理緒の檻(その24)

148 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/09(日) 19:19:42 ID:+xWZzNYe
「あらあら…まだ起きてらしたの?」
なんだかすごく丁寧な喋り方の人が入って来た。
「あの、失礼ですがどなたですか?」
「あら、失礼。私、この病院の院長、御神弥子と申します」
うやうやしいという表現がぴったりなお辞儀をしながら自己紹介する御神さん。
「えっと、俺は織部って言います」
ついつられて深くお辞儀をしてしまう。
「えぇ、存じております。織部修さん…でしたわよね?」
「え…?」
なんで、名前まで知ってるんだろう。
「あら…私、間違えてしまいました?」
「いえ、合ってますけど…なんで名前まで知っているんですか?」
「私、この病院に来る人の名前は全て見る様にしているのです」
それってすごく大変じゃないか?
それに、全部覚えているのだろうか。
「この町は名前に意味を持たせるのが好きみたいなので、楽しいですわ」
名前に…意味?意味だって?
「あのっ!」
「きゃっ!あらあら…急にどうなさったの?」
つい興奮して体を掴んでしまった。
「あ…すいません…」
「構いませんわ。それより、どうなさったの?」
そうだ。本題を聞かなくては。
「俺の名前に、意味はあるんですか?」



149 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/09(日) 19:21:13 ID:+xWZzNYe
「あなたの名前ですか?ご自分でご自分の名前の意味が分からないのですか?」
なんかちょっとグサリと来た…
でもそんなことにショックを受けてる場合じゃない。
俺の名前の意味が分かれば、何か変わるかもしれない。
理緒姉や羽居姉妹との関係が。
「仕方ありませんわね。全て教えて差し上げるのは簡単ですが、それでは成長致しませんので…ヒントだけ」
この人のキャラが掴めねえ…
が、今はヒントだけでもありがたい。
父さんが、俺に何を言っていたのか分かるかもしれない。
「お願いします、教えて下さい!」
「あらあら…そこまで言われたら、教えなくては申し訳が立ちませんわね」
俺の名前に、一体どんな意味が…
「あなたは器…ただし大きさと深さはあなた次第」
「器…?」
俺が器だって?
一体どういう事だ?
全然わかんねぇ…
「うふふ…修さんは余程複雑な状況下におられる様ですわね」
この人は、何でこんなに何もかもを知っている様な口振りなんだ?
「御神さんは…何を知っているんですか?」
「私は修さんの状況など存じ上げませんが…修さんの名前がそう言っておられますので」
名前が言ってる…?
この人も、不思議な人だな…


150 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/09(日) 19:22:12 ID:+xWZzNYe
「ところで修さん」
「…なんですか?」
なんか急に声のトーンが変わったな…
この病院にはこんな感じの人しか居ないのか?
「修さんの話を聞いてあなたに興味を持ちましたの。折角こんな夜半に起きていらっしゃるのだから、私の話にも付き合っていただけませんか?」
「え…まぁ、構いませんけど」
どうせしばらく眠れそうにないし。
「良かった…では私の部屋に来ませんか?コーヒー位なら出して差し上げられますから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
トコトコと歩き出す御神さんに付いていく。
着いた場所は当然院長室だった。
少し大きめのドアが開けられる。
「遠慮なくお座りになって?」
「失礼します」
「すぐにコーヒーをご用意致しますので、少々お待ちを」
そういってパチンと指を鳴らす御神さん。
すぐに俺が入って来たのとは違うドアが開いて人が入って来た。
「失礼致します。コーヒーをお持ちしました」
テーブルにコーヒーを置くとスッと頭を下げてまた戻って行ってしまった。
「…あの人は?」
「あの子は私の専属の秘書、山神聖ですわ。少し愛想が足りない子ですが、可愛い子でしょう?」
「えぇ、まぁ…そうですね」


151 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/09(日) 19:23:31 ID:+xWZzNYe
正直に言うと、あの山神という子からはなんとなく威圧感というかプレッシャーを感じた。
確かに見た目は文句無しに美少女だった。
何歳なのか知らないが俺と同じ、もしくは下位に見える。
と、コーヒーを口に含みながら考えていた。
「どうです?修さんの好みだったりするのですか?」
「っ!げほっげほっ…いきなり何を言うんですか!?」
危うく盛大にコーヒーを吹く所だった。
「あらあら…違うのですか?何か惚けている様に見えましたので、てっきりそうなのかと…」
「確かに可愛らしい人ですけど…違います。それに俺、なんだか嫌われたみたいだし」
「あの子は私以外の誰に対してもあの態度ですわ」
私以外と言うが御神さんに対してはどんな感じなのだろうか?
「さて、あの子の事はこれ位にして、私の話をさせていただきますわね」
「えぇ、どうぞ」
そういえばそれが目的というか、本題だったな。
「先程の名前の話の続きなのですが…」
俺は黙って首肯し、続きを待つ。
「私と修さんには共通点が存在します」
「俺と、御神さんに?何も共通点が見当たらないんですが…」
字数も違えば同じ字が入ってる訳でもないし…
一体どこに共通点が有るんだ?


152 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/09(日) 19:25:10 ID:+xWZzNYe
「私の名前もあなたの名前も、そのままの文字では意味を成さないのですわ」
良く意味が伝わってこない。
つまりどういう事だ?
「つまり元々は違う字を使いたい、けれどその字を使うと一般的な人名としてはおかしくなってしまうから、今の字を当てたのです」
論理的な説明に納得し、深くうなずいてしまった。
けど、一つ疑問が有る。
「なぜ俺の名前もそうであると分かるんですか?」
「先程も言いませんでしたか?あなたの名前がそう言っているのですよ」
…言ってる事はどう考えてもおかしいのだが、何故か納得してしまう。
この御神さんという人からはそんなオーラを感じてしまっていた。
「修さんの家族の名前をお聞きしてもよろしいかしら?」
唐突だな…
まぁ、悪い事が有る訳でもないし構わないか。
「姉が一人居て、理緒っていいます。後、両親はもう死んでしまっていますが、父が利織、母が四季といいます」
「…なるほど」
家族の名前を言ってから、御神さんの顔つきが険しくなった。
何か考えこんでいるみたいだ。
「先程私はあなたを器だと言いました。しかし、どうやら少し間違っていたみたいですね…」
「じゃあ、俺の名前の意味は…?」


153 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/09(日) 19:26:24 ID:+xWZzNYe
「器、籠、檻、網…一つに絞る事はできませんが、この様な何かを捕らえる様な、そんなイメージですね」
…ますます分からないな。
俺はどうすれば良いんだ…?
「一つ言っておきましょうか。あなたは名前に縛られて生きる必要はありませんわ」
「えっ…」
「あなたはあなたが生きたい様に生きれば良いと思いますわ」
「そう、ですか…」
父さんの言葉を気にしなくても、本当に良いんだろうか。
「あまり悩む必要は無いと思いますわ。いずれ、時間が解決してくれるでしょう」
時間が…か。
何故だろう。この人と話をしていると、理緒姉と居る様な安心と、何か得体の知れない危うさを感じる。
「あらあら、もうこんな時間。私の話に付き合っていただいて、感謝いたしますわ」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
なんとなく…気分が楽になった。
「あっ、最後に二つ程質問に答えて下さる?」
「なんですか?」
「あの子、何歳だと思いますか?」
あの子って、山神さんの事だよな…
「俺の少し上、20歳って所ですか?」
「うふふ…残念。あの子は25歳よ」
へぇ~…25歳か…
「25ぉっ!?俺より7歳も上なんですか!?」
見えねぇ…嘘だろ…?


154 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/09(日) 19:27:56 ID:+xWZzNYe
だってあの人、言っちゃ悪いけど体も、非常に失礼だが胸も小さいし、顔も童顔だし…
なんというか、どちらかと言えば冬華ちゃんよりだと思ってしまっていた。
見た目はすごくクールな大人びた小、中学生って感じなのに…
「では、次の質問に参りますわ」
次は何を聞かれるんだ?
「私の年はいくつに見えまして?」
…俺の最初の印象で行けば23位なのだが。
ただ、山神さんより下という事も考えにくい。
そう考えて良く観察してみる。
うーん…柔和な顔つき、大きめの胸、すらっとした足…どう見ても20前半…
いや、あの微笑みからにじむ色気は、20後半か?
「28歳位に見えますけど…」
言った途端にくすくすと笑われてしまった。
「あらあら…お世辞がお上手ですのね」
お世辞?お世辞なんて全く言って無いんだが…
「私、今年で34歳になりましてよ?」
ここの女性は、吸血鬼か何かですか?
今目の前に居る人が34歳だって?
そんなこと信じる人皆無、いや、絶無だろう。
「若い人にそんな風に言われたら、私照れてしまいますわ。では、話はこれでおしまいです。良い眠りを」
ひらひらと手を振る御神さん。
俺の頭は完全に混乱しきっていた。


155 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/12/09(日) 19:30:47 ID:+xWZzNYe
織部修が離れていったのを確認する。
「聖、来なさい」
「はい…弥子様」
「あなた、あの子の事をどう思って?」
「外見は普通ですが…何か不思議な気持ちがしました」
聖にそう言わせるという事は、相当の物ね。
「なかなか面白い子ね。次はあの子にしようかしら」
「弥子様のお好きな様に…」
「やっと新しい楽しみができたわね。」
あの子の名前からは全てを捕らえるか、もしくは永遠に捕らえられるかの二つしか見えない。
更に、どちらに転んでもあの子は何かとの訣別を迎える。
なら、私があの子を捕らえても何も問題は無い。
「むしろその方があの子にとっても幸せかもしれないものね。うふふっ、あははははっ!」

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最終更新:2007年12月12日 12:47
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