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思い出の村1話 ◆sw3k/91jTQ sage 2009/01/01(木) 23:38:42 ID:lGjcFKa1
「うふふふふ。」
目の前で女が笑う。嫌な笑い方だ。まるでこの世は自分の思う通りに回っているとでも言いたげだ。
思い返してみる。どうしてこうなったのかを。
俺、水野秀樹は中肉中背、妹曰く可もなく不可もなくな容姿をしている高校二年生だ。
容姿と同様に、成績も普通。強いてフォローするならば人よりもちょっとだけ頭の回転が速い(自称)事くらいか。
そんな俺は夏休みを利用して小学三年生の時まで過ごした離島に妹と二人でやってきている。
「兄さん、あれは何という生き物ですか?」
「ハハッ、瑞樹よ。あれはどこからどう見てもエチゼンクラゲじゃないか。刺身にするとうまいぞ。」
こいつは俺の妹、水野瑞樹。誰に似たのかスタイル抜群、容姿端麗な花の高校一年生だ。
「知ってます。聞いてみただけです。因みにエチゼンクラゲは食べれないこともありませんが美味しくはないですよ。」
ツンツンしてるがその表情は普段より柔らかい。久しぶりの旅行で内心はしゃいでるのかもな。
「久しぶりの旅行で気持ちはわかるがあんまりはしゃぐと海に落ちるぞ。」
「はしゃいでなどいませんよ。でももしそうなっても絶対に兄さんが助けにきてくれますから大丈夫ですよ。」
そして結構なブラコンである。
学校でもその容姿から男女問わずにもてた。しかし言い寄ってくる男はすべて振り、浮いた話は今まで一度も聞いたことがない。
しかも先日何で男を作らないかを聞いたところ、「兄さん以外の男に興味がないんです。」と、さらっと言われてしまった。
兄としてこんな妹を心配する気持ちが無いことも無いけど。ま、そういうのは時が解決してくれるだろう。
なんて物思いにふけっているともう船着場に着いていて妹が急かしてくる。とっとと降りなきゃな。
「なにか考え事ですか?兄さん。」
「ああ、瑞樹についてちょっと考えてた。急がず焦らずいこうな。」
瑞樹は一瞬逡巡し、急に顔を赤らめて何を思ったのか、
「こっ、こちらにも心の準備がありますのでいきなりプロポーズに入るのはやめていただけませんか?」
と言ってきた。さっきの台詞のどこをどう取ればプロポーズになるのかは分からないが一応、
「おおすまん、プロポーズにも順序があったな。すまんすまん。」
とツッコミを入れておいた。そして妹の反応を待たずにわが故郷を見渡す。
そういえば、あの子は元気だろうか。茜ちゃん。元気にしてればいいんだけどな……
side瑞樹
私、水野瑞樹は今、小学二年生までを過ごした離島に最愛の人と来ている。新婚旅行気分だ。
あの人は私を妹としてしか見ていないが、いつか絶対手に入れてやる。あわよくば既成事実でも作ってしまおうとかとさえ思っている。
そのためにこの旅行もセッティングしたのだ。これで夏休みは兄と二人の時間が増えて、間違いが(私にとってはバッチこいだが)起こる可能性も高くなるだろう。
しかしこの時私は浮かれて忘れていた。最強で最狂の敵、楢崎茜(ならざき あかね)の存在を。
最終更新:2009年01月06日 20:37