283 ◆YSssFbSYIE sage 2008/11/08(土) 01:40:07 ID:XdorAnKH
【その4】
登校中、ずっと俺の腕に抱きついている妹は、すでに朝の風物詩と化している。
クラスメイトなんかは冷やかしてくるが、そんないいものではない。
なにせ、ずっと「兄上ドノ兄上ドノ」とうわごとのように繰り返される言葉を、
そばで囁かれているのだ。
もう少し俺の精神力が脆弱だったとしたら発狂している。間違いない。断言できる。
しかし、そんな俺への愛が過ぎてキモさがスパークしている妹も、
傍から見れば「大好きな兄の腕に抱きついて鼻歌を歌っている」ようにしか見えないらしい。
いったいどこを見ているのだろうか。目は節穴にもほどがある。
いや、これを節穴なんていったら、全日本節穴協会からクレームがくる。
そして昇降口で妹から解放されるのだが、そこからが大変。
なだめて、すかして、ようやく、しぶしぶ妹は教室に向かうのだが、
ちょっとでもこちらが隙をみせると、一瞬にしてまた抱きついてくる。
遅刻しそうになってもお構いなし。
なので、余裕を持って登校しても毎日教室まで全力ダッシュを余儀なくされる。
なんで朝からこんなに疲れなきゃいけないんだ、まったく。
284 ◆YSssFbSYIE sage 2008/11/08(土) 01:40:42 ID:XdorAnKH
【その5】
授業の合間にある休み時間も、一瞬たりとも気が抜けない。
授業終了のチャイムとともに、俺に向かってダイビングしてくることなんてザラだ。
渾身の体当たりを避けてもいいのだが、さすがに怪我されるのはいただけない。
このタックルを毎日のように受け続けていたせいか異常に打たれ強くなり、
ちょっとした自動車事故ぐらいでは動じなくなってしまった。
プロレスラーか、俺は。
家庭科で調理実習があったときは、毎回俺のところに作ったものを持ってくる。
持ってくるのはいいのだが、やはり何が入っているかわからないようなものは、
どうも口をつける気にならない。
しかし、敵もさるもの。周囲の目があることをいいことに、泣き落としやらなんやら女の武器を駆使し、
なんだかんだで俺にて寮を食べさせることを成功させてしまう。
普段持ってくるクッキーとかの焼き菓子なら、まだナニが入っていてもなんとかなるが、
今日のハンバーグなんて拷問に近い。
絶対細かく切った髪の毛とか、唾液とか、血液とか、皮膚とか爪とか入っている。断言できる。
泣き笑いながら「不確定名:料理のようななにか」をなんとか平らげる俺。
それを見てドゥフフ小さく低く笑う妹。
俺にしか見せない、あの気持ち悪いドブのような笑顔。
はやく誰か妹の本性に気づいてくれないだろうか。
285 ◆YSssFbSYIE sage 2008/11/08(土) 01:41:38 ID:XdorAnKH
【その6】
そんなキモく変態で鬱陶しい妹だが、嫌っているわけではない。
愛情の表現方法が一般の人と違っているだけで、彼女に悪気があるわけではない。
変態な部分さえなければ本当に自慢の妹だし、
最近はだいぶ発育もしてきて、外で見るとまぶしいぐらいだ。
窓の外に見える校庭で体育の授業にいそしむ妹は、
遠目からでもはっきりとわかるほどかわいく、
もしも兄妹じゃなかったら恋人になっていたのかもしれないと思うこともある。
「・・・・・・それはそれとして、なんだこれは!」
「兄上ドノぅ、すばらしい眺めでござるよぅホフフフフフ」
なんで俺は体育倉庫で縛られているのだろうか。
目の前には、学校指定の体育着に身を包んだ妹がいる。
ねっとりとまとわりつくいやらしい視線は俺の体、とくに下半身に注ぎ込まれ、
鼻息は恐ろしく荒く、時折よだれをすする音がかび臭い体育倉庫に響きわたる。
やけにズキズキ痛む頭で、なんでこんなことになったか、慌てて考えてみる。
もちろん、なんでこんなことになったか、まったく思いつかない。
さっきまで授業を受けていたはずなのに、
まるで途中のシーンをカットされたかのように、一瞬にして体育倉庫で縛られている。
天狗か?天狗の仕業なのか!?
いや、天狗ではなく妹の仕業であるのは間違いない。妹の仕業であるのは間違いない。
大切なことなので2度考えた。
しかし、これってひょっとして、本当にヤバい状況なのでは?
最終更新:2008年11月09日 19:27