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『スクールドズブリドル』その一 ◆uC4PiS7dQ6 sage 2008/08/29(金) 02:06:53 ID:vyxd+3Qm
月も雨雲に覆い隠され、星の輝きも失われ、ザーザーと汚水粒子を垂れ落とす。そんな17の夏の夜。
家のリビングで、兄妹揃ってソファーに座り、借りて来たアニメDVDをぼんやりと見る。
『甘いなジャンクマン! お前が壊したのは鎧だけだ!!』
『なんだと!?』
『トドメだッ! 逆タワーブリッジ!!』
『かかったなロビンマスク! ジャンク・クラーッシュ!!』
『なんのっ! ロビン式、風林火山!!』
『ぐああぁぁぁっ!!』
『マッスルタイム!!!』
片腕を頭上に掲げ、勝利を誇示する正義超人。
「まっ、わかってた、けど……さ」
別にアニメが見たかったわけじゃない。ただ沈んだ気持ちを何とかしたかったから、特集の組まれていた棚から適当に借りて来ただけ。
でも、それも無駄だった。アニメのテンションに付いて行けない。引いて余計に心が沈む。
俺は今日、中学校の頃から憧れてた人に告白し、振られた。
その人は綺麗で、綺麗で。儚そうで……手で触れてみたいって思わせる。
長くて艶やかな黒髪に、細くて官能的な身体に、赤くてふっくらとした唇に。
だけどそんな夢は消えた。「ゴメンなさい」の一言で消えた。彼女には、男が居たから。
「っ……らす、さん。あんたを追って、高校まで同じ所を選んだんだけどな」
ふぅぅっ、と二つも深い溜め息。アニメは終わり、チャプター画面に切り替わってる。
でも、これで良かったのかもしれない。募っていた想いを吐き出せただけで良かった。
俺みたいな『普通じゃない奴』は、普通の恋愛なんかしちゃイケなかったんだよ。
「ぢゅぷ……ふぇなコトをかんがふぇて、ちゅっ……ちゅっ、ちゅぱっ、んちゅ♪ あにゅきヘコんれるんひゃないのか?」
心の中を的確に見透かし、舌足らずに性欲を煽る声。
妹は左肩に寄り添って座り、
俺の左手を両手で持って自らの口元へ近付け、
人差し指だけに舌を巻き付けて咥内で弄ぶ。
くちゅくちゅと唾液を含ませてイヤらしい水音を立て、きゅうきゅうと長めの舌で締め付ける。
もはや10分以上も続いてる指フェラ。どれだけフヤけても止めてくれない。妹が満足するまで、止めてくれない。
「んっ……いんや、ただの憧れだったって気付いたよ。もともと……たいして好きじゃ無かったしな」
温かい舌の感触を断ち切る様に、憧れ人への想いを断ち切る様に、どうせバレてる虚勢を張る。
「ちゅぽっ……ったく、強がるなぁアニキ。じゃあ試して、みようか? ふふっ、こっちを見て……白銀(しろがね)くん♪」
妹は指を口から引き抜くと、台詞を喋りながら、俺の名前を呼びながら、声質を急速に変化させて行く。
ふっくらとした唇はそのままで、声はアルトに妖艶に。褐色の肌は白く、ブラウンだった髪は黒く長く、青い瞳は赤くなる。手で触れてみたいって思わせる。
本当に一瞬で、妹の姿は、俺が憧れていた女性になっていた。
28 『スクールドズブリドル』その一 ◆uC4PiS7dQ6 sage 2008/08/29(金) 02:11:23 ID:vyxd+3Qm
「私の事を……好きだったのよね?」
妹は憧れだった声と顔で続きを紡ぐと、唾液でヌルヌルになった俺の人差し指を、細い親指と中指で挟んで上下に扱き始める。
指をペニスに見立てて、視覚から性欲を刺激しようとしてるんだ。イツモノヨウニ……
俺の妹は、唏亜(なくあ)は、普通の人間じゃない。
何かの比喩じゃなく、本当に人間じゃない。
唏亜は産まれ付き身体が弱くて、15歳まで生きられないと宣告されていた。案の定に14歳の冬、病室のベッドで死へのカウントダウンを迎える。
髪の色素は薄くなり、瞳は虚ろになり、肉は落ちて頬はこけた。
俺はそんな妹を見てられなくて、毎日、毎日、祈ってた。妹の手を握り、涙を零して、毎日、毎日。
そんな時、俺の夢の中に、『彼女』が現れたんだ。
ムーの大森林を連想させる緑で埋め尽くすされた木々の避暑地。その奥に在る開けた濃霧の湖。そんな幻想。そんな幻想的な場所で、彼女と出会った。
俺が何故か水辺で突っ立ってると、彼女は『水の上を歩いて』近寄って来る。水面すら波を立てずに、ゆっくり、ゆっくり。
足元まで伸びた赤い髪に褐色の肌、それに青く透き通った凛々しい瞳。ボロ一枚だけを身に纏って、俺と同じ目線で、目前で足を止めた。
霧の中でも、幻想の中でも一層に栄える神秘。それが彼女。
そんな彼女が最初に放った言葉は、
「取引をしようか少年?」
黒い『尻尾』を左右に揺らしながらの一言だった。
俺は特に驚きもしない。
淡々と取引の内容を聞いて、夢の中で、『サキュバス』と契約を交わした。
「契約成立……だな。ふふっ、目が覚めたら妹に会ってやると良い」
この時の俺は、契約の内容を軽く見ていたのかも知れない。
でも、それでも。妹を助けて貰えるとしたなら、何度でもこの契約を結ぶだろう。
身体の丈夫じゃなかった母は、俺達双子を産んだ直後に死んだ。だから身体の弱い妹の相手は必然的に俺になる。友達に遊びへ誘われても断り、妹と二人で本を読む。本当は友達と遊びたかったけど、その欲求を押さえたのは俺だけが健康に産まれたって罪悪感。
父は男手一つで俺達を養う為に何年も夜遅くまで働き、妹が元気になってからは海外で働く様になった。
その日から、二人ぼっちの生活は始まる。妹を生き延びさせて貰った代価を、妹に支払う日々が。
まだ生き延びてるだけだから……全ての支払いが終わってやっと、妹は人間に戻る。それまでは食事代わりに俺の体液を啜り、支払いに俺の精を吸い取るサキュバスとして生き延びてるだけ。
妹と『彼女』。朝と夜の二人の唏亜に、俺は毎日翻弄されてる。
『スクールドズブリドル』
最終更新:2008年09月01日 00:42