455
「ダブルキャスト」 ◆zAA0hWWbi6 sage 2008/06/06(金) 14:48:34 ID:VBHtq+q2
第一章「ご都合主義の始まり」
この世は不思議なことで満ちあふれています。
何を隠そう私が通い始めたお嬢様学校もその範疇にあります。
浮き世離れしたスカートの丈、お上品な言葉遣い、ぽわぽわの眉毛。
もちろんお嬢様方はトイレになど行きません。スカートの中でもしません。
超一流のお嬢様とは、あらゆる生理現象から完全にかけ離れたところでお茶会など嗜んでおられるのです。
びっくりです。
驚きのあまり、失禁させそうになりました。
近くにいたビッチを。
「ぴぎぃ!」
牝豚らしく良い声で鳴きやがります。ちょこっと尻を鷲掴みにしただけなのに。
ところでこのビッチ、どこから湧いてきたのかといえば、じつは最初からこの部屋にいたのです。
私が生活することになったこの2LDKの部屋にいて、鞄から出した荷物を整理していました。
部屋を共有することになった、言うなればルームメイトだそうです。
本来なら個室があてがわれるはずなのですが、
諸々の事情により本年度から一年は相部屋生活をすることになったらしいのです。
んなこと微塵も聞いてませんでしたが、別に文句はありません。ありませんよ?
ちなみにこのビッチ、名前は青葉《アオバ》だそうです。名字は忘れました。
部屋割りをした人物は「二人で双葉、なんちゃって」とか思ったに違いありません。
死ねばいいのに。
それはともかくこのアホ葉、けっこう愉快な生き物です。
私ほどではありませんが見た目も可愛らしいので、さほど不快感はもよおしません。
挨拶ついでに尻を揉みしだいている今この瞬間も、
「……あっ……やめ」
短く切りそろえた柔らかヘアーを揺らし、つぶらな瞳を子犬みたいに潤ませて、喘ぎます。
わずかな抵抗は示すものの、暴れたり叫んだりする樣子はありません。
「やめてほしいの?」
調子にノリノリ耳元で囁きました。
返事がないので、私は空いた手をたわわな胸にシャイニングフィンガー。
もみもみ。
もみゅ!
思わず指先に力が入ってしまいました。
こいつが何気に着痩せするタイプだったからです。
私は切ない声をもらすアホバカら離れ、自分の荷物の整理をはじめました。
背中に当たる視線は無視です。
「あのー……」
「黙れよホルスタイン」
「ひぃっ!」
常日頃から蓄積していた暗黒成分が零れた気もしますが、まあ某国の有害さに比べれば微々たるものです。
いつも通り深層の令嬢を装っていきましょう。
「ねえ青葉」
「は、はい」
緊張して落ち着かない青葉を、氷柱のごとき眼差しで突き刺します。
「これから仲良く暮らしていく上で、いちばん大切なことは何かしら?」
私の問いに答えるべく青葉は米粒程度の脳みそをフル回転させて考えてる模様。
そして閃いたようです。
「おた、」
「違うわ」
面倒なので私自ら説いてやることにしました。
「私たちがこの限りある領土を分かち合い、平穏無事に一年を終えるのに必要なのはね」
間を置きます。
「絶対遵守の主従関係よ」
「え?」
理解の遅い青葉は間抜け面をして、主たる私を見つめます。
456 「ダブルキャスト」 ◆zAA0hWWbi6 sage 2008/06/06(金) 14:49:19 ID:VBHtq+q2
平和ボケした温室育ちめ。
荒涼とした世間を知らずに生きてきた娘の甘ちゃんっぷりに、思わず溜息がもれます。
「いいわ。明日からでもみっちり叩き込んであげるから」
今日は、なんだか疲れてしまいました。
「仮眠をとるから、その間にそこの荷物を私好みに配置しておきなさい」
注文を付けると、私は日当たりの良い部屋を選んで入りました。
新入生を迎えるにあたり、大きな家具は学校側が予め用意しておいたようです。
真新しいベッドの上に俯せに倒れ込み、微睡みに身を浸します。
今日からここが私の部屋です。
特待生に対する学校側の配慮により、青葉とかいう侍女、兼、愛玩動物も進呈されました。
せいぜい有効活用させていただきますとも。
「あのね、その山田さん」
遠くのお兄さまを想います。
「山田呉葉さん」
どこかの高校に通うお兄さま。
私がいない寂しさに打ち拉がれながら、それでも適度に充実した日々を送っていることでしょう。
「山田呉葉さま?」
懸念があるとすれば、あのゴミ屑ジジイの存在です。
幼い頃の私の記憶によれば、
あいつは細菌にも満たない人間性しか持ち合わせぬ、まさに獣欲の塊のような男なのです。
美人を見かけて声をかけること矢のごとし。
子供たちの目をはばかることなくNANNPAを繰り広げ、
その優形の美貌に魅了された牝豚どもをホテルに連れ込み次々と食しておりました。
まあ私たち兄妹は晩餐会にはお呼ばれしませんでしたので、実際に食したかどうかは謎ですが。
「ねえねえ、呉葉さんってば」
ようやく察しましたか、この愚鈍な生娘は。
寝転んだまま、振り向きました。
「……なに? 死にたいの?」
「死にたい人は進学しないよ。それより、これ見てこれ」
なかなかどうして、胸と適応能力だけは発達しているようです。
怯えるどころかむしろ嬉しそうに、つぼみ状に合わせた両手を差し伸ばしてきます。
つぼみの中身を見せたいようです。
仕方ありません。
顔を近づけて覗き込むと、指の隙間から何かが垣間見えました。
「洗面所で見つけたの」
つぼみの中をコソコソと。
カサカサと。
「可愛いでしょ。ゴキちゃん」
――――くっ!
私としたことが、完全にしてやられました。
こいつ芋子か……
意識が、もろくも霧散します
復しゅ
虚ろの淵にて。
お兄さまと再会を果たすその日まで、退屈しのぎには困らなそうです。
つづけ!
最終更新:2008年06月08日 20:28