394 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:32:57 ID:xuxOA6OC
そこは暗く広い部屋だった。
誰もいない深夜の学校の教室。
窓から差し込む月明かりが唯一の光源となるその暗澹たる世界において、動くものはただ二つ。
「ああ、もう、ちくしょう。こんな暗くなっちまったじゃねーか。
どうしてくれんだ、オイ。
だいたい、舞は遊びすぎなんだよォ」
動くものはどちらも少女。
片や、フランス人形のような容姿をした少女。
緩やかにウェーブを描く金髪は暗闇においても美しい光沢を放っており、
猫のように細められた瞳の色は、青空を思わせるような澄んだブルー。
着ている豪奢なドレスとあいまって、小柄な少女は職人が精魂こめて作り上げたフランス人形のように輝いている。
しかし、その美しい瞳は少女が人形ではないことを証明するかのように不機嫌そうに歪められている。
何よりも似合わないのは、その可憐な唇からこぼれるのに相応しい鈴のなるような声で紡ぎ出される、
お世辞にも上品とは言いがたい言葉遣い。
少女の浮世離れした容姿に似つかわしくないその言葉は粗雑な乱暴もののように、隣に座る少女に向く。
「あら、心外だわ。
アリスだって、私と同じように楽しんでいたじゃないの」
言葉を返す舞と呼ばれる少女もまた人形のような容姿をしていた。
ただし、片方がフランス人形ならこちらはさながら日本人形といえた。
長く艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、髪と同色の瞳はアリスと呼ばれた少女のほうを向くことはなく、
ただぼんやりと虚空に向けられている。。
着ている和服を着崩すことなくきっちりと着こなす姿は、美しく壮観であった。
その感情の乏しい顔は隣で顔を歪めているアリスよりも、より人形めいていた。
「まあ、遊んでいたというのは否定しないわ。
兄様のことを思うと、この凡庸で平坦な世界に存在するどんなくだらない事象でも私にとっては最高の遊戯となりえるの」
そう言うとただでさえ焦点のあっていなかった瞳が、うっとりしだしより浮世離れした視線になる。
おそらく彼女は今この場にいない、腹違いの兄のことを思い浮かべているのだろう。
「ケッ、兄様兄様ってそんなにあの優男がいいのかよ」
アリスはそう言うと、鼻を鳴らしてそっぽを向く。
舞はそんな強がりを言う妹のことをかわいいと思いながら、兄への非難を注意する。
395 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:33:33 ID:xuxOA6OC
「あら、アリス。兄様にそんなことを言わないでよね。
あなたが素直になれないのと兄様のやさしさは関係ないのだから。
あなたも少しは素直になったらどう?」
すると、それまでそっぽを向いていたアリスはすぐさまこちらを振り返り、顔を真っ赤にして抗議した。
「なっ・・・素直になるって何だよっ!!
オレはいつだって自分に正直に、をモットーに生きているんだ!!
だ、だから、そんな、バカ兄貴に・・・その、素直にだなんて・・・
す、好きとかどうとか言えるわけないだろっ!!」
「あら、別に私は素直になればって言っただけで、好きって言えなんて一言も言ってないわよ」
「なっ・・・・・・あっ!!」
「うふふふっ、そう。アリスは兄様のことが好きで好きでたまらないけど、
素直になれなくて悶々としているのね。ホント、アリスは可愛いわね」
「コロス・・・てめぇは絶対にコロス」
つかみかかってくるアリスをひらりとかわし、舞は言葉を続ける。
「そんなにツンツンしなくてもいいのに。
兄様だってきっとアリスのことが好きだと思うわ・・・・・・私の次にだけど」
「あぁン、なんか言ったか?」
「いえいえ、なんでもございません事よ」
アリスは舞を捕まえることをあきらめたのか、頭をガシガシと掻きながら自分が元いた場所に戻る。
その顔を見ると、まだ不満が残るがこれ以上はムダなので渋々あきらめたようだった。
それを見た舞は自分も飄々とアリスの隣に戻る。
こちらの顔には、妹をからかえて満足、と書かれている。
「だいたいアリスは兄様のことを嫌い嫌い言っているけど、いったいどこが嫌いなの?
兄様ほど素晴らしい殿方はこの世のどこを探しても決して見つかることはないというのに」
「そんなのたくさんあるに決まってんだろォ。
今日だって、オレが有り難くも勿体なくも一緒に登校しているときにだなァ、
オレはうっかりと足を躓かせて転びそうになったんだ。
そしたらよォ、全然痛くないなって思ったらアイツがオレのことを支えててな、
こう、なんつーの?倒れそうになってたオレの腕を引っ張って、こう、正面から抱きすくめるみたいにしてな、
それで『大丈夫?』なんて、ちょうど耳元で囁きやがるもんだから、もう、なんていうか、
アイツの匂いとか体温とか声とかが、一斉に感じられて、もう、オレの頭がグチャグチャになっちまって・・・・・・
と、とにかく。オレはそれぐらい兄貴のことが嫌いなんだよォ。分かったか?」
「死になさい」
396 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:34:12 ID:xuxOA6OC
完全に、恋する乙女の顔で語っていたアリスに今度は修羅の顔をした舞が飛びかかる。
「正面から、抱きすくめられたですって!あ、あまつさえ、兄様に、み、耳元で、『大丈夫?』だなんて!
そ、そんな、私が夢見た、ベストシチュエーションベストテンに入るような体験を!!
し、しかも、私が行きたくないしたくない日直などというくだらない雑務をこなしている間にィッッ!!!
コ、コロス!殺してやるぅ!!
い、いえ、むしろハグをッ!!今、ここで、兄様との関節ハグをォォッッ!!!!」
「うわあぁぁっ!!ば、バカ野郎!!刃物を持ったまま飛びかかってくんじゃねぇッ!!
あ、危なッ!!ハグって勢いじゃねぇだろうが!!」
ドガンッ!!ガラガラ!!グシャッ!!ビチャッ!!
様々な破壊音を立てながら教室内でたった二人きりの鬼ごっこ。
それは彼女たちの容姿で考えるなら、美しいものとなるのだったが、
しかし、場所は深夜の教室、片方はまさに鬼の形相で相手を追いかけるといった状況では単なる滑稽なものとしてしか映らなかっ
た。
暗闇に近い部屋にもかかわらず、彼女たちは特に躓くことなく(障害物は破壊して)鬼ごっこを続ける。
やがて疲れたのか、二人とも机に突っ伏した。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・お、おちついたか・・・」
「ハァ、ハァ、ハァ・・・え、ええ・・・」
どちらもも満身創痍といった感じで、体の回復を待った。
その間も二人はにらみ合いを続けていた。
ようやく話し合いができるほどまで回復したころ、アリスは話題を元に戻す。
「とにかく、オレは兄貴のことなんて好きでもなんでもないからな。
そこんとこ、勘違いすんじゃねぇぞ」
「ハイハイ、そうですね」
397 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:34:38 ID:xuxOA6OC
ホントは大好きなくせに、という言葉はまた新たな追いかけっこに発展しそうなので飲み込んでおく。
「つーか、お前は兄貴のこととなると人格変わりすぎだ」
「あら、いいじゃない」
体力を回復し、落ち着いてきたので舞にいつもの飄々とした態度がよみがえる。
その視線はアリスではなく乱雑になった教室の暗闇に向けられる。
「好きな人を思うと頭が別人のようになるの。
これって素晴らしいことだと思わない?」
「そうかね・・・」
そんな姉を見てアリスが顔をしかめるのはいつものことだった。
本当に姉は変わらない。
彼女はいつでも兄に盲目で従順なのだ。
兄もそんな彼女のことを憎からず思っていると思う。
自分は。自分はどうだろう?
兄に自分の気持ちを表すことができずに、ついきつい言葉になってしまう自分は。
「アリス」
突然、自分の名前が呼ばれて慌てて我に返る。
姉は自分のほうを見ないまま言った。
「大丈夫よ。兄様は聡明な方だから、あなたがどういう子なのかも知っているし、あなたのそんな所を好いていらっしゃるのよ。
あなたの素直じゃないというところは、私には持ち得ない魅力。
だから胸を張っていいのよ。
あなたはあなたのままで十分に魅力的なのだから・・・・・・兄様は絶対に渡さないけど」
最後のセリフがなければかっこいい姉だったのに。
でも、そこが姉だと思う。
兄に対して絶大な好意を信頼をよせて、それをおくびもなく出すことができる。
そんな堂々とした姉がアリスは好きだった。
だから自分も自分らしく。
「ケッ、バカ野郎。なんでオレが兄貴に好いてもらって喜ばなきゃなんねぇんだよ。
そういうのは舞の仕事だろォ」
「あら、素直じゃない子」
そう言うとどちらがともなく笑い出す。
暗闇の教室で笑いあう二人は、やはりどこか輝いて見えた。
398 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:35:11 ID:xuxOA6OC
ホントは大好きなくせに、という言葉はまた新たな追いかけっこに発展しそうなので飲み込んでおく。
「つーか、お前は兄貴のこととなると人格変わりすぎだ」
「あら、いいじゃない」
「それにしてもよォ。いったい、いつになったら帰るんだぁ?」
いいかげん待ちくたびれた、といった感じでアリスは不満を告げる。
「ちょっとは待ちなさいよ。
そもそもアリスが数えるのを忘れていたからこんなに遅くまで残っているんだからね」
「ヘイヘイ、ワル―ござんした」
悪びれることもなく言うアリスに向かって、非難の視線をぶつけるがさして効果はない。
舞は嘆息すると再び『成果』の計測に戻る。
「しっかし舞も趣味が悪いよなァ」
「なにが?」
「それだよ、そぉれ」
そう言って舞が来ている和服を指さす。
「あら、和服は日本人の嗜みよ。
あなたも半分は日本人なんだから少しは見習ったら?」
「そこじゃねぇしッ!」
どうも舞は真剣に数えているようなのでアリスは口を紡ぐ。
確かに数え忘れていたのはアリスのほうで、舞はきっちりと数えていたのだから。
「ねえアリス」
「んー」
お互いに気のない会話で時間をつぶすことにした。
「あなたって日本人とイギリス人のハーフよね」
「だからなんだよ」
「いえ、淑女の気品のかけらもない上に英語ができない癖にって思ってね」
「んだとぉ、てめぇ」
「あら、ホントのことでしょ。
アリスは私に一度も英語で勝ったことないでしょう」
「べつにいいんだよぉ・・・ここから離れる気はねぇしよぉ」
「おじさまには何か言われないの?」
「んーべつにィ。兄貴によろしくってぐらいだな」
「マフィアのボスなのにずいぶんと気さくねぇ」
「オレのおやじだぞ」
「それもそうね・・・・・・あっ」
399 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:35:37 ID:xuxOA6OC
無得体な会話をつづけていると、何かに気づいたように声を上げる舞。
立ち上がったと思うと、キョロキョロる教室を見渡し始める。
「どおしたァ?」
「ねぇ。最初、いくつだったっけ?」
「んぁ・・・確か三十二だったけど・・・何かあったのかァ?」
「まいったわね。一つ足りないわ。
アリス、あなた逃がしたんじゃない?」
「げぇ、うっそ、マジで?」
慌てて乗っていた机から飛び降りて、あたりを探すアリス。
しばらく探し回ったが、探し物は見つからない。
「オイオイ、めんどくせぇなぁ」
そう言いつつアリスは教室のドアを開け放ち、廊下へ出る。
誰もいない、深夜の学校の廊下は、それはひどく不気味で、
一度足を踏み入れると、二度とは戻ってこれないようなそんな深い闇だった。
アリスは寒気を感じながらも、階段付近までいきスイッチに手を伸ばす。
アリスがスイッチを押すとそれまでの闇は一気に霧散し、蛍光灯の人工的な明かりで廊下は昼を取り戻す。
「おーい、舞」
「なに?見つかったの?」
「これこれ、見てみろよ」
「あらまあ」
400 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:36:08 ID:xuxOA6OC
明るくなった廊下に照らし出されたのは、何かを引きずったような赤い跡。
それは階段へ続き、そのまま下へ向かっている。
「どうやら下に行ったみたいだな」
アリスは階段の下を覗き込みながら言う。
「逃げられたらややこしいことになるんじゃねェ?」
「そうね」
二人は底の暗い階段を歩き始めた。
コツン、コツン
暗い、リノリウムの階段に二人の足音が響き、静寂の空間に音が反響する。
コツン、コツン
あたりに響くのは淡々とした二人の足音と、騒々しい会話だけ。
「そもそもアリスは大雑把過ぎるのよ。
もっと一個一個確実にしていかなきゃ」
コツン、コツン
「だからってイチイチ全部相手してたら日が暮れるッつうの。
てか、もう暮れてるしッ」
コツン、コツン
「美しくないって言っているのよ。
効率ばっかり重視するんじゃあだめよ。
日本には侘び寂びという情緒あふれた趣深い言葉が存在するんだから」
コツン、コツン
「はあ、日本人ってやつはどうしてこうも無駄なことに時間を割けるのかねぇ・・・」
401 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:36:50 ID:xuxOA6OC
コツン、コツン
「あら、こういうときだけ日本人ぶらないでくれる。
兄様と一緒にいたいがために、生まれてからずっと日本に住んでいるハーフのアリスちゃん」
コツン、コツン
「ななな、なっ・・・べ、べつに、オレはそんなんじゃねぇよ?」
コツン、コツン
「むちゃくちゃ動揺しているわね。うふふ、わかりやすい子」
コツン、コツン
「くっ・・・この、極道女め・・・」
コツン、コツン
「あら、お誉めにあずかり光栄ね」
コツン、コツン
「でもね、やっぱり私たちの中心は兄様よ。
極道だろうと、マフィアだろうと、兄様は決して私たちを忌避したり軽蔑したりしない。
ただ、ありのままの私たちを受け入れてくれる。アリスもそう思うでしょ?」
「ま、まぁな。そこは兄貴の唯一評価できるところだからなァ」
「あら、以外。てっきり『べ、べつに、オレは受け入れてほしいなんて思ってねぇんだよ』くらい言うものかと思ったのに。
簡単にデレちゃって、つまらないわね」
「んなぁっ!で、デレてねーよッ!!」
気がつくと、二人の足音が止まっている。
「で、何が言いたかったのかって言うと」
「ああ」
「私たちにとって兄様はなくてはならないものであって愛すべき存在であって唯一無二の絶対的な存在だからその兄様に近づいて
寄り添って汚そうとするどうしようもなく救いようがないほどに愚かな家畜達から兄様を守る義務が私たちにはあるということな
の。おわかりいただけて?」
「あ・・・・・・い、いや・・・」
彼女ら二人の前にいるのは一人の少女。
足を怪我しながらも必死の思いで教室から逃げてきた彼女は、しかし、ここで捕まってしまった。
「や・・・なんで・・・どうして、こんな・・・」
402 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:37:47 ID:xuxOA6OC
彼女は目の前でクラスメイトが惨殺されたショックからか、錯乱しただ首を振るだけである。
「あら、まだわからないのかしら?脳味噌が壊滅的におバカさんなツンデレアリスでも簡単に理解できるのに」
「オレはデレねぇし。ってか、てめぇいまオレのことを壊滅的なバカとかぬかしやがったよなぁ。
これってケンカ売られてる?売られてるよなァ。
よーし、そこになおれこのうすらトンカチ。オレをバカ呼ばわりしたてめぇはこいつよりも先に打ち殺してやる」
そう言うとアリスはずっと手に持っていた機関銃の銃口を舞に向ける。
「ハイハイ、わかったからそれを下ろしてくれる?
下ろしてくれたら、私がこっそり撮りだめしてる兄様プロマイド集の一冊を見せてあげるから」
「うっ・・・」
アリスは「べ、べつに、見たいわけじゃねぇ。ただ、ちょっと腕が疲れたから休憩しているだけで・・・」とか言いながら、
機関銃を下ろす。
「アホの子はほっといて・・・」
舞が向き直るとそこには少女の姿はない。
足を怪我した状態で、必死に上体を引きずりながら逃げようとしている。
舞はそんな彼女に優しく微笑みかけ、持っているナイフで足と廊下を縫い付ける。
「いっ、があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「もう、逃げないでくれる?あんまり遅くなると兄様が心配するんだから」
廊下にはひたすら絶叫が響きわたる。
どうして、なんで、ただクラスのみんなとお泊まり会をしようって集まっただけなのに。
そしたらこの姉妹が来て、いきなり銃を撃ったり、ナイフで切ったりして。
男女を問わずに、ほとんどが皆殺しにされて、足に銃弾を喰らいながらも必死に逃げて捕まって。
なんで、どうして。
ひたすらに疑問の言葉と、それを覆い尽くす灼熱の痛みが彼女を襲う。
403 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:38:18 ID:xuxOA6OC
「ひっ、ひっく・・・もうやだぁ・・・かえしてぇ、うちにかえしてよぉ・・・」
ありとあらゆる理不尽に襲われ、彼女はもはやプライドなく命乞いをする。
いやだ、いやだ死にたくない。こんなところで。
自分には特に夢も何もないけど、それでもクラスにはちょっと気になる男子とかいて、毎日楽しく騒ぐ友達がいて、
明日もまたなんて事の当たり前の日々が続くと思ってたのに。
「痛いですか?」
頭上から降る優しさにあふれているような声に、彼女はひたすら頷く。
「辛いですか?苦しいですか?悲しいですか?怖いですか?寂しいですか?死にたくないですか?」
足を固定されている彼女は、舞の顔を見ることができずに、痛みで朦朧とする意識をただ舞の声に頷くことに注いでいる。
彼女がもし舞の顔を見ることができたのなら、彼女は命乞いなどすぐに無駄だと知り辞世の句の一つでも考えていただろう。
嗤っていた。
人形のような顔に浮かんだ、どこまでも人間らしい、他者を蹴落とす時の愉悦の笑みを舞は浮かべていた。
「ねえ、名前も知らない兄様のクラスメイトの誰かさん。
わからないようだから最期にもう一度だけ言っておくわね」
舞は彼女の顔をつかみ、足をねじるような形にしながら無理やり顔を合わせる。
「ひあっ、がっ・・・あぁぁ」
「どうしてと言った。なんでと言った。それは決まっている。
あなたが兄様と同じクラスだからあなたと兄様が同じ教室で授業を受けているからあなたと兄様が同じ空間で息を吸っているか
ら、殺す理由には十分すぎるほどでしょう?」
さあ、
「せめて死ぬ時くらいは、きれいな顔をしてね?」
「いっ、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!」
404 ある姉妹の話 sage 2008/06/04(水) 22:38:46 ID:xuxOA6OC
「やっぱ趣味ワリ―って、ゼッテェ」
「そうかしら」
さすがに引きずるのは重いので、ナイフで少しずつ切り刻んで教室に持ち帰る。
後で教室ごと爆破するので、死体は教室に置いておく。
彼女もクラスメイトと一緒でうれしいんじゃない、などと心にもないことを思いながら。
「わざわざ、家から白装束を持ち出してきてそれを血染めで赤くしてまた着る、なんて趣味が悪いっつーの。
たっく、いくら兄貴が赤が好きだからってそこまでするかぁ?」
「あら、兄様に『似合ってるね』って言われた服と同じ服を何着も買い込んできた誰かさんにそんなことを言われるなんて心外だ
わ」
「だ、だれだろうなぁ。んな、変な奴いんのかねぇ」
「話は変わるけどアリス、私、最近あなたがそれ以外の服を着ているところを見たことがないのだけれど」
「さ、さあ?き、気のせいじゃねェ?」
「うふふ」
教室に戻り、死体を投げ込んだ二人はそのまま学校を後にする。
後始末は舞の組の者がやってくれるだろう。
これで教室が爆破されたら、邪魔な奴らは一掃できてさらに明日は兄が休みになる。
二人にとっては一石二鳥だった、が
「私が十七でアリスが十五、私の勝ちだから兄様は明日は私と過ごすのね」
「ちょ、オイ、まてよ。最後のアレもありかよ」
「当たり前よ。元はと言えばアリスがあれを逃がしたから、私が代わりに始末してあげたんじゃないの。
最初から数えていれば十六対十六で三人一緒に過ごせるはずだったんだから、自業自得ね」
そのとき舞の携帯電話が着信を告げた。
「もしもし?え、兄様っ!!ええ、ええっ。はい、アリスも一緒です。はい、申し訳ありません。
今すぐ帰りますので、ええ。はい、ご心配おかけしました。それでは」
電話を切った舞はすぐさまアリスの腕をとりかけ出す。
「オ、オイ!ちょ、ちょっと待てよ!!」
「なに言ってんの!!兄様が心配しているのよ!!私たちが戻るのを首を長くして待ってくださっているのよ!!
私たちがこんなところにいる理由なんて皆無よ!!今すぐ、今すぐに戻りますからねっ!!
待っててください、兄様ぁぁ~~~!!!」
「ちょ、オマ、はやっ!!和服なのに目茶苦茶はやっ!!
ま、まて、銃が、首を、首を締めるっつーのッ!!!」
彼女らの話は続いていく。
彼女らが兄を思う限りはずっと。
最終更新:2008年06月08日 20:20