ハルとちぃの夢 第8話

122 ハルとちぃの夢 sage New! 2008/02/12(火) 13:45:55 ID:3YBiEHFj
 「お祭り?」
 「そう、土曜にあるお祭りに、私達を連れてって貰いたいの!」
 その日の朝、康彦は二人にそんな頼みをされていた。

 「けど、アレは兄妹で行くようなモンじゃないだろ?」
 土曜のお祭りは、通称”カップル祭”と呼ばれる縁結びのお祭り。
 康彦の考えは、至極真っ当なモノだ。

 「何?兄貴は私達の良縁を望んでくれないの」
 遥が声を荒立てる。
 「いや、別にそう言う訳じゃ…」
 と、圧倒される康彦に、
 「兄ぃ、冷たい」
 と、智佳まで落ち込んだフリをした声を出して、遥を援護する。

 「別に連れて行くのが嫌な訳じゃないんだが…」
 「じゃあ!」
 二人のコンビネーションに圧倒され言う康彦に、喜ぶ二人。
 だが、
 「俺、その日はバイトなんだ」
 との康彦の言葉に、二人共、一気にテンションを落とした。

 「勤務表じゃあ、休みになってるよ!」
 遥が、冷蔵庫に張り出されているバイトのシフト表を、指差しながら怒鳴る。
 「あ、そうか、まだ言ってなかったな」
 康彦もそれを見ながら言う。
 「変わったんだよ、後輩の娘と」
 ここしばらく、色々と有りすぎて、康彦自体も忘れかけていた事を、二人に伝える。

 「後輩の娘?」
 智佳が興味深そうに、康彦の顔をみる。
 「そ、後輩に…」
 康彦は、一度そこで言葉を切ると、遥の顔を見ながら、
 「ハルは知ってると思うけど、鈴ちゃんに頼まれたんだ」
 と、言葉を続けた。

 確かに鈴の事なら、遥は知っている。
 何せ、自分に告白してきた相手なのだから。
 「何で変わってあげちゃうの?」
 それでも、納得のいかない遥が、康彦に噛み付く。
 「何でって言われてもなー」
 「あそこまで真剣に切羽詰まった感じで頼まれたら、断れないからな」
 その時の様子を思い出しながら康彦が言う。
 「鈴ちゃんは良い恋人さんに巡り会えたんだろうな!」
 長い付き合いの後輩を祝福する様に言って、
 「お陰で今日に休みを貰えたしな」
 と、話を閉めた。


123 ハルとちぃの夢 sage New! 2008/02/12(火) 13:47:51 ID:3YBiEHFj
 康彦の最後の言葉に、何故か二人共、まるで正反対の反応を示した。
 「何で…今日休みなんて聞いてないよ!」
 と、怒り始めた遥。
 「ほんと?ほんとに今日は早くに帰ってきてくれるの!」
 と、嬉しそうに言う智佳。
 この真逆の反応に康彦は、”シフト変わったからな”としか答え様がなかった。
 その後に、
 「ちぃちゃん、抜け駆けは…」
 と、遥が智佳の顔を見ながら言えば、
 「大丈夫!約束は破らないよ」
 と、楽しそうに答えた智佳。
 このやり取りの意味は、康彦には理解出来なかった。

 「兄貴が今日、休みなら私だって…」
 何か納得がいかない様に遥が呻く。
 そして、
 「決めた!」
 と大声を出すと、
 「お祭りの日に、兄貴の店で高い物を奢って貰う!」
 と、康彦に宣言した。

 「どんな脈絡があって言ってるんだ…」
 「兄貴はその日もバイト何でしょ!」
 微妙に困惑する康彦に、遥が食い下がる。
 「なら、お祭りの時ぐらい、妹にサービスしても問題ないはず!」
 ビシッと康彦を指差しながら言う。
 「私、パフェが良いなぁ」
 と、智佳も上目使いで康彦をみる。

 「あのなー」
 怒るに怒れず、呆れた声を出す康彦に、二人が謀った様に声を合わせ、
 「お願い、お兄ちゃん!」
 と言うのに、康彦も負けて、
 「祭の日だけだからな」
 と、答えてしまった。

 「お祭りの日はよろしくね、兄貴!」
 「兄ぃ、ご馳走になります!」
 それぞれに喜ぶ二人を見て、康彦も、”まっいいか”と思っていた。



124 ハルとちぃの夢 sage New! 2008/02/12(火) 13:49:12 ID:3YBiEHFj
2
 その日、学校にいる間も、智佳は終始ご機嫌だった。
 康彦のバイトが休み、
 だけでなく、遥が部活から帰ってくるまで二人っきりになれるからだ。

 普段なら、康彦の休みに合わせて、遥も部活に休みを取っている為、有り得ない事なのだが、
 今回の様に、突発的に康彦が休みになった時に、遥は部活を休めない。

 こう言った事態を有意義に使いたい、
 智佳はそう思う。
 かと言って、遥との約束、協定と言った方が正しい、を破るつもりはない。

 ”兄ぃを迎えに行こう!”
 学校から帰宅した智佳はまず、そう思った。

 夕飯の買い物を一緒にするのは、問題ない。
 手を繋ぐのも大丈夫だろう、3人で買い物する時にやっている。
 腕を組むまでも許されるだろう、その時に女を意識させたとしても。
 そこまで考えた時、智佳は思わず、自分の胸元を見た。
 ”まだ、小さいからなあ”
 年齢としては平均なのかも知れないが、これで兄に”女”を意識させられるかは、智佳には不安だった。
 「成長中成長中!」
 自分の不安を取り払う為に、声に出して言う。
 「兄ぃに大きくして貰うんだから、問題ない!」
 力強く自分に言い聞かせると、康彦の帰ってくる時間に合わせて、智佳は家を出た。



125 ハルとちぃの夢 sage New! 2008/02/12(火) 13:50:43 ID:3YBiEHFj
 帰宅中、康彦は再び、あの女子高生に捕まっていた。
 前日に電話した時に、今日が休みになった事を言ってしまったのかも知れないが、
 それでも、特に約束を交わした覚えはない。

 「お帰りなさい、お兄さん」
 ここに居る事が当然であると言わんばかりに、相手が声を掛けてくる。
 「あー、ただいま」
 何がただいまなのか、分からないままに、相手に合わせて康彦が答える。
 「で、今日は一体、何の用?」
 何と答えるか、分かっていながら、康彦が聞く。
 「二人の事…、決まっているじゃないですか」
 そう答えた相手は、何が嬉しいのか、口許には微笑を浮かべている。

 「何度も言ったけど、俺はあの二人が幸せになるなら、それを邪魔する気はないよ!」
 「何度も伺っておりますよ」
 やや強い調子で言った康彦の言葉にも、相手は微笑をもって受け流す様に答える。
 その態度に康彦は軽い溜め息を付きながらも、
 「俺は多分、君が思っている以上に、二人の事を大事に考えてるんだぞ!」
 と、更に強い調子で、淀みなく相手に伝える。
 「なら、私も言っておきましょう」
 相手が、そこで一拍置いてから言葉を続ける。
 「私はあのお二人の恋愛を成就させる為なら何でも…」
 「例え、この身を犠牲にする事さえも出来ます」
 淀みなく、どこかに狂気を含んだ言葉を出す。



126 ハルとちぃの夢 sage New! 2008/02/12(火) 13:52:20 ID:3YBiEHFj
 「君は本当に、アイツとはただの友達?」
 相手の狂気の元を探れず、康彦が聞く。
 「えぇ、親しいクラスメート、それ以上の気持ちはありませんよ」
 「それなら…」
 「貴方にはどう説明しようと、分からない事です」
 質問を続けようとした康彦を、跳ね退けるかの様に、信念を感じさせる強い口調で相手が答える。

 「今日はその事だけをお伝えしたかったので」
 茫然とする康彦に、相手が声をかける。
 「覚えておいて下さいね」
 「私はあの二人の為なら何でも出来る、という事を」
 その言葉を捨て台詞に、相手は康彦の答えを待たずに、その場から立ち去って行った。

 もはや康彦には相手の本心が分からなかった。
 純粋に遥の事を心配しているのか、それとも別の目的があるのか、答えが出ないまま、その場に立ちすくんでいた。

 「兄ぃ!」
 「うわっわっ!ち、ちぃ…」
 突発に現れた智佳に、康彦は不意をつかれた声を出す。
 そんな康彦を智佳が不思議そうな目で見守る。
 「ちぃ、あんまり脅かさないでくれ…」
 「?」
 康彦の反応に智佳は首を傾げながらも、聞く。
 「兄ぃ、今の人、誰?」

 智佳に聞こえたのは、あの二人がどうとか、二人の為なら、とかの断片的な台詞。
 だから、聞いてみたのだ。
 「うーん、誰って聞かれても…」
 康彦は答えに詰まった。
 遥の友人だ、と答えれば、自分が二人の関係を知った事を、二人が気付くかもしれない。
 それはまだ、避けたかった。
 だから、
 「俺にとって、とっても大事な二人の事を考えてくれる人だよ」
 と、曖昧にぼかす様にして言った。

 「ふーん…」
 康彦の言葉で智佳は納得した訳ではないが、
 康彦の眼に相手の姿が写っていない事や、楓と接していた時のような表情をしていなかった為、
 「まぁ、いいや」
 と、その場では追求せす、
 「兄ぃ、買い物を付き合ってよ!」
 と、戸惑う兄の手を引っ張って歩き出した。



127 ハルとちぃの夢 sage New! 2008/02/12(火) 13:53:54 ID:3YBiEHFj
3
 「兄ぃ、さっきの人、誰だったの?」
 三人揃った夕飯の時、智佳がそう切り出した。
 あの女性が、遥と同じ学校の制服を着ていたので、遥と協力した方がいい、と考えたからだ。

 「さっきの人?」
 遥が智佳の話に食いつく。
 「そう、ハル姉と同じ学校の制服を着た人」
 「私と同じ学校、女の子だね?」
 「うん、兄ぃと何か話し込んでた」
 「兄貴と、ねぇ」
 そこまで話終えると、二人タイミングを合わせて康彦の顔を見る。
 「さっきも言った通りに、ある二人の事を真剣に考えてくれる人だよ」
 二人の視線を受け止めながら、康彦が答える。

 「ある二人…誰の事?
 私と同じ学校なら、私も何か出来るかもよ!」
 康彦の言葉に、遥が身を乗り出すして、聞き出そうとするが、
 「あまり、外野が騒いで良い様な二人じゃないからな」
 と、軽く受け流した答えを返される。
 「じゃあ、その娘の名前だけでも教えてよ」
 遥が食い下がる。
 「名前…、知らないんだ。あくまでその二人を通じてしか知らないからな」
 康彦は困りながら返す。
 事実、康彦は相手の名前を知らない。だから、携帯に登録してある名前も”?”なのだ。
 「凄く礼儀正しい感じがした人なのに、教えて貰ってないんだ!」
 「ん、まあ、その事自体はたいした事じゃないからだろう」
 何か嬉しそうに言う智佳に、康彦はそう答えた。
 「よっぽど、その二人ってのが大事なんだ?」
 感極まった様に聞く遥に、康彦は頷きだけで返す。
 「その二人が早く幸せになれるとイイね!」
 智佳が無邪気に言う。
 それに康彦は、
 「あー」
 と、短く答え、
 「二人が幸せになってくれさえすれば…」
 と、優しい、何か悟った感じがする微笑みを二人に見せた。
 二人とも、その微笑みの意味が分からず、顔を見合わせて首を傾げる他になかった。

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最終更新:2008年02月14日 01:32
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