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上原くんの一日 安全な日編 sage 2009/03/23(月) 20:58:09 ID:OBPOaSrt
「…返して、お願い!返してよ私のうさちゃん!」
小さな女の子の鳴き声が公園に響く。
その女の子を3人の男の子が囲んでいる。まぁ幼少時にはよくあることだ。
「へっ何が私のうさちゃんだ!そんなに返してほしけりゃパンツ見せろ~」
いじめっ子のリーダーっぽい男の子が兎の人形を見せながらそんな事を言う。中々将来有望なクソガキである。
「い、いや…」
「嫌だったら…どうしようかな~?…おい!」
「はいコレ」
リーダーの横にいたいじめっ子Bは背負っていたナップサックから鋏を取り出しリーダーに渡した。
鋏を受け取ったリーダーは悪党みたいな笑みを浮かべながら鋏と兎の人形を女の子に見せつけた。
「あと三つ数えるからそれまでにパンツ見せろ!でないとこの兎の耳をちょんぎるから」
そう言って兎の人形の耳の近くに鋏を近づけた。
「ハイ、ひと~つ…」
リーダーがカウントダウンを始める。
うさぎの耳は切られたくないが…。
「ふた~つ…」
こんな奴らにパンツを見せたくはない。
女の子は思わず強く目を瞑った。
…
……
………?
いつまでたっても三つ目のカウントダウンは行われない。
不思議に思って女の子は目を開けた。
そこには尻もちをついた男の子と、先ほどまでいなかった少女が最も見慣れ、最も信頼している男の子の姿がそこにはあった。
「人形は返して貰うぜ」
男の子は尻もちをついたリーダーの人形を持った手首を思いっきり踏みつけた。
「いたあああああああい」
喚いているのを無視して握力の弱った手から人形を奪い取る。
「ほらよ夏海」
そして、女の子に向かって人形をやさしく投げてやる。
「あ、ありがとうお兄ちゃん…」
「どういたしまして」
ニコッと笑った男の子の顔はその女の子にとって物凄く眩しく見えた。
もう他のものなんか目に入らないくらい。カッコよく、勇ましく…。
「お、オマエ!だだですむと思うなよォ!」
「強がるのはいいけど涙拭けば?かっこ悪い」
「煩い!ぎったんぎたんにしてやる!」
「行くぞ!太郎!義男!」
そういうといじめっ子は3人で襲いかかってきた。
ビックリするほどお決まりのことばかりやってくれる。
「ハッ!上等だ!やれるモンならやってみな!」
878 上原くんの一日 安全な日編 sage 2009/03/23(月) 20:58:40 ID:OBPOaSrt
「「「覚えてやがれ!」」」
お決まりのセリフを言いながらベソかいて逃げていく三人。
「明日には忘れてるよ」
それと3対1とか不利の状況だったのにも関わらず傷一つない男の子。
因みにこの男の子、通っている幼稚園では喧嘩がぶっちぎりで一番強いそうな…。
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「うん。あいつらのパンチ全部避けたからな。」
「ありがとうお兄ちゃん!」
夏海と呼ばれた少女、男の子の妹が笑顔でお礼を言う。
「さっきもお礼言っただろ。まっさっき見たいな連中が来たらすぐにオレを呼べよな!必ず守ってやるから」
「うん!お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん…」
妹は兄の胸に顔を埋めて泣いた。先ほどの悲しみの涙ではない嬉し涙。
兄はそんな妹の頭をそっと撫でてやった。
お兄ちゃん…お兄ちゃん…お兄ちゃん…
お兄ちゃん お兄さん にいさん
「兄さん!起きてください!朝ですよ!」
そこで俺は目が覚めた。というか妹に起こされた。
「…おはよう夏海」
「おはようございます兄さん」
ニコッっと笑顔で返す俺の妹。今日も俺の一日が始まる。
879 上原くんの一日 安全な日編 sage 2009/03/23(月) 21:00:07 ID:OBPOaSrt
欠伸をしながら妹と一緒にリビングに降りていく。
で、テーブルには美味しそうな朝飯が。ご飯と、味噌汁と卵焼き…と見せかけて出汁巻き卵。
全部妹の夏海が作ってくれたものだ。
で、ここで俺の自己紹介をしておこうか。
俺は上原 和也。17歳の高校2年生。
妹は上原 夏海。16歳の高校1年生。
俺の家には親がいない。母親は俺が小さい時に病気で亡くなり、親父は仕事が忙しく国内、海外問わず飛び回っているため家に殆どいない。…どんな仕事だ。
そんな訳で実質俺と夏海の二人暮らしって訳だ。
ちなみに料理などの家事は全部夏海任せっきりになってしまってる。
夏海が倒れたら共倒れしそうなくらい俺は生活力がない。いい加減不味い様な気がする。
っとそんなこんなで席に着いたことだし飯にしようと思う。
「いただきまーす」
手を合わしてまずみそ汁を飲む。
味噌汁の具は豆腐と油揚げとネギ。これがまた旨い。煮干しでっとった出汁もうまく効いていて見事だ…が、ひとつ難点がある。
「なんか味噌汁ぬるくね?」
「えっ!?本当ですか!?スミマセン今すぐ温めてきます」
「いや、いいよ時間ないし」
「本当にスミマセン」
「…いや、そんなに謝らなくっていいって…」
毎日ではないが一週間に2回くらいは味噌汁がぬるい日がある。
その日は大抵夏海が俺を起こしにくる時間がいつもより若干遅かったりするという共通点がある。まっなんでもいいけどあったかいみそ汁が飲みたいものだ。
さて、次にご飯。さすがの米はすぐには冷めない為、適温で食べられる。
夏海は俺の好みを知ってくれているのかどうかは知らないけど米を少し硬めに炊いてくれる。
その硬めに炊かれたご飯を味海苔で包めて食べるのが俺のジャスティス。うん、うまい!
「あっ兄さんご飯粒ついてますよ。」
そう言って俺の口元に手をのばして口の周りに付いていたらしい米粒を指で取るとそのまま自分の口の中へと運んでほほ笑んだ。
「フフフ、おいしい」
「…お前は俺の彼女か…」
「それでもいいですよ」
「……ダメだろ普通」
学校の連中が一斉に振り向きそうなくらいのかわいい笑顔でそんな事を言うがこいつは俺の妹だ。
肩くらいまで伸ばした黒髪は学校のヤローどもの目を引き、兄でもわかる整った可愛いがどことなくクールな顔にドキっとし、俺の前で見せる笑顔に心を鷲掴みされるとか何とか誰かが言ってた。
そんな訳で夏海は学校じゃ1年から3年まで総じて人気がある。…何回仲介役を頼まれたことか…なぜか全員撃沈してんだけど。
ともかく、最後の出し巻き卵。こいつは絶品だ。
めっちゃ柔らかくて箸で突いたらプルプルしている。口に入れて噛んでてもあんまり噛んだって気がしない。
いったいなんの出汁を使っているのか知らないがどうやったらこんなのが出来るんだろうか。
…この間、なんの出汁使ってるのかと聞いたら教えてくれなかったんだけど何故だぜ?
そんなこんなで飯を食い終わると俺はリビングを出て部屋に戻って学校へ行く支度を始めた。
夏海はもう準備万全である。なぜ兄妹なのにこうも違うのだろうか…。
5 上原くんの一日 安全な日編 sage 2009/03/23(月) 21:14:08 ID:OBPOaSrt
カバンを持ち、高校へと通学する。高校までは徒歩で10分程度の近場なのでいつも歩いて通っている。
別にチャリ通でもかまわないのだが、なぜか夏海が拒むため徒歩オンリーだ。
通学中、暇なので先ほどの夢の話でもしてみることにした。
「そういや、今日懐かしい夢みたわ」
「どんな夢ですか?」
興味ありそうに俺の顔を覗いてくる。そんなに面白くないだろこんな話題。
「昔、お前がいじめられてる事があってな。確か…金(キム)としたっぱ二人に人形パクられてたのを俺が取り返したって夢」
まぁ俺が幼稚園の園長組みだからもうかれこれ10年以上前になるわけか…なんか時の流れは速いなぁ。とかしみじみ思う。
「まっもう何年も前の事だしお前も覚えてないわな。俺も全然覚えてなかったし」
「いえ、よ~く覚えてますよ。……むしろ忘れられませんよ」
なんか最後の方聞き取れなかったんだけど…まぁいいや。
自分の頭を右手で撫でているがちょっと照れ臭かったのか?…まぁ虐められてたし、妙に俺ヒーローやってたしな。
そんな事を思ってたら俺は後ろから迫ってくる足音を聞き逃していた。
「おっはよー和君!」
不意に後ろから抱きつかれた。背中に胸が当たる。
この大きいが決して大きすぎることのないバストサイズの中でもっとも人気のあると思われるDな感触を醸し出すのは一人しかいない。
「毎朝よくやるぜ。おはようメグ」
「おうおうおう!その可憐な美少女に胸を当てられているってのになに?その淡白な反応は!」
「"可憐な美少女"ってのは自分から男に自分の胸当ててきたりしねーよ」
「も~和君ったら~」
「…ッ!兄さんから離れてください!」
「ハイハイ…今から離れますよーだ!」
そう言ってゆっくり俺から離れるコイツは桜木 巡(めぐる)俺の幼稚園の時からの幼馴染だ。
家も近所だし結構頻繁に遊んだりしている。正直女友達というよりツレって感覚だ。
因みに胸は本人とクラスメイトの自称"おっぱいマスター"いわくDカップだとの事だ。因みに夏海はBくらい。
「毎朝毎朝兄さんに変なことしないでくれますか?」
「ふ~ん。別にいいじゃん」
「よくありません!」
っとこんな感じで夏海とメグはなぜか仲が悪い。こいつらの前世は犬と猿だったんじゃないのかと思うほどにそりゃあもう。
「お前らちょっとは仲良くしろ。つか、こんなとこで道草食ってたら遅刻すっぞ」
「そうね。じゃっ行きましょうか!」
そう言ってメグは俺の右手と自分の左手を組んで俺にすり寄ってきた。
「…お前、恋人同士かなんかに見えるから離れろ」
「いいじゃない別に」
「やれやれ、だから俺もお前も恋人ができねーんだよ。」
っとか溜息をついてたら夏海が俺とメグの間に入ってきてメグを俺から引き離した。
「兄さんから離れてくださいと言ったはずです!」
「…もういいから早く学校行くぞ」
そんな感じで俺は登校だけで妙に体力を使うのであった。
最終更新:2009年03月29日 21:36