監禁トイレ⑩

233 監禁トイレ⑩-1 sage 2008/02/16(土) 22:28:52 ID:zjfPIjBI
摩季は携帯電話を開いた。この場において最も相応しい者の番号を呼び出し、電話をかける。

『はい、こちら徳嶋』
人の良さそうな、落ち着きのある男の声。
「徳嶋さん…」
『おお、お嬢か。せっかくの休暇だってのにこのジジイに電話かけてくるったぁどうしたい?』
この男のいつもの口調だ。摩季が「お嬢」と呼ばれるのを嫌がっていると知っていてわざと呼んでくる。だが、彼には不思議なくらい言葉に棘が無いのだ。
刑事という職業にまるで向かない、他人を和ませ、明るくさせてしまう彼。今も摩季にいつものように注意されるのを待っているはずだ。だが、今の彼女ではその期待に添えない。
「徳嶋さん、おとうさ…両親が…死んでるの」

『……は?お、おい、お嬢』
「死んでるの。お父さんも、お義母さんも、首を、締められて…」
精一杯、つとめて冷静に、状況を説明するつもりだった。しかし口から漏れる言葉は、ほとんど無意味な情報の羅列ばかりだ。焦点の合わない言葉達は、徳嶋の脳内を存分に飛び回り、混乱させているに違いない。

『わ、分かった…!!いいか、今からそっちに警官を寄越す。何もするんじゃないぞ!いいな!絶対に、何もするんじゃないぞ!!』
彼の周りが慌ただしくなったようだ。人がバタバタと駆け回るのが聞こえる。

あぁ…自分の家族のせいでまたみんなを忙しくさせちゃったな…

『いいか!!じっとしてるんだぞ!!すぐにそっちに行くからな!!』

電話が切れた。

摩季はすぐさま別の番号を呼び出す。今度は達哉に電話をかける。

―――この電話は、電波の届かないところにあるか、電源が入っておりません。ピーっという発信―――


やはり達哉は出ない。
摩季は、唐突に立ち上がるとリビングを飛び出し、階段を駈け登る。
「萌ちゃん!?蕾ちゃん!?」
部屋のドアを順繰りに開けながら何度も双子の名前を呼び続けた。
双子がいない。

両親が死んでいる。

達哉がいない。

「まさか…あの二人…」
強盗の線もあった。無差別殺人の線もあった。事故の線だって捨てきれない。
だが摩季の頭に最初に浮かんだ犯人像は、双子達だった。


そんなわけがない。あるはずがない。いくらあの二人でも……


―――悪い予感は当たる。
徳嶋の言葉を思い出す。だからこんな考えはさっさと打ち消さなければ。


234 監禁トイレ⑩-2 sage 2008/02/16(土) 22:32:09 ID:zjfPIjBI
何か、証しが欲しい。彼女達ではないという、証しが。

萌の部屋に入り、パソコンを開く。起動音の後、ユーザー選択画面が現れる。マウスを動かし、メインユーザーをクリックした。


パスワード認証。


メインはおそらく双子の姉であろう。ならば、名前か。慣れた手つきでキーを叩く。

違う。

もしや妹か。

違う。

誕生日。

やはり違う。

「もしかしたら…」
はた、と思い付いて打ち込んだ文字は――――――TATSUYA

エンターキーを押すと、しばらくカリカリ、と音が鳴り画面が切り替わった。認証されたのだ。

「何コレ……」

画面の壁紙は、達哉の写真が何枚も組み合わされたものだった。
小さい頃の達哉。
中学に上がってからの達哉。
そして、これはつい最近の達哉。その写真が意味するのは。

彼女達は、五年間、全てを耐えていた訳ではなかったのだ。達哉は、ずっと監視されていた。
双子に。
そして摩季に。

インターネットを繋ぎ、履歴を調べる。
そしてそこには、

「手錠…サバイバルナイフ…睡眠薬に筋弛緩剤…」

様々な、いわゆる「違法性の高い」アイテムの通販サイト。そこで何点かを購入したという、確かな記録が存在した。


235 監禁トイレ⑩-3 sage 2008/02/16(土) 22:35:04 ID:zjfPIjBI
悪い予感は、打ち消したはずなのに。最悪の事実が予感の通りに訪れた。いや、最初からコレは予感などでは無かったのだ。
これは確信だ。
それに予感というぼかしを、自分が上塗りしていただけだ。
更に履歴を漁っていき、見つけた。

ここから二時間近くかかる遊園地。
そこへ向かう以外に使いどころの無い、国道の中途に位置するパーキングエリア。
そのマップが画面に表示される。すぐにそれをプリントし、その住所も頭に叩き込む。
玄関へ走り、ドアを開けた。
「連絡を受けてこちらに参りました」
地元の警官がいた。
「ご苦労様、現場の保持をお願いします」
警官達の脇をすり抜けながらそう言う。
「あ、あの…警部はどちらに…!?」
「本庁からの通達がありました。早急に犯人の追跡に入ります。現場で待機し、後続の刑事の指示に従ってください」

当然、嘘だ。この場を切り抜けるためだけの、すぐにばれる嘘。

「了解しました」

『絶対に、何もするんじゃないぞ』

ごめんなさい、徳嶋さん。弟を助けにいきます。

摩季は車のドアに手をかける。
刑事という立場も、姉という立場もかなぐり捨てて。達哉を助けにいきます。
そしてあの悪魔達を――――――


「それと、」

家に入りかけていた若い警官の背中に声をかける。
「一つ、貸してもらいたいんだけれど――――――」

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最終更新:2008年02月24日 18:49
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