289
フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:15:15 ID:bbVzBVx4
七月の太陽は、気性の荒い女のようだ。家への帰り道、俊介はそんなことを思っていた。
ヒステリーを起こし、誰が悪いのかもわからず、ただ当たり散らす。
実際に目にしたことはないが、見ればきっと、この熱気さながらだと思うに違いない。
背中には家から出てコンビニに行っただけだというのに汗。シャツが肌に張り付く感じが嫌で仕方なかった。
家が見えたとき、丁度、門が開いた。
視線をそのままにしていると、舞が耳の横の髪を正しながら出てきた。
動きやすさを重視したのか男物のワイシャツと下は綿のジャージという室内着。手にはいくつかの雑誌を白いビニールテープで縛って持っていた。
「今日って古紙回収の日だったか」
「ああ、お兄ちゃん。一か月に一回だから、この日にちゃんと出しとかない面倒なのよ」
ふっ、と息をついて雑誌の束を地面に置く舞。
「ちょっと疲れたわ」
家の中も掃除していたのだとすぐにわかった。夏の日差しの下、薄らと汗が滲んでいる。
雑誌の束をその場に置くと、まだあるからと言って家に引っ込むと、もうひと束持ってきた。
それを見て、あっ、と俊介は驚く。
「さて、と」
が、舞はそのことには気づかなかったのか、ゴミ置き場へと向かった。
「俺が持つよ」
そう言う俊介を嫌うように、舞はずんずん歩く。
「すぐそこよ。別にいいわ」
「まあまあ」
そして、半ば強引に舞の手から雑誌を奪った。両手分ということもあり、手には赤く跡ができていた。俊介の手にずしりとした重さが加わった。
舞は俊介の慌てぶりを見て、じろりと睨む。
やがて、よいしょ、という掛け声とともに奪われた雑誌を上から踏みつけた。
「じゃあそれ、お願い。私まだすることがあるから」
そう言うと舞は振り向きざまに俊介をじろりと諫め、家に入っていった。
「……これ、昨日買ったばっかりなんだぞ」
俊介は一人になると、肩を落としながら本の束を見る。
一番上には、お姉さん特集、というタイトルの表紙。
胸元を強調するためか布の面積が極端に小さな水着に身を包んだ女がアップで写り、周りに卑猥な文字が羅列していた。ポルノ雑誌だった。
わざわざ表紙を見せて積まれているせいで、上から見ると本の束まるまるアダルト関係の本だと誤解してしまいそうなのは、もちろん舞の謀略だろう。
「抜き出しても、また見つけられそうだしなぁ」。
口から大きな溜息がでた。
「もう何回目だっけ……天井裏の物まで見つけるなよ……」
もう諦めたのか、俊介は家と束を見比べた後、仕方ないと呟いてごみの収集されるところまで持って行き、家に戻った。
俊介がパタンとベッドに倒れこむ。布団からは温かみが暑さへと変化し、干していたようだ。
思いいたって携帯を開いてメールを送った。
内容もたいしたものではない。今大学ですか? それだけだった。
十数秒でバイブレーターが部屋に響く。
休日なのに大学があるわけないよ。今は家でだらだらテレビを見てる。返事を見て、苦笑する。
返信しようと思った途端、またメールが来た。
差出人は同じ人物だ。
「――――」
それを読む。
俊介は起き上がって、自分の頭ぽかりと殴った。すぐさま机に移動してから小枝子にメールを送った。
しばらくやりとりをこなすと小枝子からメールが来なくなったので、忙しくなったのだろうと思ってそろそろ自分も何かしようと、自室を出る。
気がつくと空は薄い青色の帳が扇の形をして広がってあった。部屋に差し込んでくる太陽の温度は、昼と比べると色の濃度に反比例している。
俊介は考え、今日の夕食は自分が作ることにしようと、舞の部屋に行った。
「ちょっといいか」
扉をノック。中から話声がちくちくとしていた。
誰かが来客した気配は感じなかったので、おそらく携帯で誰かと通話しているのだろう。
「悪い、話し中だったんだな」
案の定、開けられた扉からは舞が携帯を手にしている姿があった。
「何?」
「話し中ならいいんだ。大したことじゃないから」
「いいから。何の用?」
「あー……今日の夕飯、俺が作ろうと思うんだけど」
「……どうして?」
「いや、いつも作ってもらってばっかりで悪いな、と」
291 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:17:00 ID:bbVzBVx4
俊介がそういうと、舞はわざとらしく目を細めた。
じろりと首まで伸ばして顔を見てくる。
「ふーん」
「たまにはいいじゃないか」
「私はいいけどね。でも、だめだからね」
「何が?」
「ま、いいわ。で? それだけ?」
「あ、ああ」
話が終わると、舞は唇の端を僅かにあげて扉を閉める。中からまた話声が始まった。
俊介はここにいては会話を訊くことになってしまうので、言った手前さっさと食事の用意をしようとキッチンに向かった。
五時。梶原の家では大体七時から八時が夕食なので多少早い時間に準備することになるが、料理をやり慣れていない俊介にはいい余分だ。
凝ったものにして驚かせてやろうと考えながら、場を離れた。
「あれ」
しかしそこで、妙なことに気づいた。
「あいつ、誰と電話してるんだろう」
舞には友達がいない。
言わずとも、俊介が知っている限り、という意味であるので相手が友達だったとしても別段おかしなことではないが。
けれども、舞の性格は排他的であるし、前に友達になった朋美とも、彼女が引っ越してからは連絡が取れないという背景があるので、少し煙たいような印象を抱いた。
「親父……なわけないよな」
言って、払拭するように一度頭を叩いてリビングに行き、窓から入ってくる鈍い光を見た。
わけもなくカーテンを引く。
そして勢いをつけて冷蔵庫の扉を開けた。
俊介は少し時代遅れの歌を口ずさみながら、用意を始めた。
292 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:17:42 ID:bbVzBVx4
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「で、出来たのがこれね」
舞は頭を押さえながら呆れ、盛大に息を吐いて言った。
「いや、もっと凝ったものにしようとしたんだけどさ」
「したんだけど?」
「はは……途中から作り方忘れちゃってさ」
「そしてカレーになったと。しかも失敗」
食卓には明らかに水が多く、とろみがないカレーが用意されていた。
視線を滑らせて横を見る。
「サラダ、のつもりなのよね」
レタスで輪を作るように並べ、装飾したかったのだろう。心なしか何か思惑があってこうしたというのはわかる。
しかし、大きさに隔たりがあるので途中の円形が陥没してしまっているせいで、もはやひし形に近い。
何より、雑で急遽作ったものだとよくわかってしまってみすぼらしく、食べ物というよりは餌という方がしっくりくる。
「しかもこの泥水カレー、まずいんだけど」
舞が添えられたスプーンを口に運ぶ。
ぽたぽたとルーが落ちてしまうので素早く口に運ばなければならないのが食べづらく、補助した手には数滴のルーが零れ落ちた。
俊介はその様子を見て、大きく嘆息する。どうして自分は、まじめなくせに不器用なのだろう。妹は家事も勉学もそつなくこなすというのに。
苦手なことがあるということに対して、劣等感を持っているわけではない。それなら、舞とて不得手なことはある。
そうではなく、苦手なことをきちんとこなし、得意でないことがあるということを悟らせない姿に、羨望を描いているのだ。
「ごめん」
「……別に怒ってはないわ。まずいけど、食べないとは言ってないじゃない」
お兄ちゃんも食べるんでしょ? 舞が言う。俊介も慌てて手を動かした。
ちらりと表情を見る。
「……」
近づきがたい。何を考えているのかわからない。他人を見下しているみたいだ。
そんな舞の不評。彼女の交友関係を気にしている俊介にとってよく耳に入ってきたものだが、そう言う人たちにこの姿を見せてあげられればいいのに、と思う。
「何よ、人の顔をじろじろ見て」
「いや、舞は優しいなと思って」
「……」
「うん。いい妹で兄ちゃん嬉しいよ」
「あ、そ」
293 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:18:21 ID:bbVzBVx4
食事が終わった。食器を持って洗い場に向かう舞に、俊介が声をかけた。
「あー、今日は洗いものも俺がやっておくから」
「そう?」
「ああ。それと、話があるから洗い物が終わるまで待っててくれないか」
そう言うと、素早く洗い物を始めた俊介は、彼に似合わず不真面目に、ほとんど水切りさえしない状態でシンクに食器を置いてリビングに戻ってきた。
「で、何をしてほしいの」
ソファーに座った兄に、舞は先ほどの優しさなど少しも感じさせずに言った。
「バレてたか」
「夕飯を作るって言いだしたときからね」
はは、と笑う俊介を瑣末なものでも見るように促す。
「えっと、ですね? 明日からは自分の部屋は自分で掃除をしようと思うんですよ。いつまでも面倒をかけるわけにはいかないし」
「それで?」
「出来れば部屋に入る時もノックとか、してほしいかなー、と」
「つまり、勝手に部屋に入るな、と?」
「まあ、悪く言えばそうなる」
「よく言っても同じでしょ」
俊介がテレビのリモコンを手に持って、そわそわしているのがいくらか滑稽だった。
兄の手からリモコンをひったくって、雑音に逃げられることがないように予防すると、舞は腕を組んで睥睨する。
「どうかな?」
だが、言いにくいながらもそう俊介が問いかけると、舞は耳にかかった髪を後ろになびかせて立ち上がった。
何をするのかと思えば、そのまま俊介の横まで来てゆっくり顔を近づけてくる。
何をしているんだ、という声には返事をしなかった。
耳と口の距離がなくなる。
「い、や、よ」
はっきりとした声だった。怒声、と言った方がいい。
俊介が蹲って耳を押さえていると、舞は言うや否やこれで終わりとばかりに立ち去ろうとする。
あわてて呼び止めると、細い目で言った。
「大体ね、何が掃除は自分でー、よ。どうせ今日のエッチな本が捨てられたことが嫌だったから思いついただけでしょ! 馬鹿じゃないの?!」
俊介が、ぐっ、と唸る。
追い打ちをかけるように言葉を続けた。
「あんな低俗な……恥を知りなさい!」
「て、低俗って……俺だって一応男なんだから、その、仕方ないというか」
「仕方ない?」
「わかってくれよ。俺だって、その、買わずに済むならそれでいいけど。男って言うのはそう言う生き物なわけで」
294 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:19:04 ID:bbVzBVx4
妹に性的なことを言うのには抵抗があるのか、俊介の抵抗には勢いがない。
けれども、ここで引き下がると後々困ったことになるということは頭にあったので、まあまあと舞をふたたびソファーに座らせた。
すると、苦々しい俊介に感応したのか、また違ったことを口にした。
「わかったわ」
そう言うと、舞はいきなり上に着用していた部屋着を捲りあげる。
え? という俊介を置きざりにして、さっと上半身だけではあるがブラジャー一枚の姿になった。豊かな乳房が白いブラに押さえつけられてもぶるんと揺れた。
「これから毎晩私がヌいてあげる」
慌てて眼をそらす俊介に、舞は豪胆に言い放った。
すぐに下に穿いていた膝元までのジーパンまで脱ごうとしたので、俊介は横を向いたまま舞の手を止めるという器用なことをする。
「は、はあ?! 何してるんだ!」
「私がお兄ちゃんの性欲がなくなるまで、中のものが空になるまで相手をしてあげるって言ってるの」
「いや、意味がわからない! と、とにかく上を着なさい!」
「自分で言うのもなんだけど私って結構胸あるのよ。サイズ、どれくらいかわかる?」
「わからないし、お前の胸が大きいのは前から知ってる! とにかく服を着ろ」
「あら、お兄ちゃんいつも私の胸とか見てたの? やらしいなあ」
「やらしくない! 妹をそんな目で見るわけないだろ」
「じゃあ、もし妹で射精したらどうする?」
「ば、馬鹿かお前は!」
「冗談よ。そんなにむきになることないじゃない」
「……とにかく服を着てくれ」
シャツを突き付ける兄に舞はしぶしぶ従った。
着たのを確認すると、俊介はすぐに何か言おうとしたが、先を制して舞は不満を口にした。
「だってこうでもしないと、お兄ちゃんはああいう本を買っちゃうんでしょ。だったら仕方ないじゃない。お金の節約にもなるわよ」
「……舞、兄ちゃんはそう言う冗談は怒るぞ。そんな自分を大事にしないような」
「だったら、今まで通りよ。元はと言えば、お兄ちゃんが我慢すればいいだけの話なんだから」
こう言われると、俊介は折れるほかなかった。
多少の禁欲にはもう慣れているし、何より妹にこんなことをさせるなんて兄としては立つ瀬がなかったからだ。
まだ上着から手を離さない舞を見てわかったと言った時には、家族が勝手に自分の部屋に入って所有物を処分する、という理不尽さはもう頭になかった。
295 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:19:37 ID:bbVzBVx4
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夏の夕暮れは遅い。
住宅街の向こうにある地平線は、少しずつ大きくオレンジを広げているようだが、空は完全に染まりきっていなくて、白が多かった。
水平線より上にできた、色の境界線。俊介は、まだ小学生だったころ、あの空が少しでも白いままでいてくれるように願ったのを思い出した。
「こうやって帰るの、久しぶりですね」
自分の身長よりも長い影を見ながら小枝子が笑う。
目線を合わせずそうつぶやく姿。他人は少なからず眉を細めるけれど、俊介はそんな彼女特有の動作を可愛いと微笑んだ。
「そうだね。嬉しいよ」
「あ、その……わ、私もです」
相乗するように微笑む。
一本に伸びていく道はまだ二人が別れるまでは充分にある。当たり前のことが、俊介の顔を緩めた。
「本当は、もっと一緒に帰りたいんですけど……」
「俺は言ってくれればいつでもかまわないから、気にしないで」
小枝子と一緒に帰ることはさっき彼女が言ったようにあまりない。それは学校の都合や二人が噂されるのを嫌って別々に帰っている、というわけではなかった。
原因は小枝子の父親にある。
前に一度、俊介は小枝子の家に行ったことがあった。期末試験の前で一緒に勉強しようという話になったから、日曜日に彼女の家に出かけたのだ。
最初は何も問題なかった。小枝子の姉の妙子とも仲良く話すことができたし、母親も俊介という彼氏を歓迎してくれた。
しかし、夕刻を過ぎたとき、父親が大きな音をたてて部屋に入ってきた。
ぜいぜいと肩で息をする父親。顔は赤い。俊介はすぐにその後彼が何を言うのかわかった。
それからは、あまり小枝子の家には近付いていない。
訊けば、父親は警戒しているのかいつも夕食で俊介と今日一緒にいたのかどうか尋ねるという。
「すみません……」
小枝子は邪魔をされるたびに謝った。
でも、俊介は父親の気持ちは何となくなく察せるような気がした。
儚くか弱い彼女。もし自分が小枝子の父親なら、同じようなことしないと言えなかったから。
「じゃあ、また来週」
一本道が終わり、ここを左に曲がれば小枝子の家がある。念のため、門まで見送ることはしなかった。
対面する家から無遠慮にはみ出た木が風に吹かれて揺れているのが見える。
「あ、あの……!」
帰ろうとした俊介を震える声が呼び止めた。
296 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:20:17 ID:bbVzBVx4
「ん?」
振り返ると、鞄を抱くようにして小枝子が顔を赤くしていた。
「明日、遊園地に行きませんか」
「遊園地?」
「はい。あの、先月できたコスモテンボスってところなんですけど」
「あのテレビでプールとかお化け屋敷の紹介されてたやつ?」
「そうです。どうですか。無理にとは、その、言わないんですけど。できたら」
言っている最中に感極まったのか、語尾がもつれて最後は何を言っているのか聞き取れなかった。夕日が彼女の頬を助ける。
そう言えば。俊介はそんな彼女を見ながら黙した。
彼女と出かけたのはいつが最後だっただろう。舞の薦めで付き合いだしときに出かけたのを除くと、記憶にはない。
「もちろん構わないよ」
その返事に小枝子は嬉しそうにさらに強く鞄を胸で抱いた。
しかし、俊介が一歩彼女の近くに行くと、今度はどうしたのか残念そうに目を伏せる。
「どうしたの?」
訊くと、はっとして顔をあげたが、言いづらそうに目をそらした。
俊介はこういうときは待ってあげるのが一番いいと思って、黙って傍にいることにした。
小枝子が、ゆっくりと紡ぐ。
「妹さんも連れてきてくれませんか? 私も、お姉ちゃんとお姉ちゃんの彼氏さんを連れてきますから」
驚いた。
舞や姉の妙子を誘って、というのではなく、二人きりでないと第三者に冷やかされたりして恥ずかしい思いをするのが嫌だ、
というのを彼女は考慮に入れるだろうと思ったから。妙子の彼氏というのがどんな人物なのかは知らないが、茶化したりする男もいるだろうに。
「舞も?」
「は、はい。やっぱり、その……まだ二人っきりっていうのは、恥ずかしいですから」
「ああ、そういうことか」
「ごめんなさい」
「いや、謝ることないよ。一応舞の予定も聞いてみないとわからないけど、誘ってみるから」
俊介は応えるように片手をあげて言い、家を一度見上げてから帰って行った。
小枝子は俊介が帰ってもその場を動かず、そこにいた。
「また明日」
一人になって、ぼんやりとつぶやく。
気をつけて帰ってくださいね、よかったら家に上がっていきませんか、そういうことが正解だったらよかったのに、と思った。
「私、ほんと……だめなやつだな……」
夏の風が一際激しく吹いて、小枝子を笑った。
297 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:20:54 ID:bbVzBVx4
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プールサイドは太陽の匂いがした。消毒された水と、温められた木と、どこからか塗装の匂いもする。
人が多いことが人工の匂いをより強めている。プールの独特の雰囲気。それは服を脱ぐ、という開放感に近い。
俊介は、一際大きく息を吸い込んだ。
遊園地の中に設置されたプールで、ここまで大きく快適なところなら、もっと早く知りたかった。
テレビで見ていたとはいえ、想像していたのは実際にはもっと小さいものを頭で描いていたのだ。端から端を視認するほどの苦労する大きさとは。
舞も驚いているようだ。口を閉じたまま瞳を大きく開いている。
オレンジのビキニにプリントされている鮮やかな花の上でぎゅっと手を握り締めた。
水着は最大限に舞の女性らしいスタイルを引き出している。下に穿かれているショートパンツはお尻の形をはっきり見せているが、健康的な色気で男を魅了している。
小枝子はホルターネックのビキニにスカートで、体系的な幼さを見事に克服していた。
それどころか背中から出た肌は清楚で大胆なイメージを見ている人達に抱かせた。
「妙子、遅いな」
三浦信也が三人に聞こえるように呟いた。
信也は小枝子が言うに妙子の彼氏で、サッカーをしていたらしくがっちりとした体で俊介よりも頭半分身長が高い。
「あ。おーい。妙子。こっちこっち」
妙子は、いつもどおり無表情でやってきた。
横に青と水色と白、そしてピンクのタンキニ水着という格好で、女性の中では一番着替えが早いはずなのに、一番遅く。
「なんか、妙子は色気ねえな」
信也が明るい声で言い、じろじろと三人の女を見比べている。
「わ、私、何か飲み物買ってきますね」
小枝子は言い、自販機のある方へ走って行った。俊介はそれを見て追いかける。しかし舞に、
「妙子さんって、この男と付き合ってるの?」
と声をかけられてやめた。
「そうらしいな。日野さんが言ってたから」
「ふーん。物好きな人」
そう言うと、舞は興味を失ったのかいまだに自身をじろじろ眺める信也が嫌になったのか、プールの方へと歩いて行く。
どこ行くんだ、と俊介が言うと、私がいると人数的に合わないでしょ、と舞が返した。
小枝子が戻ってきたので、買ってきてくれた飲み物を飲んで、四人もプールへと向かった。
着くと、さっそく信也が水の中に、いっちばーん、と大声をあげて飛び込んだ。
バチンという音が聞こえるほどに大の字で飛び込んだので、痛そうだなと俊介は思ったが、本人は露ほどもそんなことを気にしていないようだった。
「あの、他の人に迷惑になるんじゃ」
小枝子が恐る恐る言う。
事実、周囲を見れば傍にいた人に水しぶきが大量にかかって睨んできていた。
「そんなの気にしてたら、遊べないぜ? 早くこっちきなよ」
信也に促され三人は水の中に入る。
俊介と小枝子はひっそりと、妙子はわざわざ飛び込み台までいって垂直に水に突っ込んだ。
「さすが妙子。俺が見込んだだけはあるな」
信也が笑顔で親指を立てて妙子を祝福する。
「ああ……」
「どうしたんですか?」
「いや、やっぱりあの二人似てるのかもしれないなって思って」
298 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:21:29 ID:bbVzBVx4
俊介はひとり言のように口にする。視線は妙子を捉えていた。
小枝子の姉である妙子は、口数がほとんどない。表情を変えることも稀で、笑って何かを話すところなどを、俊介は想像することができない。
小枝子に妙子と話をすることはあるのかと聞くと、
「もちろんありますけど」
と言っていたが、それすら信じ難かった。
妹である小枝子と似ているところは体つきぐらいだ。
「……梶原君は」
唐突に小枝子が言った。
「え?」
「いえ……なんでもないです」
小枝子は妙子と飛び込み台を見つめた後、薄らと儚い笑みを浮かべて姉たちの近くに行く。
「あれ? そういや君の妹は?」
俊介も続くと、信也がきょろきょろと頭を動かしていた。
「舞ですか? 人数が合わないから、って言って子供のプールの方に歩いて行きましたけど」
「妹さん、泳げないの?」
「いや、気を使ったんでしょう」
「そんなことする必要ねえのに」
「引き留めようとも思いましたけど、必要以上に世話を焼かれるのを嫌う子ですから」
信也が残念そうに舌打ちする。
俊介は、傍にいる妙子に一瞬視線を走らせ表情を窺った。
いつもの虚空を見るような顔だったが、俊介が見たことに気づくとじゃぶじゃぶと派手に近寄ってくる。
「お姉ちゃん、三浦さんの傍にいないと」
しかし小枝子がそう言うと、俊介のことなど興味が初めからなかったように信也の元に向かった。
信也も妙子が傍に来ると、ウォータースライダーを指差して声をかけている。二人で向かって行った。
結局それから一時間ほど、俊介と小枝子は二人だけで遊んだ。
小枝子はふだん学校では考えられないほどに、大声をあげたりはしゃいだりして、俊介とともにいられることを喜んだ。
俊介もそんな彼女に負けないほどに、飛び込み台の上から声をかけ、妙子たちが向かったウォータースライダーにも行き、小枝子を膝の上にのせて滑った。
「怖くない?」
「楽しくてたまらないです!」
テラスに戻った時には、小枝子は肩で息をしていた。俊介がジュースを持ってくると、頭だけ下げてそれを受け取った。
ごくごくと白い喉が鳴る。
俊介はそわそわしながらその姿を見た。初めてそこで、自分たちは付き合っていて、今は二人きりなんだと強く意識する。
不謹慎だと思うほど、その気持ちが強まった。
299 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:27:13 ID:bbVzBVx4
「お兄ちゃん」
しかし、俊介が小枝子に声をかけようとすると、舞が肩越しに現れた。
水には入っていないようで、水着は少しも濡れていない。俊介は頭を一度掻いて、
「どこに行ってたんだ?」
と言った。
舞はそれには答えず、一度小枝子を細い目で見る。それから他の人たちはどこに行ったの、と口にした。
「もうすぐ戻ってくると思うけど」
「じゃあ、戻ってきたらお化け屋敷に行かない?」
「お化け屋敷?」
「うん。水着のまま入れるらしいよ」
舞が俊介の後方を指差す。振り向けば、プールの入口の傍にそれらしきものがあった。
昼を少し過ぎた程度なので今ならば並ばずにはいることができるかもしれない。
「お、いたいた」
申し合わせたようなタイミングで信也と妙子も戻ってきた。
俊介は、二人に向こうのお化け屋敷に皆で行かないかと誘ってみた。
信也はそれを聞くと、まだ話が終わっていないうちから顔がらんらんと輝き出して、いこういこうと、舞と妙子の背中を押す。
「日野さん」
俊介が小枝子を呼ぶと、彼女は舞の方を刹那だけ見て、俊介の隣に駆け寄ってお化け屋敷の方へと向かった。
俊介は一瞬、手をつないでみようかと思ったが、なんだか今そうしてしまうと、
これからお化け屋敷というところで何か期待しているように思われるかもしれないと考えてやめた。
お化け屋敷は洋館を古風に装飾したものだった。
俊介は以前テレビで見た、怪奇現象で紹介されていたヨーロッパの館を思い出す。
窓があるべきところに扉があるのは、幽霊たちを迷子にするためらしい。レポーターが不思議そうに、二階から外へ続く扉を開け閉めしていた。
お化け屋敷は三階まであるようで、二階のエントランスが入口になっている。見た目だけだとかなりの大きさだ。マンションと言われても頷いてしまいそう。
受付までくると、遊園地の入りが多いせいか、遠くで見たときよりも列が少しできていた。
やはりテレビで紹介されるほどであるから、空きやすい時間帯でも、待たなくてもよいと言うことはなさそうだ。
三十分ほど待たないといけませんがいいですか、と受付にいわれると、信也が真っ先にそれぐらい全然いいって、と言って列に入る。
出口は入口からだと見えなかった。
並んでいると、そういえば、と舞が喋り出した。
「ここって何人かに分かれないといけないんじゃない?」
「え? どういうことだ?」
「二組に分かれて中に入るコースと、三組に分かれて入るコースがあるみたい。トランシーバーで連絡を取り合って出口の扉を開くための番号を探す、ってことらしいわ」
「なんでわかるんだ?」
俊介が訊くと、舞は並んでいる列の前を顎で示した。
受付の上に看板が出ている。
300 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:27:56 ID:bbVzBVx4
なるほどトランシーバーで連絡を取り合って進んでいく、というのは他のお化け屋敷では見たことがない。連鎖的な恐怖感を狙っているのか。
加えて水着で行ける、となれば同じような施設は少ないだろう。
「でも、二組と三組、どっちでもいいっておかしくないか」
「一つはどっちかと繋がってるか、遅れて出発するんじゃないの」
「ああ、なるほど。俺たちは五人だから……二組に分かれるコースだな」
俊介が入口の様子を窺いながら口にすると、舞は全員に聞こえるように返す。
「そうね……女の子一人になっちゃったり、二人っきりになっていちゃいちゃされると、困るものね」
日野姉妹と話していた信也はそれを訊くと横眼をやり、唇を噛んで黙る。小枝子が、どうしたんですか、と言おうとすると急に俊介へ振り返った。
「二、二、一にしよう」
信也のいやらしい笑みだった。
俊介は僅かに不快になったが、視線を気にして曖昧に笑った。舞と目があったので慌てて体ごと信也の方へ向く。
「絶対そっちの方が楽しいって」
「でも一人になった人がかわいそうじゃないですか」
「トランシーバーがあるんだろ? だったら三組で大丈夫」
まるで見てきたように言う。
いや、もしかしたら本当に来たことがあるのかもしれない、と俊介は思った。
「女の人が一人になっちゃうのは、なしってことで分ければいいんじゃない?」
舞が信也を助ける。
「あ、それ最高。それ決定」
「三浦さん、男が一人になるってことですよ」
「大丈夫だって。俺、運いいから」
もうそこで反対するのがばからしくなって、俊介は半ば投げやりに頷いた。
日野さんは、と思って小枝子を見る。
「あれ、どうしたの」
話しかけると、小枝子はびくっと体を揺らした。
「え?」
「なんか、急に大人しくなってない?」
「そんなこと、ないですよ」
「そう?」
「おい、そこ。八百長すんなよ」
信也に止められ、俊介は話すのをやめた。
301 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:28:55 ID:bbVzBVx4
お化け屋敷の中は、かなり暗かった。
多少は照明などがあるのかと思っていたが、順路に蝋燭が立てかけられているだけで、天井は見ることもできなかった。
けれどそのためか、どこに行けばいいかは蝋燭の火が道標なっていて迷うことはなさそうだった。
俊介は二階に上がる階段まで来て、ふと足を止める。
「たぶん、いるんだろうな」
階段の後ろが緑色にぼんやりと光っている。死体のようなものが横たわっているが、おそらく階段を上ると動き出すのだろう。
「さすがに、一人だと怖いな」
一気に走って上ろうか、と思っていると、トランシーバーが、ザー、ザーとまるでテレビの見られない番組にチャンネルを合わせたときのように鳴り出した。
「お兄ちゃん、今どこ?」
舞の声がハンディ機から聞こえる。
舞と小枝子、信也と妙子、そして俊介一人という組に分けられたのだ。
信也は愚痴っていたが、受付に着くころには来たときのように妙子にしきりに話しかけていたから、これでよかったのだろう。
それに、よく考えればこれ以外の組み合わせは考えられない。
トランシーバーが渡されるとき、
「あれ? 三組なのに二つだけ?」
「ええ。さすがにそこまで高度なものではないので」
と受付の人に言われた信也は、さすがに舌打ちしたようだったが。
「えっと、今、二階の階段をあがる」
俊介は、話しながら行けば怖気も薄れると、そう言いながら階段を駆け上がった。
「うお」
しかし、上がったところにも死体がいた。起き上がって奇声を上げながら向かってくる。
思わず、近くにあった扉を考えもなく開いて入った。
真っ暗の部屋に、テーブルに置かれた一本の蝋燭。テーブルには紙が貼ってあった。時が過ぎるほどに闇は多くなる、と書かれている。
展開された視界は、殺風景な部屋にもう一つ扉がある以外はがらんとしていて何もなかった。四畳ほどの広さ。
俊介は貼ってあった紙を見て、考える。
「……もしかして」
入ってきた扉を恐る恐る開ける。すると、先ほど襲いかかってきた死体の向こうにまた一つ扉が見えた。
おそらく先に進むのはこの部屋にある扉ではなく、あちらだろう。
加え、さっきよりも状況は変わっていて、死体が二つになっている。
そのままで見ていると、階段からまた死体が登ってきて、その場にがくりと座った。
「なるほど。ここには何にもないけど、その分早く行かないと死体が増える、ってことか」
安心させる場所を作っておいて時間を稼ぎ、恐怖を煽るとは中々いやらしいことを考える。俊介はここも一気に行ってしまおうと息を吸った。
302 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:29:29 ID:bbVzBVx4
「結構近そうね」
その時、受信のスイッチを押したままにしていたためか、舞が笑うようにハンディ機から声をかけてきた。
怖くないのか、と返そうとしたが、それは自分の今の気持ちを教えるのと同じだと思ってやめた。
「そうなのか?」
だから、なるべくいつもと変わらないように努めながら声を出す。
「女の勘」
「馬鹿言え」
「今、お兄ちゃんはゾンビから逃げるために一つの部屋に入った。そこには蝋燭と紙が一枚。紙には、時が過ぎるほどに闇は多くなる、と書かれていた」
「……すごいな」
「今さっきそこを通ったからね」
ああ、なるほどと俊介は頷く。
しかし、これほどに雰囲気のある場所だ。
さっきの小枝子の一瞬脳裏にちらつき、彼女は、本当は心霊現象などが苦手で皆に無理をして付き合っているのではないだろうかと思ったので、
「日野さんは大丈夫か」
と俊介は口にした。
けれど、舞は何も答えなかった。不審に思ってトランシーバーを見ると、きちんと作動はしている。
おい、どうした。もう一度言おうとした。
そのときだった。
急に目の前が真っ暗になる。
反射的に振り返る。が、何かをかぶせられ、頭がすっぽりと入ってしまった。もともと薄暗い視界は黒の一色に変わる。
「ちょっと、ま、て」
すぐに取ろうと腕を上げる。すると手首から、がちりという音が鳴った。
「なんだ、これ」
感触しかないので何かまではわからない。
しかし、それ、のせいで腕を片方上げると両方が上がってしまった。きっと輪のような形状のもので両手首が繋がれているのだ。
おかしい。
ここで俊介は、初めてこれがお化け屋敷の関係者が興じたものではないと気付いた。幽霊は入場者には触ってはいけない、というのをどこかで聞いたことがある。
それで余計混乱して、トランシーバーを地面に落とした。ドンという音。
そうだ、声を出して助けを求めよう、そう考えた刹那、かぶったものの上から何かを口に詰め込まれた。
温かい何かに足が引っ掛かって転ぶ。
誰かが馬乗りなってきて、俊介の動きを完全に支配した。
303 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:30:13 ID:bbVzBVx4
「お兄ちゃん? どうしたの」
精一杯暴れて抵抗していた時、雑音混じりの声が反響した。
舞だ。落としたトランシーバーから声が聞こえる。丁度下を向いて受信のスイッチを押しているのだろう。
いやに近い位置から聞こえるので、おそらくすぐそばに落ちているとわかった。
「お兄ちゃん」
不思議と上にいる人物はそれを許容しているようだ。
どうすればと考え、さっきの紙を思い出して、しばらくこの部屋には誰も来ないのでは、と思う。
ならば、自分でどうにかするしかない。ないが、限りなく意味のない抵抗しか、俊介にはできなかった。
水着がずりっと足首まで下げられる。裸になった。
俊介は全く意味が分からず、足をじたばたして抵抗した。そしてそれも、またしても何かで足首が繋がれることで封じられた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」
かすれた舞の声。息使いすら聞こえてくる。
俊介は、いくら何かを口に入れられているとはいえ、大声を出してやれば、多少音が漏れて、係員になり不審に思ってくれるかもしれないと鼻から大きく息を吸った。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
だが、その瞬間、まるで銃を突き付けられたかのように止まる。
ぐっ、と陰茎を握られたのだ。
続いて袋の方もやわやわと揉み解すように触ってきた。
「んぐ」
初めてここで、上に乗った人物が俊介の声に反応した。
気持ちいいの、とでも言うように手を上下に優しく動かし始める。袋の方の手は裏側の一本の筋を下から上につー、となぞった。
無条件で反応してしまう肉の棒。暴力的なそれは、本人の混乱は置き去りにして天を突くようにして自らをさらした。
がちり、という音が部屋に響く。反射的に俊介が手で股間を隠そうとしたためだ。
さらにそれを見て気を良くしたのか、上にいる人物は腰の位置をずらす。
何をするのか、俊介が思っていると温かいものに下半身が包まれる。
「ん」
動物の本能的か、それがどういうことか瞬時に頭が理解した。
口で俺のものを加えているのか。
口内に入れられた陰茎は嬉しそうに反応する。あまりの気持ちよさに腰が浮いてしまい、相手の口に押し付けるように尻を前に出してしまった。
ぐちゅ、ぐちゅ、という音が聞こえる。
愛撫に慣れてきたのか相手は陰嚢を触っていた手を、袋を丸ごと包むようにたぷたぷと刺激しだした。
下からの快感。俊介はついに口に詰め込まれたものを吐き出すのではなく噛みしめ始めた。陰茎が外気にさらされる。
304 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:30:48 ID:bbVzBVx4
「お兄ちゃん」
もう舞に今の状況を知らせる、というわけにはいかなくなっていた。この力強く猛ったものを妹に見せるわけにはいかないだろう。
「お兄ちゃん」
なのに今、俊介は舞に見られたとしたらどうなる、と考え始めていた。快感によって思考が錯乱し、考えたこともないような黒い欲望が湧きあがってきたのだ。
「お兄ちゃん」
いや、むしろこの声のせいでまるで舞と性交しているような錯覚すら覚える。トランシーバーをどうにかしたいが、それすら俊介には許してもらえない。
そして、たぷたぷと金魚すくいでもらった袋のように持ち上げていた誰かの手は、これで最後というように袋の下へと移動した。
次にされることが予想できてしまって暴れるが、肉棒をがっしりと握られることで制された。まるで、舞がいつも俊介を怒鳴るようだと思った。
菊座の中に、指が入る。
人差し指。第一関節。第二関節。じわじわと、俊介がきちんと意識するように。
「んん」
抵抗とは違う反応。背筋が反り返った。ぐにぐにと、指で体内を探られる。犯される。もっとよくなるようにと、相手は陰茎をしごくことも忘れなかった。
二本目の指も、中へ。
奥。もっと奥へと指が蛇のように体内を犯した。
俊介は、あまりの快感に意識が朦朧として浮遊感に包まれ始める。
ここで、気を失ってはだめだ。それだけは絶対に耐えなければならない。妹のことを考えながら射精するなんて。
相手はそんな思いをいとも簡単にあざ笑う。
ついに、円を描くように回されていた手が前立腺を見つけた。
もう、それでだめだと思った。
獲物を狙うように一度引かれた手は、俊介に息を吸う間を与えず、狙いを定める。
「俊介、お兄ちゃん」
一撃で、俊介は気絶した。それほどの快感だった。
その声と共に射精し、妹のことを考えて、果ててしまったのだ。
禁欲による解放。禁忌による欲望。誰かに見つかるかもしれないという倫理による快感。
気絶した俊介にすらかまわず、陰茎は精を吐き出すことをやめなかった。
305 フラクタル ◆P/77s4v.cI sage 2009/01/28(水) 19:32:01 ID:bbVzBVx4
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もう一時間もすれば閉館してしまうころになって、ようやく俊介は目を覚ました。
「だ、大丈夫ですか」
小枝子がすぐに気づいて駆け寄ってくる。上着を羽織っているが、まだ彼女も水着姿のままのようだ。
俊介は寝かされていたベッドから起き上がると、辺りをぼんやりと見回す。学校の保健室のような場所だった。小枝子が言うに、ここは遊園地にある医務室らしい。
「あの……梶原君、お化け屋敷の中で倒れてたんです。係りの人が助けてくれたんですよ」
まだ状況がわかってないと思ったのか、小枝子がそう言った。
「ああ、俺……ごめん、心配かけちゃって」
「そんな。全然ですよ」
「皆は?」
「三浦さんはもう帰ってしまいました。お姉ちゃんと舞……ちゃんは、外にいますよ」
語尾を下げる。小枝子は見えないように唇をかんだ。
閉館時間のことを訊いた俊介は、小枝子に一度医務室から出てもらって、急いで水着を脱いだ。
それから、二人が待っている入口に行く。小枝子はその間できるだけ俊介の傍を離れないようにした。
入口に着くころにはもう閉館まで、残りの時間はほとんどなく人も閑散としていた。
「ごめん、二人とも」
舞と妙子は雑木林を背にして、何をするでもなくぼんやりと立っていた。
だが俊介を見つけた妙子は、無表情ながらもどこかほっとした表情で迎えてくれた。
舞よりも先に駆け寄ってきて顔を窺ってくる。おそらく大丈夫かどうか確認しているのだろう。
「もう大丈夫ですよ。ありがとうございます」
だから、安心させようとそう言うと、妙子は目を細めることで微笑んだ。
舞は、その様子をゆらりゆらりと体を揺らしながら見ていた。
俊介と目が合うと、安否の確認はせず、何を思ったのか、指先をぺろりと舐めた。
「……」
その姿を見た俊介は、ぴくりと反応する。
小枝子がそれに気づいて、どうしたんですか、と訊いてきたから、なるべく舞の姿を見ないようにして大丈夫と返した。
「お兄ちゃん」
けれど、舞はお構いなしで後ろから抱きついてきた。
胸を押し付け、腕を兄の腰に沿え、自分の股間を意識させた舞は、俊介の耳に口を近づけて、ゆっくりと体の奥から息を出すようにして言った。
「おはよう、お兄ちゃん」
そして俊介の大きくなった股間を見て、にたりと笑う。
最終更新:2009年01月29日 20:49