監禁トイレ⑥

577 監禁トイレ⑥-1 sage New! 2008/02/04(月) 12:23:11 ID:y/zCHf3z
「やめてよ!!痛いよぉ!!」
「ほら、たっくんが痛がってるでしょう!!」
「お姉ちゃんこそ放してください。最初にお兄ちゃんと遊ぶ約束したのは私です」
ぎりぎりと腕が引っ張られる。
「何してるのッ!!」
母は双子を怒鳴りつけ、少年から引き離す。少年の両腕はぶらぶらと垂れ下がる。さながら操られる事を忘れた人形のように。
少年は泣き喚く。その両手は暖簾の如く、無抵抗にただ揺れるのみ。
母親は青ざめ、すぐさま病院へ連れて行く支度をした。


結論から言って少年は両肩を脱臼していた。


少年が病院から戻ってくるまでの間、リビングでは双子が睨み合っていた。
一言も発する事なく。
けれど視線で全ての感情をぶつけあって。
亀裂は、もう修復不可能なところまで深く皹入っていた。








578 監禁トイレ⑥-2 sage New! 2008/02/04(月) 12:24:21 ID:y/zCHf3z
後悔している。
そりゃあもう、物凄く後悔している。
不用意に「良いよ」と言ってしまったのが、まずかった。

「はむっ…んっ、ぐっ、はぁ…んっ」
口からはくちゃくちゃと咀嚼音が漏れ出ている。
問題なのは「二人で一つ」の咀嚼音。

ああ本当に、心底後悔している。



それはつい30分前の事。
「…」
「……」
「…何故黙るんですか、義兄さん」
「いや、別に…」
今日で何回目の脱力だろうか。恐怖であったり悲しみであったり呆れであったり。いずれにせよネガティブな意味での脱力しかしていない。そろそろゆったりとした平和な脱力感が欲しいものだ。
「で、してくれるんですか?してくれないんですか?」
「あ…えっと…良いよ」
僕の返事を聞くと、蕾は自分の足下に置いたリュックを開く。そこから市販のおにぎりや惣菜パン、飲み物を取り出した。
それらを抱え、僕の隣に座り込むと、食糧を床に並べ始めた。
「あ、おにぎりの包装は片手じゃ無理ですよね」
そう言って蕾は梅おにぎりを手に取る。それよりせめて下に何か敷いてもらえないだろうか?床に無造作に転がる食糧。あまり食欲を掻き立てられないのだが…。


「出来ましたよ、義兄さん」
左手におにぎりを渡される。
「それじゃお願いします」
面倒臭い上に回りくどい。何故こんなやり方で食事をするのだろうか。おにぎりは思いのほか美味しそうに見えた。多分、それだけ腹が減っていたのだろう。
そういえば昨日から何も食べていなかったっけ…。
そんな事を考えながら義妹の口におにぎりを差し出す。

ぴしゃり

…痛え。

「何故手を叩く?」
「あなたは馬鹿ですか?誰がそんな食べさせ方を要求したんですか」
「お前だろう」



579 監禁トイレ⑥-3 sage New! 2008/02/04(月) 12:26:31 ID:y/zCHf3z
盛大に溜め息をつかれた。

「はぁ…。ここまで鈍いとは思いませんでした。分かりました、じゃあそのおにぎりは義兄さんが食べてください」

…。

…何なんだよ。

…本当に何なんだよ?

腹立ちを顎に込めておにぎりに食らいつく。ぱりっ、と爽快な音の後を海苔の香りが追従する。ひやりとしたご飯も、空腹を自覚した途端熱を帯びだした胃にはちょうど良く感じられた。梅の酸味が唾液を促す。
美味しい。
素直にそう思った。

「むぐっ!?」

唇を何かが塞ぐ。

まさか…またハンカチか!?
至福のあまり目を閉じていたのがいけなかった。だが、目の前には予想だにしない光景が待ち受けていた。
僕の唇を塞ぐのは、やはり唇で。当然その持ち主は、蕾だった。

「んん゛ッ…!!」

口内に生暖かい息が、涎が、舌がなだれ込んでくる。口に入れたおにぎりは舌に絡めとられ、蕾の口内に吸い込まれていく。
間近で見る蕾の顔は今まで見た事のない顔だった。目尻に涙を溜め、それは今にも零れ落ちそうだ。鼻息が頬をなぶる。くすぐる、の範疇に収まりきらない程に荒々しく。
白い肌はピンクに染まり、今にも湯気を立ち上ぼらせる様。



つまり彼女の「食べさせて」はこういう事だったのだ。一般的に口移しと呼ばれる行為。コレはそれの進化版といったところか。
…むしろ劣化か。
こんな「食べさせて」を誰が理解出来るのだろう。
鈍い?
この場合は僕が鈍いじゃないだろう。蕾、お前が凄いだけだ、色んな意味で超越してるよ。ブラボー。





580 監禁トイレ⑥-4 sage New! 2008/02/04(月) 12:29:49 ID:y/zCHf3z
口に含んだ分のおにぎりをほとんど奪い去ると、唇が離れた。二人の涎が名残惜しそうに橋をかける。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「はぁ…っんく、はぁ…ふぅ…」
互いの口から白い息がぽつ、ぽつ、とわき出る。トイレの中が冷えきっていたから、だけではないと思う。
「ふふっ…安いおにぎりも義兄さんの口で食べるとこんなにも美味しくなるんですね…」
僕はどうしたものか分からない。まず処理するべきは口に溜まった唾だ。これをさっさと吐き出してしまいたい。ただそれを見た蕾がどんなリアクションをするか…。
一瞬脳内に浮かんだのは舌を食いちぎられる図だ。監禁されている間に、僕の想像力も大分愉快な方向へ鍛えられたようだ。
手近にあった飲料水を口に含み、不純物を一気に流し込む。腹を壊さなければ良いのだが。
「義兄さん。続きを」
今度はサンドイッチを差し出してきた。



前言撤回。
これが中止になるのなら何でも良い。
早く壊れろ、僕の腹。


ツナサンドが、迫ってくる。

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最終更新:2008年02月04日 23:46
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