理緒の檻(その16)

189 理緒の檻 ◆/waMjRzWCc sage 2007/11/07(水) 23:55:51 ID:J1bAkK0E
「お世話になりました」
「冬華ちゃん、また来てね?」
「はい、またいつか」
「またな」
ドアを閉じて、私は走り出した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
早く、あの家…いや、あの人から離れたい。
「はぁっ…はぁっ…」
早く、もっと遠くに離れなきゃ。
あの人は、怖い。
やっぱり、最初に感じた印象は、間違って無かった。
おそらく、もう私はあの人には逆らえない。
だから、もう会わなければいい。
修お兄ちゃんとは、公園で会えばいい。
あの人には、修お兄ちゃんしか無いのだろう。
私の事を可愛いと言ったのはきっと、言葉の上でだけだ。
あの人は、間違いなく、機会さえ有れば躊躇なく私を殺しても何も思わない。
「…ぐすっ…うっ…」
助かる為に、私は初めてを犠牲にした。
それを考えていたら、涙が溢れて止まらなかった。
「ひっく…ひっく…修お兄ちゃん、修おにぃちゃぁん…」
どうして、助けてくれなかったの?
どうして、あの人と一緒に居るの?
どうして、私のモノになってくれないの?
「修お兄ちゃん…待ってて?冬華が、修お兄ちゃんを奪ってみせるから。その後でゆっくりと助けてくれなかった恨みを晴らしてあげるから…」


190 理緒の檻 ◆/waMjRzWCc sage 2007/11/07(水) 23:58:56 ID:J1bAkK0E
「…」
「理緒姉、黙ってどうしたの?」
「少し、考えごと」
家を出た時の羽居冬華の目が気にかかる。
あの子の目、隠していたけど間違いなく怯えた、恐怖を隠した目だった。
だとすれば、あの子は墜ちていない。
昨日のは演技?
なかなか、やるじゃない。
なら、きっと私の嘘も見抜いているのだろう。
私が愛するのは、修くんだけ。
他には何もいらない。
私の世界には、私と修くんだけで良い。
いや、修くんが私の事だけを思ってくれるなら、私自身すらいらない。
それは、永遠に修くんを私の物にする事と同義。
まさに、私の理想の檻だ。
他の人はどう動くかしら。
羽居冬華は公園で会うだろう。
氷室澪は仕掛けてくるなら学校ね。
羽居春華は…どう動く?
あの女だけは、私にすら先が見えない。
私は、あの女を殺すだろう。
それがいつになるかまでは分からないけど。
予感、いや、これは確信。
私は間違いなく、あの女を殺す。
ならば、その時の為に万全を期するだけ。
一番なのは、修くんを完全に私の物にすること。
最悪は、私が負けること。
負けるつもりは無くても、負ける事も視野に入れておけば、隙が無くなる。


191 理緒の檻 ◆/waMjRzWCc sage 2007/11/07(水) 23:59:32 ID:J1bAkK0E
「理緒姉」
「どうしたの?修くん」
「冬華ちゃんに、何かしたのか?」
「何もしてないわ。一緒に寝ただけよ」
「何もしてないなら良いんだけど…羽居春華が理緒姉と会いたいんだってさ」
「羽居…春華が?」
「そうだよ。どうするんだ?断るのか?」
「いえ、会うわ」
「…明日の2時、近くの喫茶店で会いたいらしい」
「分かった」
まさかあっちから会いたいとはね。
私としては、会わずに済むならそれが一番だったんだけど。


―翌日―
「じゃあ、行ってくるわ」
「あぁ……理緒姉っ!」
「いきなり大きな声出してどうしたの?」
「ちゃんと、帰ってこいよ」
「お姉ちゃんが修くんを置いてどこかへ行くはず無いでしょ?」
「分かってる、分かってるけど…心配になったんだ」
「ありがとう。修くんに心配して貰えるならこれほど嬉しい事は無いわ」


「こんにちは」
「待たせちゃったかしら?」
「そうですね。5分位です」
「羽居春華さんよね?」
「はい。織部理緒さん」
「名前、覚えててくれたの?」
「記憶力は良い方ですから」
「ふふっ、あなた、面白い人ね」
「貴女は、悪い人ですね」
「あら、いきなりそんな言い方するの?」


192 理緒の檻 ◆/waMjRzWCc sage 2007/11/08(木) 00:00:09 ID:J1bAkK0E
「冬華に何をしたんですか?」
「なんのこと?」
「いえ、どうも帰って来てから元気が無いので」
ふ~ん…ということはやはり羽居冬華は墜ちていないのね。
「私はあの子を可愛がってあげただけよ?」
「そうですか」
「今度は私が質問していい?」
「なんでしょうか?」
「あなたは修くんの事をどう思ってるのかしら?」
「ただの同級生のクラスメイト」
「それは修くんのあなたに対する評価でしょう?あなた自身はどう思ってるかを聞いてるの?」
「勉強友達です」
「へぇ…羽居冬華は修くんの事を好きみたいよ?」
「それが何か?」
「あなたはそれでいいの?既に羽居冬華は修くんと体を合わせているというのに」
「何故そんな事が分かるのですか?」
「そうね…私、鼻は良い方だから、匂いで分かっちゃうのよ」
「便利な鼻ですね」
「あなたの匂いは間違いなく修くんの事を好きになっているわ」
「そんな匂いは有りません」
「いいえ、あなたからは私と同じ匂いがするもの」
「弟を愛していると?」
「そうよ。私は修くんを誰より愛してるもの」
「気持ち悪い。家族を異性として愛するなんて」
「なんとでも言えばいい。私の気持ちは変わらない」


193 理緒の檻 ◆/waMjRzWCc sage 2007/11/08(木) 00:02:12 ID:4upZkcYU
「その愛の為にはなんでもするんですか?」
「そうね」
「修くんが貴女を嫌っても?」
「そうね」
「人を殺す事も辞さないのですか?」
「そうね」
「わかりました。もう貴女と話す事は無いでしょう」
「いいえ、近いうちに必ずまた会うわ。必ずね」
「失礼します」
羽居春華、間違いなく私を嫌ってるわね。
別に修くんの評価以外気にしないけど。
質問の内容から考えて、間違いなくあの女も人を殺せる方の人間よね。
そうじゃなきゃ会うのが2回目の人に対してあの質問はできないわ。
ただ、意外なのは私の事を気持ち悪いと言ったこと。
あの女なら理解とまではいかなくても、負の感情を持つ事は無いだろうと予想していたのに。
あの女だって私の返答は予想していただろう。
「とりあえず第1ラウンド終了ってとこね」

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最終更新:2007年11月13日 17:03
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