ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver 三話

481 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage New! 2008/02/24(日) 18:12:27 ID:xWOrANJX
三話



ヘンゼルとグレーテルが、ちょっとした冒険から帰ってきて、早一週間。
その日、グレーテルは早々に目を覚ましました。普段のグレーテルはとてもお寝坊さんです。
これはきっと「早起きすると良い事があるぞ」という唯一絶対神の御告げだろうと思い、グレーテルは着替え始めました。
髪にブラシをかけながら、ヘンゼルの携帯電話をチェックします。
「よしよし、泥棒猫は出てきていないようね…」
グレーテルはにんまりと笑って携帯電話を閉じました。
とは言っても、当然の事です。一週間前、ヘンゼルとメールをしていた泥棒猫を駆除したばかりなのですから。
キャバクラ「ヴァスコ・ダ・ガマ」で働いていた、あの泥棒猫のメイリンちゃん(自称20歳)は、今ごろ喜望峰辺りを漂流している頃でしょう。
―――しばらくは、平穏な生活が送れるわね…。
そう考えながら、グレーテルの指は知らず知らず、寝ているヘンゼルの乳首をつまんでいました。
「へみんぐうぇぇいッ!?」
妙な声を上げはしたものの、ヘンゼルお兄ちゃんの寝顔はやっぱり満足げでした。



一階のリビングにはまだ誰もいませんでした。
冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップ一杯分をものの数秒で飲み干すと、グレーテルはいつものマッサージを始めました。
ぺったんこの胸に手を当て、円を描くように揉みしだきます。
「スイーツスイーツ…パラレルパラレル、でっかいお乳になぁ~れ~…」
決して頭がおかしくなった訳ではありません。この前、コンビニで立ち読みしたCUNCUNという雑誌の『愛され巨乳の作り方』を実践しているだけです。
呪文を唱えながら胸を揉む事で、体内に波紋が通り膨乳するとかしないとかだそうなのです。
これも全ては愛するお兄ちゃんの為、巨乳が大好きなヘンゼルへの一途な愛ゆえなのです。
「おっきくな~れ~、おっきくな~れ~…激ヤバ、マジモテ、ドキュンドキュン…」

「そんなッ…!!」

グレーテルは慌てました。恥ずかしい場面を見られたのかと思ったからです。しかし、どうやら声は二階から聞こえている様子。
気配を殺しながら、声の発生源へと近付きます。


482 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage New! 2008/02/24(日) 18:15:43 ID:xWOrANJX
辿りついた先は、お父さんとお母さんの寝室でした。
グレーテルはドアに顔をくっつけて、耳を澄まします。

―――そんな…!!せっかく助かったのにまた、だなんて…!!
―――落ち着きなさい、母さん…子供達が起きてしまうよ。
―――どうしてッ!!どうしてまたあの子達を犠牲にしようとするのよぉぉ…。
―――仕方ないだろう…二人は戻ってきてしまったし、“人買い”からの金は振り込まれていない。
結局何も変わっていないんだ。せめて食い扶持だけでも減らさなけりゃ、我々みんな飢え死にしてしまうよ。
―――うぅ…。酷いわ、神様ってのはどうしてこんなに残酷なんだい…。
―――とにかく、今日にでも森にあの二人を捨ててこよう…。さあ、母さん…このワンカップ大関でも飲んで落ち着きなさい。
―――うぅ…いただくわ…。それにしても酷いわ。本当に酷いわ。あたしの可愛い子供達…。



「あの男、まだ諦めてなかったのか!!」
ボブはもはや呆れて声も出ません。
「自分さえ助かる為なら、子供の命はどうでもいいのか!最低だ!!」
マッケンジーは怒り狂っています。
「で、どうするんだい、グレーテル?何ならあのオヤジも…」
ドイルの目が怪しく光ります。
「…」
ハマーDは相変わらずパン屑に夢中です。

早朝、グレーテルは小鳥達に餌をやる為、森の入口に来ていました。ついでに今朝の両親のやりとりを四羽に話していたのです。

「私、考えたの…。何度やっても、ウチの工場が倒産している限りまた捨てられる。ならいっそのこと、お兄ちゃんとどこか遠くへ逃げようかな、って」

小鳥達は驚いてグレーテルを見上げます。
「それはいくらなんでも無茶だろう!!いや、無理だ!!」
ボブは考え直すよう、諭します。
「でもここにいても生活は出来ないわ」
「グレーテルちゃんとヘンゼルお兄ちゃんの二人で生活するのは、さすがに難しいよ…だって…ヘンゼルお兄ちゃんはニー…ゴホン、自由を愛するドリーマーだろう?」
マッケンジーも慎重に言葉を選びながら説得します。
「その時は、私が働く。大丈夫、ヘンゼルお兄ちゃんだってやる時はやるわ。いつもそう言ってるもの」
「そういう奴に限って何もしないんだよ!!」
ドイルは忙しなく羽ばたきながら言います。



483 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage New! 2008/02/24(日) 18:20:02 ID:xWOrANJX
会話の内容はいつしか、グレーテルを説得することから、ヘンゼルお兄ちゃんを吊しあげることになっていました。
「と、とにかく、この家にはもういられないわ。だから今日はみんなにお別れを言いに来たの」
気を取り直してグレーテルはそう言いました。
『…』
グレーテルの意思が固いことを悟ったのでしょう、小鳥達は黙ってしまいます。

「……私も行くわ…」

唐突に、ハマーDが口を開きました。
「えっ…」
「…私も行くわ…。二人きりじゃ心配だもの…」
驚くグレーテルを見つめ、ハマーDはきっぱりと言いました。
「そういう事なら私も行くぞ!!」
「ぼ、僕もだ!!」
「俺だって!!」
「み、みんなぁ…」
グレーテルは思わず叫びそうになりました。



―――邪魔すんなよ!!



(私とお兄ちゃんの二人きりで暮らそうとしてたのに…。この糞鳥ガラ野郎…!!余計な事言わないでよ!!)
どうやらハマーDは、グレーテルが感動していると思っているようです。怒りのあまり目が潤んでいたのも、ハマーDが誤解するのに一役買いました。
「おーい!グレーテル!」
ヘンゼルお兄ちゃんがこちらに走ってきます。
「あ、お兄ちゃん」
「何かさー、オヤジがまた森に行くんだとよ」
「ふーん…そんな頻繁に行っても楽しくないのにね」
「俺さぁ…、前回といい今回といい、なーんか悪意を感じちゃったり感じなかったりするんだよな…」
ヘンゼルお兄ちゃんもようやく何かに気付いたようです。
「悪意って?」
「ほら、どーも最近ウチの経営やばいみたいだろ?もしかしてオヤジとおふくろ、俺達を捨てようとしてるんじゃないか?」
「またまた~、考え過ぎだよ、お兄ちゃん!」
グレーテルはヘンゼルの腕を軽く叩きながら言います。
「お父さんもお母さんもそんな事する人じゃないよ!」
しかしヘンゼルお兄ちゃんの表情は晴れません。そしてグレーテルの持つ袋を指差しながら、こう言いました
「万が一…って事もある…。そのパン屑を道に落としていこう」

「それは良い考えだね!!」

グレーテルは相槌を打ちつつ、小鳥達にちら、と視線をやります。四羽は心得た、とばかりに頷きました。



484 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage New! 2008/02/24(日) 18:22:11 ID:xWOrANJX
「よし、決まりだな。って…おお!ハマーD!!元気してるか?」
お兄ちゃんが声をかけると、ハマーDは嬉しそうにヘンゼルの肩にとまります。
「相変わらず可愛いな~!!」
ヘンゼルはハマーDを撫でます。
「お兄ちゃん!!撫でるのは頭だけよ!!頭以外は絶対だめッ!!」
また目の前で壮絶ペッティングをさせる訳にはいきません。グレーテルは強く言いました。
「分かってるって!!しっかしこいつの頭ふわふわだな~」
愛しのヘンゼルに頭を撫でられて、ハマーDはご満悦です。
「きゅうぅぅん…」
様子から見て、ハマーDはうっとりしているのでしょう。
(まったく…この一週間ずっとこんな調子だわ…)
グレーテルは腹立たしいやら腹立たしいやら腹立たしいやらで、今なら超サイヤ人の壁を超えられると思いました。
最近のグレーテルの悩みは目下、泥棒鳥ことこのハマーDなのです。
鳥とはいえ、ハマーDはあくまで女です。世の中何が起こるか分かりません。鳥が擬人化してヘンゼルお兄ちゃんと恋仲になる事だって有り得ない事ではないのです。
(危険の芽は早いうちに摘み採っておかなきゃね…)
誰にも気付かれないように注意しつつ、グレーテルは静かに殺気を漲らせるのでした。

「よし、そんじゃ行くぞ、グレーテル!オヤジが呼んでるからな!」
ハマーDを丁寧に地面に下ろすと、ヘンゼルは歩きだします。
「あ、私もすぐ行くから先に行ってて!」
「…?…まあいいや。早く来るんだぞー」
ヘンゼルは不思議そうな顔をしましたが、さっさと歩いて帰っていきました。



「それじゃ…みんな、よろしくね?」
グレーテルは小鳥達に念を押します。

「ああ、任せておきなさい。パン屑は、我々が責任を持って処理しておこう」
ボブが重々しく頷きます。
「ヘンゼルお兄ちゃんには申し訳ないが…二人の為だからな、しっかりやるよ」
幾分かの同情を見せながら、マッケンジーも頷きます。
「そんでもって全部片付いたら、みんなで楽しく暮らそうぜ!」
ドイルの顔はまだ見ぬ未来を想像しているのでしょう、楽しそうです。
「……うん。とっても楽しみ…」
ハマーDはすっかり小さくなったヘンゼルの背中を見ながら、言いました。
「よし、みんな!!頑張ろうね!!」
グレーテルは笑顔で言います。



485 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage New! 2008/02/24(日) 18:24:32 ID:xWOrANJX
『おう!』

小鳥達は元気良く返事をすると、腹ごなしの運動をするため森へと帰っていったのです。



遠ざかっていく羽音を聞きながら、グレーテルは呟きました。
「ええ、本当に…楽しみね…」

まだ一仕事残っています。お兄ちゃんと過ごす素敵な未来を勝ち取るため、グレーテルは早速行動を開始しました。
目指すは納屋です。






「さんねんめーのうわきくらーいーおおめにみってよー♪」
「ごたくはいいからいますぐおんなのいばしょをおしえなさい♪」
「さんねんめーのうわきくらーいーおおめにみってよー♪」
「わたしにたねつけしてくれないからゆるしてあっげーない♪」
森の中を楽しげな歌声が響き渡ります。
お父さんの後ろで、ヘンゼルとグレーテルは手をつなぎながら歌っていました。そしてヘンゼルのもう一方の手はさり気なくパン屑を落としていきます。
「おやじー、どこまで行くんだよー?」
パン屑の残りも少なくなってきて、焦ったヘンゼルはお父さんの背中に声をかけました。
「もうすぐだ。もう少し頑張りなさい」
お父さんは低い声で答えます。
さらにしばらく歩くと、三人は小さな小川の流れる河原につきました。
「うむ、この辺でいいだろう…」
お父さんは背中の荷物を下ろしながら言います。
「二人はこの辺で釣りでもして待っていなさい。俺はちょっとこの辺を散歩してくるから」
二人に釣竿を渡すと、お父さんは逃げるように森の中へ歩いていきました。

―――せめて道具くらいは置いていって、罪悪感を紛らわそうって事なのかしら…。本当に最低な親だわ…。

荷物を漁ると、釣り道具やフライパン等の調理道具、薄い毛布などが出てきました。
グレーテルは鼻を鳴らして、中身を確認します。

「ぬし釣ろうぜ、ぬし!!」
今朝の杞憂はどこへやら、ヘンゼルお兄ちゃんはノリノリで釣りを始めています。どうせやる事などありません。グレーテルも釣りをする事にしました。



「おい、おい、起きろ。グレーテル」
誰かがグレーテルの肩を揺らします。
「んー……あ、寝ちゃってた…お兄ちゃん…?」
グレーテルが目を開けるとヘンゼルお兄ちゃんが心配そうな顔でこちらを見ています。
気付けば、辺りは暗くなっていて、水面にまんまるのお月様が写っています。



486 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage New! 2008/02/24(日) 18:28:13 ID:xWOrANJX
「やっぱり俺達、見捨てられたみたいだ…。オヤジが帰ってこねー…」
ヘンゼルの目は少し潤んでいます。きっと心細いのでしょう。
「大丈夫だよ。そのために目印を置いてきたんじゃない」
それから二人は地面に目を凝らし、パン屑を探して歩き回りました。
三十分ほど歩いたでしょうか、ヘンゼルが「あっ」と小さく叫びます。ヘンゼルの指差す先を見ると、パン屑の列は不自然にそこで途切れています。
「嘘だろ?何でだよ!?」
二人はさらに先を進みますが、歩けど歩けどパン屑は見つかりません。
「お兄ちゃん、あんまり動き回ると本当に迷っちゃうよ。とりあえずさっきの河原に戻ろ?」
グレーテルはそう提案して、二人で来た道を引き返します。
パン屑が途切れた辺りでグレーテルは立ち止まりました。ヘンゼルはそれに気付かず、河原へと向かっています。
見れば、一本の木の影に羽毛が散らばっています。そうっと覗き込むと、四羽の小鳥が折り重なるようにして倒れていました。
グレーテルはその中の一羽をつまみ上げると、それに話しかけます。
「良かったじゃない…。大好きなお兄ちゃんに握られたパンで死ねたんだから…。本望よね…?」

「おーい!グレーテル!!どうした!?何かあったのか!?」
森の奥からヘンゼルの声が聞こえます。
「何でもなーい!!今行くー!!」
小鳥の亡骸を無造作にその辺の茂みへ放り投げると、グレーテルは駆け出します。
「…本当に役に立つものだわ…こんなに効果があるなんて…」
堪え切れず、つい口元に笑みが浮かんでしまうグレーテルです。
まったく、本当に役に立つものです。



青酸カリというものは。

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最終更新:2008年02月24日 19:18
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