52 素直クールが着る水着 sage 2009/01/17(土) 01:30:52 ID:JWBeSZiJ
燦燦(さんさん)と降り注ぐ太陽の日差し。飛沫になって輝く水と、方々から聞こえる歓声。
汗と海と、薄着の時節。あるいは────人によっては────UFOの、夏。
「流石に凄い人だね、兄さん」
塩の効いた液体が心地良く肌を濡らし、蒸発に従って冷まされる体温が気持ち良い。
突き刺さる陽光に眩しい砂浜、
辺りは人でごった返しているにも拘(かかわら)らず、隣に座る妹の声は不思議と涼やかに通った。
「夏だからね」
「夏だけど、だよ」
返答は少し皮肉気な笑み。クスクスと笑う声が潮風に乗る。
「夏と、海と、水着。男女が大胆になれる3種の神器────だったかな?」
海と人の波からは少し離れたビニールシートの上。パラソルの色彩が投げかける影を、妹の顔が遮る。
色彩は落ち着いた青の、だけどデザインは扇情的なビキニを貼り付けた胸が揺れた。
色白を自慢していた肌は日に焼けてしまい、影がそうする以上に色濃い。
太陽の下ならばさぞ艶のある小麦色として栄えるだろう。格好と相まって大勢の、特に異性の目を惹くに違いない。
「多いね・・・・・・カップル」
「夏、だからね」
仰ぎ見る妹の顔が、つ、と横を向いた。視線は彼方の波間。
乾き始めた黒髪が一房、凭(もた)れていた耳からはらはらと落ちる。
指先まで染みた気怠さの中で繰り返した言葉は、妹の唇から長い吐息を紡いだ。
「夏だけどだよ。兄さん。この暑さだっていうのに、熱いね・・・・・・どこも誰も」
青いシートがガサガサと音を立て、視界に現れた片手で妹が小さな額を撫でる。
「のぼせそう────────いいや、溺れそう・・・かな」
言いながら放した手は、僕の胸の上で指を広げた。
くすぐったさの後に落とされた唇が息吹き、熱のある呼気がゆっくりと肌の上を滑る。妹と一泳ぎしたばかりの僕は裸に近い。
反射的な緊張で硬直した肉体が、ゆっくりと押さえられた。
乾ききらない手を胸に、湿った頬を腹に乗せ、妹が抱きついてくる。
「ちょっと」
「大丈夫、どうせばれないよ。私と兄さんとの関係が何なのかも・・・・・・ナニをしているのかもね」
空いていた方の手が、海パンを通して僕の腰に触れた。
押し付けられる、水分を含んでザラついた布地の感触が徐々に下腹、
股間の付近を隠す唯一の布切れの中央へ這い進んでくる。
「~~♪」
鍵盤でも叩くような気軽さでトントンと男性に触れる指先。
疲労した肉体は理性より本能に近くて、集まる血流に熱をもったソコが膨らんでいく。
53 素直クールが着る水着 sage 2009/01/17(土) 01:34:19 ID:JWBeSZiJ
「一度こういうセリフを言ってみたかったんだ。
『体は正直』だね? 兄さん・・・・・・ん」
反論の弁もない。それでも、せめて抵抗の意思を吐くべき口も、妹の口付けによって塞がれてしまう。
海水に重くなった髪を僕の顔へ垂らし、自分の顔を傾けて唇を押し付けてくる妹。
押し付ける位置を上げた豊満な胸は重く、
鼻での呼吸をこなせる程度には慣れているはずなのに、わざと息を吹き込まれた。
匂いとも違う、どこか清涼な感覚に混じる磯の香。
鼻腔に届いた吐息は肺に送られる前に吸い戻され、替わって舌が伸びて来る。
唾液をたっぷりと乗せた柔肉は先端で僕の舌に挨拶をすると、侵入した口腔に纏った体液を塗りつけ始めた。
くねり、うねり、濡れそぼった全身で僕の口内を洗う。ザラザラとした感触に背が震えた。
血の下がる頭に、背にする砂の熱感が遠くなる。海パンごと擦られる部分が固く跳ねた。
高まっていく感覚の終点が彼方、水平線の辺りに見え始める。
「少しはそれらしい気分が出たかな?」
案の定、妹はそこで手を離した。
抜かれた舌から垂れる糸を拭い、手の甲に乗せてから改めて口付け、吸い上げる。
「体力を使い果たすには早いからね。まだ遊ぼう、兄さん。まだまだ楽しもう、2人っきりで」
深く息を吐く僕の上で、妹の表情がにこやかに踊った。
「一夏の思い出は、それからが最高だよ」
立ち上がって離れた背が、膝を曲げて手を伸ばしてくる。
覗き込んでくる瞳には微かな疑いもない。僕にその催促を断る術はなかった。
「分かった」
促されるままに背を浮かせる。しかし、手は借りなかった。
自分でもそうした理由ははっきりしない。妹の目には抵抗が映ったのだろうか。
答えてくれる唇は、立った時には一歩先で僕を誘っていた。
54 素直クールが着る水着 sage 2009/01/17(土) 01:36:24 ID:JWBeSZiJ
足のつく波間で戯れ、目標まで競い泳ぎ、水の掛け合いや駆けっこをし、ビーチバレーをし、
そうして勝敗を笑い合い、カキ氷とヤキソバを手にパラソルの影を求めて戻り、お腹を満たして。
青春というものがあるのなら充分に、いや、十二分に満喫したと思う。
振り返らなくても、欠片の後悔もないと言い切れる時間だった。
ただ。
青春とは、書いて字の如く青い春。
蕾が開く前、果実が熟すまで、まだ若い頃だけに許される刹那の時間だ。
だから、僕らに許された青春はここまで。子供の時間は終わり。
一つ大人になる僕らは、どちらかが不本意であれ花を咲かせる僕らは、だから散らさなければならない。
それまで守ってきたものを。開いた花弁の一枚を。
「もういいかな」
海水で口を濯(ゆす)いだ妹は、それだけ言って僕の手を引いた。
『ファーストキスがソース臭のするイチゴシロップ味というのは、幾ら何でもいただけないからね』
そう言った妹の顔には、まだ青い照れ臭さがあった。この時だけは、歳相応の反応だったかもしれない。
「こっちだよ、兄さん。大丈夫────下調べはしてあるから」
今日の企画・立案は妹に任せてある。そうするしかなかったから。
今日僕がここに来て、ここにい続ける理由は全て妹のため。妹の手によるものなのだから。
「足元。気をつけて」
人気(ひとけ)と海辺から離れて海沿いの岩場を目指す。
内陸では先ず見ないごつごつした形の足場を踏んで更に先へ。
妹の足が止まったのは、それから悪戦苦闘しつつの数分を歩いてからだった。
「ここだよ。さあ、気を付けて降りて」
上から見下ろしているとよく分かる、周囲の岩場の中で一箇所だけ空間の開いた場所。
潮の関係か波の浸食が深く、刳り貫いたように適度なスペースがある。
加えて満潮が近付かないと海水も届かないようで、一見して砂は乾いていた。
「ネットって奴は便利だね、一般の有益性を別にすれば大抵の情報は手に入る。
幸い他のカップ────利用者もいないようだ。どうかな兄さん。
お誂(あつら)え向きだろう?」
「そうだね」
ゆっくりと降りて、確りと足場を確認してから視線を上げる。
見れば、一足先に着地した妹が屈んで水着を埋めていた。
「万が一、脱いで波や風に流されでもしたら困るからね」
折られていた膝が戻る。
日焼けを免れていた部分が晒され、小麦色と白色のコントラストが陽射しに映えた。
歳の割に大きな胸も毛の生え揃ったソコも隠すことなく、何も恥じ入ることなどないように妹は立っている。
55 素直クールが着る水着 sage 2009/01/17(土) 01:38:23 ID:JWBeSZiJ
「ごめんね、兄さん。せっかちで」
言いながら両腕を広げ、潮風を全身に浴びて歩んで来た。
抱き締められ、何よりも強く、妹の肌から女の香が匂い立つ。
「でも、もう我慢出来そうにないんだ。だからお願いだ。
遠慮なんかしなくていい、一息に奪ってくれ。準備なら済んでる。
今日、兄さんを一目見た時から・・・・・・・・・いいや、今日のことを思った昨日の夜から濡れているんだ」
触れている体温より熱い、震えた吐息が耳を撫でる。
「さあ兄さん、私はいつでもいい。どんな風だっていい。好きなように私を使ってくれ。
叶うならいつまでも、兄さんが私の体に飽き果てるまで存分にだ。
私はそれでいい。それがいいんだ」
こんな時にだけ潮風は止み、海鳥の姿はどこにもなく、波は緩やかで静まっていた。
「兄さん。私を抱いてくれ」
返事はしなかった。僕は溺れるように、妹の体へ沈んで行った。
海水に沈めた下半身を引き上げる。こういう時に男性は楽だ。
外側を流すだけで情事の残滓を消し、表面を取り繕うことが出来る。
ついでに相手のアフターケアの余裕があれば十全だ。
まだ立てない妹の足に、砂を洗い落としたばかりの水着をかけてやる。
僕の背に爪痕をつけた手は、曲げた腕と共に太陽から顔を隠していた。
潮の音(ね)に嗚咽が混ざる。聞いて呼び起こされる感情は悲痛でも罪悪感でもなかった。
「立てるようになったら海で体を洗ってくれ。そのまま水着を着ると・・・・・・多分、分かるから」
緩く開かれた妹の股間からは、白濁した液体が溢れ出していた。
それが何なのかは言うまでもないことだ。決まっている。僕が最もよく知っている。
繰り返した放出の最後、妹に両足で挟まれた腰を引けずにそのまま出したのだ。
妹の、中に。
大丈夫ではあるだろう。問題はないと言えるのかもしれない。
でもそれこそ、そういう問題ではないのだ。
「うん。うん、ごめんね兄さん。すまない。手間をかけさせて、最後に我儘もしてしまって。
すまない、兄さん。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
妹は泣いている。嬉しさで泣いている。
その雫が悲しみか痛みのせいならば、誰かが悪いのだとして、罪が僕にあるのならば良かった。
その方がずっと分かり易い。
57 素直クールが着る水着 sage 2009/01/17(土) 01:39:35 ID:JWBeSZiJ
「でもね、兄さん」
その方が、ずっと救いがあった。
「兄さんには悪いけど私は幸せだよ。一番、世界で一番、幸せだよ。
今まで家族として愛してくれていたのは知ってる。
でも今、無理矢理であっても妹じゃなくて女として抱いてくれた。女としての私に兄さんを抱かせてくれた。
兄さん。ありがとう。ありがとう兄さん。ありがとう。ありがとう」
恋が叶った人間を悲しませる方法が、世界のどこにあるのだろうか。
暫く、妹の瞳からは塩の味がする雫が溢れた。
「次は、いつ来れるのかな・・・・・・?」
「冬か春・・・・・・遅ければ一年後、かな」
「そう。でもさよならは言わないよ、兄さん。愛してる────────たとえ、これが最後でも」
最後。迫った妹の唇を受け入れさせたのは、その言葉だったのかもしれない。
どちらにせよ、僕らの関係はこの一度きり。それが約束だった。
許されざる関係であるのではなく、許されない関係であるかもしれない僕らの、
僕がぎりぎりで妥協できた結論がそれ。
具体的な始まりがいつだったのかは、最早知りようもない。
それでも全体の切欠を求めるなら、原因は父の再婚だった。相手は、俗な言い方をすればバツイチの子連れ。
兄妹のいない僕からすればバランスは取れていたと言える。
両者の抱えている一人っ子は年齢が近く性別が異なり、伴侶を亡くした原因が同じく事故死で。
その運命的な出会いを、僕と妹にまで必然と当てはめる気はないけれど。
『お義兄(にい)さん』と僕を呼んだ妹から、兄以前の文字が消えた時には既に手遅れだったのか。
僕が『義妹』を一文字で認識する頃には、戻れない所まで来ていたのか。
僕が大学へ進学した時期には、もう間違いのだけど。
妹に異性として好かれた。弱みを握られた。帰省を口実に呼び出され、たった一度の関係を強制された。
本なら一行にも満たない過程には、果てしなく思えた紆余曲折があったけれど。
それももう終わりだ。妹は約束を守るだろう。妹は僕に嘘を付かない。そこには不思議と信頼がある。
同時に、それだけが僕の支えでもあった。
58 素直クールが着る水着 sage 2009/01/17(土) 01:40:23 ID:JWBeSZiJ
2人、熱気を上げる堤防の側を歩く。
仮に大人の足でも夏には怠さを覚えるだろう海の外周、果てなど見えなかった道。
けれど、果てがないわけじゃない。この道にも果てがある。
これまでの僕と妹の関係にも、今日の僕らの関係にも。
無意識にそれをこの道に見立てたのかもしれない。
これで終わり。
これが終点。
ここでお別れ。
歩きながら、そんな思いがあった。
僕らが2人で過ごす夏はここまで。今日の約束もここまで。
妹が約束を守るならば僕は解放され、今までと似た、ただ妹に対する何かが変わった人生が続く。
揺らいでも真っ直ぐに。陽炎が浮かぶ、夏の焼けた線路のように。
その終着駅に妹の姿はない。当然の帰結。有り触れた必然の終幕だ。
当事者の一人である僕が閉幕を願っている以上、物語の公演は続かない。
夏には終わりがあるのだから。ただ、男女としての僕らが同じものを迎えるだけ。
何もおかしなことはない。
そう思った矢先。堤防の終端、海と陸の境界線が見えた。
妹がペースを上げる。その背中を汗をかかない程度に追い、やがて追いついた。
走ればあっと言う間の距離だったから。そんな間を詰めて、妹はほんの少し、まだ先にいる。
でもそこは、堤防とその先との境目を向こう側へ越していて。
水着から着替えた服で立っていた妹が、数歩先で振り返った。
「結局、聞かなかったね? お義兄さん────────今日、私が『大丈夫な日』なのかどうか」
懐かしい呼び名が紡がれる。
緩く舞い上がったワンピースの裾が、言い終わる頃に漸(ようや)く降りた。
波の音は遠く、声を掻き消すには小さい。夏の熱気が、じりじりと意識を濁らせる。
「私は兄さんに嘘を吐けない。兄さんにだけは嘘を吐けない。
出来るのは、言わないことだけ。聞かれない限り沈黙を続けることだけ。
だから、日取りを決めた段階から、
私が────────血の繋がらない義妹が、どれだけお義兄さんに信頼されているかの賭けだったけど。
私が、血の繋がった妹以上に家族と思われているのかが鍵だったけど。
義兄を好きになって、脅して、関係を強要するような浅ましく狂った義妹が、
避妊や安全日という常識を持っていると考えてくれるかどうかが最後の分かれ目だったけど」
そこで閉じた唇が、賭けの結果を口にすることはなかった。
「いつか行くよ、兄さんに会いに。そしてまた来るよ、兄さんと此処に。その時は・・・・・・たとえ兄妹でなくても家族だ」
愛おしそうに、両手が服で見えなくなった腹部を撫でる。
「産まれる前には会いたい、かな・・・? こっちの海なら水温的にはぎりぎりで間に合うかもしれない。
次の夏は違う水着を用意しないといけないね。
2人の子供に障らないように・・・・・・・・・それとも産後のシェイプアップかな? ふふ」
踏み出す前に、今はまだ邪魔にならない腹を抱えた妹は反転していた。
妹と、異性と。更にもう一つの女の混ざり合った目が、一瞬だけ僕を見詰める。
「じゃあね────────『あなた』。また今度」
そう言って。
波間の輝きより光に満ちた笑顔を浮かべた義妹は、僕の前から去って行った。
磯の香より濃く、沖の水底よりも深い、仄(ほの)暗い予感を残してから。
最終更新:2009年01月18日 20:06