367 :
三者面談 ◆oEsZ2QR/bg :2007/12/24(月) 18:24:53 ID:gpHIZA0T
私が刺しこんだナイフの切り後からソファから飛び出したスポンジが飛び出し、明るかった黄色を汚く染め上げている。
肩で息をする私は、誠二の目からはどう見えたのだろう。
「あっはははははは! あっはっはっはっは! 誠二! あなたとあの女が過ごしたコレはこんなにもぐちゃぐちゃになっちゃったわ! あっはっはっは!」
誠二の大事なものを蹂躙することの喜びが私の脳髄に鋭く響く。響き渡る。
ううん。まだあの女の匂いがする。もっと、もっとぐちゃぐちゃにしてあげなければ。ざっくざくざく。もっともっとめった刺し。
舞い上がるスポンジ。まるで血しぶきのよう。あの女の体にもナイフを差し込めばこんな風に噴出してくるのかしら?
「もごっもごっもごっ……」
誠二がガムテープを外そうと、口を唾液でもごもごとぬらしている。なにやってんのとみぞおちに二発蹴りを入れてから、もう一度口にばってんをつけるようにガムテープで上から貼り付けた。
でも、まだ視界は隠さない。誠二は、昨日今日で私がどれほど怒っているのかその目できちんと見届ける義務がある。
「目つぶったら睫毛を焼くからね」
「もごごいっ……」
大丈夫、本気だから。目の前の惨状に目をつぶりたくなるのはわかるわ。でもそれはあなたの罪だもの。
ふと、部屋の奥隅に小さなデスクに目が止まった。書類がいくつか散らばったまったく職場的なデスク。見た感じ結構古めね。所々へこんでいる。引き出しに手を伸ばす。
ひとつひとつ開けていくと、中からはよくわからない書類や筆記道具が詰まっている。しかし、真ん中の一番広い引き出しだけ何故か鍵がかかっていた。
怪しい。
「誠二。ここ開けたことある?」
私が引き出しを指差して誠二に聞くと、誠二はふるふると首をふった。ふぅん、誠二も知らないトップシークレットなのね。
「それは気になるわ。是非中を見ないとね」
こんな時のためにドライバーセットがあるのよ。カバンから取り出したドライバーセットは近くの工具店で買ったもの。
本当はアパートのドアの蝶番を分解するために買ったものなんだけど、実際うまくいかなくて諦めたものだ。
まぁ、代わりに鍵のかかっていたロッカーの蝶番を分解して開けたのに使った。まぁ、ロッカーの中はさすがに外の様子がわからなかったので、結局壊したまま放置してるけど。
ドアは難しかったが、こういったデスクなら簡単でしょう。いや、分解するまでもないわ。
「えいっ」
引き出しに突っ込んでテコの原理で無理矢理こじ開けた。元々古いものだったから、造作も無く鍵はガクンと外れ無力に。ふふふ。
上機嫌に鼻歌を歌いながら、私は引き出しを開けた。
「………ふんっ」
……中身を見て。私はがっかりした。なによ。つまらないわ。
机に入っていたのは誠二の写真ばかりだった。
「……これも。これも」
全ての写真をぱらぱらと目を通す。学校で撮った写真ね。教室や廊下、普段の誠二の日常をさりげなく撮った自然な写真ばかりだわ。ただ、よく見ると全ての写真が誠二がカメラ目線じゃない。
体操服でバトン持って走っている誠二の写真も、教室の窓側の席でぼーっとしている写真も、誠二はカメラを意識していない表情。
ああ。これ、全部隠し撮りか。
そうよねぇ、いくらなんでも授業中に誠二だけの写真を撮るなんて、他の奴らにとっては意味わからないものね。ということはこれは望遠レンズか。
あ、これとかは顕著ね。ちょうど学校のプールで授業受けてる誠二を校舎の屋上から望遠レンズで見事撮影してるわ。
そんなに海パン一丁の誠二の写真が欲しかったのかしら。わからない女ね。
この写真だけ妙に紙が水を吸って乾いた後みたいにシワシワなのが気になる。まぁ何に使っていたのか大体想像はつくけど。あの発情猫。
隠したかったものってこの程度のもの? これぐらい誠二はなにもショックを受けないでしょう。私としては、誠二が一瞬で愛想尽かすぐらいの衝撃的なアイテムが出て欲しかったのに。
大学時代にケバケバの化粧をして男遊びしていた秘密の乱交写真とか、えぐい一人遊び道具とか。
ふーん……。そっかぁ、これぐらいかぁ。
「誠二。あなたの写真が入っていたわ。全部盗撮写真だけど」
「………」
368 :三者面談 ◆oEsZ2QR/bg :2007/12/24(月) 18:25:22 ID:gpHIZA0T
誠二は反応無し。反応無くて結構。結局この女の秘密なんてその程度のゆるさだってことね。
でも盗撮は犯罪よ。弟の誠二を私の許可無く撮影するなんてもってのほか。
この写真はすべて切り刻んでしまいましょう。テーブルにあった鋏でじょきじょきと。細かくなった写真を私は窓から全て投げ捨てた。
「あなたも油断して写真に撮られた罪があるわ」
ねぇ、誠二。あなたも高校生なんだから、もっと危機感持ちなさい。
罰として誠二の顔面を軽く踏みつけてやったわ。私のニーソックスに顔を踏まれる気分はどうかしら?
ほらほら。ぐりぐりと押し付ける。
誠二は目をつぶっていやいやと抵抗する。
何よ、私のあしが汚いって言うの? 私の体に汚いところなんてあるわけないじゃない。女の子に失礼じゃないの?
ほら、享受しなさい。私の足を。もっと、もっと踏んづけて、足蹴して、押さえつける。
ああ……、そうか。ニーソックスが汚いから嫌なのね。それを早く言いなさい。こんなものすぐに脱いじゃうから。
ほら。お姉ちゃんの裸足よ。裸足。ほーら、かかとでぐにゅぐにゅしちゃおうかしら。それともこんなのはどう? 誠二の眉間を足の指で抓んでひっぱってみたり……。
嬉しいでしょ?
「んふーっ! んふーっ! んふーっ!」
ふふん。興奮してるのかしら? 私の足に? 嬉しいから? 土踏まずで撫でられる気分はどうなの?
私は誠二の鼻を指で挟んだ。
「んっ! ……! ……! ……!!!」
呼吸ができなくなっちゃったね。口は塞がれてるもの。ふふふ、顔を赤くしちゃって。あ、パンツは見るなよ。
10秒、20秒、30秒、抵抗しようと暴れても、ガムテープで巻きつけられた体じゃどうもできないわね。
可愛そうだから40秒で勘弁してあげる。ふふふふ。鼻息が荒い誠二。なんだろう。ただ誠二を足で踏みつけているだけなのに、どんどん彼に対する欲情が高まっていく。
私は足を離して誠二の口に貼られたガムテープを剥がしてあげた。
「誠二、一切声を出したらダメよ」
もちろん、ナイフで脅しながら。
誠二の瞳に目を注いだ。がたつく瞳。何年もかけて私に刷り込まれた従順な犬の瞳だわ。もう、政治に抵抗する力も気力もないわね。
ぺりぺり、ガムテープを剥いでいく。ぷはぁ、という誠二の呼吸音。そして私の言いつけどおり、ぐっと歯を食いしばって声を漏らさない。しかし、瞳はしっかりと開いている。
なぜ、口を自由にしたのか。だってしょうがないじゃない。
「舐めて」
「!」
誠二の口の中に足を入れたくなっちゃったんだから。
まずは親指を唇の間へ挿入する。ああ、あったかい……。
口内の粘膜に包まれた私の親指の温かさは、まさに天国のようだった。誠二、あなたこんなイイモノを持っていたの?
誠二の舌はまだ動かない。私は口内に挿れた親指の爪先を円を書くように蠢かせる。誠二は親指をくわえたせいで、頬をすぼめてしまっている。その表情がまた私の欲を誘う。
「舐めなさい。私の足なんだから嬉しいでしょう? むせび泣きながら舐め尽しなさい」
ようやく、誠二の温かな舌が動き始めた。口内にはいった舌をぺろりぺろり……。
「それじゃあ、足りないわ」
私の言葉で誠二の舌は勢いよく流動しだした。唇をさらにすぼめ、私の親指をしゃぶりつく。まるで赤ん坊みたい。
「もっと、もっと、もっと……」
しゃぶ、しゃぶる、じゅぶぶ、じゅぶる。
倒錯的な音が部屋中に響く。誠二もだんだん夢中になってきたのか、一心不乱になっていき、仕舞いには唇から足指を離しても、舌はまだついていこうとする始末。
5分ほど経った頃だろうか。
私は自分の変化に気付いた。
「………」
濡れている。自分のスカートの中が水気を帯びている。私の履いていたショーツがぺったりと冷たくひっついている。
「………誠二。口を開けて」
足を離し、誠二に命令。なにも疑わずに誠二は口を開けた。本当に犬にまで堕ちちゃったのかしら。
いろいろ手を尽くして、言うことを聞かせるようにするつもりだったのに。このぐらいでもう陥落か。私が家で用意していた道具なんてほとんど必要なかったのね。
誠二は口を開いたままじっと私の見つめている。私がスカートの中に手を入れてショーツを脱ぎ去るまで、誠二は表情の変化はあれど、声も出さず動きもしなかった。
「誠二、あなたにあげるわ」
私の脱ぎたてのショーツ。丸めて、それを誠二の口の中へ。
369 :三者面談 ◆oEsZ2QR/bg :2007/12/24(月) 18:25:58 ID:gpHIZA0T
「……もごっ……」
先ほどまで自分の大事なところを隠していたソレを。
そして誠二は、もはや諦めたような目で。それを受け入れる。
「ふふふふ、ふふふふふ、あははははは、あはっははははっ! あはははははははははははは!!」
その情景に、私は笑い声が止まらない。
喜怒哀楽のうち、どれにも当てはまらない。悦の笑いが私の脳髄にスパークしていく。
「誠二! 誠二ぃ! 誠二ぃぃ!! あっはっはははははははははは!!!」
……異常。
異常ね。 私。
いや、異常なのは何年も前から気付いていたでしょう?
実の弟である誠二を愛していることは、心の奥底で自覚していた。
あの高倉良子の存在が、私の奥底の欲望を全て呼び覚ましたのだ。
ああ、欲しい。
誠二が。誠二が欲しくてたまらない。誠二の心も体も魂も全て奪い取りたい。
誠二の笑った顔も、泣いた顔も、泣き叫ぶ顔も、すべて私のものにしたい。誰にも渡したくない。声も、瞳も、全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て、わたしのものに。
私だけの誠二に……。
………。
……。
…。
「こんにちは。高倉先生」
『………誰ですか』
「電話越しでもわからないですか?」
『……沢木、千鶴さんかしら』
「ええ、そうです。こんにちは。ご機嫌はいかがですか?」
『普通よ。ところでどうして私の番号を知ってるのかしら?』
「それはどうでもいいことです。あなたのような男供に人気の先生なんて、そこらの能無し下半身男に聞けば誰でも教えてくれますよ」
『……そう』
高倉良子は気付いてるのだろう。自分と私の間には教師と生徒を越えた、相容れない隔たりがあることを。
「ところで、いいことを教えてあげましょうか?」
『なにかしら。ちょっと、もうすぐ会議があるからあんまり電話でき……』
「あなたと誠二の秘密」
『……!』
電話越しに、息を呑む音が聞こえた。
『……それが、なにかしら?』
「教師が生徒と内縁の妻のごとく同棲していながら、他人の家庭に口を出すなんてね……」
『……』
「ふん。まぁいいですわ。淫乱教師には何を言っても無駄ですもの」
『……で? わざわざ電話してきて何のようかしら?』
「今、私はあなたの部屋に居ます」
『え……?』
これは予想外だったのだろう。はじめて、高倉良子の戸惑いの声がスピーカーから漏れた。
「誠二も一緒です。誠二に代わりましょうか?」
『ま、まちなさい! あなた、一体なにを……』
『あっ、んっ、せ……せんせぇ……っ。 ごっ、ごめっ…ん……なさいっ……。せん…せぇ……っ』
370 :三者面談 ◆oEsZ2QR/bg :2007/12/24(月) 18:27:21 ID:gpHIZA0T
私は耳を疑った。
携帯電話のスピーカー越しから届く、彼の謝罪の声。
その声は。……私と愛を確かめ合うときと同じ息遣いのままで聞こえてきた。
『先生。いま私たち二人は何をしているかわかりますか? ヒントは……恋人同士がベッドの上で裸のまますることです』
「やめて!! やめなさい!! すぐに、誠二くんから離れて!!」
『先生。学校でそんな大声出したら、私以外にもばれちゃいますよ。誠二との秘密……』
「あなた、……あなた自分が何をしているかわかっているの!?」
『ええ。わかっていますわ。ふふふふふ……、ああ、いい……』
血の気が引いた。私は学校だということにもかかわらず悲鳴を上げた。
「やめて! やめて!! やめて!!」
『ふふふ、先生。いいこと教えてあげましょうか。誠二の首を絞めながらすると、通常より何倍も膨らんで興奮してくれるんですよ。彼は根っからのマゾ……』
「やめて!! やめてぇぇ!!!」
『……ああ……、誠二のが……私の中に………。んっ、んっ……』
「ああ!! ダメ! ダメダメダメダメ!! それは私のだ! それは私だけのもの!! やめてぇぇ!」
『ふふふ………いい声で叫びますね。先生。ふふふふふふ…………』
千鶴さんの笑い声が響く。な、なんてこと……。
『先生……。今すぐ、自分のご自宅へ戻ってきてください。そこで直接対決をしましょう』
「……対決?」
『ええ、私とあなたと誠二……すべての繋がりを……今日ここですべて。言っておきますが、昨日のようには行きません。……私はもうなんでもできるのですから。ねぇ、誠二……?』
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!」
誠二くんの叫び声!
「な、なにしたの!!?」
『誠二の左の手のひらに今、ナイフを突き刺しました。致命傷ではありませんが、このままだと出血多量で死にますでしょうね』
なにをそんな冷静に……!? というか、冷静に突き刺したの……!?
「……あ、あなた………」
『私も誠二を死なせたくありません。ここから学校までは車で10分くらいですね。じゃあ飛ばせば5分もかからないでしょう。早く来てください。では……』
ツーツーツー……。
そんな、誠二くんが……。
誠二くんが………。
「……許さない……」
絶対許さない。
あの女には。沢木千鶴には正義の鉄槌を下さねば。
ふふふふ、いい? 沢木千鶴さん。あなたのやっていること。もう一度よく考えて見なさい。
一生地の底で這いずり回るがいいわ。
(続く)
最終更新:2007年12月27日 13:47