ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver 二話

348 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/02/20(水) 01:00:35 ID:kTa2TZDL
二話



「そいつは困ったな…」

グレーテルには鳥の表情など分かりません。でも声の調子から、ボブが同情してくれているのは分かります。
「しかし、最低な親だな!!許せん!!こんな良い娘を…」
マッケンジーは地団太を踏んで憤っています。
「それで、俺達に頼みたい事ってなんだい?」
今なら何だってやってやるぜ、と不敵に笑うドイル。
「…」
ハマーDは地面を見つめ、微動だにしません。きっとミミズでも探しているのでしょう。何にせよ頼もしい限りです。グレーテルは丸い小石を探して、辺りを歩き回りながら、口火を切りました。
「うん、やってもらいたいのはね―――」



「グレーテル!グレーテル!!」
「あ、お兄ちゃんが呼んでる。それじゃみんな、よろしくね!」
ヘンゼルの声を聞くと、グレーテルはガバッと立ち上がり、袋にパン屑の代わりに小石を詰めて、呼び声の主へと駆けていきます。一度、小鳥達に手を振って笑顔を見せると、愛しいお兄ちゃんの下へ、一目散に走っていきました。
残された四羽は、鳴き声で返事をしながら、思ったのです。必ずこの娘を助けてあげよう、と。

「さあ!ピクニックに出かけよう、出発、進行!!」
お父さんが元気良く号令をかけます。
「ほらほら、さっさと歩いた!」
お母さんはお弁当を抱えながらも、二人の子供の背中を押します。
ヘンゼルお兄ちゃんはだりー、だりー、と阿呆の如く繰り返し呟きます。でもグレーテルが左手を差し出すと、しっかり手を繋いでくれました。
四人は、表面上はとても楽しげな様子で、森へと入ります。見事な秋晴れの昼間だというのに、森の中は真っ暗でした。先を行くお父さんとお母さんの背中も、木々の隙間から射す木漏れ日が無ければ、見失ってしまうかもしれません。
―――陽が落ちれば帰り道どころか、自分の足下だって分からないかもしれない…。


349 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/02/20(水) 01:03:34 ID:kTa2TZDL
グレーテルは右手を後ろで握り込み、一定の時間間隔をおいて、小石を落としていきました。
「駄目だわ、やっぱココ電波入らねえ…。メール送れねえじゃんかよ、有り得ねえー!」
ヘンゼルお兄ちゃんは、朝からずっと携帯電話を操作しています。もしかしたらこないだのミキちゃん(キャバ嬢、24歳)のような、ゴミ虫ビッチと連絡を取っているのかもしれません。
もしそんな事になっていた場合、相手には東京湾に沈んでもらう事にしましょう。



しばらく歩いていると、前方のお父さんとお母さんがぴたりと立ち止まりました。森の中の少し拓けた場所です。
かつては木が密生していたのでしょうが、今は一面、切り株だらけです。
「さて、俺達はちょいとこの辺りを散歩してくるから、遊んでいなさい。あまり遠くへ行くんじゃないぞ?」
お父さんはそう言いながら、お母さんから受け取った弁当箱を差し出します。
「お腹が空いたらコレを食べるんだよ?」
お母さんは目を潤ませながら、そう言いました。
―――泣くくらいなら最初からこんな事するんじゃないわよ。
そう毒づきつつも、グレーテルは弁当箱を受け取ります。
「中身何よ?椎茸入ってないよな?」
ヘンゼルお兄ちゃんは、この先に待ち受ける自分の運命など知らずに、お弁当の中身を気にしています。
「それじゃ、行くからな…」
「仲良くするのよ…」
二人は森の中へ消えていきました。

「何だよ、あれ。これが今生の別れみたいな顔しちゃってさぁ…わろすわろす」
とことん頭の巡りの悪いヘンゼルです。
「お兄ちゃん、とりあえずその辺歩き回ろうよ」
グレーテルは、弁当箱を切り株の上に置いてヘンゼルに言いました。
「おう、そうすっか。デートだデート」
「で、でぇと…そんな…」
グレーテルはさっ、とあらぬ方向を向きました。でも頬に射した赤みは、なかなか消えてくれそうにありません。

その時です。

「お、いたいた!」
森の中から、四人の男が現れました。皆、黒いスーツにサングラス、きっちりオールバック、とお揃いの格好をしています。
―――こいつらが例の“人買い”だな…
聡いグレーテルは、相手のナリを見て瞬時に正体を見破りました。
「お坊ちゃん達、こんな所で何をしているんだい?」
黒服1号が話しかけてきます。
「え?ピクニックっすけど…」



350 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/02/20(水) 01:08:46 ID:kTa2TZDL
ヘンゼルお兄ちゃんは、相手の格好を見ても怯みません。というかこの馬鹿は、全く状況を把握していないのでしょう。
グレーテルは、気が気ではありません。
「ピクニック…!!こんな所で!!こんな殺風景な所じゃつまらんだろう!?」
黒服2号が身を乗り出してきます。
「っつーか、別にピクニック自体そんなに興味無い的な!?」
ヘンゼルはノリ良く答えます。
「向こうに、もっと良い景色の場所があるぜ?案内しようか?」
黒服3号がニタニタ笑いながら、ヘンゼルに近付きます。
「いや、ここで待ってろって言われてるんすよ、サーセン」
ヘンゼルはあっさりと断ります。
「良いから……来いってんだよおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」
黒服4号の叫び声を合図に、人買い達が飛び掛かってきます。

「ボブ!マッケンジー!ドイル!ハマーD!!出番よ!!」
グレーテルが声を上げます。それと同時に、草むらから影が飛び出してきました。

「な、何だこいつらは!?」

人買い達は、慌てました。小さな影は、物凄いスピードで全身を攻撃してきます。
正体不明の影に目玉を突き破られたり、耳を千切られたりした男達は、阿鼻叫喚の悲鳴を上げて逃げ回ります。
グレーテルも隙を見つけては、隠し持っていた金づちで脛を叩きます。
ヘンゼルだけが、全く状況を読めずポカンとしていました。

あっ!いけません!!

「隙ありぃぃぃぃッ!!」
黒服3号が、胸ポケットからトカレフを取り出しています。
「くらいやがれええぇぇぇぇ!!」
ヘンゼルは、ただただ呆然とするばかりです。
「お兄ちゃんッ―――――!!」
グレーテルは思わず、目を覆いました。
しかし、発砲音は聞こえてきません。
聞こえてきたのは、トカレフが地面を滑る音と、黒服3号の呻き声です。
「ゆ…指が…!俺の指がああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
黒服3号の右手、トカレフの引き金にかかっていた人差し指は、食いちぎられていました。
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫する黒服に、更なる攻撃が浴びせられます。



351 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/02/20(水) 01:14:45 ID:kTa2TZDL
『それ』は地面スレスレを滑空し、黒服の目の前で急上昇すると、その大きく開けられた口の中に飛び込んでいきました。
次の瞬間、めりっ、という音ともにオールバックの後頭部は爆発し、影が飛び出します。
一度、黒服の頭上を旋回した後、『それ』はヘンゼルの前にふわりと着地しました。
グレーテルは、ありったけの驚きを込めて『それ』の名前を叫びました。

「ハマーD!!」

そう、ヘンゼルを救ったのはハマーDでした。ハマーDはぶるっ、と全身を震わせて、血しぶきを飛ばします。そして、怯えている残りの黒服達を威嚇するように、翼を大きく広げました。

「ひいいいッ…!!」
「逃げろおお!!」
「覚えてやがれ畜生ッ…!!」
それを見た人買い達は、いかにもな台詞を吐いて、退散していきました。



「ふぅ…何とか撃退できたな…」
ボブはほうっ、と溜め息をつきました。
「大丈夫だったかい?グレーテルちゃん」
マッケンジーは、心配そうにグレーテルに問い掛けます。
「へっ…!!人間ごときが俺達に敵うわけないだろ!」
ドイルの脳内は、まだまだアドレナリン分泌中のようです。

「みんな、ありがとう!!」
グレーテルはお礼を言います。
森に行く前に、グレーテルが相談したのはこの事だったのです。一つだけ予想外だったのは、小鳥達の攻撃が思いのほか、えげつなかった事くらいでしょうか。

「それにハマーDも!!お兄ちゃんを助けてくれて本当にありがとう!!」
「…」
グレーテルがハマーDの方を向くと、ハマーDはヘンゼルお兄ちゃんの手の上に乗っかっていました。



352 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/02/20(水) 01:16:31 ID:kTa2TZDL
「こいつ、ハマーDって言うのか?ハマーD!!ありがとな!!かわいいな、こいつぅ!!」
ヘンゼルお兄ちゃんは、もう一方の手でハマーDを撫でます。
ハマーDも心なしか気持ち良さそうです。
人差し指で、胸辺りを撫でた時、事件は起きました。


「ひゃぁ…そ、そこはらめッ…!らめなのぉぉッ!!」


グレーテルは自分の耳を疑いました。
「な、何なの…?今の声…」
「う、うむ…多分、ヘンゼルお兄ちゃんが撫でた場所が胸だったものだから…」
ボブも呆気に取られた様子です。
「まあ、その、つまり…せ、性感帯を弄られた訳だな…。だからオーガズムに…」
敢えて選んだ言葉が何故か卑猥な、マッケンジー。
「達した…って事は…お、おい…ハマーD……お前…」
ドイルは何故か前かがみの姿勢です。



『 女 だ っ た の か ! ! 』



「いやぁ~、本当にかわいいな、この鳥!よーしよしよしよし」
「ン、はぁんッ!ら、らめッ!またイッちゃ……あああんッ!!」
鳥と会話出来ないヘンゼルお兄ちゃんは、自分が何をしているのかさっぱり分かっていません。

そうです。
ハマーDは、実は雌でした。ハマーDという名前はあくまでグレーテルがつけたもので、本当は「長澤まさみ」という女の子らしい名前があったのです。
でも、この男尊女卑の鳥社会で生きていくには、雌という性別を隠して生きていくしかなかったのです。
しかし、ひたすら意地を張って雄鳥として振る舞ってきたハマーDも、ヘンゼルのゴットフィンガーの前にはなす術なく、押さえ付けてきた女としての情欲を掻き立てられてしまうのでした。
そして生まれて初めてのオーガズムと共に、ハマーDの奥底からやってきたものは恋心でした。

「ちょっと!!お兄ちゃんッ!!ハマーDが嫌がってるでしょッ!!」


353 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/02/20(水) 01:20:46 ID:kTa2TZDL
これ以上、ハマーDを愛撫させる訳にはいきません。グレーテルは素早く、兄の手の上の鳥を奪いました。
ハマーDは、快感の余韻に浸ってぐったりしています。
「うわッ…!!力入れすぎたかな!?ごめんな~…」
ヘンゼルは心底申し訳なさそうな顔で、ハマーDを覗きこみます。
ハマーDはのろのろと顔を上げると、ヘンゼルの頬に頭を擦り寄せ、眠りにつきました。
「おいおい、大丈夫かよ!?」
「心配ないよ、気絶しただけみたい」
イッちゃったせいでね、と心の中で付け加えておきます。



それからみんなでお弁当を食べ、祝杯を上げた後、まだ力の入らないハマーDを担ぎながら小鳥達は、ねぐらへ飛んでいきました。
「しっかしおせーな、おやじ達。あいつら何してんだ?青姦?」
ヘンゼルはどこまでもお下品です。辺りを見回すと、既に日は暮れかけていて、そこらの切り株も闇に溶けつつありました。
それから数時間経ちました。
お父さんもお母さんも一向に帰ってくる気配がありません。
ヘンゼルお兄ちゃんも、少し不安げな様子です。
(そろそろ良いかな…)
グレーテルは頃合を見計らって、立ち上がると言いました。
「あ!!そういえば私、道に迷わないように目印置いていったんだっけ!」
「何!?妹よ、そいつはでかした!!」
森の中、お月様の光を反射して仄かに光る小石たち。
二人はそれを辿って、なんとか家に帰る事が出来ました。
ヘンゼルとグレーテルの姿を見たお母さんは涙を浮かべて、ごめんね、ごめんね、と繰り返しがら二人を抱き締めます。
お父さんは困り顔でしたが、どこか安心したようにも見えました。
こうして、二人は無事に戻ってこれました。


しかし二人を待ち受ける残酷な運命は、まだ序章に過ぎなかったのです。

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最終更新:2008年02月24日 19:05
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