ハルとちぃの夢 第5話

613 ハルとちぃの夢 sage 2008/02/05(火) 18:19:38 ID:gFkNYsmZ
 その日の朝、遥が康彦の部屋に侵入しようとしていた。
 昨日にトラウマを発症させた兄の身体を心配して、というのが建前としている。

 「兄貴、まだ寝てるよね?」
 小声で言いながら、兄を起こさないよう、慎重にドアを開ける。

 部屋の中では、康彦が規則正しい寝息を立てて熟睡していた。
 それを見た遥は安心して、胸を撫で下ろす。
 ”これなら早起きも悪くないな”
 そう思うと、普段の自分の低血圧が妬ましく感じられる。

 遥は足音を立てないよう、慎重に兄のベットに近付く。
 そして兄の顔を覗き見ると、自然と顔が綻んできた。
 ”この寝顔…私だけが、私だけの…”
 普段に、生意気で兄の事を意識していない妹のフリをしている為か、こういう時に暴走が止まらなくなる。
 ”キスしようかな?…男の人は朝に元気だって聞いたから…”
 遥にとって幸せな妄想が頭の中を占めると、真っ赤に染まったその顔は 締まりが無くなっていた。

 そんな中、康彦の携帯が遥の目に止まった。
 そうなると、その携帯が遥にはどうしても気になり出してしまう。
 ”今は別の事をしたいんだけどな”
 そう思いながらも、遥は康彦の携帯を手にとった。

 着信アリ、256件
 「はあ?」
 画面に表示されたその文字を見た時、遥の口から間抜けな声が漏れた。

 マナーモードにしてあった為、疲れ切っていた康彦が気付かなかったのだろうが、それでも異常な着信数である。

 どんな奴がかけてきたのか、そう思った遥は、着信履歴を調べてみた。
 「はあ?」
 前の焼き回しのような溜め息が、また遥の口から漏れた。
 発信相手の名前が”?”になっていたのだ。
 そして、256件全てがその”?”からのモノだったのだ。

 女か、そうと思ったが断定は出来ない。
 この兄は時に厄介な相談相手を持つ事がある。
 以前にも、友人だという相手からの相談を一晩中受けていた事もある。



614 ハルとちぃの夢 sage 2008/02/05(火) 18:21:45 ID:gFkNYsmZ
 かけ直して確認したかったが、相手の性別も分からない中で、痕跡が残るような真似は裂けたかった。
 兄のプライベートである携帯を確認した、という事実をまだ、知られる訳にはいかないからだ。

 「全く兄貴は…」
 携帯を閉じ、眠る康彦の顔を見ながら、遥が苦笑とともに呟く。

 困っている相手は放っておけない、頼られれば全力を尽くす、そう言った部分は遥が兄を好きになった理由の一つだ。

 大概にして欲しい、と思う事もある。
 昨日の寝不足も、この電話相手が理由だろうし、自分の身体を考えればほどほどにしてもらいたい。
 そんな相談相手が泥棒猫に化けないとも限らないからだ。

 そんな遥の心配をよそに、康彦は安らかな寝息を立てている。
 「やっぱり兄貴には私が必要だよね?」
 兄の寝顔に顔を近付けながら、遥が呟く。

 遥がなりたいのは、かつての楓のような、唯一無二のパートナー。

 「こういった問題も、二人で力を合わせて解決していこう」
 兄の唇に自分の唇を近付けながら遥が続ける。
 「これはそんな誓いの…キス…だから…」
 自分に言うように呟き続ける。

 「兄ぃ大丈夫!」
 後一歩の距離を詰める前に、智佳の元気な声が康彦の部屋に響いた。

 その声で康彦が起きてしまった為、康彦の頭が遥の鼻に激突すると言う事故が起きてしまい、遥は悶絶する他なかった。

 「何やってんだ、お前は?」
 呆れたよう康彦の言葉に、遥は、何でもない、と涙目で答えた。



 そんな遥を、暗い瞳で見つめる智佳の姿があった事には、康彦も遥も気付かずにいた。

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最終更新:2008年02月12日 23:08
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