547 前半 sage 2007/11/20(火) 21:19:13 ID:bcehZwgo
わたしの妹は小柄でとても愛らしい容姿をしている。日本人離れした頭髪は銀に輝き、
重たげなまぶたから覗く瞳は鈍いプラチナのように奥深い色をしている。妹は母の血を色
濃く受け継いでいるらしく頭脳は明晰で闊達な気質の持ち主だった。海外に行ったときも
その流暢な英語力を遺憾なく発揮し、兄としてのプライドを木っ端微塵にされたものだ。
けれども、妹は一年ほど前に脚を悪くしてから変わってしまった。友達と遊びに行くの
が何よりも好きだった妹が急に外へ出たがらなくなったのだ。妹は小さく兎のような容姿
を妬まれていじめにあうこともあったが、そのときでさえ家に篭ることはなかった。だが、
気弱になってしまったのか、足を引きずるように歩く自分の姿が「恥ずかしい」と言って
家の中でテレビや漫画ばかりを見るようになったのだ。わたしはそんな妹を優しく受け入
れ、そっとしてやることにした。すると二人だけの時間は自然に増えていったのだった。
もともとテレビや漫画が好きだったのはわたしのほうなのだが、今になって「ねぇ、お
兄様、この漫画の作者はどんな方ですの?」などと興味津々に訊ねてくるのだ。わたしは
ぞんざいに扱うわけにもいかず、笑い顔を作って答えるようにしている。慕ってくれる妹
は嫌いじゃなかった。
いつものように居間で寝転びテレビを見ていると「お兄様、これの続きはありません
の?」と妹が背中を揺すった。わたしは思い出したように「そういえば今日発売だったか
な」と告げる。すると「買ってきてくださいませんか?」と膝を突いて頼むのだ。
結局、小一時間ほどの押し問答の末、二人で書店をめぐることにした。木枯らしの吹く
季節だけに妹の首元にはマフラーが巻かれている。亀のように首を短くして必死に寒さを
耐える姿は実に可愛い。だが、わたしの腕にしがみ付くのはいただけない。「お兄様もお
寒いでしょう」などと言ってわたしの腕を抱きしめる。奇異の目で見られるのではないか
と不安だったが、はたから見れば兄弟だとは分かるわけもない。血が駆け巡った指先は痛
いくらいだった。
548 後半 sage 2007/11/20(火) 21:20:51 ID:bcehZwgo
二件目で目当ての漫画を購入すると並木道を二人で歩んだ。落ち葉を踏みしめ、カサカ
サという音色を二人で楽しむ。「楽しいですね」と妹はわたしの腕にない胸を押し付けて
きた。悪戯っぽい笑みを浮かべると俯き「……大きいほうがお好きですよね」と言うもの
だから「なに言ってるんだよ」と優しく髪を撫でた。ほのかに甘い香りがした。
二人だけの家に帰ると「恥ずかしくなかったか?」とおもむろに訊ねた。街の喧騒の中、
終始落ち着いていたからだ。「お兄様といっしょでしたから」とマフラーをとって赤い顔
を見せた。しかし、わたしが「今度は一人で行ってごらん」と諭すと途端に不機嫌になっ
てしまった。最近の妹の心情を推し量るのは難しい。
その後、いささか気まずい夕食を済ますと暇になり、見たいテレビ番組もなかったので
布団に入ることにした。だが、夜は寒さがいっそう厳しくなり、安物の掛け布団のせいで
わたしはなかなか寝付けずにいた。
ゴロゴロと頻繁に寝返りを打っていると襖が音もなく開いた。何事かと目を見開いたら、
枕を持った妹が立っていた。「いっしょに……寝てもよろしいでしょうか?」。デフォル
メされた蛙柄のパジャマを身にまとった妹がわたしの返答を待たずに布団に入り込んでき
た。凍ったような手足がわたしに触れる。
「な、何を考えているんだ」
「だって寒いんですもの。温めあいましょう、お兄様」
掛け布団がもこもこと蠢き、その下でわたしは妹に唇を奪われていた。気がつけば着衣
は乱れ二人は半裸状態だった。「お兄様のアソコはまだお勃ちにならないのですか?」と
わたしの身体をまさぐりながら妹は嬌声を上げる。「あ、当たり前じゃないか!」とわた
しは掠れた声で応える。
「そうですよね、実の兄妹ですものね……まぐわうなんて。でも、せめてお口で――」
妹はいまだかつて見せたことのない卑猥な笑みを浮かべると、口に手を伸ばして『入れ
歯』を外した。勃(た)たない理由は兄妹だからじゃないのだよ、とわたしは70才を超え
た妹に向けて叫んだ。
おわり。
最終更新:2007年11月24日 00:52