ラスボス<<<キモ姉の越えられない現実

326 ラスボス<<<キモ姉の越えられない現実 sage 2007/11/12(月) 06:08:07 ID:1POdraqo

随分と久しぶりに、ゲームを買った。
時間が経って幾らか安くなったとはいえ、それでも最新のハードと、先日発売されたばかりのソフト。
ここしばらくはグラ優先だったためにゲーム性の低下から古参のファン離れを心配されていたRPGゲームだが、
ハード自体の不人気も取り戻すかのように、
メーカーが『今回はゲーム性で勝負』という方針の下に大々的な宣伝を行った。
結果、友人から聞く限りではかなり期待出来そうな内容である。
最近は色々と不自由な思いもしていたため、オレは貯金まで下ろしてこのハードとソフトを揃えた。
塾の帰りに友人から話を聞いたために購入したのは今日の朝、そして今は徹夜するつもりでプレイに望んでいる。
カーテンで部屋に差し込む光量を調節しながら、ひたすらゲーム。
なんとも現代の人間らしい、至福の一時だ。

が、そんな幸福の時間は唐突に破られた。

背後でドアノブの音。一回・・・二回。
このゲーム空間と外界を隔てる門はあっさりと開かれ、閉ざされた後、オレの横に嫌になるぐらい知りすぎている人影が立った。
そのまま、隣に座り込む。

「けい君、何してるの?」

姉貴だ。
また、何で休日の朝っぱらから弟の部屋なんか訪れるのやら。

「ゲームだよ、ゲーム。見れば分かるだろ? 姉貴」

「ふーん。どんなゲームなの?」

おいおい。

「RPGだよ。ロール・プレイング・ゲーム」

「RPG・・・? 何をするゲームなの?」

ロール・プレイするゲームに決まってんだろ!

「・・・・・・キャラクターに冒険をさせるゲームだよ。その中でレベルを上げて、決められたルートにそって物語をクリアするんだ」

正解でもないが、RPG自体知らない人間にはこれくらいの方がいい。

「・・・・・・ふーん。けい君、それ、面白い?」

「面白いよ」

でなきゃやらないっての。

「ね。私にも出来る? これ」

なあ。頼むからさ、真剣にゲームしてるのに話しかけられてるオレの雰囲気の変化とか感じてくれないかな、姉貴。

「無理。姉貴には難易度が高すぎる」

まあプレイするだけならどんなゲーム音痴でも可能だが、姉貴にやらせようものなら質問攻めにされるのが確実だ。
いちいち付き合っていられない。

「・・・そう。じゃあ、けい君と一緒にだったらを私にもクリア出来るかな?」

「RPGは基本的に一人用だよ。同時には出来ない」


327 ラスボス<<<キモ姉の越えられない現実 sage 2007/11/12(月) 06:09:56 ID:1POdraqo
「そう、なの?」

「そうだよ」

ああもう、イライラするなあ。
っと、ようやく最初のダンジョンのボスのとこまで来た。RPGは最初の導入部分や村で結構時間食うからなぁ。
午前中にクリアできるダンジョンはここだけかな。まあいい、さくっとやっちまおう。

「・・・・・・ねえ、けい君」

「・・・・・・」

「ねえ、けい君、けい君ってば」

「何だよ?」

つい、声が低くなるが仕方がない。今は集中したいのだ。
ボスの長ったらしいセリフを読み込むのも、こいつをあっさり倒した時の爽快感に繋がる。
ウケる部分があったら、あとで友人とそれで話をするのもいい。
だから姉貴、邪魔するな。

「けい君、ちょっと外に出ない?」

「はあ?」

何だ、いきなり。

「だって、こんな、ゲームばっかりしてたら体によくないよ? 不健全だし。
 ね? お姉ちゃんと一緒にどこかにお出かけしよう?」

「・・・いいよ。遠慮しとく」

お出かけとか、何歳の会話だよ。
しかもまだ始めて二時間経ってないし。

「どうして?」

「どうしても何も、見たまんまだよ。オレはゲームがしたいの。
 それに、最近姉貴がオレを連れまわしてばっかりだから、こうして久しぶりにゲームに没頭してるんじゃないか」

「でも・・・」

「あーもうっ、いいからあっち行ってくれ!」

ボス戦が始まった。
RPGに限らず、ゲームの醍醐味の一つはこの緊張感だ。

「そんなっ! けい君はお姉ちゃんよりもそんなものの方が良いのっ!?」

流石に、我慢の限界だった。

「いい加減にしろよ! オレは今、ゲームがやりたいって言ってるだろっ!
 そんなにどっか行きたいなら一人で行って来ればいいじゃないかっ!」

ゲームから完全に視線を外し、怒鳴りつける。


328 ラスボス<<<キモ姉の越えられない現実 sage 2007/11/12(月) 06:11:48 ID:1POdraqo
「────────」

怒鳴りつけられた姉貴は、途端に静かになった。

「・・・・・・どうしたんだよ。早く行けよ」

余程驚いたのか、能面のように血の気の引いた顔の姉貴にそう言ってやる。
いつもなら多少言い過ぎたかと感じるだろうが、今度ばかりは我慢の限界だ。
ここで強く言っておかないと、姉貴はどこまでも調子に乗るだろう。

「早く、行けよ」

「・・・・・・」

睨み付けると、ようやくゆっくりと動き出す。

「分かったよ、けい君」

ふらふらと立ち上がった。

「わかった」

ようやく、邪魔者がいなくなる。
立ち上がった姉貴は、扉の方へと────行かない?
姉貴は、立ち上がったまま動かない。

「おい、姉貴」

「うん、大丈夫だよ、けい君。わかってるから」

姉貴は、変に平坦な声で言った。

「おい、姉────────」

姉貴が、家の中では膝丈より短いものしか履かないせいでむき出しの足を、高く上げる。


「わかってるよ、けい君」


そして、そのままゲーム機の上へと叩き付けた。


ばきんと、それほど大きくもない音と共に陥没し、全体に皹が入る。

「────────は?」

もう一回。ばきん。もう一回。べきん。もう一回。
壊された箇所がどんどん大きくなって行き、ハードがほとんど真ん中から割られた形になる。
剥き出しの部品が、見えた。

「姉貴っ!!」

「 こ れ が 悪 い ん だ よ ね っ ! ! ! ? 」

「ぁっ!?」

物凄い声だった。


329 ラスボス<<<キモ姉の越えられない現実 sage 2007/11/12(月) 06:13:00 ID:1POdraqo
「そうでしょけい君、これが悪いんでしょ? これがこれがこの箱が悪いんだよね?

 ねえけい君そうでしょこんなものがあるからお姉ちゃんに構ってくれないんでしょそうだよね そ う だ よ ね っ !!」

「姉、貴?」

何だ? 一体、何が。

「大丈夫。だいじょうぶ分かってるよ、けい君は悪くないけい君は何も悪くない全部全部これがこの箱が悪いんだ

 だから大丈夫こんなもの壊しちゃえばいいあはははははははえいえいっ、こうやって踏んづけて壊せばいいんだよ

 そうだよけい君を私から奪おうとするモノなんて全部全部ぜぇぇえええっんぶこうしちゃえばいいんだっ!!!」

姉貴がゲームを、壊して。ああ、姉貴の足元にディスクの欠片が。

「壊しちゃえ壊しちゃえ私とけい君は結ばれるべきなのにだってこんなに愛しているんだものなのにおかしいよ

 どうしてこんなものがけい君をけい君を私から奪おうとするのダメだよ絶対にだめ許さない許さない許すもんか

 けい君は私のモノ私だけのモノ誰にも渡さないんだから私からけい君を奪おうとするものなんて全部こわしちゃえ

 そうだよ全部こわしちゃえばいいんだお父さんもお母さんも友達も全部ぜんぶ皆みんなまとめてこわせばいいんだ

 そうだよねそうだよあははははははははっははあはははどうしてこんな簡単に気付かなかったんだよだってすごいよ

 みんなこわせば私はけい君といつでも二人っきりだよそうしようそうしようそうし────────ああ、これも壊さなきゃ」

姉貴は、ふと思い出したように言って、その細い腕をテレビ画面に叩き付けた。
ガラスが砕け散り、止まったままだった画面から光が消える。パラパラと、透明な欠片が床に落ちた。
ふ、と部屋が暗くなる。
カーテンで光を調節していたため、中の光源が減ると、部屋は不気味なくらい薄暗くなった。

姉貴は、笑っている。無数のガラスの刺さった腕を、笑いながら見詰めていた。

「けいくん」

「ひっ!?」

ぐるりと、目だけがオレを見た。

「な、な、なんだよ、姉貴」

「────────あはっ♪」

いいこと、思いついちゃった。
姉貴はそう言った。

「ねえけい君。お姉ちゃん、怪我しちゃった」

「そ、そうだな」

瞬きもしない。笑ってるくせに乾いた目が、じっとオレを見ている。息が、上手く出来ない。

「けい君のためだよ?」

「へ?」

姉貴が、一歩、オレに近づいた。
立ち上がれないまま、足だけで後ずさる。


330 ラスボス<<<キモ姉の越えられない現実 sage 2007/11/12(月) 06:13:57 ID:1POdraqo

「お姉ちゃんね、けい君のために怪我したの。だってだめだよゲームなんてやっちゃ体に悪いのに。

 けい君はゲームなんてしちゃダメ絶対にダメだよけい君はお姉ちゃんと一緒にお出かけするんだから。

 でももう大丈夫だよね、だってもうゲーム出来ないもの壊したから私がけい君のために壊したんだからもう出来ないよね」

けい君も、もうゲームなんてしたくないよね?
そう、聞いてくる。

「あ、ああ。確かに、もう出来ないな」

「だよねそうだよねもうゲーム出来ないよね? これでけい君はお姉ちゃんと一緒にお出かけして体動かして健康だよね?」

ね? と。
腰を曲げ、顔を突き出してきた。狭い部屋の中で、また少し後ずさる。

「も、もちろんだ」

「じゃあ褒めて」

「へ?」

上手く筋肉の動かない顔に、もう一歩分、姉貴が迫る。
オレも下がる。下がる、下がる────────部屋の壁に、背中がついた。

「お姉ちゃんはけい君のために頑張ったんだからご褒美が欲しいな、けい君からのご褒美」

「ご褒美って、何を」

「ん」

姉貴が、血塗れの腕をオレに向けて突き出す。
細かなガラス片が突き刺さったままの、腕を。

「舐めて」

足はがくがくと震えていて立ち上がれない。
引いた頭も、壁にぶつかった。

「だって、けい君のために怪我をして流れた血だもん。けい君に治してもらわなくちゃ」

屈託なく、姉貴は笑う。
声は高いのに、低く響く笑い声が部屋の中で反響した。

「だからね? けい君」

姉貴が、近づく。腕は突き出されたまま。
小さなガラスの破片が一つ、オレの頬を刺した。

「お姉ちゃんの腕、舐めて。けい君のために怪我した腕。お姉ちゃんの血がいっぱい流れてる腕。
 お姉ちゃんの味がする、腕。舐めて」

一つ、二つ、三つ。姉貴の腕のガラスが、オレを刺す。
小さなガラスの欠片程度では大した傷にもならないはずなのに、ひどく、痛む。まるで、姉貴がオレを責め立てているように。

「けい君、お姉ちゃんの血を舐めて、飲んで────────お姉ちゃんの腕が綺麗になったら、ちゃんと運動しようね?」

二人っきりで、と。
そう言う姉貴の、血に塗れた腕を前にして、オレは────。

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最終更新:2007年11月13日 17:13
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