33 名無しさん@ピンキー sage 2008/01/13(日) 12:38:51 ID:6ogpzyZj
幾度となく流転生死を経て尚、未だ彼岸へ辿り往けぬ、業深き日輪が、今日も、死ぬ。
沈み逝く金烏の慟哭が、赫々たる夕照へと姿を変えて、せかいを包む、そんな、繰り返される営みの中。
虹彩を焼き焦がすかのような、赫焉とした、空火照りの“あか”とは対照的に、
少年──ゆみなの顔には、海神のごとき“あお”が貼り付いていた。
──今月も、来たんだ。この日が。
少々品を欠く話になるが、ゆみなは男の子であり、旗日特有の体調不良に苛まれているわけではない。
言葉通り、来るのである。
「……わっ」
彼の。
「迎えに、来た」
妹が。
──。
年若い男女が、腕を組んで、道の往来を。
それも、片割の通っている学び舎の学区内を歩けば、
好奇の視線に晒されることは、道理だった。
痛い。痒い。苦しい。そして何より、恥ずかしい。
そんな、ゆみなの──兄の内心を知ってか知らずか、
妹は──とおみは、彼女にしては珍しく、
控えめに、されど、一見してご機嫌とわかる、木漏れ日のような笑顔を咲かせていた。
34
妹オプション。2 2/2 sage 2008/01/13(日) 12:39:40 ID:6ogpzyZj
「兄さん、どうして、顔を伏せているの?」
それは、衆目がこそばゆいからだよ。
何処かの童話の狼よろしく、ゆみなは、そう心中で呟き、心持ち速めに、歩を進めた。
「……見て。影、伸びてる」
──ようやく、人通りの疎らな土手へとさしかかったとき、
とおみが、ゆみなの瞳を見据え。──見下ろし。
夕陽に煌く川面へ伸びた、二条の影をゆび指して、そう言った。
──そういえば、昔もよく、この子と一緒に、ヘトヘトの帰り道を、手を繋いで歩いたっけ。
もう、戻ることのできない日々たちへと、兄は思いを馳せていた。
暖かくて。幸せで。懐かしい、記憶。
それでも、不思議と寂寥の想いに駆られないのは。
「伸びて。繋がって。きらきら」
とおみが、ここにいて、心が何処か、温いから。
そうに違いないと、ゆみなは、そっと朗笑した。
「帰ろう」
少し、さっきよりも、強く腕を組んでみたりして。
つづく。
最終更新:2008年01月20日 13:18