675 君子 sage 2008/02/08(金) 18:54:06 ID:lAtZlxth
「君子のお兄ちゃんってどんな人?」
中学校のお弁当の時間、一緒に食べていたともみが聞く。
「んー、たいしたことないよ。ちょっとひょろくて、メガネのダサ男だけど…」
「ともみのお兄ちゃんって、イケメンなんでしょ?いいなあ」
一人っ子のみゆきがうらやましがる。
「お兄ちゃんなんてメンドクサイだけだよー、みゆきもお兄ちゃんがいたら分かるって」
わたしは、二人のやり取りを聞き流していた。
わたしの兄は、どちらかというとごく普通の顔立ちで決して美男子ではない。
わたしははっきりって兄が好きだ。
彼に魅力を感じるのは、わたし独特な感性のせいなんだろう。
母親が夕飯の支度をしている。わたしはおこたでお茶を飲んでいる。
兄は母親の命令で仕方なく風呂掃除をしていた。
「ふう、めんどくさいなあ」
投げやりながらも、几帳面な性格の兄は丁寧に風呂桶を磨いてゆく。
きれいに磨き終えた兄は、泡を水ですすぎ落とし風呂桶に水をためてゆく。
水位センサーのスイッチを入れセット完了。
「おわったよー」
兄はぶっきらぼうな声を出し、自分の部屋へ帰る。
わたしは、その後こっそりと風呂場へ忍び込み水位センサーのスイッチを切る。
45分後、センサーが鳴らないのを不審に思った兄が風呂場へ様子を見る。
「うあぁ!!」
風呂桶から水がじゃぶじゃぶと溢れ出し、床には洗面器がゆらゆら浮かんでいた。
「水道代が勿体無いでしょ!!」
「いてててってて、ちゃんとセンサー点けたって…」
耳を母親から引っ張られる兄。
わたしは、おこたでポリポリとえびせんをかじりながらその光景を見ていた。
(うん。いいぞ…)
わたしの中で、いたずらっ子の心がうずく。
676 君子 sage 2008/02/08(金) 18:54:40 ID:lAtZlxth
わたしは兄の困っている姿を見ると、非常に愛しくなる。
さらに、その後わたしに罵声を浴びせさせられるもんなら、この上ない喜びだ。
そのことにより、わたしは兄とのつながりを深くかみ締める。
「まったく、兄貴はダメねえ」
「うるさいっ。あっちいけ!」
最上級の誉め言葉を頂いた。
ある時、兄の部屋の掃除をしてあげたことがある。
「掃除するから、ちょっと部屋を出てってよ」
「あー、そんじゃ買い物にいってくるから頼んだ」
しめしめ。わたしは掃除機を思いっきり兄の部屋中かけまわす。
机の上は男の物としてはこざっぱりしていて、無駄なものを置いていない。本棚もきちんと整理されている。
三十分後。掃除を終え、わたしは自分の部屋に帰り、ベッドでだらだらしていると、
買い物から帰った兄の悲鳴が、兄の部屋からこだました。
掃除中、部屋を引っ掻き回してエロDVDを探し当て、きれいに机の上に並べてあげたのだ。
「どう?きれいになったでしょ?」
わたしはわくわくしながら兄に声をかける。
砕け落ちた兄は、何も言わなかった。ちぇっ、物足りないな。
この性癖に気付いたきっかけは、はっきりと覚えている。
あれは、小学四年生のとき。兄はそのとき中学二年生。
寒さの残る初春の夜のことだった。
当時、わたしと兄は同じ部屋で寝ていた。
部屋には兄が上の段、わたしが下の段という二段式のベッドがあった。
わたしは先に布団に入って寝たふりをしていた。まだまだ眠くないのに。しかし、兄がうるさいのだ。
薄目で兄を見ると、こそこそとなにかを隠していた。いい物を見た。
兄が寝静まった頃、わたしはこっそり起き出し兄が隠したものを見つける。
「ふーん。これだなぁ」
女の子へのラブレターって事は、小学生のわたしにもすぐ分かった。
声に出すのもこっぱずかしい、中学生の恋文。
わたしはラブレターを封筒から出し、便箋に茶色の蛍光ペンで大きくうんこの絵を描いてこっそりしまった。
翌日、興奮しながら兄はうんこのラブレターを持って登校していった。
数日後、兄はひどくショックを受けているように見えた。
兄に近づきこっそり耳元でつぶやいた。
「あの絵、わたしが描いたんだよ」
泣きながらげんこつをくらわす。あのげんこつが忘れられない。
677 君子 sage 2008/02/08(金) 18:55:01 ID:lAtZlxth
今考えるとガキくさいことをしている。
しかし、中学生になった今でも同じようなことをしてると言うことは、わたし全然成長していないな。
もしかして、誰にも兄を渡したくない、わたしだけに目を向けて欲しいという気持ちが
ひねくれてあらぬ方向で現れているのかもしれない。わたしって、不器用だ。
わたしとともみ、みゆきは学校から帰る途中、兄に会った。
バイトの帰りか、焼き芋を抱えている。
「おーい君子」
「うるさいよー」
「おい、ちゃんと返事しろ」
飾り気のない兄妹の会話。兄は、ともみとみゆきの方に目を向ける。
「…ん?君子の友達の?」
「はじめまして」
「ふーん。君子となかよくしてくれてありがとね。そうだ、これ食べなよ」
兄は焼き芋を三つわたし達にくれた。
「わーい。ありがとうございまーす!」
「ともみもみゆきも現金だなあ」
ともみとみゆきは焼き芋をもごもごと食べながら笑っていた。
「いいなあ。君子のお兄ちゃん、優しくて」
一人っ子のみゆきがうらやましがる。
「うちのお兄ちゃんなんか、全然そんなことしないよー。わたしのお兄ちゃんになってくれないかなぁ」
ともみも焼き芋をほおばりながらつぶやく。
わたしは、思わずともみのわき腹をつねる。
ともみは焼き芋を吐き出した。
おしまい。
最終更新:2008年02月12日 23:21