424 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:07:07 ID:KV5QZBkd
俺の一日は、境内の掃除から始まる。
丁寧にゴミや落ち葉を掃き集め、一部の隙もなく磨き上げる。
冬の寒気に手がかじかむが、手抜きはできない。ここは神社(うち)の顔であるということもあるが、それ以上に。
「兄貴、おっはよ~。進んでる~?」
「もう終わった。てか少しは手伝え」
……ご丁寧に毎朝毎朝、『神様』がチェックに顕れるからだ。
どうせ学校へ行く前には着替えるくせに、なぜか巫女服で俺を見張りに来る、クセっ毛の少女。
どこをどう見てもただの女子中学生にしか見えないこの少女こそが、この神社が祀る『神様』その人であった。
「なんでよー。あたしは神様、仕えられる側。兄貴は巫覡(カンナギ)、仕える側じゃないの」
「生憎、まだ資格はもらえてない」
周りには、「よくもまぁ飽きもせず」と苦笑されるやりとり。
しかし俺たちにとっては、もう朝の挨拶のようなものだ。
「むー、畏れがたりなーい! 祟り起こすぞー!!」
「できもしないことは言うもんじゃねーぞ」
と、普段ならば母屋へ帰るまで、この言い合いは続くのだが。
俺たちの軽口は、慌てて石段を駆け上ってくる足音に遮られた。
「すいやせん、権現さま!! せがれが機械で指とばしちまいまして!!」
「あ、はーい! じゃ、ちょっと行ってくるね!!」
「……くっつける向きには気をつけろよ。この間、両腕を右腕にしちまうところだっただろ」
「もー、つまんないことばっか覚えてないでよ! あ、いま行きまーす!!」
鳥巣のような頭を揺らしながら、ぱたぱたと駆けていく、巫女服の少女……十塚葉霧(とつか はきり)。
号を、『天刃葉裂命』。刃伏の加護を与える神であり、刃物傷であるならば、どれほどの傷でもたちどころに治してしまう。
知る人ぞ知る現代の生き神であり、その小動物的な愛らしい容姿と分かりやすいご利益から、ご町内のちょっとしたアイドル的存在でもある――俺の、実の妹だった。
「んじゃ行ってきまー……お前はとっとと着替えろ」
「んー……神通力使ってだるいから、一時間目はサボる。……に゛ゃっ!?」
「アホなこと言ってんじゃねぇ。お前は少し、調子に乗りすぎだ」
コタツで丸くなったまま微動だにしない、葉霧の脳天に手刀一閃。
ネコのような声を上げて、葉霧は渋々と着替えを始めた。
「む~。覚えてなさいよね。兄貴がこの神社を継いだら、一生こき使ってやるんだから」
「むしろお前が婿をとれ。遠慮なくこき使える奴を」
「あの……瞬くん、葉霧ちゃんにも事情があるんだから……」
「てか母さん。母さんまでそんな遠慮した物言いするから、こいつが調子に乗るんだよ」
泣きそうな顔で俺にすがる、俺の母。
……娘がいきなり神様に祀り上げられて、どう接したもんかわからず戸惑うのはわからんでもないが……。
「……最近、ちょっと遠慮しすぎだろ。いくら生き神さまったって、神様である前に家族なんだから」
「……っ」
強い調子で母さんに詰め寄る。しかし何故か、母さんは目を逸らした。
……まるで、怯えるように。
「……? まぁ先にいくぞ」
「ふぁ~い。行ってらっしゃー……zzz」
「寝るな!!」
「みぎゃっ!?」
425 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:10:45 ID:KV5QZBkd
思えば、父さんが行方不明になってから。
もともと気の弱かった母さんは、葉霧に対して、それこそ御祭神に仕えるような態度をとるようになっていた。
それが何を意味していたか。それは、
「おはよっ、十塚!……なに朝から暗い顔してんの?」
「あ、水倉か。別に暗い顔なんてしてねーぞ?」
暗い妄想を、頭から振り払う。
いつの間にか俺の真横には、クラスメートの水倉香苗(みなくら かなえ)が並んで歩いていた。
俺が「ねーよ」と手を振ると、香苗はあたりを見回し、何を思ったか頬を赤く染めると身を屈め、息がかかるほどの間近から俺の瞳を覗き込んだ。
明るいショートの茶髪が鼻先を掠め、シャンプーの香りが俺の鼻腔をくすぐる。
「んでさ……あの手紙、読んでくれた?」
……むぅ。
まぁ、なんというか、その。
今どき下駄箱に手紙ってのも古風だよな。
「あー……うん、まぁ」
「あ、うん、いいよ、ゆっくり考えて。あ、じゃあたし朝練あるから!」
……行ってしまった。
確か、今日はバレー部の朝練の日じゃなかったはずだが。
まぁそこを突っ込むのは、無粋というものだろう。
「返事、考えねーとなぁ」
正直、断る理由はない。むしろ、今まで彼氏が居なかったとことに驚いたくらいの美人だ。
背丈が俺と一センチしか違わない、というのも俺には無問題だし。
席が隣になったという縁から、毎日のように昼食を一緒に食べているため、周囲からは既に「出来上がっている」と認識されてもいる。
……付き合うことになったと言ったところで、「何を今更」という反応を返されるのがオチだろう。
「まぁ、OKしても……いいんだろーけどなぁ」
何かが、引っかかる。しかしそれが何かは、俺にもわからなくて。
わからないまま。……俺は携帯のメールで、放課後に返事をすると約束をした。
「まぁ、気のせいだろ」
そう、能天気な考えのまま。
しかし、放課後に待ち合わせた校舎裏へは――香苗は、現れなかった。
426 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:11:50 ID:KV5QZBkd
「ただいまー。……どうしたんだ、香苗のやつ」
「あ、瞬くん。おかえりなさい」
「ただいま、母さん。さーて、今日も……」
「あ、その、今日はお仕事、もうやっておいたから」
母さんの様子が、おかしい。
嫌な予感に、俺は脱いだばかりの靴を突っかけて神社へと向かおうとした。
「駄目っ!!」
「母さん……!?」
それはすでに、悲鳴だった。
母さんは滑稽なほどに震えて、俺の腕にしがみつく。
そして行くな、行かないでくれとうわ言のように繰り返した。
その怯えようは、尋常ではない。
「お願い……今だけは、今だけはいかないで……!!」
「っ、……葉霧……が、そう言ったのか……?」
「お願い……お願いだから……!!」
しかし。
それが葉霧のことなら、行かないわけにはいかない。
俺は。あいつの、兄貴だから。
「っ、ごめん母さん!」
「あうっ!! だめ……そうやって、あの人は……あの人は……!!」
泣き崩れる母さんに、ごめんと一言だけ謝って。
俺は神社へと、全速力で駆け出した。
「う……あぁ……助け、許して……おねがい、殺さな……」
「え? 何勘違いしてるの? ――殺してなんか、あげないよ?
人の……ううん、神様のものに手を出したらどうなるか、じっくり教えてあげる……だけ、だから!!」
「ひぎっ! あぁあぁああ……ぐひぃっ……うぁあ……」
俺は、自分の目を疑った。
神社を取り囲む、鎮守の森の中。血の臭いをたよりに、二人を見つけてみれば。
香苗は、既に人の形をしていなかった。
両手両足を切り落とされ、肩と腿を鉄の棒のようなもので貫かれ、大木に打ちつけられ。
さらによく見れば、全身余すところなく刃物による傷が刻まれていた。
血は、流れていない。これほどの傷にもかかわらず、ショック死の兆候も見えない。
つまり、葉霧によって『決して死なないように』いたぶられていたのだ……!!
「何を……何をしてるんだ葉霧いぃ!!」
「え……兄貴……!?」
427 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:12:25 ID:KV5QZBkd
思わず。
目の前が真っ赤に染まるほどの怒りから。
俺は葉霧を怒鳴りつけていた。
「なん、で……あぁ、母さんか。まったく、せっかく見逃してやったのに使えないったら……」
何を、言っている……?
自分の母親に向かって、「使えない」だって……?
「ひぐっ……お願い、しま、すぅ……もう……二度と、十塚くん……には、近づき……ませ、ん、からぁ……」
「ま、いいか。けど、次はないよ」
「はい、はひぃ……!!」
いつもの。まったく、いつもの笑顔で。
俺が十数年見てきた、葉霧の表情(かお)で。
次は殺す、と。葉霧は香苗に凄んだ。
「葉霧、お前……っ!!」
「あーぁ、見られちゃったか」
「お前は……お前は葉霧じゃない! 誰だ、お前は……!!」
しかし葉霧は、俺の怒声もどこ吹く風と。
ゆっくりと歩いて俺に近づき、囁くように言った。
「あたしは、あたしだよ?
この神社の、生き神。天つ神、天刃葉裂の分霊。そして……兄貴の、実の妹」
見慣れたはずの黒い瞳が、刃物のように俺を射竦める。
その隙を突いて。葉霧は俺に抱きつき、その場へ押し倒した。
「っな、何を――!?」
「もう、暴れないでよ……えいっ」
手足に、焼けるような痛みが走る。
同時に手足から力が抜け、俺は糸の切れた人形のようにその場へと転がった。
――腱を、切られた!?
「葉霧……っ!?」
「あたしの手、刀なんかよりもずっと斬れるんだよ?
大丈夫、あとで治してあげるから」
もがく俺を、押さえつけて。
葉霧はにんまりと笑みを浮かべ――俺の唇に、自分の唇を合わせた。
428 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:12:55 ID:KV5QZBkd
「―――――っ!?」
脳髄がショートする。
理解が、追いつかない。
「……っぷは、葉霧、お前――!?」
「丁度いいや。見せ付けてやろうよ、兄貴」
そうだ、香苗は。
「……」
出血こそ止められているものの。
まだ手足を磔にされたまま、香苗は正気すらも定かではない瞳で、ぼんやりとこちらを見ていた。
しかし。葉霧が俺の服に手をかけ、脱がしはじめると――その濁った瞳に、理解と動揺の光が戻った。
それを確認し、葉霧は嬉しそうに手を早める。
「おい、やめろ葉霧!!」
「やめろ? ……まだわかってないの、兄貴?
言ったでしょ。兄貴はこの神社の巫覡(カンナギ)。あたしはこの神社の神様。
兄貴は一生、あたしだけに仕えるあたしだけのモノなんだから――!!」
俺の虚しい抵抗を、難なく排し。
葉霧は俺の服を脱がせることに成功すると、自分も巫女服を脱ぎ始めた。
まさか……!?
「おい! 何考えてる、俺たちは兄妹――」
「兄妹だから、だよ。
ほら、あたしのココ……兄貴が欲しくて、こんなに泣いてる」
つい一年前までは、風呂にも一緒に入っていた。
その時に見たものと何ら変わらない、小さな肉の裂け目が、俺の前に曝け出される。
だが。ただ一つ、一年前と違ったのは。
そこは小水を漏らしたかのように濡れ、嗅いだことのない匂い――男を誘う、雌の匂い――を発していた。
頭の芯が、痺れる。
「やめろ、葉霧……!!」
「でも、兄貴のここは……反応してるよ?
あぁそうだ、痛みだけ取るってこと、できるかな……」
手足から、痛みが消えていく。
しかし動かすことはできないままだ。
俺はなすすべもなく、葉霧に犯されていく。
429 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:13:25 ID:KV5QZBkd
「んっ……こう、かな……ちゅ……っぷは……」
「うっ、おぁ……」
葉霧の舌が。
妹の舌が、俺のモノを舐め回している。
たどたどしく。しかし必死に。
時折むせて、涙目になりながら俺を見上げ――、
「っく――!?」
「ひゃっ!? ……けほっ、ごほっ、ごほごほっ!!」
……身体が感じる快楽よりも、実の妹相手ということからくる異常な興奮に、俺は他愛もなく射精してしまっていた。
自慰の時とは比較にもならない量の精液にむせて、葉霧は息が切れるほどに咳をする。
その顔には。俺の出した白い液が、べっとりとこびり付いていた。
「あ――」
「けほっ、ごほっ……もう兄貴、興奮しすぎだよぉ……。
残りは、ちゃんと――こっちに出してよね」
そう言って。葉霧は、自分の陰唇を押し広げた。
はじめて見る、妹の内側。それこそ刃物で裂かれたような、鮮やかな緋色をした肉の割れ目。
それが。実の妹の、柔らかなそこが。涎を垂らし、今にも男のものを咥え込もうとしている。
そして、その口が獲物と定めたのは、間違いなく俺――実の兄のモノだ。
「葉、霧――」
「いくよ、兄貴」
それは、果たして俺に向けた言葉であったのだろうか。
数度、割れ目を俺のものに擦りつけ、粘い液を塗りつけると。
「んっ――!!」
意を決したように、葉霧は腰を落とした。
躊躇はない。痛みがないはずもないだろうに、全体重をかけ恥骨と恥骨がぶつかり合うまで、一気に腰を落とし込んだ。
痛みに耐えているのか、その身体が震えている。やや遅れて、結合部から鮮血が滲み出した。
「もう、やめ」
「もう遅いよ?
兄貴のおち〇ちんが、あたしの処女膜を破っちゃったんだよ?
ねぇ、見てたよね――香苗さん?」
430 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:14:33 ID:KV5QZBkd
あ――、
そうだ、香苗はまだ、樹に磔のまま――、
「……うぅ、ぅ」
「ほら、こんなに血が出ちゃってる。
けど、痛みなんかどうでもいいんだ。……あは、兄貴の、あたしの中でぴくぴくしてる」
目の端に、涙を浮かべながら。
それでも葉霧は満足そうに。勝ち誇ったように、微笑む。
「ほら、よく見てよ。
兄貴のが……こんなに、奥にまで刺さってる。
あっ、んうっ……こんなに、いやらしい音を立てて……ふうっ、あたしの、奥の奥までを犯して――あつっ、ここ、子宮口かな……?
んっ、あ……いま、ピクッて震えた。んっ、あはっ、先が膨らんできてる。
出ちゃうんだ……もうすぐ出ちゃうんだよね。
あっ、くっ、出るの? 出ちゃうんだよね、出しちゃうんだよね……実の妹の膣内に、精液を出しちゃうんだよね!!」
自分の言葉に興奮しているのか、葉霧は全身を紅潮させて動き出す。
早く出せと。実の妹を孕ませる瞬間を、香苗に見せ付けろと俺を攻め立てる。
――動けない俺に、抵抗する手段はない。
いや。できたとして、果たして俺は抵抗し得ただろうか?
互いに経験などなく、単純な肉の快楽は乏しい。
しかし実の妹に犯される、というこの状況で。果たして、俺は――、
「あっく、はぁ……ぁっ! 兄貴の、震えてる……出る、出るんだよね!?
いいよ、出して、んっ、いっぱい出して、白いの、あたしの中に出して!!」
「葉霧……っ!!」
耐える。耐える。耐える。耐える。
俺にできる、せめてもの抵抗。
絶望的な。あまりにも絶望的な抵抗は、結局のところ葉霧の快楽を長引かせただけだった。
「来て……来て、来てよ、もうすぐ、もうすぐ、イけるからぁ……!!」
「駄目だ、本当に、もう、出る―――ぐっ!!」
決壊する。限界をとうに超えていた劣情が、葉霧の膣内に注ぎ込まれる。
それは同時に、俺の心が折れたことを意味していた。
431 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:16:47 ID:KV5QZBkd
「んっ……あ、来てる? 射精、してるの? 出てるんだよね……?
あ……漏れて、出て、きちゃってる。兄貴の、すっごい濃いのが……あたしの中から、こんなに……。
気持ちよかった? よかったんだよね、だって、こんなに出たんだから――」
本当にニ発目なのかと、目を疑うほどに。
葉霧と俺の結合部からは、白いゼリー状の液体が、いやらしい音を立てながら流れ出ていた。
その音は、樹に磔られていた香苗にも、はっきりと聞こえるほどで。
葉霧が身体を揺するたびに、その音は耳をふさぐこともできない香苗を否応なく攻め立てた。
「うぅぅ……」
「ほら、見えるでしょ……? これが、兄貴の精液。
実の妹に興奮して、あたしを孕ませようとしてる、いやらしい精液……」
葉霧は勝ち誇ったように、流れ出る精液を指で掬い、隠微な笑顔でそれを舐め――思わず素に戻ってむせた。
「う゛……やっぱり、話に聞いてたみたいに飲むのは無理かも……。
でも、これでわかったでしょ? 兄貴は、あたしのもの。これからもずっとね。
あと。今日のこと、誰かに言ったら……わかってるよね」
「はい……」
もはや観念したのか、香苗は力なくうなだれる。
その様子に満足したのか。葉霧はようやく香苗を樹から降ろすと、傷をすべて癒した。
432 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:20:33 ID:KV5QZBkd
「……葉霧」
「なに?」
香苗が去って。
服を着直した俺は、葉霧へと向き直った。
「お前、どういうつもりで」
「こういうことだよ?
兄貴はあたしのもの。何か問題でも?」
平然と。何が悪いの? とでも言いたげに。
葉霧は晴れやかな笑顔のまま、俺に答えを返した。
「けど、俺たちは兄妹――」
「もう、だからイイんじゃない。
大体、こんなにいっぱい中に出しておいて、いまさら兄妹どうこうって説得力ありませんよーだ」
「それは、しかしだな……」
こうして、俺と話している葉霧は。
まったく、いつもの葉霧と変わらなくて。
――先程の、人間を躊躇なく切り刻む『神』とは、とても思えなくて。
「今夜のことは、忘れろ。
香苗には俺が話しておく。だから、もう――」
「……嫌。
兄貴があの女が好きだっていうんなら、今度こそ切り刻んで殺す。
これから兄貴に手を出す女たちも切り刻む。
あたしたちを咎める者がいたら、また切り刻んで殺す。――父さんみたいに」
――え?
心臓が、高鳴る。
それは俺が、ずっと押さえつけてきた黒い空想。
「葉霧――」
「父さんはあたしの気持ちを知ってた。
だから、部活の合宿で兄貴がいない日に、父さんはあたしを問い詰めて。怒って。
……兄貴を、隣町の学校へ転校させるって」
そんな、ことが。
それは忘れもしない、父さんが行方不明になった日。
いや。行方不明なんかじゃなく。殺された――!?
「だから、殺した。――母さんの、目の前で。
あはは、見物だったよ? 足の先からさ、少しずつ切り刻んで。
片足も終わらないうちに、ごめんなさいごめんなさいって泣き叫んじゃってさ!
母さんなんて、悲鳴も上げずにその場にへたり込んじゃって!!」
433 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:21:53 ID:KV5QZBkd
笑う。
笑う。
笑う。
葉霧が、笑っている。
テレビのお笑い番組を観たときのように。
いつもの、笑顔で。
禍つ神が、笑っている。
こんなにも、邪悪に笑っている――!!
「葉霧い―――――っ!!」
脳が、沸騰する。
俺は葉霧の胸倉をつかみ、近くの樹に押し付けていた。
ざあっ、と。葉擦れの音が森に響く。
そのまま俺は、葉霧の首を絞めようとして。
「兄、貴――」
その悲しそうな目を、見てしまった。
葉霧の目は、あまりにも。
あまりにも、昔から見てきた、妹のそれに相違なさすぎた。
小さい頃。まだ神としての力に目覚める前、いつも俺のあとをちょこちょことついてきていた、小さな妹。
その頃と何も変わらない目が。俺の沸騰した血を、いくらか諌めた。
「兄貴。……あたしが、憎い?」
「あぁ」
「あたしを、殺す?」
「……っ」
できるのか。
この人外の力を持つ存在を、俺なんかの力で殺しきれるのか。
だが。
葉霧は、苦しみながらも悲しげに微笑んで。
「いいよ。殺して。
――兄貴になら、いい」
疲れたように、そう囁いた。
434 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:23:09 ID:KV5QZBkd
「お前……」
「愛してもらえないなら、せめて憎んでほしい。
殺したいほど、あたしを憎んでくれれば。
その時だけは、兄貴は、あたしだけのものだから」
そう言って。
葉霧は諦めたように目を閉じた。
このまま手に力を込めれば、殺すことは容易だろう。
こいつは、人を殺した禍神だ。
躊躇なく人を切り刻み、殺せる存在だ。
殺せるなら。ここで殺すのが、世のためなのだろう。
だが。
俺は、葉霧を。
俺は、妹を。
大切な。誰よりも大切に思ってきた妹を。
殺せるのか―――――?
「―――――――――――――――――ッ!!」
声なき絶叫が、鎮守の森を揺らした。
435 妹(かみさま)の巫覡 sage 2008/10/01(水) 11:23:54 ID:KV5QZBkd
「あ~、おこたがぬくい……」
「コタツで寝るな。風邪ひくぞ」
「みゃっ!?」
神社の掃除を終えて帰ってきてみれば、やはり葉霧はコタツで丸くなっていた。
「ったく。学校休みだからって、ダラけすぎだぞ」
「休みだからって四回もハッスルしたのは誰でしたっけ~?」
……まぁ、それはさておき。
結局、俺は葉霧を殺せなかった。
葉霧を受け入れ、ともに生きることを選んだ。
こいつに、人並みの倫理観を芽生えさせてやらなければならないとすれば。
それはきっと、血を分けた兄である、俺の役目なのだから。
「お前がねだるからだろ。まったく人柱はつらいぜ……」
「観念しなさーい。兄貴はあたしのモノなんだから。
これ生まれたときからの運命。神様たるあたしが決めたディスティニー」
「……言っとくが、許したわけじゃないんだからな。
次に誰かを殺したりしたら、今度こそお前を殺して俺も死ぬ」
「うわー、兄貴ってロマンティストー。というかヤンデレ?」
……一体どこで、そんな言葉を覚えてくるんだか。
などとバカ話をしていたら。いつの間にいたのか、母さんが物陰から手招きをしていた。
「なに、母さん?」
「その……大丈夫なの?」
「あー……多分。まぁ何があっても、俺がなんとかすっから」
「ええと、あと、その……避妊は、ちゃんとね?」
「~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」
……いや、葉霧は『まだ』だってば。
しかし俺は顔を赤くするばかりで何も言い返せなかった。
そんなこんなで。ほんのちょっとだけ爛れて、ほんのちょっとだけ緊張感のある生活は、これからも続いていくのでしたとさ。
<END>
最終更新:2008年10月05日 16:22