565 名無しさん@ピンキー sage 2009/02/07(土) 21:07:47 ID:/1XfwQPO
今日、弟とケンカした。
ううん、ケンカなんていうものじゃない。原因は一方的に私にあって、彼は鳩につままれたような顔をするばかりだったから。
それはそうだろうと思う。弟は年頃の男子で、女性を求めるのは当たり前のことなのだから。
その相手が、自分ではなかったからと言って、頭に血が上った私が異常なのだ。
弟に掛けたヒドイ言葉を、心の奥で反芻しながら、私はフラフラと弟の部屋へ向かう。
何度も何度もやめなきゃといけないって決心したのに。
東向きの窓から勢いの減じられた陽光が注ぐ、薄暗い弟のベッド。
私は、部屋の灯りも点けないままに、麻薬中毒者のような足取りで、そこへ倒れ伏した。
その途端に私を包む、大好きな匂い。弟の匂い。
でも足りない。もっと、もっと。
枕に強く顔を押し付けて、涙の乾いた跡がムズムズする目尻を、ぐしぐしとこすりつける。
「ひく、ひっくう…ふうっ、う…<きみのなまえをいれよう>」
また溢れ出した涙を委細構わず弟の枕にこぼしながら、私は全身に行き渡るように、弟のにおいを肺一杯に貯め込み、消費する。
この空間、このものに残された、彼の存在の残滓を、それが所詮は偽物に過ぎないと知りながら、吸収する。せずには居られない。
だってそれだけでも私はこんなにも満たされるのだから。彼の存在証明のかけらを体内に取り込むことで、彼と同化したような錯覚を得るこのプロセスがなければ、私は心を落ち着けることなど、到底出来ないのだから。
「<きみのなまえをいれよう>…<きみのなまえをいれよう>…」
ような、どころじゃない。丸っきりの中毒患者だ。彼とケンカして、今彼がそばにいないと言うだけで、私は病態じみた情緒不安定を呈している。
学校帰りのブレザーのままだった私は、彼のにおいがしみこんだ布団に体を抱きつけたまま、スカーフを解いた。
彼に包み込まれることで安定を得た私の心は、今度は炭火のような情欲を浮かび上がらせる。
追われるように、急かされるように、ボタンを外すことももどかしく、手を自分の胸元に差し入れる。それは私の罪。自涜と呼ばれる行為。
けれど、冒涜されるのは、私ではなくて、彼。馬鹿な姉の背徳的な思いを、知らないうちに受けざるを得ない、知らないうちに穢される可愛そうな弟。
でも。
ごめんね、こんなお姉ちゃんでごめんね。止められないの。
荒々しく胸をまさぐるその手は彼の指先。まだ何もしていないのに、期待に尖りだした壊れた器官をつまみ上げてくれるのは、彼の指。
「ーーーッ!」
甘やかな電流が波紋になって、私の中に降りてくる。私の中を脅かすように、溶かすように、広がった波が、ジンジンと疼く熱を指先まで満たして、それから跳ね返って、私の中の一番汚いところ、
禁忌を犯してでも彼の分身を欲して止まない、その部分に重く集まる。重く響く。私を体内から壊すまで終わらないようなハーモニーを奏でてくれる。
ごめんね。<きみのなまえをいれよう>。馬鹿な、汚い、こんな女があなたのお姉ちゃんでごめんなさい。
けれども謝罪はいつしか空疎な音色に変わって、インモラルな愉悦にすり替わっていく。
いきなりフルスロットルで自分を責め立てていた乱雑な愛撫は、知らないうちに慈しむような動きに変化して、胸を覆うようにかぶせた手のひらは優しくそこを撫でさするだけになって。
それでも十分な快感が加速度的に私の頭脳を犯すのは、それが、私が彼に望むことだからに他ならない。
それは期待。それは予測。優しい<きみのなまえをいれよう>なら、きっとこうしてくれるから。
私の手はタダのよりしろ。今ココにある愛撫は、私の愛撫ではなくて、彼の慈愛。だから、こんなにも心が体を燃やすんだ。
ちがう。わかってる。おとうとがこんなこと、してくれるわけがない。
わかってるはずだよ。かんちがいしないで。
頭の片隅にわだかまるちっぽけな理性が、私の夢想を壊そうとする。私はそれに耳を閉ざすように、目をぎゅっと閉じて、『彼』が与えてくれる快感の波に自分を没入させていく。
<きみのなまえをいれよう>、好き。大好き。貴方がどこを見てたって、貴方がココにいなくたって、私は貴方を思っていられる。
貴方が私を好きでなくてもいい。この気持ちが私の独りよがりで構わない。だからどうか、私に触れて。貴方の優しさを私にください。愛じゃなくていいから、愛に似たものでいいから、同情でも、欲望でも、貴方はきっと誰より優しい。
貴方が好き。世界の誰より、貴方が好き。貴方でないと駄目な私を軽蔑して<きみのなまえをいれよう>…!
最終更新:2009年02月08日 20:35