美咲の闘い 第2話

8 美咲の闘い sage 2008/04/16(水) 21:21:50 ID:J98ChhrO
 「こ、こは…どこだろう…?」
 琢磨が目を覚ましたそこは、何もない、ただ真っ白なだけの、部屋の中だった。

 とにかく、周囲の様子を詳しく知ろうと、体を動かした時、
 「いてっ!」
 と、思わず口にでるような痛みに襲われた。

 気付けば、ロープのような物で両手両足は固く縛られており、芋虫のようにしか動けない様にされていた。

 更に体の何箇所には青痣が出来ており、中には出血している箇所もあるほどだ。

 「いてぇ…」
 気付いた痛みに耐えながらも、その痛みのおかげか、琢磨は不思議と落ち着いた思考で、現在の状況を考える。

 両手両足を縛られ、見知らぬ場所に監禁されている事実、
 これを普通に考えば、誘拐された、と言う簡単な答えが出るだろう。
 「でもなあ…」
 その答えに行き着いた琢磨は、小さく首を傾げた。

 琢磨の家はあまり裕福な方ではない。
 両親の保険金と親戚からの僅かばかりの援助、
 それでようやく生活が成り立っている状況だ。
 琢磨自身にしても、元々は就職希望(姉の強固1反対で断念したが)だったぐらいだ。

 誘拐の犯人が、特に下調べせずに実行した可能性もない訳ではないが、
 それでも、金銭目的の犯行で琢磨を狙う可能性は低そうだ。

 「畜生!」
 「何なんだよ、一体全体よ!」
 身動き出来ない体で、唯一に自由な口を使い、やけくそに叫ぶ。


 そんな琢磨の声に答えるかのよう、
 「罰…、それが的確かな…」
 と、深く暗く、それでいて澄んだ女の声が聞こえてきた。



9 美咲の闘い sage 2008/04/16(水) 21:23:28 ID:J98ChhrO
 声の主は確かに女性だった。
 それも、男なら誰でも振り返るのではないか、そう思える程に、可愛らしい女の子だ。

 ただ、その目は敵意と憎悪に満ちていた。


 「だ、誰、君?」
 困惑と混乱の中、上手くまとまらない思考の中で、琢磨が怯えた声を上げる。

 そんな琢磨の声が相手の神経を逆なでしたのか、相手の目に宿る負の光りが強さを増す。
 そして、パチン、と乾いた炸裂音が部屋にこだました。
 一瞬、琢磨は何をされたのか、理解する事が出来なかった。

 「なっ…」
 自分の頬が張られた事に気付いた琢磨が、何か声を出そうとしたが、
 その声は女の
 「黙れ!」
 との一喝で塞がれた。

 「口を聞くな!」
 剥き出しにした憎悪を隠そうともせず、女が怒鳴る。


 ”俺は一体、何をしたんだろう…」
 女から発せられる異様なまでの殺気を嫌でも感じてしまい、巡らない思考の中で、琢磨は考え込む。

 「貴方には分からないだろうね…」
 琢磨の思考を読み取ったのか、
 女が不自然なほどに口を歪めながら言う。


 確かに琢磨には分からない。

 不動琢磨、その自分という存在が、
 この目の前の女、女子高生にどれだけの苦痛と我慢を強いてきたかを、

 積もり積もったその感情の狂気を。




10 美咲の闘い sage 2008/04/16(水) 21:27:31 ID:J98ChhrO

 美咲はその日、意味もなく不安だった。

 大学での講義中もバイトでの仕事中も、
 ずっと琢磨の事が頭から離れなかった。

 家路に着きながら、美咲は、
 「たっくん分が不足してるんだなあ」
 自分の不安に自分で理由を付ける様に呟く。

 その後、自分を景気付けるよう、
 「今日はたっくんが料理当番なんだから!」
 と言って、嬉しそうに顔を綻ばせた。


 琢磨が家事を教えて欲しいと言った時、美咲は躊躇した。
 それが自分から離れていく第一歩になってしまうのではないか、
 そう思えたからだ。

 結局は琢磨の熱意に負けて教えてしまったのだが、
 今は何も後悔をしていない。

 教えてる時は付きっきりで側にいれたし、
 今日の様に料理当番の時など、
 上手く出来たか、不安そうな顔をして、自分を見る顔は、美咲の何かを刺激するのに充分過ぎる快楽だ。


 「たっくんも大人になってきちゃったからな」
 美咲が嬉しそうに淋しそうに呟く。


 最近の琢磨は確かに変わり始めてきた。
 一人称を僕から俺へと変えたり、タバコや酒にも興味を持ち出したり、
 美咲が”たっくん”と呼ぶのを嫌がったり、
 確実に、反抗期を経て大人になる階段を上っている事が良く分かる行動を取っている。

 それでも美咲は、それを喜ぶだけで、不安は抱かない。

 琢磨にとって自分は唯一の肉親であり、掛け替えのない存在だという自負があるから。
 それは自分にとっての琢磨が、最愛の弟であり、
 唯一の男性である、
 それと同一であると考えているから。


 「今日は食事のお礼にハグでもしてあげようかな」
  美咲が知り合いに見せられない顔で呟く。

 自分の女性を意識させたハグ、

 それで大人になってきている琢磨が欲情したらどうしよう、
 その前に自分が耐えられるかな

 幸せな妄想で頭を占めながら、美咲が足を早める。

 美咲にとって琢磨は全てである、
 性欲も含めた。


 自然と早くなった足取りのまま、美咲は帰路を進む。

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最終更新:2008年04月21日 16:20
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