『スクールドズブリドル』その二

75 『スクールドズブリドル』その二 ◆uC4PiS7dQ6 sage 2008/09/04(木) 13:38:44 ID:AnZhXb+s
1
 暑い。汗が噴き出る。時刻にすれば午前の7時過ぎ。まだそんな時間なのに、街頭気温計は30度を越えを示す。
 アスファルトの上には蜃気楼が浮かび、それでも足りぬと太陽は一層に照り付ける。
 平日の朝。学校へ行くいつもの過程。駅前ロータリーまでの道を、バス停までの道を、二人で肩を並べて歩く。
 「たまらんな、これじゃあ。お前は大丈夫か?」
 頬に垂れる汗を手の甲で拭いながら、隣で歩いてる無表情な妹に声を掛ける。
 「夏だもん……暑いに決まってるでしょ? そんな事で、一々話しかんなよな」
 低く唸る様な、不快感を前面に押し出した、俺だけに向けられた声。
 俺を見上げる唏亜の服装は夏用のYシャツと膝上のスカート。髪は『変わった』昨夜と同じで、色だけが赤く戻ってる。瞳は逆に赤から青へ、肌は白から褐色へ。
 「そう、だな。わかったよ。あまり話し掛けないようにするから」
 ツンとした表情はいつもだが、こんなに機嫌が割るそうなのも珍しい。何か有ったのか? いや、たまにはこんな日も有るか。
 妹の苛立ちをこれ以上刺激しない為に、こちらから折れて口を紡ぐ。

 「っ……わかっ、てない。ばか……」
 唇だけをもごもごと動かした小さな言葉。一人言なのか、俺に対してなのかも見当つかない。
 あえて聞き流して顔を前に戻すと、調度バス停が見え始め、この場所から乗る客達で溢れている。とは言っても、五十を超える客の全てが同学校の生徒だが。
 それだけの数だから、当然に雑音も五月蝿い。でも、今日だけは気マズイ雰囲気を流してくれそうで感謝した。
 妹と二人きりは辛いから……
 動けない程に混むバスの方がマシに思えたんだ。

 「んっ、来たかな?」
 到着から僅かな時間で、全景を黄色で塗装された学園専用のバスが目に映る。
 それを確認して生徒達が次々と列を成す。
 俺と唏亜は最後尾。一番最後に入ってドアの前を陣取るからだ。それが一年間変わらない二人の定位置。
 距離にして四駅ぐらい。別に立ちっ放しでも足は疲れない。
 それに降りる時は一番に出れるから、こっちのが良いと感じる程だ。
 「ねぇアニキ……今日も、ボクを守るんだよ?」
 バスが停車し、列の先頭が乗り始めた頃に、妹の口が再び開く。
 俺の手首を掴み、俺の耳元で、俺だけに囁いた、俺への『脅迫』。



76 『スクールドズブリドル』その二 ◆uC4PiS7dQ6 sage 2008/09/04(木) 13:41:33 ID:AnZhXb+s
2
 バスの窓越しに覗ける石垣の城跡。見馴れた風景。毎日見てるから、学校へは後少しで着くと分かる。
 後、三分ぐらいか? 後三分で、この状況も終わり。
 グラグラと揺れる車内からも、
 ギュウギュウに詰まる人口密度からも、
 ザワザワと止まない騒音からも、
 俺に前から抱き着いて、見上げた瞳を反らさない妹からも。
 妹は入り口のドアに背を預け、俺は妹へ覆い被さる様にして立つ。妹が人込みに潰さるのを防ぐ為、右手で二人分の荷物を持ち、左手は妹の顔横でドアに着け、周りの圧迫から身体を支える。
 「今日は付き合って欲しい所が有るから、学校サボってよアニキ」
 バスに乗った直後そう言われた。それからずっとこの現状。
 細い両腕は俺の背中に回され、柔らかな身体は隙間無く密着されて押し付けられ、青い瞳で見上げて来る。この状態で、俺の答えを待ち続けてた。
 そんな真っすぐな瞳を見れないから、風景に視線をズラして過ごしてる。
 答えなんて出せるものか……NOと言う事はできるが、それは妹の誘いを断る事だ。だから何も返さず、考えてるフリをして、無言で時間を過ごす。
 学校に着いたら、走って教室に向えば良い。
 学校でなら、妹も無茶を言わないだろう。
 バスもさっきの場所に次の生徒を迎えに戻るし、学校に来るしかないんだ。
 そう考えて……

 「ボクたち……双子の兄妹なんだよ? アニキの考えてる事ぐらい、ふふっ……表情を見なくても当てれるよ」
 そんな考えがカフェオレより甘ったるいと知らされた。
 暑さで流れていた汗が瞬間で冷える。支えている左手も小刻みに震える。それほどまでに、妹の笑顔は俺の全身を景縫うモノ。
 「守ってくれるんだよなアニキ? だってボク一人で行って、間違って『アレ』しちゃったら……ボク、公開レイプされちゃうんだよ?
 街中でイカ臭い男達に囲まれて、制服をビリビリ破かれて、穴って言う穴にオチンチン突っ込まれて、
 お腹の中がクズ精子でタプタプになるまで膣内射精されて、誰の子種かもわかんない赤ちゃんを孕んじゃうんだ……
 そんなの、嫌だよなアニキ? 妹が、ちつないシャセイされるの嫌だよな?」
 口は笑ってても、瞳の奥は真剣。もし俺が無言を通したり断ったりすれば、妹は確実に有言実行するだろう。



77 『スクールドズブリドル』その二 ◆uC4PiS7dQ6 sage 2008/09/04(木) 13:42:46 ID:AnZhXb+s
3
 嗚呼、そうさ。最初から拒否なんて出来やしないんだ。妹はいつも、自分自身を人質に取って俺を脅す。
 だから俺も、
 「ぐぅっ……一緒に、サボるから、そんな事を言うな。頼むから自分を大切にしてくれ」
 いつも通りに要求を呑む。どんなに強がっても、たった一言で俺は崩れる。
 「嬉しいよアニキ……だけどゴメンな。アニキは信じてるけど、んっ……念を、んんっ……押させて、貰うから……」
 妹は笑顔のまま、身体を押し付けたまま、両足の太腿で俺の左足をギュッと挟み込む。
 目は細まり、声は吐息混じりで、頬は微かに上気してる。
 行動の意味は考えるまでもない。
 「止めろ唏亜っ! もう着くから我慢してくれ!」
 唯々、唏亜だけに届く声で必死に叫ぶ。
 「ダメ、だよ。アニキはボクのトイレになるの♪ んふっ……気にしないで。着いたらすぐにコインランドリーに行っちゃえばいいんだから、オシッコ漏らしちゃっても大丈夫なんだ♪」
 やっぱりコレも本気。逃げたくとも、回りから人込みに圧迫され、両手両足でガッチリとホールドされてはどうする事も出来ない。
 妹は制服を汚す事で、俺の退路を断とうとしてる。
 「逃げないから、お前に付き合うから! だから、頼むから止めてくれっ!!」
 心はとっくに折れた。諦めたんだ。それは唏亜も理解してる筈なのに、他に何を求めようとしてるんだ?
 俺の胸に顔を埋め、小声で俺の名を連呼して、何を得られるんだ?
 「キテるっ……出すからなアニキ。ボクのオシッコ、アニキにかけちゃうからな!」
 手を回されてる背中の制服部分が強く掴まれる。
 まさか、本当に、したのか?
 「お前、本当に……っ!?」

 ……されてる。
 押し付けられてるし、この人込みだから音こそ聞こえないけど、太腿に挟まれた左足の膝上辺りから、温かな水気が広がって行く。
 制服は水気を吸って重量を増し、シミを作りながら下へと侵食させる。
 本当に唏亜は、こんな場所で、放尿したんだ。
 「はあっ……気持ち良かったよアニキ。これで、学校には行けないよな?」
 埋めていた顔を再び上に向け、俺と視線を合わせて微笑む。
 そしてその言葉の終わりと同時に、五十人を超える生徒を乗せたバスは、学校前のバス停へと辿り着いた。

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最終更新:2008年09月07日 20:48
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