理緒の檻(その23)

127 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/07(金) 23:17:11 ID:XCdNPRam
病室に戻ると、修くんは寝かかっていた。
理緒は、修くんが死んじゃうのかと思ってすごく焦った。
看護婦さんが来て、ただの貧血だって分かって、また泣きそうになった。
修くんが大丈夫だと分かったから、安心した。
そして、先程の話を思い出す。
織部の家は近親相姦によって保たれてきた。
それはつまり、理緒と修くんが性交をして子供を作る事が認められたという事だ。
話を聞きながら、体は喜びに震え、思わず顔が綻んでしまいそうだった。
例え世間に認められなくても、家には何も問題が無いのだから。
家の人に何を言われようと関係無いのだけれど。
修くんの性格から考えて、理緒が子供を孕んだら絶対に逃げる事はしないだろう。
既成事実は何よりも強い。
これで、理緒の檻はより強固な物になる。
そこまで考えて、修くんの寝顔を見る。
理緒にとっての全て。
等価値な人、物など存在しない。
理緒は、修くんにだったら殺されても犯されても構わない。
それで修くんの全てが永久に得られるのならば。
それでももし理緒から離れるのならば…
私はどんな事をしてでも修くんを得てみせる。
いくら血に濡れても、いくら傷付いても。



128 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/07(金) 23:19:54 ID:XCdNPRam
ゆっくりと、修くんを起こさない様に唇を重ねる。
柔らかくて、少し厚めの唇。
愛しくて、狂おしくて、そっと髪を撫でる。
この口付けは、誓約の証。
修くんに永遠の愛を。
修くんに永久の安らぎを。
修くんに理緒の、私の全てを捧げる事を誓う。
その代わり、修くんにたった一つだけお願いをしてもいい?
修くんはずっと、私と一緒に居て下さい。
できる事なら、私だけを見て、私だけに触れて、私だけを愛して…
コンコンとドアがノックされる。
名残惜しいけど体を離す。
「あ、織部君のお姉さん。面会の終了時間ですので、今日はお帰り願えますか?」
「…はい」
本当なら、一時も離れたくないけど…
刺したのは、私。
大切な修くんに傷を負わせてしまった。
その罪を償う為に、今だけはおとなしくしておこう。
「帰り道、お気をつけて」
軽い会釈をして、病室を後にする。
帰ったら、どうしよう…
久しぶりに、仕事をしないといけないかな…


…くらくらする。
まだ、貧血みたいだ。
「あっ、目が覚めましたぁ?」
「はい…」
この人の声を聞いたら二度寝したくなった。
「具合はいかがですかぁ?」
「もうかなり良くなりました」



129 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/07(金) 23:22:45 ID:XCdNPRam
「そうは見えないんですけどぉ…」
と、そんな不安げな顔と泣きそうな目でこっちを見られても困る。
ここは大丈夫だって感じを見せないとな…
「全然平気ですって。俺は血の気は多い方ですし」
実際貧血なんか久しぶりだし。
もっと小さい時はたまに有ったけど。
「そうですかぁ…あ、あのぉ、おトイレとか平気ですかぁ?」
「え?あ、あぁ、自分で行けますよ」
…なんで残念そうに見えるんだろう。
「行くのが辛い様でしたら言って下さいねぇ?」
「えっと…はい…」
まぁ恥ずかしすぎて言えないし、言うつもりも無いが。
さてと…特にできる事も無いし、寝るか。
まだ治った訳じゃないしな。
…コツッ。
今、なんか音がしなかったか?
……コツン。
間違いない…なんか当たった様な音がする…
…怖っ!なにこの病院怖っ!
…兄ちゃん……
呼ばれた…?今呼ばれた?
…お兄ちゃん…
絶対呼ばれたっ…俺、なんか悪い事したっけ?
…修お兄ちゃん…!
あれ…?今の呼び方って…
「修お兄ちゃん!」
その声は…冬華ちゃん?
俺はそろそろと窓に歩み寄る。
窓のすぐ下に厚着をした冬華ちゃんが居た。



130 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/07(金) 23:24:40 ID:XCdNPRam
俺はなるべく音をたてない様に窓を開ける。
「えへへっ、こんばんは」
「こんばんは…じゃなくて、冬華ちゃん何やってるんだよ?」
「なにって…お見舞い?」
「まずこんな時間に来るのはおかしいし、窓からなのもおかしいし、何より一番つっこみたいのはお見舞いに疑問系が付いてる事だ!」
ハァっハァっ…
一気に喋って、疲れた…
「修お兄ちゃん、元気だね…」
なんで微妙にひかれなきゃならないんだ?
と思いながら、冬華ちゃんを見ていて…
昨日の事を思い出してしまった。
急に冬華ちゃんの方を見れなくなる。
あれだけ無様な格好を晒したんだし、何を今更と思われるかもしれないが、仕方ない。
あれは俺が望んだ事じゃない。
「どうしたの?修お兄ちゃん」
「いや…なんでもない。それより、早く帰った方が良いんじゃないか?」
つい、少し冷たく言ってしまった。
「修お兄ちゃん、冬華の事…嫌いになっちゃったの…?」
冬華ちゃんの声は震えていて、その大きな瞳には涙が浮かんでいた。
「そういう訳じゃない。だけど、家族の人が心配するだろ?」
適当な返事を返す。
「…冬華寂しいよ…修お兄ちゃん、お部屋に入れて…?」



131 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/07(金) 23:26:04 ID:XCdNPRam
見事に俺の話は無視された。
「冬華の事なんて皆心配してくれない…」
小さく、そう呟くのが聞こえた。
たった50センチ程の距離だったが、風でも吹けば聞き取れない程の声で。
「修お兄ちゃんも、冬華の事なんてどうでも良いの?」
「そんなことないよ」
「じゃあ、少しで良いから冬華と一緒に居て…」
そんな風に言われたら断れる訳が無い。
何故か、ここで冬華ちゃんを無理矢理帰らせたら取り返しの付かない事になってしまう気もした。
「仕方ないな…靴、脱いで」
そう言った途端に冬華ちゃんの顔はぱっと明るくなる。
「…うんっ!」
靴を脱いだ冬華ちゃんの腕を持って引っ張りあげる。
「ありがとう、修お兄ちゃん」
背中からそう声をかけられた時、寒気がした。
理由は全く分からないが、俺の体と感覚は何かを感じ取ったのかもしれない。
それを無視する様に、ぎこちない動きでベッドに座る。
すぐに冬華ちゃんも寄ってきて、俺の隣にちょこんと座る。
ドクンと心臓が跳ねる。
「修お兄ちゃんはやっぱり優しいね」
そう言いながらこちらに顔を向け、俺の手に触れる。
また、ドクンと心臓が跳ねる。



132 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/07(金) 23:28:30 ID:XCdNPRam
さっきから、俺の体はどうしたんだ?
自問してみるが、答えは出ない。
「修お兄ちゃん、横にならなくて平気?」
「あ、あぁ。平気…だ…っと…あれ?」
ぐらりと視界が歪む。
俺の体はどさりとベッドに倒れてしまった。
「大丈夫?修お兄ちゃん」
大丈夫だと言いたい所だが、体はほとんどいう事を聞かない。
かろうじて腕は動かせる様だ。
「あのね、修お兄ちゃん」
何?と言おうとしたが、声もうまく出せなかった。
喋ろうとしても口からでるのは呻く様な声。
「……?」
「冬華ね、昨日からずっと考えてたの」
なんのことか分からず、喋れもしないので、次の言葉を待つ。
「どうしたら、修お兄ちゃんは冬華の物になるかなぁって」
また、頭がぐらりとした。
「最初はね、理緒さんを殺してしまおうかって考えたの」
冬華ちゃんはいつもと変わらない声でとんでもない事を口にする。
「でも、それは止めた。だって、人を殺しちゃったら修お兄ちゃんと一緒に居られないもん」
何か、おかしい。
俺の目の前の冬華ちゃんは何か違う。
「だから、冬華は決めたの。修お兄ちゃんを冬華の物にする為に、修お兄ちゃんを殺してあげようって」


133 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/07(金) 23:31:36 ID:XCdNPRam
今、なんて言った?
俺が冬華ちゃんに殺されるのか?
「そうすれば、修お兄ちゃんは冬華の物。誰にも渡さなくて済む」
なんとか声を出そうとするが、やはり呻き声しか出ない。
「あ…あ…」
「そんなに怯えた顔をしないで?大丈夫だよ。すぐに冬華もいくから」
冬華ちゃんは俺の上にまたがり、服の下から包丁を取り出した。
このままだと、俺は確実に殺される。
何か、何か手は無いか?
なんとか動く腕で近くを探る。
「修お兄ちゃん…冬華はずっと一緒だよ」
ゆっくりと、手に持った包丁が振りかぶられる。
そうだ、ここは病院だ。
ナースコールが有るはず…
必死に腕を動かして、ようやくそれらしき物に手が触れる。
そして、スイッチを押そうとした瞬間。
ドスリと、腕に深々と突き刺さった。
「うあぁぁあぁあっ!」
心の中では叫んでいたが、どうしても口からは出ない。
「だめだよ、修お兄ちゃん」
ズルリと、血にまみれた包丁が抜ける。
「おとなしくしてないと」
ヒュッ、ザクッ。
気付けば、もう片方の腕にも刃が突き立てられていた。
痛みより、ただ恐怖と血の熱さだけを感じている。
「悪い修お兄ちゃんにはお仕置だよ」



134 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/07(金) 23:34:37 ID:XCdNPRam
笑ってそう言った冬華ちゃんの顔には返り血が付いていた。
それを見た次の瞬間、刺された包丁はぐりぐりとねじられる。
腕が壊れていくのを、俺は確かに感じていた。
一回ねじる度に、俺の血が跳ね、冬華ちゃんの顔を汚していく。
血を浴びる冬華ちゃんの顔は恍惚としていた。
もう俺に抵抗する手段は何も無い。
「あはっ、修お兄ちゃんの血…温かくて、すごく綺麗だよ」
ぺろりと、口の近くに付いた血を舐めている。
「もっと楽しみたいけど…」
再び包丁は振りかぶられ、
「早く一緒になりたい」
狙いを定め、
「修お兄ちゃん、愛してるよ」
振り下ろされた。


「うあぁぁぁっ!」
はっ、はっ、はぁっ…
夢、だったのか?
それにしては痛みも感じたし…
腕を確認しても、傷はどこにも無かった。
でも今の夢、リアル過ぎる…
なんとなく、嫌な予感がする。
かといってもう寝れる気はしない。
そうして、何をするでもなくただ寝転んで居た時だった。
…カツッ
その音を聞いて、心臓が破裂しそうな程驚く。
まさか、現実に冬華ちゃんが来るはずないよな…
カツン…
これは、廊下から聞こえる?
こんな時間に、誰だろう。
ドアが開けられた…

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最終更新:2007年12月12日 12:46
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