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貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/20(日) 00:35:05 ID:hfUIyXSJ
[Kai side]
魁は男性用トイレから出ると、
曲がり角で眼鏡を掛けた女性と衝突する。
「「あっ」」
歩行位の速度に過ぎないため、
ぶつかっただけで済んだようだった。
魁は先に自ら謝罪すると、遅れて女性も頭を下げる。
「あ、すいません」
「こちらこそ、えっ!?」
「あの~、どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです」
驚いた素振りを見せると、足早に立ち去っていく女性。
「ん~、憐に似ていたような・・・」
憐に良く似た眸だった。
曲がり角に消えた女性を見つめて、はてなと首をかしげた。
しかし、彼女はメガネを掛けているし、髪をストレートに下ろしている。
対して憐は美男子で、裸眼だし、男にして珍しく髪は伸ばしているが、ポニテである。
偶に「どこのエロゲだよ?」なんて云ったら雪と憐の挟撃を喰らったこともあるくらいだ。
あの時、雪からは踵で踏まれ、動けないのをいいことに憐から良いのを顎にもらったんだよ。
442 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/20(日) 00:35:26 ID:hfUIyXSJ
女装趣味だったりはしないよな?
うん、気のせいさ。
「うーん、髪型自体は似てるのだが、だがしかし、まさか」
「どおしたの、兄さん」
「いや、なんでもない」
彼方はポッケに突っ込んで、首を掻きながら、
待たせていた雪を見やっていた。
443 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/20(日) 00:35:54 ID:hfUIyXSJ
「ただいまー」
「おかえりー」
いつもの兄妹のやりとり。
だが、さらに高い声が響いた。
「おかえりー」
ぱたぱたと、スリッパを鳴らす音。
面倒臭がりな親父が履くわけもなく。
そうすると、もう一人に限られるわけで。
エプロン姿の主婦じみた、けれど包容力たっぷりな桜さんがいた。
・・・もちろんのこと、胸もすげぇ。
「二人とも、おかえりなさい」
「おろろ?桜さん早いですね」
「兄さんは剣心ですか?」
珍しいことに桜さんが帰っていたのだ。
土日さえもゆっくりできないことが多い両親だが、
どうやら桜さんの仕事先での契約が巧く言ったとか。
靴を脱ぎ捨てながら、魁は抱えた買い物袋を持って居間へ移る。
真面目なことを考えていた筈の脳内は想像へとシフトした。
ふと、脳裏に浮かぶ、妄想図。
『いま、帰ったぞ』
『おかえりなさい、あなた
お風呂にする、お食事にする、
そ・れ・と・も』
444 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/20(日) 00:38:30 ID:hfUIyXSJ
「桜さんが~、裸エプロンで~、
げふんげふん、抱擁感ある美人妻・・・いいなぁー」
「兄さん、声出てますよ」
眉山を盛り上げると雪は魁の脇腹を捻る。
「ううっ」って唸るのはアタリマエジャナイカー。
いや、だって無理じゃね?
ボインで、キュッで、ボインなんだよ?
漢[おとこ]の夢ですよ、いや、俺ロリも好きですけどね。
幼妻[おさなづま]も捨て堅いよなぁー。
麦茶を二人分、雪と魁の分だけ出す桜さん。
良い肴になるなぁー。
べ、べつに今日のオカズになるとかいう話じゃないんだからねっ。
か、かんちがいしないでよっ!!
「ふふふ、魁さんもいいお嫁さん貰えますよ」
「だと、いいんですけどねー」と返すのは我が麗しの妹君。
「・・・何怒ってるんだ、雪?」
「なんでもないですよ、ふんっ」
いつもとは違って優等生たる雪は、
苛立たしいさまで階段を駆け上がっていった。
「ははは、気難しい年頃だなぁー」
「ごめんなさいね、魁さん」
いえいえ、と微笑ましい笑みを零しながら音の
階段を乱暴に鳴らして、ドンッとドアを開閉させてる。
「ほんとまったく、雪もいい加減にしろっての」
「いえいえ、あの位暴れた方が後々情緒的にいい筈ですから」
445 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/20(日) 00:38:49 ID:hfUIyXSJ
[Yuki side]
「・・・まった・、雪もい・かげ・に・ろ・ての」
母さんに、気があるとかそういうんじゃないとは思うけど。
それでも兄さんが他の女性に、気を向けるなんて酷い。
いるじゃないですか、ここ。
貴方の事を誰よりも想う女性が。
貴方の事を誰よりも愛する私が。
貴方の事を誰よりも憎める私が。
貴方の事を誰よりも嫉妬する私が。
貴方の事を誰よりも憎める私が。
そう、誰よりも、だ。
人は、誰かと支えあわなければ生きれない。
二人だけでは生きていけないのも尤もだ。
けれども、私は貴方なしでは生存できないのだ。
446 貴方だけを愛し続けます第7話 ◆iIldyn3TfQ sage 2008/07/20(日) 00:39:37 ID:hfUIyXSJ
魚が水を欲するように。
生物が空気を欲するように。
月が地球とずっといるように。
地球が太陽を必要とするように。
貴方は
罪深い。
嗚呼、兄さん。
自らの乳房を抱きしめて――――――
否、奥に疼いている心臓を、だ。
――堪りに堪った感情を、言語で表現した。
「どうしよう、最近抑えられなくなってきてる」
―――――――――兄さんへの気持ちを。
最終更新:2008年07月20日 21:22