ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver 最終話

733 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/04/08(火) 02:38:27 ID:hmdWYjA7
最終話



―――やっちまった…!!
まさみは焦りました。お腹の底からゴロゴロと不気味な音が響きます。腰から下が重くなり、へそ回りがじんじんと痛くなります。

これから大事な仕事が待っているというのに、この有様です。その仕事には、この宇宙のごとき胃袋が絶対に必要なのです。
「まさかこんな時にお腹をブレイクするなんて…」
日頃からの暴飲暴食がたたったようです。

「ハマーD、大丈夫なのか?」
ボブが心配そうにまさみの顔を覗き込みます。
「小麦粉製品は、お腹の中で膨らむからな…。でも一番危険なのはなんといっても『ふえるわかめ』だ。アレは…」
マッケンジーは0へぇな豆知識を語り出します。
「おい、五月蠅いぞ、マッケンジー。それにハマーD、早くトイレに行ってこいよ。計画の成功はお前の胃袋にかかってるんだぜ?」
そう言いながら、腹痛のお薬を渡すドイル。
「と、トイレはらめ…それだけはらめなのぅ…はおおおおぉぉぉぉうッ!!」
喋る間も、激痛はまさみを苛みます。でもまさみは絶対にトイレには行きません。アイドルはウンコなんてしないのです。
結局、まさみは今回の作戦から外されました。森の中のパン屑を全て食べるのですから、正直なところ彼女の不在は手痛いものがあります。



―――問題はそれだけじゃないしな…。
ボブはもう一つ、大問題を抱えていました。引っ越しの準備の為、小鳥達はそれぞれの家へと帰っていきました。
ボブも自宅へ向かって飛んでいる途中です。
「あぁ…言い出しづらいなぁ…」
ぼやきながら、ボブの体はゆるやかに下降を始めます。木の上に取り付けられた小さな家。その玄関に降り立ちました。
「おかえりなさい!ボブ!!」
家の中からグラマーな美人が現れました。ああ、美人というのは少し違います。正確には美鳥です。
「た、ただいま、キャサリン」
ボブも返事をします。
キャサリンはボブの彼女です。同棲してもう五年になります。
「なんだか元気がないわね?何かあったの…?」
「う、うん…。実は…大事な話があるんだ…」
ボブは話しました。
ヘンゼルとグレーテルのこと。
二人が捨てられそうになっていること。
自分はどうしても二人を見捨てたくないこと。



734 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/04/08(火) 02:40:08 ID:hmdWYjA7
「だから…君さえ良ければ、僕についてきて欲しいんだ!!今の生活は捨てる事になるけど…」
ボブは慎重に言葉を紡ぎました。言い終えると、キャサリンをちらと窺います。
「……。もうここには戻ってこないのね…?」
キャサリンが呟きます。
「あ、ああ……」
「良いわ、私、あなたについていく」
キャサリンはハッキリと言いました。
「ほ、本当かい!?だってキミ、つまりそれは……」
そう、ボブの言葉は事実上のプロポーズです。キャサリンがそれに応えるということは、二人は夫婦になるということです。
キャサリンは、ボブの胸に頭を擦り寄せると、浜崎あゆみにも負けない笑顔で言ったのです。

「結婚しましょう?私、羊水が腐る前に子供が欲しいの」

まさみが回復したのはそれから三日も経った日の事です。時間こそかかりましたが、体調は完璧です。
ドイルの渡してくれた薬が効いたのかもしれません。ラッパのマークにぺこりとお辞儀をすると、事前に決めておいた皆との合流場所へ向かいます。
しかし、そこでまさみを待っていたのは、哀れな小鳥達の亡骸でした。



まさみは、クワッと目を見開きました。そう、あれから随分と時が経ちました。森の動物達に尋ねたり、ググったりしてようやくグレーテルの居場所を見つけたのです。
「さて、そろそろケリをつけに行こうかしら…」
翼をはためかせ、『犯しの家』の窓をひょいと覗きこみました。

「なッ…!?」

想像を絶する光景がそこにはあったのです。






735 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/04/08(火) 02:41:54 ID:hmdWYjA7
「う、うーん…おにいちゃあん…だめぇ…そこは……ハッ!!」
グレーテルは目を覚ましました。うろんな頭でゆっくりと辺りを見回します。
今朝と同じ、リビングです。テーブルの上にもう料理はありません。
その代わりに置いてあったのは――――

「あら、目が覚めたのね?」

お姉さんがこちらを見てニタニタと笑っています。しかしグレーテルの目は或る一点にのみ、集中していました。
そこから目を逸らせません。逸らせるわけがないのです。
何故なら、テーブルの上には体中を生クリームと果物に飾り立てられた、ヘンゼルが寝ていたのですから。
「あらあら、グレーテルちゃんたら涎が垂れてるわよ?」
お姉さんの声にハッとして、涎を拭おうとします。
「な、なんじゃこりゃあああああああ!?」
グレーテルの涎が拭われることはありませんでした。グレーテルの体は椅子に座った状態で、がんじからめに縛られていたのです。
「ちくしょう!!この糞牛!!ロープを解けッ!!」
グレーテルがいくらもがこうとも、ロープは一向に緩む気配を見せません。
「ウフフ…グレーテルちゃん、そこで大人しく見ていなさい…」
魔女はそう言うと、装飾過多なヘンゼルへと近付き、乳首の上のオレンジを直接口で食べ始めました。
「オァフ…」
ヘンゼルは一度だけ身動ぎをしましたが、抵抗する事はありません。
「お兄ちゃんに何をしたッ!?」
「あなたと同じお薬を飲ませただけよ?ああ…なんておいしいのかしら…このオレンジ…」
魔女の顔は感激のあまり、緩みに緩みきっています。そしてさらに生クリームを舌で舐めとりながら、おへそへと向かいます。
「この林檎も、ミキプルーンも…美味しい…とっても美味しい…!!」
「くそッ!!やめろ!!私のお兄ちゃんに触るなああああああ!!」
グレーテルは涙目で叫びます。
その台詞を聞いた瞬間、魔女の動きがピタリと止まりました。
「…私の……?」
ゆらりと体を起こし、グレーテルを見つめます。その瞳には何の感情も見られません。
「ヘンゼル君はあなたのモノじゃないわ…。彼はね、もうずっと前から、私のモノ」
胸の谷間から、紙切れを取り出します。もちろん例の紙切れです。
「二十年前のあの日、ヘンゼル君と初めて結ばれたあの日から、ヘンゼル君は私のモノ…」


736 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/04/08(火) 02:43:57 ID:hmdWYjA7
「あ、あんた…何言って…」
お姉さんは嫉妬のあまり、かつての青年とヘンゼルを混同してしまっていたのです。
「だから!!一体何言って」
「お黙りなさい。あなたはただ見ていれば良いの。その腐れ眼にしっかりと焼き付けなさい…」
お姉さんはヘンゼルケーキに向き直ると、唇に迷いなく吸い付きました。
「あぁ!!この野郎ッ!!」
(目の前でこんな光景を見せつけられるなんて…!)
グレーテルの怒りは既に頂点に達していました。
さらにお姉さんは、首筋を、もう片方の乳首を、そこから脇腹、へそへと、舌を滑らせていきます。
舌が通ったあとには、ヘンゼルの肌が見えます。
「お兄ちゃんの裸を…!!くそっ…くそっ…くそっ…!!」
お姉さんの動きはまだまだ止まりません。へそより下、つまりヘンゼルのおにんにんへと迫ります。
ぴちゃぴちゃと音を立て、ヘンゼルのエクスカリバーを覆うクリームを舐めとっていきます。
「あっ…♪」
「あっ…!」
歓喜と失望の「あっ」が同時に発せられます。言わずもがな前者はお姉さん、後者はグレーテルです。
寝ているにもかかわらず、ヘンゼルのそこはムクムクと起き上がり、天元突破せんばかりにそびえ立ちます。
お姉さんはヘンゼルドリルを手で掴むと、上下に扱きだしました。
するとどうでしょう。先端の亀裂からじんわりと液体が滲んできたではありませんか。
「ふひひひひひひひひひひひひ…。出てきた出てきた…。ペロッ…ああ、甘い。とっても美味しいわぁ…」
お姉さんは、もはやエクスカウパーと化したヘンゼルのそれに舌を這わせ、先端に吸い付きます。
「ちくしょう…!!ちくしょう…!!やめろ!お兄ちゃんから離れろぉぉぉぉッ!!」
そんな変態行為を許すわけにはいきません。グレーテルは叫びます。
しかし、拘束された体では何も出来ません。成す術なく、グレーテルは床に倒れ込みました。
「ふふふふふ…いい気味ね。ほら、見てグレーテルちゃん…ヘンゼル君のカウパー、どんどん溢れてくるわ」
ヘンゼルの世界樹のしずくは、根元を掴むお姉さんの手も濡らしていきます。
この空間内で唯一、常識人であったグレーテルは、床をみっともなくはいつくばり、殺意溢れる視線で魔女を睨付けます。



737 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/04/08(火) 02:45:51 ID:hmdWYjA7
「手を離せ!!舐めるな!!この淫乱牛ぃぃぃぃ!!ああ…!!ちくしょう、ちくしょうッ!!ちょっとで良いんで私にも分けてくださああああああい!!」
どうやらこの空間内には、変態しかいなかったようです。
「さあ、それじゃあそろそろ…」
そう言ってお姉さんはヘンゼルの体を跨ぎ、彼を自らの雌に導いていきます。
「よーくよーく見てなさい、グレーテルちゃん…。そしてコレが私のモノだって事を…」
凶暴な笑みを張り付けて、お姉さんはグレーテルを見下ろしました。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
二人の宝具はもう触れる寸前まで近付いています。
「お兄ちゃああああああああああああああああああんッ!!」

―――バリイイィィィンッ!!

グレーテルが絶望のあまり叫んだその瞬間、彼女の背後にあった窓ガラスが、けたたましい音と共に砕け散りました。
『―――ッ!?』
何者かが窓ガラスを突き破り、部屋へと飛び込んできたのです。勢いそのままにそいつは、お姉さんのみぞおちへと突っ込みました。
「ごはッ!!」
無防備だったお姉さんはキッチンまで吹っ飛ばされます。そして開けっ放しになっていた大きな竈の中に吸い込まれていきました。
グレーテルは、その隙を逃しません。割れたガラスの破片でロープを切り、すぐさま竈の扉を閉めました。
「あ、開けなさい!!ここを開けろ!!」
ガンガンッと、中からお姉さんが扉を叩きます。
しかし、グレーテルは聞く耳もたず「中には誰もいないじゃないですか」と言わんばかりの勢いで、それを華麗にスルーすると、スイッチで竈に点火しました。
「あつッ!あつッ!!だが…これしきの強火でやられる私ではないわぁ!!」
絶体絶命のピンチだというのに、意外と余裕のあるお姉さん。
ところが、完全に読み違えていたのです。
「今のはメラゾーマではない…メラだ」
グレーテルは今度こそ、ノズルを限界まで捻って強火にしました。
「ぎゃあああああああ!!」
こうして、憎き魔女は死にました。知恵と勇気とピピッとコンロの勝利です。
でもグレーテルはまだ警戒心を緩めません。
自分の荷物から銃を取り出します。あの“人買い”が置いていったトカレフです。残弾数を確認すると、小屋の外へと飛び出しました。
『犯しの家』の屋根から伸びる、煙突。そこに目をやると、一羽の小鳥がとまっていました。



738 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/04/08(火) 02:48:32 ID:hmdWYjA7
「一体…お前は誰だッ!?」
前にも言ったように、グレーテルには鳥の表情なんて分かりません。だから、まさか自分の前にいる鳥があのハマーDと気付くはずもないのです。
いえ、仮に顔の判別がついたとしても気付かなかったかもしれません。ハマーDは仲間を殺された怒りのあまり、形相がすっかり変わってしまっていたのですから。
「分からない…?そうか…分からないのか…!!まあ良い、グレーテルッ!貴様を殺す!そして真の絶望を味わうが良いッ!!」
ハマーDはその清らかな心さえも失ってしまったのです。復讐だけを胸に生きてきたハマーDの心は、不治の病に侵されてしまっていました。
中二病という、決して治る事のない病に。
「ヘンゼルは、この私…帰ってきた漆黒の翼、ハマーDがいただく!!」
名前のわりに真っ白な翼を広げ、ハマーDが吠えます。
グレーテルはトカレフを握り締め、ハマーDを見つめています。
「そうか…生きていたのね…でも…」

「お兄ちゃんは渡さないッ!!」

「貴様だけはこの嘴で殺してやる!!勝つのは―――」



『この私だッ!!』
今、グレーテルの最後の戦いが幕を開けたのです。







五分後。
「はぁはぁ…。勝った…勝ったぞ、あは、あはは、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
気が狂ってしまったかのように、グレーテルは笑いました。
足下には片翼を打ち抜かれ、見せ場も省略されたハマーDが倒れています。

「まだだ…まだ私には主人公補正という秘密兵器が…!!」
しかしそんな非現実的な事が起きる訳がありません。
「さあ…切り刻んであげる…。もうお兄ちゃんには肉の一片たりとも近付かせたりしない…」
グレーテルは腰から、刃物を取り出します。あの、“竜殺しの大剣1/4”です。落陽が剣を照らし、その刃が鋭く光ります。
「隙ありッ…!!」

ハマーDのすなかけ!
こうかはばつぐんだ!

砂粒はグレーテルの視界を奪い、一時的とはいえハマーDの姿を消しました。
その間に痛む翼を引きずりながら、ハマーDは森へと逃げ込みます。


739 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/04/08(火) 02:50:03 ID:hmdWYjA7
「次は必ずお前を殺してやる!!さらばだッ!」
「ぐっ…!!待て、ハマーD!!」
グレーテルが目を擦っているうちに、ハマーDはかなりの距離を稼ぎました。
(よし、逃げ切れる…ッ!)
ハマーDが確信したその時。
何とも不運な事故が起きました。
たまたま歩いていた野生のドアラに見つかってしまったのです。もう五日も食事にありつけていなかったドアラにとって、傷ついたハマーDは格好の獲物でした。
ばくりとハマーDを咥え込むと、ドアラはさっと森の中へ消えていきました。

こうして、地球の命運を賭けたラストバトルは終わったのです。
全身に傷を負ったグレーテルは、なんとかヘンゼルの下へと辿り着きました。
「お兄ちゃん…私…勝っ…た…よ…」
誰よりも愛しいお兄ちゃんの胸に倒れ込むと同時に、グレーテルは気絶してしまったのでした。

一週間が経ちました。
グレーテルは何とか目を覚ましたものの、体調は一向に回復しません。
度重なる戦いが、グレーテルの体を蝕んでいたのです。以前とは比べ物にならないくらい、力が衰えてしまいました。
今では自らの足で歩く事すら叶わないのです。
ヘンゼルは大層責任を感じたらしく、グレーテルをつきっきりで看病しました。しかし、素人に出来る事などほとんどありません。
兄妹は『犯しの家』の金品を鞄に詰めるだけ詰めて、自分達の家へと帰る事にしました。
地図と何度もにらめっこをし、時折迷いながらも、二人は何とか我が家に辿り着く事が出来たのです。






740 ヘンゼルとグレーテルKIMO-remix Ver. sage 2008/04/08(火) 02:51:48 ID:hmdWYjA7
長い長い冬が終わり、春がやってきました。
春。木々には新芽が芽吹き、花々が森に色を添え、厨が沸く季節。
小高い丘には木造家が一件、ぽつんと建っています。
その壁には心踊るような桃色のペンキが塗られていて、見る者の心までそうさせてしまうように輝いています。
ヘンゼルとグレーテルは、もう貧しくなんかありません。二人が持ち帰った金品は、予想以上に高価だったのです。
おかげで工場の借金問題も解決し、さらに、余ったお金も莫大な金額でした。
兄妹が出ていった後、お母さんはお父さんに愛想を尽かして出ていってしまいました。
二人は今、『りこんちょうてい』という醜い争いをし、裁判所で互いを罵倒しているそうです。
お父さんはその戦いのため、家を開けっ放しです。
グレーテルの体は、やはり元通りには回復しませんでした。その為、ご飯からお風呂まで全てヘンゼルが世話しています。
でも、ヘンゼルはそんなに嫌そうではありません。それどころか、最近はちょっとイヤらしい目で自分の妹を見たりしています。
まあそれはグレーテルが三日に一度料理に仕込む、紫汁のせいかもしれませんが。

その日の朝、グレーテルはいつもよりさらに遅く起きました。ゆっくりと起き上がり、背筋を伸ばします。
ひらりとベッドから下り自分の足でしっかり床を踏みしめ、車イスを見つめながら、
「めんどくさいけど……しょうがないよね、こっちの方がお兄ちゃん優しくしてくれるし…」
と呟きました。
そして車イスに座ると、ヘンゼルの部屋へ向かいます。
(まずはお兄ちゃんにおしっこ手伝ってもらおうっと…。えへへ、今日こそ襲ってくれるかなぁ…)
そんな不埒な事を考えつつ、ヘンゼルの部屋のドアをノックします。

「OH…OH…YES!YES!!AHHHH!!」

グレーテルはびっくりしました。いきなり異国の言葉が聞こえてきたからです。
そっとヘンゼルの部屋を覗くと、ヘンゼルお兄ちゃんが指先にとまったテントウ虫を撫でていました。
「いやぁ、テントウ虫ってかわいいなぁ…!!なでりなでり」
「OH!OHッ!!」

「そう…今度は泥棒虫なのね……」
グレーテルは低い声で呟いた後、手近にあった殺虫剤を掴みました。

「オニイチャン…」

グレーテルが休める日は、まだまだ遠そうです。







おしまい

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最終更新:2008年04月13日 22:58
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