無題11

92 名無しさん@ピンキー sage 2008/01/16(水) 02:45:41 ID:rif8StXo
「三月のライオン」という映画があるそうです。
 寡聞にして内容までは存じません。近所にお済みの方々は、映画を見る習慣がなく、話を聞くことができなかったのです。
 ただ、お屋敷で働く女中の方から、大まかな内容は伺うことができました。なんでも、事故で記憶喪失となった兄を騙して
恋人に扮する、糞にも劣る愚悪な妹の物語であるとのこと。糞ってなんでしょうね?
 兎角、それを聞いたとき、わたしは大変驚きました。
 どんな精神構造をしていれば、それを是として実行させるのでしょうか。とても理解できません。そんなことをする人がい
るだなんて、想像すらいたしませんでした。

 ――なんて素晴らしい。

 啓蒙されたわたしは、愛しの兄様で試してみることにいたします。


 必要なモノはなんでしょうか。
 機械音痴のわたしには、インターネットなんてものは縁遠い。加えて郊外にある図書館に足を向けることも稀にあるかどう
かと云う出不精っぷりを発揮しております。人を記憶喪失にするにはどうしたらいいかなんて、想像することすらできません。
 仕方なしに、一番親しい友人のこころさんに電話で相談してみることになりました。


† † †


93 名無しさん@ピンキー sage 2008/01/16(水) 02:47:26 ID:rif8StXo
 こころさん、こころさん。人が記憶喪失になるときってどんなときですか?

「……質問の意図が分かんないんだけど」

 なにかおかしなことを訊ねたでしょうか?

「否、いい。聞かない。面倒事っぽいからね。それでなんだっけ」

 もぅ、こころさんったら。悪いのは頭と顔だけにして下さいな。
 人を記憶喪失にするにはどうしたらいいでしょうか、と質問したのです。

「……質問の内容、変わってない?」

 変わってません。呆けてないで、しっかり聞いていて下さいな。

「……相変わらず丁寧口調の癖に口癖が悪い……まぁいいけど。
 人を記憶喪失にする手段……ねぇ? そりゃ薬品を使うとか、精神的なショックを与えるとか……」

 ふむふむ。

「まぁでも一番古典的なのは、やっぱ頭を殴ることなんじゃない? オーソドックス且つシンプル。無駄がないっしょ」

 頭をなぐ……もとい叩く、ですか。それはどんな風に?


94 名無しさん@ピンキー sage 2008/01/16(水) 02:48:12 ID:rif8StXo
「えっと、昔のアニメとかで見たことない? 都市猟師なんかだと5tって書かれたハンマーで頭ぶん殴ってたけど」

 5トン……やだなぁこころさん、それじゃあ頭なんて簡単に潰れますよ?

「……電話越しに可哀想なモノを見る目であたしを見るな。あーもう! さっきのはアニメの話だって! デフォルメされてん
の! まったくもう、そんくらい分かるでしょうに」

 生憎と日本のアニメからは縁遠い生活を送っておりますので。

「くそう、このジョンブル小娘め。丁寧なのは言葉遣いだけか」

 なんのことでしょうか。ちなみにブラックジョークの本場はブリテンですが。

「……もういい。あんたと話すと疲れる。で、もう良い」

 最後に質問を一つだけ。

「はいはい、なんざんしょ」

 どのくらいの重さのモノで叩けば、記憶って飛ぶものなんでしょうか。

「そんなの決まってるでしょう。――くらい重ければいいのです」

 なるほど。


† † †


 受話器を置きながら、わたしは親友に感謝します。やはり持つべきものは博識な親友ですね。まぁ、面と向かって親友などと
呼ぶつもりは欠片もありませんが。
 時計を確認すると、兄様がお帰りになるまでもうしばしの時間があるようでした。これは幸運。今の内に準備を進めるといた
しましょう。

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最終更新:2008年01月20日 13:26
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