パンドーラー2

160 名前:パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/07/29(月) 10:06:59.96 ID:oOZmKLEu [2/8]
島にはわずかな畑が存在していた。
出荷できるような量の野菜は採れないため、自給自足が主な目的である。

「トシヤ!!見てこの大きなトマト!!」
「う、うん…」
「あんたまだ食べれないの?情けな~」

畑作業を手伝う二人。
風呂場で号泣してから翌日、マキはいつもの調子に戻っていた。
トシヤはそれに安堵しつつも、彼女が無理をしていることもわかっていた。

「マキ、トシヤ。少し休憩にしましょうか」
「「はーい」」
「お昼はそうめんでいい?」
「うん、いいy「えー、またー?」
「あら、マキはお昼いらないのね?じゃあ私とトシヤで…」
「う、嘘だって!お母さん!そうめん食べさせて!!」
「マキ姉ちゃんワガママだよ」
「う、うるさい!!」

このとき、マキは昼食が食べられなくなるから焦っている、とトシヤは考えていた。
しかし事実はトシヤと母親が二人きり、という状況に正体のわからない不安、
苛立ちをマキが感じていたからである。

まだ幼いながら、実の弟に対しての執着心を芽生えさせつつあった。

「お昼食べたら、遊んできていいわよ」
「え、ほんと?!」
「でも心配だから3時には一度帰ってきてね。かき氷作ってあげるから」
「「やったー!!」」

161 名前:パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/07/29(月) 10:08:09.20 ID:oOZmKLEu [3/8]
島は小さな山と集落からなっていた。
かつての島の子供達は海と山の両方を遊び、自然から知恵や感性を学んでいた。
山の頂上には神社があり、そこからの景色もまた絶景と呼ぶにふさわしいものであった。
視界の端から端まで水平線が広がり、わずかに曲線を描いていて地球が丸いことを実感させられるものだった。

「うーみーはーひろいーな、おーきーなー」
「その歌聞いたことある。でも古くない?」
「あんたいちいち茶々をいれてくるわね…」
「ふー、あついー」

神社の境内に寝転がるトシヤ。

「わぁ…」

視線の先にはどこまでも青い空に白い入道雲が浮かんでいた。
トシヤはこの景色が大好きだった。
都会でも見れるものだが、この島に来ると一層神秘的なものに見えるからだ。

「―――うん?そこにいるのは誰だ?」

突然声をかけられて、二人はびっくりした。

「あ、村長さん…」
「おお、八原さんとこの…。そっちは…」
「あ、お久しぶりです。トシヤです」
「大きくなったなぁ~。今何歳だ?」
「あ、はい。10歳です」

島に唯一ある集落は村として治められていた。
この村長もかなりの高齢である。
妻には先に立たれ、子供は数人いたが、皆、本土に出稼ぎに行き、彼独りが残るのみであった。

「それじゃ、儂はそろそろ…。お母さんによろしくの」

ごく短い世間話を終えた後、彼は山を下りて行った。

162 名前:パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/07/29(月) 10:09:06.00 ID:oOZmKLEu [4/8]
「冷た~い」
「うあ…頭痛い…」

帰宅した二人を待っていたのは当然かき氷だった。
マキは意外にもみぞれを掛けていた。通である。
トシヤはメロンシロップ、子供達の間では定番だ。

「落ち着いて食べなさいな」
「トシヤのドジ!!」
「あ~…」
「食べ終わったら海にでも行ってきたら?」
「うーん、昨日行ったしなー」
「今なら潮も引き気味だから浅い場所を見れるわよ」
「ほんと?!よし、トシヤ、海行くよ!!」
「え~…」
「ほら!!」

マキは二人分の水着を持つと、唸るトシヤを連れてささっと出掛けて行った。



「昨日は浜辺だけだったから、今日は泳ぐわよ」
「うん、一年ぶりだな~」

誰もいないので二人して水着に着替える。
お互いに裸を気にする年齢ではなかった。

「あっ!!ゴーグル忘れた!!」
「何やってんのよ!そんなのいらないでしょ」
「でも目に染みるしな~…」

マキは流石に島の子。
ゴーグル要らずで素潜りも出来る程だった。
反対に都会育ちのトシヤにはゴーグルは必需品だったのである。

「やっぱり取りに行ってくるよ!マキ姉ちゃんは先に泳いでて!!」
「あ、…待ってよ!私も行く!!」

163 名前:パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/07/29(月) 10:10:18.43 ID:oOZmKLEu [5/8]
トシヤは野道を駆け上がり、家に戻ってきた。
縁側から上がりこもうとしたときに、話声が聞こえた。

―――?!

不意に庭の茂みに隠れこみ、様子を窺う。
…別に知らない家ではないのだから、隠れる必要もないのだが。

後から追いついてきたマキもそれに倣い、トシヤの横に居座る。

「…どうしたの?」
「…誰かいるみたい」
「…お母さんでしょ」
「…いや、…もう一人」
「…あれは…村長さん?」

マキの母親、次いで村長が居間に入ってくる。

「なかなか元気でやっておるようですね」
「ええ、二人共すくすく育ってますよ…」

最初は世間話だった。
村長が家々を訪ね歩き回る、そんなのどかな風景。

しかし、次第に様子がおかしくなってきた。

「ふふっ…あんたも好き者だなぁ」
「…それは」

二人は異常なほど近い距離に近づき、モゾモゾし始めた。

トシヤ達からは、それがよく見えなかった。

164 名前:パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/07/29(月) 10:11:11.66 ID:oOZmKLEu [6/8]
「…何やってるんだろ?」
「…わかんないけど…」

次第に身体に熱を帯びるのを感じたマキ。
そう、これは知っている。
知識でのみだが、あれは…。

「ああっ!!せめて寝室に…」
「へへっ、子供達なら当分帰ってこないだろうよ。でもここのほうがスリルがあるだろう?」

マキは茫然としながらその光景を見ていた。
視線の先にいる二人がやっているのは子供を作る行為だった。
何故彼らがそんなことをやっているのか、マキにはわからなかった…。
だが、さっきよりも熱を帯び、自身が興奮しているのは認識していた。
隣にいるトシヤはどうだろうか?
マキは視線をずらしてみた。

トシヤは興味半分、恐ろしさ半分という感じだった。

「…行こう、見つかるとまずいよ」
「…うん」

マキはトシヤを連れて家を離れ海岸まで戻ってきた。

「………」
「………」

二人共無言だった。
喧嘩したわけでもないのに、嫌な空気が二人を取り囲んでいた。

「…トシヤ、大丈夫?」

たまらず、マキは声を掛けた。

「…うん、大丈夫だよ」

言葉とは裏腹にトシヤは心ここにあらずだった。
さっきの二人の行為に混乱しているのだろう…。
マキはそう察して、トシヤの横に座り日が暮れるまでずっと傍にいた。

165 名前:パンドーラー2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/07/29(月) 10:12:53.96 ID:oOZmKLEu [7/8]
それから、トシヤが戻るまでの日々はあっという間に過ぎた。
遊びつくすつもりだったが、トシヤはあの日以降、急によそよそしくなった。
畑仕事では無言、食事中も必要以上に喋らなかった…。
風呂も別々に入りたいと言い、海で泳ぐこともしなかった。

マキはそれを寂しく思いつつも、トシヤに従った。
しかし、一方ではトシヤに対する思いが強くなっていた。
トシヤを見ると、胸が苦しくなった。
こんなことは今まで一度も無かったのに…。

別れの際、マキはいつも通り泣いた。
トシヤも寂しい表情をしていた。

「また来年…」

そう言い残し、船に乗り込み島を後にするトシヤ。

マキは願った。
またトシヤが来てくれますように…。



翌年、トシヤは来なかった―――

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最終更新:2015年03月22日 01:49
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