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貴方だけを愛し続けます06話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/05/15(木) 20:37:19 ID:RJ9kzm82
[kai side]
俺は雪の隣で椅子に腰掛け、カレーライスを食べていた。
とある休日の、どこの家庭にでもあるような一こま。
「雪。明日 夏服選びに行くぞ」
「まだ着れる服はタンスにありますよ、兄さん」
「だからといって、服を買わないわけにもいかんだろ」
雪は誰か(行き着くところ俺)が言わないと購入しに行かない、
――――――わが妹は清貧な性格をしているからだ。
そのくせに、お茶請け、紅茶(しかも茶葉)、調味料だのと、
嗜好品などは遠慮なく大人買いしてくるのだ。
結果的に、適量だったりするけれどね。
それに本人曰く
「たった一人の兄さんに美味しい物を作ってあげたいですから、・・・駄目ですか」
といつも口煩い顔と打って変わった表情で、上目遣いされたら断れる兄がいようか。
一応言って置くが・・・べ、べつにシスコンじゃなんだからねっ! 勘違いしないでよっ。
746 貴方だけを愛し続けます06話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/05/15(木) 20:38:09 ID:RJ9kzm82
時は変わって、次の日。
ジャージを脱ぎ捨て、ジーンズを履きシャツを羽織ると俺は玄関から出ていた。
言い出したのは、結局俺だけど、
虚しいかな、なんでこの歳になって兄妹で買い物。
早く彼女でも作ろうか・・・雪に心配掛けさせないように。
でも雪の想い人を見つけるのが先だろうか?
ふと妄想が過ぎった。
「兄さん私結婚したい人ができたの」と微笑ませて告げる雪。
その隣には、ニヤニヤついた笑みを浮かべる高給取りっぽい男。
父親の心境に近いものを感じるな・・・。ちゃぶ台返しやりたいよ。
「認めーん」って云ったりしてな。勿論、真剣じゃなかったらぬっころすよ。
そう遠くはない妄想[みらい]を振り切った。
「おーい、雪まだかぁー」
「まだちょっと待ってー兄さん」
デートするわけでもなかろうに、手間取って・・・。
玄関の鏡に戻り、髪型や髭の剃り残しがないか、確かめる。
「兄さん、出来ましたー」
「あ、あ」
薄っすらと化粧をしていて、しかも首筋に香水を付けている・・・のか?
まったくたかが兄との買い物に、ここまで綺麗になるのか。女ってすげー。
妹でなければ、軟派に誘っていたかもしれない。いや、そんな勇気ないがな。
つっかけに通した足を、一度出して履き直す。
鍵を閉めて俺の隣に並ぶ雪は、・・・のたまった。
「兄さん、手を繋ぎましょうよ」
「はぁ? 出来るか、恥ずいだろ」
「えー、兄さん昔はやってくれたじゃないですか」
「昔は昔だ」
747 貴方だけを愛し続けます06話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/05/15(木) 20:38:43 ID:RJ9kzm82
考えを巡らしていて、無防備になった俺に雪は手を絡めてきた。
「兄さん、私達・・・どういう風に見えるかな?」
連れ添う恋人かな?と答えた。
仲の良い兄妹かな?と答えた。
いかん・・・ますます自分がエロゲの主人公ぽく見えてきた。
薄っすらと化粧をした雪の顔が、近く、近くなってきた。
でこぴんをかまして、「ど阿呆が」とだけ呟いた。
「痛いですよー兄さんっ」
ぷくっと頬を膨らませる雪。当たり前といえば当たり前だ。
なんせ、打撃力を重視したデコピンだったからな。
(片方の手の中指を内側に丸め、それを親指で抑える。
中指に力を入れて、親指を離す方法)
「ふっ、wikipediaを舐めるなよ、わが妹よ」
「意味不明ですよっ兄さんっ」
口を尖らす妹を見やり、昔の回想にふける。
『お兄ちゃん』
今以上に引っ込み思案で、愚図って泣き出して、
一言目が「お兄ちゃん」で、可愛くて・・・。
そんな幻想はどこに往ってしまったのだろう?
「何か失礼なこと考えてませんでしたか?兄さん」
「イヤ、ベツニカンガエテナイヨ」
しかし時は無常に過ぎ去り、人を変えてしまう。
今、隣にいるのは、口うるさい、優等生タイプな妹。
もっと可愛いほうがいーのだがな。
「って俺はロリコンかっ」
ノリツッコミで誤魔化そうとした俺に、雪の目はいやに冷ややかだった。
でこぴんと失言に対する罰として、クレープをおごることで決着が付いた。
748 貴方だけを愛し続けます06話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/05/15(木) 20:39:27 ID:RJ9kzm82
ろくに使うこともない、しかし俺個人としての財布を、
野口さんが写る札を泣く泣く、可愛ゆい店員さんに渡す。
すまぬな、野口さんを持つ手が何故かまったく動かないよ。
「兄さん、早く手を放してください。店員さんが困ってるじゃない」
十代後半の店員・・・アルバイトなのだろう・・・困ってる様子をみて、
往生際の悪い俺は仕方なく、指から離れる野口さんを見送った。
「俺、金欠なんだけどな」
「兄さんが悪いんです♪」
「ああ、腹減った」
「食べます?あーん」
「おい、ミネラルウォー・・・」
「兄さ・・・」
思わず2分間硬直した俺と雪だった。
アイスでなくて良かった。解けてしまうから。
なんか、二日前にも、こんなことがあったな。
閑話休題
749 貴方だけを愛し続けます06話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/05/15(木) 20:42:53 ID:RJ9kzm82
試着したワンピースで、わざとらしくひと回転する雪。パンツ見えんぞ。
まぁ、いつもの感じで、WOMANと書かれた張り紙。
周囲は女性客。女性物の服に囲まれている。
「兄さん、ちょっと気に入りそうなもの探しますから、それ持ってて下さい」
「おい、ちょっと」
場違いなのだけども。グサグサと効果音の如く刺さる視線を、
ものともせず、雪は奥へと向かった。
女性服を片手に、佇む男性客・・・俺に、突き刺さる視線。
雪はさらに奥へと入っていく。
「兄さん、これ似合いますか?」
「あー? お前ならたいていはよく似合うだろーよ」
「投げやりですよー、兄さん」
仁王立ちした雪は、腰に手を当てて、
「まったく女心を分かってませんね、兄さんはっ」
「知るか、というか妹の乙女心を分かってどする?」
知って欲しいのに、と雪の呟きは魁に届くことはなかった。
「あ?なんだ」と言い返すと、雪は言葉を濁した。
「ま、似合ってあるよ」
「本当?」
「本当」
がしがしと頭を撫でてやると、くすぐったそうに眼を細めた。
そのあとほめ殺しと服選びが正味一時間は続いた。
750 貴方だけを愛し続けます06話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/05/15(木) 20:43:24 ID:RJ9kzm82
「流石に妹のショーツを選ぶわけにも行くまい」
「誰に云ってるんですか、兄さん」
「別に、良いんですよ?兄さんが選らんでも」
「あ?惚気は彼氏でも作ってそいつに言え」
「・・・・・・イケズ」
「あ、あと俺のシャツ買っとけよ?また、誰かさんが取っていくからな」
「・・・だって、兄さんのがちょうどいいんだもの」
「それなんていうエロゲ・・・と現実に云う機会があるとはな」
いわゆる神の視点からは、けだる気な彼氏とリードしたがる彼女。
とでも見えるのだろうか、と想いにふけながらチョコタバコを咥えた。
「兄さんタバコ吸えないくせに」
「男の性[さが]だ、気にするな」
「うるさい、お前だって吸った事なかろうに」
「煙草の匂い・・・嫌いですから」
※どちらも未成年です。未成年は吸ってはいけません。
魁は家族しての、あるいは・・・雪は恋人として、ほのぼのとした、雰囲気に、
「あれ、魁君じゃないか」
介入者が、現れた。その女性は二人がよく見知った人物だった。
最終更新:2008年07月13日 20:27