221
淫獣の群れ(その17) sage 2007/11/09(金) 04:29:40 ID:LFOwFA48
「あっ、そっかぁ、こういう事だったんだぁ! ……さっすがお兄ちゃま」
「まあね。分かり始めれば簡単だろう、中一の英語なんて」
「ふ~~ん、じゃあ、この『びーどーし』っていうのを、ただ引っくり返せば、それだけで疑問になるんだね。でも、どうしてそうなるの?」
「それは……まあ……そういうもんなんだよ」
「あ~~~~、お兄ちゃまも分からないんだぁ」
「ああ、もう! 脱線はいいから次の問3にいくぞ、詩穂」
「――そこまでよ、お兄様」
声の主の桜は、いつの間にか喜十郎の背後に立っていた。
「――お兄様、今からちょっと私たちに付き合ってもらうわよ」
笑いを含んだ、それでいて硬い眼光を発する“妹”に、喜十郎の背筋は瞬時に伸びた。
この桜という少女は、迷いを捨てると、こういう真っ直ぐな目をする。その双眸を、彼はいつもながら、とても美しいと思った。そして、それと同時に覚悟を決める。
(五日か……我ながらよく逃げたよな)
そんな彼の心中を読み取ったかのように桜が言う。
「お兄様、長い休暇はそろそろ終わりよ。いい加減、新生活の第一歩を踏み出しましょう」
「しんせいかつ?」
何も知らない詩穂が首をかしげる。
「あの……桜ちゃん、話が読めないんだけど……お兄ちゃまをどこに連れて行くの?」
「――ああ、そういえば詩穂ちゃんは、まだ知らないんだっけ?」
「出来れば、お兄ちゃまと詩穂が、宿題終わるまで待って欲しいんだけどなぁ」
「どちらにしろ、詩穂ちゃんにも一緒に来てもらうから、同じことよ」
「え、でも、だから、宿題が……」
桜は笑った。
“兄”に見せた硬い意思を内包した笑みではない。
太陽のような、いつもの自然で素直な笑顔。
思わず、詩穂もそんな桜に釣り込まれて、笑顔を見せる。
「じゃあ、詩穂にも教えてあげる。私と一緒に来ないと大損だっていう理由をね」
と言って、自身の赤い携帯電話を取り出す。
「ちょっ、桜っ、待てっ!?」
『――もっ、もうっ……もういいだろっ!! ぁぁぁぁぁ……もう、何度も誓ったじゃないかぁぁ……!!』
『ダメよお兄様、まだ足らないわ。今度はこの画面を見ながら誓うのよ』
222 淫獣の群れ(その17) sage 2007/11/09(金) 04:32:06 ID:LFOwFA48
「やめろっ! やめてくれぇ!」
「お兄様静かにしてっ! 聞こえないじゃないのっ!」
そう言いながら、桜は喜十郎を突き飛ばし、携帯のムービーを再生させながら詩穂の傍らに寄る。
『ああああ……おれは……おれは……“どれい”になりますぅ! おまえらのいうことを……ああっ、ひあああっ!! なんでもききますぅ!!』
その画面には、どこかの白いタイル張りの部屋で、ブザマに悶え泣きながら、床に土下座する彼の姿が映っていた。
――いや、単に土下座をしているだけではない。
液晶の中の“兄”は、ズボンと下着を奪われ、白い尻をむき出して、直接タイル張りの床に正座を強制され、マラリア患者のように全身を震わせている。彼の背後に映る春菜と真理が、喜十郎の肛門に手酷い悪戯をしているのであろう。
「桜ちゃん、これって……!?」
「五日前、あなたとお兄様がデートして、可苗に邪魔された夜、お兄様は誓ったのよ」
「何を?」
「可苗なんかに誘われて、ホイホイついていった罰として、私たち全員の“奴隷”になるって。……泣きながら駅の女子トイレでひざまずいてね」
うっとりしながらも、桜は詩穂にだけでなく、明らかに喜十郎にも聞こえる声で言う。
彼の顔色は、羞恥のあまり紅潮どころか蒼白になっていた。
『――もっ、もうっ、誓ったじゃないかぁぁ! これ以上なにを――ひぃぃっ!! なにを……いえば……ぁぁぁぁああああっっ!!』
ムービーの中で、真理が喜十郎のシャツの内側に、手を突っ込んだようだ。おそらく乳首をいじっているのだろう。
そこで画面は切れた。録画分の再生は終了したということか。
「うわあああああ!!」
詩穂たちが、ふと声のほうを見ると、――畳にうずくまった“兄”が、液晶の中の彼のようにガタガタ震えている。
「もう、見ないで……見せないでくれ……非道いよ……こんなの非道いよ桜……!」
「お兄ちゃま……」
羞恥の余り、我を忘れて震え続ける“兄”。
しかし、詩穂は何故か彼に対する同情よりも、自分のいない場所で、姉たちにその身体を自由にさせた“兄”に対する嫉妬が、むらむらと湧きあがるのを覚えた。
「安心して、お兄ちゃま。ムービーは終わっちゃったし」
だが、その言葉が終わらぬうちに、とことこと自分に近付く詩穂の影に、喜十郎は再び戦慄を覚えた。
「でも、お兄ちゃま、今度は――」
詩穂はそのまま“兄”の耳元で、囁いた。
「ムービーの中みたいに、詩穂の……ううん、深雪ちゃんや比奈ちゃんの前でも誓わなきゃダメだよぉ」
「っ!?」
愕然とした表情で喜十郎が、“妹”を振り仰ぐ。
「でないと……不公平だよぉ」
223 淫獣の群れ(その17) sage 2007/11/09(金) 04:33:14 ID:LFOwFA48
脱衣場で身体を拭き、髪を乾かす。
下着を身に着け、パジャマを着る。
その間、真理、凛子、麻緒の三人は無言であった。
――というより、雰囲気的に雑談を許さない空気が漂っていた、といった方が正確だろう。
麻緒としても、居間で待っているというイベントに、いまだ無数の疑問がある。
ちらりと、真理を見る。
この義姉は、これから起こるであろう宴に思いを馳せているのか、その目には潤んだ光さえ見受けられる。そして、その淫蕩な光が、麻緒に胸のうちの言葉を遮らせる。
凛子には悪いが、そんな“女”の匂いをぷんぷんさせている真理が、とても姉と同い年には思えない。真理独自の落ち着いた物腰とあいまって、確たる年齢を推定させない“大人の女”が、そこにいた。
(真理ちゃんって……かっこいいなあ)
麻緒とて、自分に劣等感の一つは持っている。
“隠し子”“私生児”という家庭環境的なものだけではなく、当然、思春期の少女の端くれとして、自分の肉体的な事に関しても、言い尽くせぬ不安や不満がある。
少女というより、幼い少年のような自分の容貌。
ほっそりとしたその身体には、まだ女性的なふくらみは乏しく、スマートというよりはむしろ、痩せぎすと呼ぶに相応しい肉体。
何より、同世代の女子なら、そろそろ発散し始める“女臭さ”のオーラが、自分にはまるで出せないという――女性としては結構、根本的な悩みがあった。
しかし、真理を見つめているうちに彼女は思い出す。
喜十郎を見上げる“妹”たち全員の眼差しが――比奈や詩穂といった、いかにも幼い義妹たちでさえ――時折、真理と同じ光を帯びているということを。
そのとき、不意に真理がこちらを振り向いた。
224 淫獣の群れ(その17) sage 2007/11/09(金) 04:36:56 ID:LFOwFA48
「……どうしました、麻緒ちゃん」
「えっ?」
「私に、何か訊きたい事でもあるのですか?」
「えっ、いや、――ボクは、その、別に……」
「そうですか。なら、いいんです」
静かに笑って、再び背を向けようとする真理に、
「あっ、あのっ、真理ちゃん」
今度は反射的に麻緒が声を掛ける。――が、真理の物静かな態度に、何も言えなくなってしまう。
「はい」
「なんで、その……ボクが……?」
「そんな目でじっと見られたら、私じゃなくても気になりますよ」
そう言いながら真理は静かに笑う。
そのあどけない笑いが、麻緒の背を押した。
「あっ、あのさっ、ボクもなれるかなっ!? 真理ちゃんみたいにオンナノコらしくなれるかなっ!?」
「麻緒……」
凛子が、驚きの表情をする。
麻緒が、女っぽくない自分にコンプレックスを抱いているのは知っていたが、何故こんなときに、こんな情況で、こんな相手に、こんな質問をするのだろう。
そもそも、この妹は、自分の劣等感を、そう気安く他人にさらけ出すような性格はしていない――。
だが、そんな凛子の“姉”としての疑問など、どこ吹く風といった態で、真理は微笑む。
「――ええ。麻緒ちゃんなら大丈夫ですわ」
「ほんとっ!? ホントにそう思うっ!?」
「麻緒ちゃん……あなたは兄上様が嫌い?」
いきなり不躾な質問が、眼前の少女から飛び出し、麻緒は面食らう。
――だが、
「どうなの?」
麻緒の迷いは一瞬だった。
「好きだよ」
225 淫獣の群れ(その17) sage 2007/11/09(金) 04:37:59 ID:LFOwFA48
迷いを吹っ切った途端、麻緒の中にあふれ出たのは、抑え切れないほどの喜十郎への慕情だった。
「ボクは、あにぃが好き、大好き。――まだ会って五日しか経ってないけど」
「んふふ……ドラマでもよく言うでしょう? 愛に時間は関係ないって。でも――」
そこまで言って真理の口元から笑みは消えた。
「それは……どんなにブザマな兄上様を見ても、言える台詞?」
麻緒には分かった。真理にとって、今のこの質問はとても重要なものなのだと。
だが、重要であろうがなかろうが、もはや今の麻緒に、答えは一つしかなかった。
「言えるよ。あにぃが何をしようがされようが、ボクにとって、あにぃはあにぃだもん」
「……そう」
真理の瞳に、再び微笑みがこぼれる。
「なら、大丈夫よ」
「真理ちゃん……」
「愛しい人を弄び、嬲り尽くして、その果てに在るものを理解するの。――そうすれば、あなたは誰よりも立派なレディになれるわ」
そう言って、真理はリビングの六畳間へ続く引き戸を、からりと開けた。
226 淫獣の群れ(その17) sage 2007/11/09(金) 04:39:27 ID:LFOwFA48
「ちょっとっ!! 遅いじゃない、真理っ!!」
居間に入った三人にイキナリ浴びせられたのは、桜の苛立った声だった。
――が、少なくとも、凛子と麻緒の二人はそんな声など全く耳に入らなかった。
眼前のとんでもない眺めに眼を奪われて、思考停止状態になってしまったのだ。
居間に置いてあるテーブル。
普段から大勢の“兄妹”が、食卓として利用するため、卓上面積はかなり広い。
また、喜十郎の実家にあるそれと同じく、天板に専用の布団を仕込み、ヒーターを取り付ければ、冬季にはコタツに流用できるため、脚は低く、短い。
彼女たちの目に飛び込んできたのは、裸に剥かれ、そこにX字状に磔(はりつけ)にされた“兄”の姿だった。
裸に剥かれと表現したが、実のところ本当に彼が全裸なのかどうかは、一瞥しただけでは分からない。
何故なら、彼の下腹部には、真っ白いクリームケーキがそびえ立ち、――いや、それだけではない。よく見れば彼の全身は、くまなくカスタードクリームやホワイトクリームで装飾され、あたかも“兄”の身体が一つの巨大なデザートの様相を呈していた。
喜十郎本人はといえば……すでに意識を奪われているのか、瞳を閉じたまま身じろぎ一つしない。
「どうです、お二人とも。兄君さまは美味しそうでしょう?」
春菜の声を聞いて初めて、二人は、テーブルの周りに六人の……いや、真理以外の五人の姉妹たちが居並んでいることに気付いた。
「むふふふ……、姫の自信作ですの。名付けて『深雪特製・にいさまのベルギー風クリームデコレーション女体盛り仕上げ』ですの!」
(そのまんまじゃん……)
(ってか、どこらへんがベルギー風?)
深雪が、ツッコミどころ満載の料理名(?)を、誇らしげに読み上げる。
「さあ、これが今宵のメインディッシュよ。みんなでお兄様を味わって、姉妹の絆を、より固くするの」
「「「「「は~~い!!」」」」」
桜がそう、高らかに宣言すると、真理を含んだ妹たちもそれに応え、……そして、応えると同時に、全員がいそいそと服を脱ぎ始めた。
227 淫獣の群れ(その17) sage 2007/11/09(金) 04:40:48 ID:LFOwFA48
「――ちょっ、ちょっとっ!! イキナリなのっ!?」
凛子が反射的に声を立てるが、
「だって、脱がないとヒナたちのおようふく、汚れちゃうもん」
当然のごとく答える小学生に、彼女は何も言い返すことも出来ない。
「りんねぇ」
「麻緒……!!」
実妹を見る凛子の目が、まじまじと見開かれる。
いつの間にかパジャマのボタンを外し始めた麻緒は、頬を赤く染めながら姉を見上げる。
「もういいじゃない、りんねぇ。いい加減に見栄を捨てないと、いつまでたっても楽しめないよ?」
「……でも……」
「じゃあ麻緒ちゃん、こっちおいでよ。詩穂と一緒に、お兄ちゃまを食べようよぉ」
詩穂にそう言われて誘われると、麻緒も明るく頷いて彼女の傍らに行ってしまった。
「いいこと言うじゃない、麻緒ちゃん」
そう言いながら麻緒を見送る桜は、腰に両手を当てて、凛子に近付くと、
「でも、凛子ちゃん、別に無理しなくていいのよ。あなたが戸惑うのも、年頃のオンナノコとしては当たり前なんだから。だから、あくまでも参加受付は、あなたの気が乗ってからでいいわ」
「――でも、覚えておいて下さいね、凛子ちゃん」
桜の言葉を引き継いだのは、二人の隣ですでに服を脱ぎ終えた真理だった。
「これは、あなたたちの“歓迎会”なんですよ」
「――ん……んん……!!」
そのとき、喜十郎が首をごりっと動かした。
「あら、にいさまが目を覚まされましたわ」
「み……ゆき……?」
いまだ自分の情況に気付いていないのか、喜十郎が妙に寝ぼけた声を出す。
「んんっ!!」
――が、その“兄”の唇に、深雪がイキナリ吸い付いた。
「あああああっ!!」
「ずるいですわ、深雪ちゃんっ!!」
そこからはもう、なし崩しだった。
“妹”たちは、我先にと“兄”の身体に貪りついていった……。
最終更新:2007年11月13日 17:05