鬼子母神5

13 名前:鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/03/12(火) 09:13:25.54 ID:NUBDoDxg [2/8]
―――昼休み

「ここの水族館はすごいキレイなんだよ~」
「へー…」
「魚の種類も豊富で―――」

昨日の夜からアサネの様子がおかしい…。
そのことにコン太は気付いていた。
しかし何処がおかしいのかというと…、それはコン太にもわからなかった。
恐らく周りの人にもわからないだろう、というような些細な変化だ。
今朝も起きた時、挨拶をしてくれたのだが…。

「(………何か今までより…、わからんなー)」
「コン君、聞いてるの?!」
「え、…あぁゴメン」
「何か悩み事でもあるの?」
「うぅん、大丈夫だよ」
「……ならいいけど。それでコン君は何処に行きたい?」
「そうだねー…」

二人は日曜のデートプランを立てていた。

その様子を見る人影に気付くこともなく―――



「コン君、今日は一緒に帰れそう?」
「ん、うん帰れ―――」
「コン太君、ちょっと用があるから部室まで来て」
「えっ?!!」
「あっ?!」

キオナがコン太の首根っこを掴み、さらっていった。

「ど、どうしたの、大久那さん」
「話があるのよ」
「え?」
「早狩さんのことで…」

14 名前:鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/03/12(火) 09:14:29.16 ID:NUBDoDxg [3/8]
アサネは今日も一人で家に帰ってきていた。

「あらアサネちゃん。お帰りなさい」
「ただいま、叔母さん」
「今日もコン太君と一緒じゃないのね。喧嘩でもした?」
「……やだなぁ、叔母さん。たまたまですよ」

そう、たまたま―――
アサネは自分自身に言い聞かせていた。

部屋に戻り、いつもの現実逃避に入る…。
アサネは本来、自慰をする回数は少なかった。
一か月に一回あるかないか、という頻度だったのだが―――。
昨日から今日の朝方に掛けて、五回以上はしていた…。
しかし、いくらしても心の寂しさは埋められなかった……。



「コン太君、早狩さんには注意したほうがいいわよ」
「え?!いきなり何だよ…」
「ちょっと気になることがあってね…」

囲碁将棋部の部室内にて話す二人。
キオナのいつもと違う雰囲気にコン太は只ならぬものを感じた。

「私、さっきの掃除時間で体育館裏のゴミ置き場にゴミ捨てに行ったんだけど…」
「うん」
「早狩さんとアサネが何か口論しているのを見たのよ」
「えぇ?!」
「何を喋ってるのかは分からなかったけど……」
「そんな…」
「ねぇ、アサネに何処かおかしい様子はなかった?」
「―――そういえば、昨日帰ってきたときから何か変な…」
「ホント?!」
「でも、何が変ってのがわからなかったから…気のせいかも」
「二人の間に何かあったのだけは確かね」
「もしかして…喧嘩?」
「そういうわけだから…、早狩さんにあまり気を許さないほうがいいよ」
「そ、そうだね…」
「あと、このことも他言無用にしたほうがいいわ」
「え、それは二人に確かめたほうがいいんじゃ…」
「でも、アサネは何も言ってこなかったんでしょ?何か知られたくないことでもあるのかも…」
「んー…」
「他人が無闇に突っ込んでも、余計こじれるだけかもよ。新しい情報が入ったらまた知らせるから」
「あ、うん。わかったよ。あ!大久那さん!!」
「ん?」
「…アサ姉のこと、支えてあげて。多分男には言えないことも色々あるだろうから…」
「ふふっ、わかったわ」

―――コン太は気付いていなかった…。
ユキの掃除区域が教室であることを。
その時、彼女が一度も教室から出ていなかったことを…。

15 名前:鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/03/12(火) 09:17:12.60 ID:NUBDoDxg [4/8]
―――日曜日の朝

「おはよう!コン君!!」
「あぁ、おはよう」

コン太とユキは町の駅前に集合していた。

「一回乗り換えるけど、大きな街には30分もあれば行けるわ」
「へぇ…、意外に交通の便はいいんだね」
「私、水族館なんて小学校以来だよ!」

ユキは高揚している様子だ。
対照的に、コン太は若干テンションが低い。
キオナに言われたことがずっと頭に引っ掛かってるからだ。

「(アサ姉とユキちゃんは転校初日以来会話していないはずだが…)」

小学生のように楽しげなユキを見ていると、本当かどうか分からなくなってきた。

「コン君はどう?」
「中学のときに行ったよ。生物の見学という名目でね」
「うらやましいな~」
「実際は遠足だったからね」

………今は考えるのは止そう。
ユキがどんな人間か、これから見極めればいい。
コン太はそう決心した。

16 名前:鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/03/12(火) 09:18:01.21 ID:NUBDoDxg [5/8]
満留跋水族館。
ここは、全国有数の水族館で半日は見ていて飽きない巨大な施設である。

「わっ!コン君、イルカだよ!!」
「キレイだねー」
「可愛い!!」
「ほら、むこうにはアザラシがいるよ」
「きゃあぁぁ~!!」
「ははは…」

ユキは女子特有の盛り上がりを見せた。
一方、初めてのデートとなったコン太にとっては、ユキの豹変ぶりに少し引いていたりも…。

「むこうでイルカショーもやってるって!!」
「えぇーと…」

パンフレットを見るコン太。

「時間はちょっと空くね。さきにお昼にでもしようか」
「そうしましょ♪」

二人でラウンジの椅子に腰掛ける。
ユキはこの日も弁当を作ってきていた。
一方コン太は…。

「コン君は今日は…」
「今日のことはアサ姉には黙ってたんだ。毎回作ってもらっちゃ悪いしね」
「そうなんだ、…たまにはお姉さんも楽をしなきゃね」
「お!美味しそうだね~」
「しそう、じゃなくて実際美味しいの!」

コン太は思う。
このまま、ユキと恋人の関係になれば、アサネの負担を減らせるのではないか、と。

ユキの弁当を堪能し、イルカショーを満喫した後、残りの展示スペースを歩いた。

17 名前:鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/03/12(火) 09:19:12.23 ID:NUBDoDxg [6/8]
「…うわぁ、グロい…」
「深海魚だね…」

二人は明かりが少なく、薄暗い深海魚コーナーにいた。
時間帯もあり、この辺りは人気が少なかった…。

「………コン君」

不意にユキが甘い声で囁いてきた―――

『(まぁ向こうにその気はあるよ、絶対)』

キオナの言葉が頭を駆け巡る。

ユキが身体を寄せてきた…。
上目遣いで顔を上げ、目をつむる―――

コン太は、半分混乱していた。
…同時にこうなる予感もしていた。
が、それはもっと関係が進んでからという認識だったため完全に不意打ちだったのだ。

―――一瞬迷った後、ユキの肩に手をのせる。
ビクッとユキの身体が震えた。

そして…

「―――!―――!!―――!!!」

すぐ近くで声が聞こえた。
咄嗟に身体を離す二人。
顔はお互い真っ赤だった…。

18 名前:鬼子母神5 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/03/12(火) 09:21:03.79 ID:NUBDoDxg [7/8]
二人が水族館を出た時、既に夕方となっていた。
帰りの電車の中、他愛のない話をする二人だったが、さっきの件がありどこかぎこちない雰囲気ではあった。

駅に降り立ち、後はユキを送るだけのコン太だったが、思わぬ人物に遭遇した。

「コン?」
「ア、アサ姉?!」

買い物帰りらしいアサネと出会ってしまったのだ。
コン太は心中焦った。
今日のデートは秘密にしていたわけだから…、アサネがどんな反応するか心配だった。
しかし―――

「お帰り、まだ買い物が残ってるから荷物持ちお願いできる?」
「え?!…あぁ、いいけど」

穏やかに話しかけてきたアサネに拍子抜けしたコン太であった。
自分の考え過ぎであったのか―――と。

「あ、じゃあユキちゃん。悪いけどここで…」
「うん、今日は楽しかったよ、ありがとう」
「こっちこそ」
「…“また”コン君と行きたいな」
「う、うん。そうだね…」
「うふふ、じゃあまた明日!!」

そういって帰途につくユキ。
“また”という言葉に顔が赤くなるコン太。
つまりユキは…、自分のことを…。

ギュっ!!

咄嗟に腕を抱きかかえられたコン太。

「アサ姉?!」
「ん、どうしたの。コン?行きましょ」
「い、いやその…当たってる…」

急なボディタッチに焦るコン太であった…。



「ホントに楽しかったよ。…もう二度と離さないから。―――お兄ちゃん」

独り呟くユキ…。
当たり前だがそれを聞く者は誰もいなかった―――

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最終更新:2013年10月16日 08:05
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