375
監禁トイレ③-1 sage New! 2008/01/27(日) 16:52:20 ID:t5X4Dk6w
母親は何も説明してはくれなかった。よそ行きの服を着せられ、着いた先はホテル。
―――とにかく、大きい。
二人は思った。落ち着きなく周りを見渡す。どこもかしこもピカピカだ。客も従業員も、肩肘張った姿勢で歩いていく。うっすらと浮かぶ笑顔もどこかこわ張っている。
幼さ故か。双子は一種過剰な愛想の満ちた空間に、戸惑っていた。母親も緊張した表情で誰かを待っている。
きっと「スキナヒト」が来るんだ。
双子は互いに頷き合うと、母に倣って椅子に座った。しばらくして母親が立上がり、入口に向かって手を振る。視線を追った先には母より歳のいった男性が。そして、男の影に隠れるように少年と少女が立っていた。
376 監禁トイレ③-2 sage New! 2008/01/27(日) 17:10:53 ID:t5X4Dk6w
壁にもたれ、足を伸ばす。
トイレの床なんて座る気にもならない。だが手錠のせいで、立てるのは良くて中腰まで。長丁場になるなら体力は温存しておくべきだ。左の腿辺りに陽射しが当たる。窓に目を向け、外界を夢想して溜め息をつく。大分日が高くなってきた。
これが、まずかった。
時間経過を意識した途端、人間としての欲求が首をもたげる。
食欲はまだ良い。
いずれ直面する深刻な問題だ。しかし、現状それよりも問題なのは尿意。まあ場所は問題ない。
ここトイレだし。ただここには、僕以外の人間が二人もいる。しかも女の子。あまり悠長な事はしていられない。一度気付けば、尿意は恐るべき速度で膨張していく。心の蛇口を緩めれば、すぐにでも…
…漏れそうだ。
「あ、あのさ、姉ちゃん…」
僕の携帯の電池を外している姉ちゃん。蓋の裏を見て、「よし」とか言っている。
「なあに?」
それが何を意味するか分からない。が、放っておく。
「その、尿意を催した訳ですが…」
「どうぞ♪」
どうぞ♪じゃねえ。
「いや、だからですね……?」
「ああ!!そういう事ね!!」
377 監禁トイレ③-3 sage New! 2008/01/27(日) 17:14:15 ID:t5X4Dk6w
合点した、といった顔になり、僕の電話をポケットにしまう。
理解してくれて良かった。しかし寝たままの蕾は大丈夫なのか?全く起きる気配が無いのだが…
ガチャガチャ。
おい。
おいおいおい!!
「ちょっと待て」
姉ちゃんの手を押しとどめる。
「?」
何で不思議そうな顔をする。止めて当然だろう。あんた今何してるのか分かってんのか。
そう、姉ちゃんは蕾を起こす事も外に出ていく事もしていなかった。何故か僕のベルトを外し、ズボンを脱がそうとしていたのだ。
「何しやがりますか、あなたは!」
「い、言わなきゃいけないの……?たっくん鬼畜…」
何故頬を赤らめる。
何故瞳を潤ませる。
「お、おしっこ…飲んで欲しいんでしょ……?」
ああ…姉ちゃんの脳内は宇宙だ。あなたの思考は僕の手の届かないところにあるのですね。
「そんな訳ないでしょ!!席を外してくれって言いたかったんだ!!」
「やだ」
「…」
二文字で却下された。その後、膀胱の許す限り説得しようとするも、姉ちゃんは決して引き下がらなかった。「手伝ってあげる」と目をきらっきらに輝かせながら寄ってくる彼女を押さえ付け、ズボンを下ろす。
378 監禁トイレ③-4 sage New! 2008/01/27(日) 17:17:12 ID:t5X4Dk6w
便座に座り、鉄壁のガードで愚息を隠した。
「ふぅー…」
水音を聞きながらようやく解放感に浸る。が、それほど素晴らしくも感じられないのだ。右手を手すりに繋がれているので、便座に座るとどうしても不自然な体勢になる。左側に腰を捻る為、運動不足の体が悲鳴を上げた。
排尿を済まし、ズボンを上げようとして……姉ちゃんに捕まった。
「ちゃんと綺麗にしたかな?」
やられた…!!
僕の左手を簡単に払いのけ、向きだしになった愚息に近付いていく。スン、スン…と鼻を動かしているのを見るに、匂いを嗅いでいるようだ。次に何をしてくるかは大体予想がつく。だからこそ何としても阻止しなければならない。もしも阻止出来なかったら。僕は墜ちる。
「や、やめろって…頼むからやめてくれ…やめてください」
「ふふっ…可愛い…。寒くて縮こまっちゃってるのかなぁ?それとも恥ずかしがり屋さんなのかなぁ?」
どちらかと言うと未知の恐怖で、です。
「頼むから!!頼むからやめてくれ!!お願いだから…」
「可愛い過ぎて食べたくなってきちゃったよ…はぁ……いただきまぁ…」
―――ブーン、ブーン、ブーン。
姉ちゃんのポケットから振動音が漏れる。
379 監禁トイレ③-5 sage New! 2008/01/27(日) 17:18:10 ID:t5X4Dk6w
忙しなく瞬く光も見えた。
「あ、もう時間なんだ…」
液晶画面を見ながら残念そうに呟く。
今の内に履いてしまおう。急いでズボンを履き、ベルトを締めた。
…手を洗うのは…この際我慢するしかないのだろうか…?トイレの水を流し、また最初と同じ位置に座りこ
もう
と、し
て
萌姉ちゃんの右手が目の前に迫っていた。口には柔らかい布地の感触。ふわりと洗剤の匂いがしたがそれも一瞬。猛烈な息苦しさが迫る。
窒息する…!!
柔らかな凶器から逃れようともがく。もがく。もがく。苦しくて堪らないのに、押し寄せてくる眠気は心地良かった。真っ暗な穴が僕を飲み込んでいく。
全てが、黒く塗りつぶされた。
最終更新:2008年01月27日 21:16