。
 その現実が、ほぼ確実な事実としてそこに出現してきた。
「どんな女だった?」
「若い女性で、そこそこ雰囲気は似ていると思いますが、もう少し吊り目気味で、鼻は高くて、唇は薄くて、面長で、セミロングくらいだったかと」
 ふんふんと一言ごとに、彼は頷いていた。
「全然違うじゃないか」
「私じゃなくて警察に言ってくださいよ。
 それに、この写真と比べれば、という話で、そんなに違ってませんよ」
「そうか、ありがとうな。
 また名古屋に来た時には一緒に楽しもう」
「ええ」

6 名前:あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY [sage] 投稿日:2013/03/11(月) 16:09:30.11 ID:VOayPAk0 [4/6]
 警察署での取り調べを終えた篠崎夫妻と操は、一旦帰京することとした。
 名古屋駅で篠崎夫妻が券売機に並んでいる間、清次が操に話しかける。
「俺はヘリで来たんだが、帰りはお前も便乗しないか?」
「なら、お父さんとお母さんも」
「いや、2人で少し話をしたい」
「わかった」
 操が首肯するのを見て、清次は篠崎夫妻に声をかける。
「ちょっと所用がありまして、帰りは操くんと私の秘書の3人で帰ることになります」
「そうか。じゃあ、ここでお別れだね」
「気を付けて。体は大切にね。食欲がなくてもちゃんと食べなきゃだめよ」
「ありがとうございます、お父様、お母様。お元気で」
 改札を抜け、歩廊に消えていった夫妻を見届けた操、清次と赤城は、ヘリポートに歩き出した。



 ウイロウプラザのシースルーエレベーターに彼らは乗り込んだ。
「ここから、落とされたんだな、亜由美は……」
「あまり考えるな」
「ここから、飛び降りようかな」
「そんなことを言うな。亜由m……篠崎も、悲しむぞ」
「わかっている。ただ、ちょっと耐え切れなくなっただけだ」
 展望の良いこのエレベーターも、今の彼にとっては心の毒でしかなかった。

7 名前:あなたがいないなら何もいらない ◆3AtYOpAcmY [sage] 投稿日:2013/03/11(月) 16:11:25.36 ID:VOayPAk0 [5/6]
「誰か、こいつじゃないか、という奴はいないか」
 離陸とともに、清次は操に訊きはじめた。
「恨みを買うことなんて、絶対にない」
「ないだろうな。お前はあいつだけだからないだろうが、俺だったら元カノなり何なりが嫉妬を抑えきれずに殺して、なんてのも一応は考えられるだろうが、俺のタレ(女)にそこまで業の深い奴がいたかどうか」
「キヨにとっては以前の恋人の一人、ってだけだ。わざわざ殺されるだけの理由はない」
「だよな。あとは、篠崎の親御さんか、俺とお前かな。警察が、名目だけでもリストアップする容疑者のラインナップは」
「馬鹿な。亜由美を殺すくらいなら、俺は生きてはいない」
「俺もソウはそうだろうと思うが、それは主観さ。客観的な証拠にはならない」
「それに、俺とキヨは、姉貴の誕生日パーティーにいた。アリバイはある」
「ああ、その点翼さんには感謝だな。じゃなきゃ、俺まで殺しを疑われる破目になっていた」
「おい、まさか」
 険しい顔になる操に、清次は静かに語りかけた。
「確かに俺は女と揉めることはあるさ。でも、それはタチの悪い奴だ。俺から一文でも多くカネを巻き上げようとするゴールドディガー。
 あいつはいい奴だった。俺を強請るつもりはなかっただろうし、実際ネタを確保したりもしてなかっただろうな」
「じゃあ、誰が……」
「それをこれから暴くんだろう。もっとも、警察はこのまま葬るつもりだろうから、それを荒らすのも容易なことじゃないだろうが」
「そんなこと……、させるか!」
 清次は満足げに大きく頷いた。
「よし、じゃあ忠告、といえるほど大したことでもないが、一つ言っておこう」
「何だ?」
「言おうかどうしようか迷ったんだけどな。
 翼さんには気をつけろ」
「姉貴がか?」
「勘だけどな。でも、偶然にしてはタイミングがよすぎるだろ」
「何のタイミングだ」
 関係のない話を始めるかのように、清次は調子を変えて聞いてきた。
「ソウ、一つの会社を支配するには、その会社の株式の何パー確保すればいいと思う?」
「? 過半数、か?」
「普通はそう考えるよな。でも、任期の途中で役員を解任するには、3分の2が要る」
「それが、どうかしたか」
「ここでようよう本題に繋がるわけだ。
 翼さんは厚重(厚木重工業)の70%の株を保有している。
 そして成人に伴って親権に基づくその株の財産管理権が外れ、議決権を自分の意思で行使できるようになったのは、まさに篠崎が殺されたその日だ」
「そんな、偶然だろ。それを推測だけで」
「でもそんな偶然、そうそう起こるものかね?
 偶然、翼さんがソウに一人で来ることを指示し、偶然、篠崎が一人になった状況で、偶然、翼さんが成人して半川家の資産そのものともいえる企業を掌握した日に、偶然、翼さんとソウのアリバイのある状況で、篠崎が殺されたわけだ」
 そこまで言われた操は、押し黙る。
「偶然、という都合のいい言葉は往々にして悪事の隠れ蓑に使われる。
 その言葉だけで万事を片付けると、思考力は少なくて済むが、解決する事件も解決しなくなる」
「そう、だな……」
「それと、昨晩、ソウが戻ってから、翼さんが電話をかけてきた」
「えっ、固定電話にか?」
「お前はともかく、俺が名古屋にいて、八雲製薬の名古屋支社にいたことを知っていたということだ。
 携帯にかけて繋がらなかったから、そっちのほうにかけたんだろうよ」
「本当か?」
 そう言って、操は電源を切ったままになっていたMEDIAS N-04Eを立ち上げた。
「うわ……」
 それぞれ100件以上の着信とメールがあった。
「ほう、これはすごいな」
 そのまま、彼は再び電源を切った。
「俺らは翼さんに監視されていると思っていいだろう。
 そこまでする、となれば、疑われても仕方あるまい?」
「ないと思いたいが」
「俺もそう思う」
 儀礼的な返事の後、思うところを述べ始める。
「この件の帰趨はこれから追っていけばいい話だが、今や、厚木重工業は、翼さんが支配している。
 それだけは変えようのない事実だ。
 まあ、人の忠告は素直に受け取っておくもんだぜ。
 こっちはお前を貶めて得することなんか何もないんだから」
 ヘリの窓には、東京の街並みが映りだしていた。

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最終更新:2013年10月16日 05:34
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