監禁トイレ②

290 名無しさん@ピンキー sage 2008/01/25(金) 19:04:13 ID:prQt5eKX
「オカアサンネ、スキナヒトガデキタノ」
母親は夕食の席で、唐突にそう告げた。双子は顔を見合わせ、首を傾げる。
「「好きな人ってだれ??」」
母親は年甲斐もなくどこか恥ずかしそうな笑顔を浮かべて
「今度会ってみようか?」
と問い掛ける。双子は訳も分からないままとりあえず、頷いた。
そして、二人は出会う事になる。角倉達哉(かどくらたつや)という少年と。


「選ぶって何さ!?訳分かんないよ!!」
あらんかぎりの声で叫ぶ。姉ちゃんの理解不可能の言葉は、恐怖へと形を変え、僕を苛む。考えてみてほしい。
頭を殴られて誘拐。
起きればトイレ内に監禁だ。
そのうえで「選べ」と言われてハイ、と言う人間がいる訳がない。
そもそも相手は僕の義兄弟なのだ。倫理的にまず有り得ない。
それに僕はこれでもNoと言える人間を目指しているので、当然却下だ。
ただし。

「だから私と蕾、どっちを愛してくれるか、よ。絶対に選んでもらうからね?私を。その為にずっと準備してきたんだから」

相手がこの人なら話は別だ。

もし断れば次は何をされるか分かったものじゃない。素直に従うしかない。僕は長いものには巻かれる人間でもあるのだ。ここが公衆トイレならば誰かしら通りかかる事もある。いざとなったら、その時に声を上げれば良い。

「ここは誰も通らない静かな所だから。邪魔は入らないから、ね?わざわざ人が通らない場所選んだんだから…」
「…」
いきなり案が潰された。というかこの人、蕾の存在を軽く忘れてないか?
萌姉ちゃんはやけに熱っぽい瞳で僕を見つめてくる。背中に回された手からの圧力が増した。

なら携帯電話だ。多少危険かもしれないが外部に助けを呼ぶならそれしかない。

「あ、あとしばらくコレは預かっておくからね?」

「え?あ、あぁ…!!」



291 監禁トイレ② 1-2 sage 2008/01/25(金) 19:07:22 ID:prQt5eKX
姉ちゃんの手が尻ポケットから携帯を抜き去った。高く掲げた右手には僕の携帯が。慌てて手を伸ばす。しかし、姉ちゃんはさっと立上がり自分のジャケットのポケットにしまいこんだ。

…なるほど。つまり姉ちゃん、それに蕾も、説得しなければならないのか…。
ちなみに全然冷静ではない。状況が絶望的過ぎて体が震えている。
キシキシキシ。
震動は鎖を経由し、手錠と手すりの間でかすれた摩擦音を発生させる。
萌姉ちゃんは電源を切った後、僕の携帯を眺めて「私も次はこれにしようかなぁ…」と呟いている。同じ空間にいて、このテンションのギャップは何なのだろうか。何にせよ、まずは情報だ。聞きたい事が山程ある。

「姉ちゃん…」
「なぁに?もしかしてもう私を選んでくれるの?」
「いや、そうじゃなくて…」
「まさか蕾を選ぶ訳じゃないよ、ね…?」
予備動作無しで姉ちゃんの顔が表情を無くす。笑顔から、無表情。紙芝居を見ているような気分だ。
「違うよ、違う。そうじゃなくて…この事、親父と花苗さんは…知らないんだよね?」
今度は紙芝居の逆再生。姉ちゃんの顔に表情が戻る。
「知らないわよ、知ってたら止めたでしょうからね」
「…だろうね」
予想通りなので驚きはしない。もし知っていたら、何がなんでも止めただろう。特に親父は。何せ僕と二人を離したのはあの人だ。
僕は都内の高校に進学。寮住まい。
二人は女子高に進学。実家から電車通学。
僕はそのまま附属の大学に進学し。高校進学以後、帰省すら出来なかった。親父からの許可が下りるまで、実家に帰ることは禁止されていた。

仕方のないことだと思う。僕が異性と関わりを持つ度に、双子は暴れ出す。向かう矛先は僕と相手。それが誰であろうとお構いなしだった。
それが例え、彼女達の実の母親だったとしても。


292 監禁トイレ② 1-3 sage 2008/01/25(金) 19:08:59 ID:prQt5eKX
僕の部屋に夜食を届けようとしたばかりに。
僕の義母、花苗さんは殴られ、蹴られ、それでも決して二人を見捨てようとはしなかった。
親父は花苗さんから娘を引き離す事を良しとせず、僕が都内の高校へと進学する事になった。



あれから五年。
まさかこんな形で再会するとは思わなかったけれど。

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最終更新:2008年01月27日 20:17
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