オタクの妹さん

220 217 sage 2009/02/23(月) 16:18:13 ID:xJY/HqlN


「なんだ、コレは……」
 妹の机の上に置かれていた、やや薄めの冊子を開いて、俺は絶句した。
 俺の妹は世間一般的にオタクといわれる趣味の持ち主で、それ相応の収集品が部屋一面に並んでいる。
 また、自分で小説や漫画を作って、イベントに売りに行くこともあった。何度か俺も付き合わされた。
 兄妹仲は悪くないと思っていた。時折収集品の一部を俺と一緒に観ようって誘ってくれていたからだ。
 だが、この冊子――挿絵付きの自作小説を読んでしまうと、「兄妹仲」の意味は大きく変容してしまう。
「これ……俺と、妹のことなのか……?」
 冊子の中身は、仲の良い兄と妹が、あるキッカケで一線を越えて、SEXをするという内容。
 問題は、その登場人物である、兄と妹の特徴が、どうしても俺と妹にしか見えないのだ。
「冗談じゃ……ないぞ……」
 しかし、今思い返せば、妹と一緒に観た映画や漫画には、兄妹間の恋愛劇を描いたものが多かった。
 なんだったか……最初に一緒に見たのが「3月の○イ○ン」とか「涙○う○う」とかいう映画だった。
 自分と妹との関係を思いながら、最後は妹と2人で涙を流しながら見ていた記憶が、いやに懐かしい。
「一刻も早く、この空間から、逃れないと」
 独り言を声に出すほど、怯えていた。
――だから、その接近に気づけなかった。

「お兄ちゃん」
 背後から突然抱きしめられる。 ――嗅ぎ慣れた女の子の香り。
 身体が震える。息ができない。 ――おれの、いもうと
「お兄ちゃん。やっとその本を見てくれたね。その本は私の自作。私の願望。私の夢。解ってくれた?」
 解らない。解りたくもない。冗談じゃ、ないぞ!?
「冗談だなんて、ひどいなぁ。その文体とその挿絵のタッチ、私が前に見せてあげたじゃない?」
 声に出していない心の中が、妹に完全に見透かされている。
 それに、確かにコレは妹の文章と絵だ。前に見せてもらったものと似ている。
「私はこの思いをずっと抑えてきた。その本を作って、他の本を読んで、自分で自分を納得させてきた。
 でもね、無理なの。一つ物語を知るたび、一つ物語を作るたび、次が、次が欲しくなる。
 そして、最後に本物が欲しくなる。私は、ずっとこの日が来るのを待っていたの」
 妹はそこで区切り、一度黙った。身体を通して、深い呼吸が聞こえた。
「私は、一人の女の子として、あなたを愛しています。お兄ちゃん。」
 その言葉と同時に、抱きしめる力が強くなる。同時に、俺の身体がどこか熱くなるのを感じた。
「充分に待った。お兄ちゃんの心の中に、兄妹恋愛の意識も、たっぷり植え付けた。期は熟した。
 さあ、お兄ちゃん。虚構の世界を、物語を、現実のものにしましょう」

 声も出せない。振り向くことも、振り払うこともできない。何もできない。
 妹による完璧な意識洗脳は、俺の一切の抵抗力を奪い去り――

 ――その日俺は、俺と妹は、社会的な常識から逸脱した。

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最終更新:2009年03月01日 22:30
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